第四章 宣戦布告 漆
言葉とは裏腹に、あまり厄介と思ってなさそうに淡々と告げたファーレスト。
「ならばユーを先に倒してしまえばいい」
どうやら誓の特異能力は無効化不可能と理解し、ファーレストとは裏腹に業を煮やしたセルヴァルトが臨戦態勢に入る。
「君臨せよ。シルバードラゴン」
セルヴァルトの頭上に顕現するは、天に座す白銀。雲を突き抜ける光の龍。
100フィート──およそ30メートル──に及ぶ長大さと流麗さを持つ、至高の存在。
セルヴァルトとセラフィの父が描いた守護精霊。
その姿は、東洋でよく見られる龍の形をしていた。
「勝ち吠えろ。シルバーウルフ」
ヴォルテの前に顕現するは孤高の銀狼。高みにて咆哮を上げる、強者にのみ許される視界。
全長3メートルもの熊並みな巨躯を誇る、圧倒的暴力の権化。
「天よりの守護。クロスクリス」
パイアの傍に顕現するは忠実な守護天使。4枚の盾と爽やかな微笑みを浮かべた美青年。
如何な災厄であろうと、華麗に万難を排してみせましょう。
守護精霊に求めるものは人それぞれ、美男美女は定番と言えば定番である。
「猛毒の抱擁。テラー・ビー」
クローネの周りに顕現するは見つめる静かな恐怖。精神を毒する3桁に及ぶ数から成る蜂の群生体。
それはいつも見ている。
ある時は気付けない程遠くから、ある時は気付かない程傍で、いつもあなたを静かに見つめている。
リンクした4人の風術士たち、その周囲が月白に染まる。
次いで行われるのは、あの日見た、誓たちを襲った神風の攻撃。
「おいで。コン」
見鶏の元に顕現するは、四方六方八方、全てを覆う子狐。
小さな天使の翼を生やし、純真無垢なままに相手を化かす。
セルヴァルトたちの作った神風が、誓たちを防御諸共に滅せんとして襲う。
「クッションバリア。Spread out!」
すかさず、環が予め自身に設置していた、柔軟性と反発力を持たせた防御魔術を展開する。
見鶏はその魔術の向きを変えようとするクローネの特異能力に対応。
以前はそうと知らずしてやられたが、タネが分かれば力の使う先を変えるまで。
衝突。
神風と魔術、そして炎が激しくせめぎ合う。
「想定内ってね」
「にゃはは、ごちそーさま」
そうして幾つもサポートを受けた炎浄なる悪食によって、結が相手の攻撃を美味しく喰らった。
「くくく、おっかねぇおっかねぇ。鉄壁のブーストに回復、二重の無効化対策に吸収、極めつけに絨毯攻撃と、ここまで揃えば相手が魔王だろうが神領域だろうが負ける気しねえよなぁおい!」
今度はこっちの番と、拓真が攻撃に移る。
「簡単にくたばって戦意喪失すんなよスルーザクラウドル! 日本の御三家が一柱、金城の強さの一端を見せてやる! 拓け。神器 千槍鉄槌!」
5人リンクと誓の倍化によって攻撃値・召還値共に330%となった拓真が、千の鉄塊による死の雨を降らせる。
「ちっ。沈め飛びな。タイタニック!」
即座にレディアラが自身の巨大な幽霊船を成す守護精霊を呼び、夫のファーレストや他のリンクメンバーとリンクしつつ周囲丸ごと防御に入った。
その恩恵に与れなかった場所では、最早冗談のように人が潰れ、飛び散り、たった数秒で数十人による血のオブジェが出来上がった。
「シット」
セルヴァルトが思わず悪態をつく。
「結局、俺たちと戦えるのはテメエらだけってことだ。位置的に庇われて運よく生き残っただけの雑魚共は退いてな。次は単発じゃ済まさねえぜ」
底冷えする程の目つきで、拓真がスルーザクラウドルの面々を睥睨する。
「おいアンタ、これだけ殺して何も思わないのかい?」
周囲の惨状を視界に入れつつ、レディアラが拓真に問う。
セルヴァルトやレディアラの周辺以外では、防御に長けた者がいた場所でも生きてはいるが戦闘不能といったあり様だった。
「あん? リヴェンジの土俵に立っている時点でそんなん今更だろうが。履き違えんなよ。先に手を汚したのはそっちだ。はらわた煮えくり返ってんのはこっちなんだよ。まあそれでも、今散った奴らに対して一つだけ思うことはあるぜ。それは……」
「それは?」
準備運動をするように関節をコキコキ鳴らしながら促すレディアラ。
「ついていく相手を間違えたな、だ」
「クク……、いいねぇ。気に入ったよ坊主!」
獰猛な笑みを浮かべたレディアラの猪突猛進な攻撃に、真っ正直な攻撃で返す同じく攻撃的な笑みを浮かべた拓真。
その返した攻撃後、妖力の低下する隙を衝くファーレストの攻撃が拓真に迫る。
だが、その拓真にダメージを与えられるかもしれない一撃は、読んでいたかのような正確さで防御に入った美姫によって阻まれた。
「これは厄介そうなお嬢さんですね。いや実に」
「オッサンもね。流石超一流の万能型。弱点狙いが正確で読み易い。いや実に」
ファーレストの口癖を真似て、口元を嬉々として歪める美姫。
ファーレスト側のリンクメンバーたちから援護攻撃が入り、拓真と美姫が一度距離を取る。
ファーレストとレディアラにそのリンクメンバーたち、合わせて8人対拓真と美姫の構図。
狙いが少数に、的が小さくなればなるほど、誓以外を含めた乱戦で『神器 千槍鉄槌』は使い難くなる。
しかしながら、今は5人リンク、しかも誓のエクスアイギスが発生している。
この状況下ならリンクしている年長者──、それもランカー相手の対多数戦だろうと引けは取らない。
更に言うなら、普段防御を得手としていない拓真と違い、基地型で普段から防御を得手としている美姫であれば、『神器 千槍鉄槌』であろうと防ぎようはある。
現在の美姫は攻撃値100%、防御値830%、補助値130%、召還値70%と、かなりヤバイことになっている。
何がヤバイって、金城の現当主の戦い方が、高い防御力を活かした蹂躙を常としていることだ。
その要に戦い方を仕込まれている美姫の防御値が上がり、しかも召還値は普段の倍以上。
その上、バカがバカをしない限り、いつもであれば担当する筈の味方の防御も気にせずに済む状況。
表面上は無表情だが、その内心はかなり躍っていた。
「ヘマすんなよ性悪女」
「そっちこそね単細胞」
まるで相方への鬱憤をぶつけるように、互いに競い合うように息の合ったコンビネーションで理不尽とも言える攻撃を繰り出す2人。
風の第五位と第六位たち相手に互角にやり合う拓真たちを見て、先の攻撃も含めて二の足を踏むスルーザクラウドルのモブ術士たち。
その迷いが、戦場の状況を分ける。
「──リアライズ。影想 木神六合、青龍。金神白虎」
六合の補助を速さに回し、青龍を超音速──マッハ数1.3~5.0程度、弾丸で言えばライフルの初速並み──で三度旋回させ、風、即ち木の属性に強い金の白虎を傍に置いて唸らせ戦場を睨ませる。
尤も、霊質の密度が高い壮年以上の精霊術士たち相手では属性の優劣は働き難いが。
それでも、セルヴァルトやレディアラたちに庇われる形で生き残り、加勢するかどうか迷っていたスルーザクラウドル側のモブ術士たちは、由紀の十二天将たちに機先を制され完全に牽制される形となった。
「あっちの蜂女は当面見鶏に任せて」
そう言うなり、クローネへと向けて空を翔る見鶏。
力の向きをコントロールする特異能力を持つ見鶏にとって、相手の能力の標的を自分の守護精霊へと強制的に誘導・固定する特異能力を持つクローネは天敵と言える。
いや、風使いであるクローネ相手ではどんな術士でも似たようなものだ。
しかしそれは、見鶏にも当てはまる。
機動力をも持つ風使いの知覚範囲で力の向きをコントロールする見鶏は、多くの術士にとって難攻不落のカウンターユニット。
仕留めるには超近接戦による零距離でのタイムラグか、数の弱点に気付くかしなければならない。
前者なら、機動力を互角以上にしつつ自滅覚悟の応酬で耐久力勝負か、見鶏の防御は上回っても自身の防御は上回らない攻撃でカウンターを封じる。
後者なら、19か37以上の同時攻撃、或いはほぼ同時連撃という力の分散をした上で、見鶏の防御を上回る。
見鶏が特異型であるが故にやってやれなくはないが、実現させるのは難しい。
それ故、Bクラスでありながら霊峰学園の五指に数えられているのだ。
見鶏、クローネ共に敵陣にとって厄介な存在であることは間違いない──
間違いないが、この戦場のリーダーたちやその他数名はその程度なら力技で真っ向から凌駕する。
そうして出来上がる見鶏対クローネというカード。
勝ったら少し有利、負けても対処は可能。
そんな理由で、だからこそ本人たちにとっては負けられない戦いになる。
(それに一応この人は可能なら殺さない方針だし、見鶏が相手するのが一番)
「さ~ってと、それじゃそろそろ結ちゃんも行っちゃうよぉ」
「階段も上がりましたし、私も一緒に行きますねお姉様」
相手が絞られた所で、結と環が意気揚々とヴォルテに向かう。
結一人でも対処は可能だろうが、結の特異能力を活かすなら、誰か一人付いていた方が何かと捗る。
それに、結は炎浄なる悪食により終盤こそ無双状態になれるが、序盤はまだまだ攻撃防御共に不安が残る。
相手はアメリカのランカー、風の第九位。
道化が主演を喰らうまで、サポートは必要だ。
「じゃ、俺は盾使いを牽制しつつ弾幕張るか」
(計画通りにね)
風使いのお株を奪う程の速さで、台詞を言い終える頃には誓がパイアの目前へと接近し、その守護精霊諸共圧倒的な速さと力でその場に釘付けにする。
しかも宣言通り、周囲の味方を援護する弾幕を張りながら。
相手の敷地内での戦闘。
少し時間は勿体無かったが、不知火の復活によるブーストは出掛ける前に済ませていた。
これに関しては、既に手の内を晒していたのも理由の一つである。
「このガキ。余裕のつもり?」
「つもりじゃなくて、余裕そのものさ。何やら面白い技を使えるみたいだけど、それでもたかだか4枚でその動きじゃな」
拓真の兄である秀一の妖精具は、浮遊する12枚の盾。
小技は持たないが、それらを一度に操る秀一の強さは、金城家長男の名に恥じない。
その秀一と幼い頃より稽古を積んだ身の誓にとっては、何やら防御に関係なさそうなオプション付きの4枚の盾など、片手間で充分だった。
(舞台は整えた。後は──)




