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第四章 宣戦布告 零

 アメリカは風の第二位、スルーザクラウドルの当主セルヴァルトによる神風の攻撃。

 誓は、咄嗟に術と身を呈して由紀を守った。

 結は、特異能力を用いて術の方向を変えようとして防御が二の次になってしまった見鶏を庇う。

 環は、女王降臨クイーンオブバトルフィールドで防御型を選択して放心気味のセラフィに抱き着いた。

 環の空間転移であれば、誓と環だけなら逃げられる。

(冗談ッ)

 恐らくその判断を瞬時に切り捨てて、全員の生存を選択した誓の前で、そんな行動に出るのは環の女が廃った。

 一方、結の炎浄なる悪食カオスイーターは強力でありながらその使用自体には時間制限がない、24時間営業の便利能力である。

 ただし、2時間以上前に喰って上げた霊力は消化されて無くなってしまう。

 つまり、魔王城目指して連戦してた間や、魔王たちとバチバチにやり合っていた間は鰻登りだった最大霊力値も、その後の捜索と散発的な殲滅戦を経たことで、上昇よりも下降が圧倒的に大きく今現在の最大値は微々たるもの。

 霊力値も上位次元密度も適正値も圧倒的な神風の前では、風前の灯に過ぎない。

 その上──

(この風、神風だけじゃない。複数人によって組まれたもの)

 神風を中心として編まれた、複数の風術士による同時発動攻撃。

「っぁ、──────っ!!」

 由紀の目の前で苦痛を漏らさないよう、声ならぬ声を上げて神風に抵抗する愛しい人。

 神風の圧力の前に最早立っていられず、由紀の側へ倒れ込むようにして膝をつく。

 それに逆らわず地面に身を投げる由紀。

 そのひび割れ、傷だらけにされ、穴の開いた赤い守りの中、流れた風刃に裂かれながら妖精術で符を守りつつ言葉を紡ぐ。

「すみの江の 岸による波 よるさや 夢のかよ路 人めよくら。リアライズ。輝想・・ 藤原敏行朝臣ふじわらのとしゆきあそん

 影想では詠み手と恋人側、二通りの人目を避ける解釈を持ち、人目を避ける効力を発揮する歌。

 それを輝想によって風術士限定に対象を絞り、効力を上げる。

「ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなに 水くくるとは。リアライズ。輝想 在原業平朝臣ありわらのなりひらあそん

 実際の竜田川ではなく、御殿の歌会で屏風に描かれた竜田川の紅葉を詠った歌。

 大きなスケールで表現することで、その情景を色鮮やかに際立たせる。

 水をくくり染め──布の染め方の一つ──にするなどと、神の時代にも聞いたことがない。

 そうして、誓にかけられた人目を避ける効力がせかいに染まり、神ですら聞いたことがないために聞くことの出来ない現象を起こす術が織り上げられる。

 以前、情報収集の際に使用した歌。

 それに少し手を加え、こちらの都合の良い幻想を相手に見せる。

 符のサポートありきとは言え、流石に由紀の神力が空になった。

 だが、これではまだ足りない。

 風術士の目をそうと知られず潰した所で、髪飾りとなっている十二単・泉白鶴を纏う由紀。

 盾となって血を噴き流し、両腕を地面に立てて耐える朱に濡れた誓を優しく抱き寄せる。

「由、紀ッ」

 苦し気に由紀の名を呼ぶ誓に、大丈夫ですと頷いて返す。

(髪の守りはいらない──)

 由紀の絹のような長い黒髪が風の刃に切り裂かれ、吹き荒れる風に乗って辺りへと散り、惨劇の場を血と共に巡る。

 そして──

「わたの原 こぎいでて見れば ひさかたの 雲にまがふごう 沖つ白波。染まれ・・・。影想 法性寺入道ほっしょうじにゅうどう前関白太政大臣さきのかんぱくだじょうだいじん!」

 髪と血を代償に、五大魔神の第二位──紅雪の椿姫の力を借りる術を発動させる。

 陰陽術における真言を用いての発動トリガーとして、現在の主流は3つ。

 急々如律令、急ぎて律令の如く成せなど、古くからある『律令』。

 実現する、実行する、如実に見せる、理解する、悟るなどの意味を持つ『リアライズ』。

 そして、妖魔でありながら陰陽術の第一人者、紅雪の椿姫の力を借りる『染まれ』。

 人間が使うのは専ら前2つ。

 何故なら、紅雪の椿姫の力を借りるということは、妖魔と繋がりを持つということ。

 また、その力を行使すれば、それだけ世界が染まってしまう・・・・・・

 だから、使わないし、使えない。

 そもそもにおいて、大きく力を借りる術式は、紅雪の椿姫の承認がなければ使っても発動しないという問題もある。

 故にこれは、由紀が『陰陽郷 椿』で紅雪の椿姫から購入したとっておき。

 ちょっとした空間を制御する術式なら使えるも、消費神力を考えたら割に合わないので普段使いできず、誓が環を頼りにしていたのに対抗心を覚えた由紀が、誓の前では購入を躊躇ったもの──。

 空間転移。

 そしてその効力、効果範囲は、五大魔神第二位の力を借りているがために環の魔術とは比べ物にならない。

 そうして、傷ついた5人の仲間を抱え、由紀はその場から跳び去った。

 後に残ったのは、無事始末を見届けたクローネと、そのクローネを含めて誓たちを見ていた森にいた風術士たち。

「ごめんなさいは言わないわセラフィ。言う資格もない。……さようなら」

 他の術士たちに聞こえないよう、悲しみを抑えるかのような声がその場に消え──

 クローネの飛び去った後には、破壊された森の静けさだけが木霊した──。


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