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第二話 君の本音が聞きたくて 第四章 宣戦布告

 陰陽術でクローネたちの目を欺いた由紀は、一先ずホテルでボロボロになった仲間たちを『護湖 聖楯』で回復させていた。

 同時、不揃いになった髪を切って、セラフィのボロ家へ視界を繋げる式を向けるも、そこは既に完全な廃墟と化していた。

(ここまでしますか……実の兄がッ)

 血の繋がりなど大して重要ではなく、結局は人間性の問題。

 そんなことは幾らでも現実に溢れていて理解しているが、共感出来るかはまた別の問題である。

 なまじ、家族を大切にする兄に恵まれた由紀なだけに、嫌悪感も一入ひとしおだった。

 念のための警備の目があるかもという心持ちで直面した、セラフィのいた痕跡を残すのも厭わしいといったあり様に、独り心を痛める。

 そんな由紀の肩が気遣わし気に叩かれる。

『由紀、どこか痛い?』

 環に守られ、比較的軽傷で済んだセラフィだ。

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

(話すのは後にしましょう)

『(>×<)Ξ(>×<)』

 気にしないでと、少し大袈裟に首を振るセラフィ。

 何かしていないと気が持たないのだろう。

 見るからに空元気な様子で皆の回復に努める。

 由紀にはその姿も痛々しく感じられたが、今は回復が優先なので後回しにせざるを得なかった。

 はっきり言って、由紀の『護湖 聖楯』の回復力は低い。

 しかし、それは短時間に限定すればの話で、長期的に見るのであれば意外にもその効力は大きい。

 何せ、由紀の切れて短くなった髪でさえ、その状態が日常化していなければ回復できる。

 逆に言えば、既に常態化してしまっている病気などには然程効果が期待できないのだが、それは今は置いておく。

 境界がやや曖昧で、万事に対応とはいかず使い難い部分があるのは否めない。

 だが、まとまった時間さえ取れること、そして相手が今にも死にそうでないことさえクリアしていれば、ほぼ燃料切れのない妖精術でこの効果は絶大だ。

 実際の戦場では時間が限られる上、一撃で痛手を負うことの方が多いので評価が低くなるのはどうしようもない。

 水の妖精術で補助に長ける幻影型のセラフィに血止めや洗浄を任せ、更に協力変換で木の妖精術の効力を上げる。

 由紀とセラフィの寝ずの救護活動が実を結び、次の日には全員が目を覚ますことが出来たのだった。



「完全にハメられた。ゴメンみんな。俺が甘かった」

 寝ていなかった由紀やセラフィの睡眠を挿んで、時刻は昼過ぎ。

 テーブルの上のピザやチキン、ポテトにサラダ、ドリンクを囲みつつ、今後について話し合いを行う。

 身体は資本。

 幸い、アメリカは高カロリーの食事には事欠かない。

「……別に誓くんが悪い訳じゃないわ。あの胡散臭い常夏インチキ下種野郎が保身に走っただけよ。それに、下手を打ってくれたおかげで一つ策も生まれたし」

 仲間の身内が裏切るなど、お家事情に明るくない内に考慮するとしたら、かなり性格が捻くれているか似たような環境で育っているかだ。

 後者は致し方ないにせよ、あまり好ましいとは言えない。

『マキ、秘策あり?』

「まあね。あの下種男が言ってたように、日本の妖精術士と手を結ぶメリットは確かに小さいでしょうよ。でも、それが御三家なら話は別じゃない?」

「んぅ?」

 環の話に、結がピザを口に含みながら首を傾げる。

「リートリエルに御三家との同盟を持ち掛けるのか。でも、妖精術に国外。ケイオストロと比べたら厳しい。それにそこまで話が大きくなると上の決定がないと」

 誓も考えつつ、渋面になる。

 スルーザクラウドルとの会談なんてものではない。

 ケイオストロと競る、或いは共存する形での同盟の話。

 ここまで来ると、誓の一存で決める訳にはいかなくなる。

「まあ聞きなさい誓くん。世界に40人いるかどうかという神領域の人間が、御三家には四人もいるじゃない。世界中にいる妖精術士や精霊術士、その10分の1の戦力と言っても過言じゃないわ。しかも、その内の一人は神風である風の精霊術士。その上、誓くんや結お姉様という、将来神炎になれそうな火の精霊術を扱う若い国内ランカーまで抱えてる。これってかなりのメリットだと思わない?」

「……悪くはないかもしれませんが、そもそも話を聞いてくれるかも問題ですよね。以前は門前払いでしたし」

 お淑やかにピザを口に運んでいた由紀が、ドリンクを一口飲んでから問題点を口にする。

「まあね。だから今回打てるようになった手で、話を聞かざるを得ない状況に持っていくのよ」

「え、と……どういうことだい助手君?」

 いまいち話の見えない見鶏は、小声で誓に尋ねる。

 とは言え、数人が集まった状態、術で隠してる訳でもないので当然全員に聞こえる。

 あくまで、そういうポーズでの問い掛けだ。

「スルーザクラウドルは間抜けにも当主直々に私たちに殺し合いのケンカを売った訳でしょう? でも私たちは生き延びた。ならこのケンカを捨てておくのは勿体無いわ。買ってあげましょうよ」

「? 確かに、当主自ら他の術士に殺害目的で術を振るったら言い逃れは出来ない。魔王との激戦によるものと言う必要性があるからとは言え、結界も張らずにあの規模の天災攻撃。狙われた俺たちの身分を考えれば、追究こそなくても間違いなく把握されているだろう。リヴェンジを申請すれば俺たちの正当性が一回だけ保障される上に、仕掛けるタイミングも申請から二十四時間後から四十八時間以内なら好きに設定出来るけど。でもそれでどうやってリートリエルに話を……」

 そこで環がセラフィを見る。

『(?_?)』

「! にゅふふふ。にゃるにゃる。そういうこと。スルーザクラウドルから外されたセラちゃんを使えば──」

「流石結お姉様。理解が早いですね」

 ニヤリと悪い笑みを浮かべる結と環。

「? で、どういうことなんだい助手君」

 一方、未だ見当のつかない見鶏は、誓に丸投げした。

「……そういうことか。アメリカ国籍のフリー術士であるセラフィが土地を買う。新しく術士の一族を立ち上げてリヴェンジ発動。勝利してスルーザクラウドルそのものを接収。一大勢力となってリートリエルに同盟を持ち込む」

「つまり、私たちで新勢力を築くと? 確かにそうして出来た新勢力なら、必ずしも御三家の意見を伺う必要はありません。それでいて炎導家現当主の息子である誓様であれば、後から幾らでも公式的に御三家と繋がりを持てます。私たちと組めば結果として御三家の力を当てに出来ますが、スルーザクラウドルに手を出せばサンシャンヌも黙っていないのでは?」

「そこは先に手を打っておけば抑えられるわ。サンシャンヌにしてみれば、これは同盟前にスルーザクラウドルが蒔いたいざこざよ。そもそもこちらがこの情報を流せば、今のスルーザクラウドルにキエウセルカと同等の力がないのではという疑念が生まれるわ。それはイコール同盟の前提の崩れと同義。いくらサンシャンヌが同盟したてでうま味も少ない戦闘に手を貸すような義に篤い家だったとしても、これならけんに徹する筈よ」

 フフンと得意気な環。

「仮に同盟が上手く行かなくても、それならフィリエーナさんの逃げ込み先としても十分機能するでしょ。日本の御三家に誓くんが連れ込むより、アメリカの精霊術士の一族から匿うように依頼される形を取った方が角が立たないわ」

「そうだな。それにあの人が自信満々だったから言わなかったけど、同盟したからってフィリエーナの縁談の話を無かったものにするのは難しい気がする。となると、やっぱりリートリエルと事を構えるのは避けられないと思う」

「だね~」

 誓の意見に結が両手でドリンクを掴みつつ相槌を打つ。そしてストローでチューチュー。

「フィリエーナさんを連れ出して停戦した後、不可侵か同盟を許容できる条件で結べればベターね」

「勢力の名前はどうする?」

 大筋は決まったかなと思いつつ、ピザに手を伸ばす誓。

「そうね~。ここは無難に……誓くんと愉快な仲間たちでいいんじゃない?」

「何処が無難だって?」

 思わず伸ばした手が止まった。

「ん~、誓とそのお嫁さん?」

『わたし、誓の嫁?』

「いやいやいや」

 食事に手を伸ばしてる場合ではないと、全力で拒否りに動く誓。

「そだねぇ。セラちゃんの名前も変えなきゃだし……」

 結の頭の中で、変換が始まる。

 スルーザクラウドルでしょ~?

→スルーザクラウヅ?

→スルーザブライヅ。んー。

「……スルーザブライドル、とか?」

「それってもうワイフじゃありませんかね」

「うん、それいいじゃないですか! 結お姉様。花嫁アイドル、斬新なアイデアです! これは売れますね! ブラドルより響きも清純な感じしますし」

 誓のツッコミは華麗にスルーされ、環が素晴らしいと絶賛する。

「マキちゃん、君は何処に売り込むつもりだ」

 え、これもう決定の流れ? と半ば諦めつつ、誓はピザを無感動に咀嚼した。


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