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第三章 一石二鳥 拾弐

「ふえぇえん。魔獣たちじゃオモチャを持たせた所で大した戦力にならなかったー」

 エントランスホールに入ると同時、吹抜け構造の階段部分を上がった先より、如何にも泣き真似といった台詞が耳に入る。

「なら次は新しいオモチャを作ってみましょう。幸い、材料なら目の前にあるのだし」

「いいね、いいね。そうしよー」

 外見は人間と変わらない金髪の大人の女性と、茶髪の女の子の組み合わせ。

 女性はゆったりとした西洋系のドレス姿。濃いめの赤、黒、金と、見た目かなり印象強い。

 女の子は中華系の服装だろうか、やや二次元チックというかそれ動くのに邪魔だよねといった装飾に凝った衣装を纏っている。こちらの色は白、装飾が金によっている。

 その二名の視線が材料である誓たちを見下ろす。

「あんたたちにこれ以上オモチャを作らせはしない。ここで死んで貰う」

 その見下ろしを撥ねつけるように『誓剣 愛火』を静かに構える誓。

「あらぁ、今の聞いた? 死んで貰うですって、人間が。死の手綱を握ってるのはこちらなのに、よぉ」

「マヌケ、マヌケ。折っちゃう? 叩いちゃう? 裂いちゃう? 摩り下ろしちゃう? 迷っちゃうー」

「そういう時は、全部しちゃえばいいのよ」

「おー。エリトナ賢ーい。ウルね、ウルね……全部するー」

 エリトナの問いと提案に、軽く明るい調子から一転、ニタァアと暗い笑みを深めるウル。

 その手には通常と比べて柄の部分が異様に太い黒槍。

 見るからに小さな手でどう扱うのかと思えば、鉤爪が生えて大きくなるという定番をかましてくれる。

 ウルが跳躍に構え、エリトナは後方に下がるように位置を取る。

 その移行を見て取った誓たちも、それぞれに動いた。

 初撃。

 先の戦い中に既に2度蘇らせている不知火を、跳躍して降りて来るウルに砕かせ、即座に3度目の蘇り。

 落ちながら前に来ているウルを、背後から強襲させる。

 同時、環の獅子王が側面より攻撃。

 そして頭の上にフラウがしがみつくように乗っている結が炎浄なる悪食カオスイーターで正面から迫る。

「知ってる、ッよー!!」

 覗き見で不知火の蘇りは把握してたものの、想定外の強化具合に少し慌てながらも全方位薙ぎ払う力業に訴えるウル。

 降り切ってからでは間に合わないと見て、一階から自分に向かう短めの氷柱を生やして足場とし、強引に黒槍を薙ぎ払った。

 しかし、前哨戦を経て結の最大霊力は既に大台に乗っている。

 誓、結、環のリンクによって適正値も跳ね上がっている。

 道化型は攻撃値30%、防御値30%、補助値75%、召還値75%、特異値150%。

 3人リンクで誓のIAブースト、全体の全適性値にプラス10%。

 結のSPAブースト、全体の特異値にプラス20%。

 更に環の特異能力、女帝蹂躙エンプレスバインドで補助値と召還値がプラス100%。

 誓がブースト完了したことで条件を満たしてギアを上げ、攻撃値と防御値もプラス100%。

 加えて、結の特異能力、炎浄なる団結キャンプファイヤーでリンクメンバー全員の霊力密度も10%上昇中。

 ウルは全方位対応を余儀なくされたことで攻撃の威力が分散し、環の獅子王こそ防げたものの、不知火と結の攻撃を受ける。

「プゥ~」

 身を焦がす炎を冷気で鎮火させつつ、不満気に跳躍で取って返し、二階の手摺の上に乗るウル。

 誓、由紀、セラフィで追い打ちをかけるべく動いていたが、それはエリトナの放った黒雷で防がれてしまう。

 だが、ブーストで最大霊力、適正値共に跳ね上がった誓がそれだけで済ます筈もなく、ウルへの追撃と並行でエリトナへと放った複数の炎弾。

 それも同時に防ぐことは難しかったのか、はたまた防御魔術に自信があったのか、炎弾はエリトナの身を護る防御結界を超えてその身を僅かにかすめた。

「あらぁ? あらあらまあまあ、もしかしてボク……シィロメルトを焼いた炎術士じゃないかしらぁ?」

「……だとしたらどうする? 命乞いでもするのか?」

 覚えのある名に警戒しつつ、誓は冷めた目で見遣る。

「ウフフふ、まさか。少しは楽しめそうと思っただけよぉ。でもそれなら、一応名乗っておくのが礼儀かしらぁ」

「気にするなよ。礼儀を弁える段階でもないだろう」

 『誓剣 愛火』を軽く一閃。

 それだけで猛る炎のあぎとが敵に灼熱の牙を向く。

「ウフフふ。いいわぁ。健気で強気な若い男の子。食べちゃいたいくらい」

「ウルは、ウルはー。あっちのしゃべらないの鳴かせてみたーい」

 その炎の牙をウルが迎え撃って両断し、エリトナが勢いを削がれながらも尚喰らいつこうとする炎を楽に散らす。

「それじゃあやりましょうか。私は魔王エリトナ。偉大なる屍皇帝エミニガ様の一柱にして、太陽のアルカナよぉ」

「ウルね、ウルね。魔王ウルトニー。偉大なる屍皇帝エミニガ様の一柱で月のアルカナー」

 配下の妖魔たちが、自分たちを表す時に好んで用いる大アルカナ。

 太陽には成功や誕生、祝福に加え、約束された将来という意味がある。

 一方、月は不安定や幻惑、潜在する危険に加え、猶予の無い選択という意味を持つ。

「祝福してあげるわ。約束された死への旅路を」

 死合開始を告げる鐘の音の如く、エリトナから妖しい紫暗の波動が放射状に駆け抜けた。


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