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第三章 一石二鳥 拾壱

 魔王のいる城に向け、その城を囲う鬱蒼とした森に入る。

 セルヴァルトたちと時間を合わせるため、昼を過ぎてからの進攻となった。

 合図をくれたスルーザクラウドルの派遣組に、暫しの別れを告げる。

 彼らはセルヴァルトとの連絡もそうだが、万一の他家による横取り防止役という話だった。

 一応、セラフィの携帯もあることはあるのだが。

「聖歌?」

 風使いたちがいち早く反応を示し、見鶏が疑問を口にした。

「これはまた、随分といい趣味してるわね」

 現れた敵の姿を確認した環が、嫌そうな顔で、されど顔を背ける訳も行かずにそれらを直視する。

 尖兵とばかりにぞろぞろと出て来た27体ものミノタウロス。

 その3~6本ある腕が手にしている武器は、大振りの斧や叩き潰すことを主目的とした鉈のような大剣。

 そして盾は……、ヨガのように両足を首に回し、腕を背中や腰に回した格好で固定された、目と耳を潰された裸の人間である。

「生きてる? いいえ、これは──」

「死んでるな。恐らく、そうと気付いていないんだろう。しかもこの鬼気迫る歌い方」

 由紀の言葉に続いて言葉を紡ぐ誓。

「死体にその人物の生霊を宿らせて騙し続ける術。外道には、程がないということですか……ッ」

 その目に余る非道に、由紀が悲痛な面持ちで胸元を拳で抑えた。

「彼らの宗教には反するだろうが、俺たちのやり方で送ってやろう」

「ここまでやる連中じゃ、下手に残したら何の起爆剤になるか分かったものじゃないわ。賛成」

 冷めた表情の環が、実に面倒くさげに臨戦態勢へと入る。

「マキちゃん。魔術は──」

「心配ないない。幾ら生霊の聖歌だからって、大して素養もなかっただろう者の独唱が歪に重なったくらいじゃ、私の空間系魔術はビクともしないわ。こういうのは百から千単位の大人数で調和させるか、力のある者が引っ張らないとね。まあ腐っても生霊だから、鬱陶しい程度の効果は認めてあげるけど」

「そうか。それなら──」

「うん。一気に殲滅しちゃおう!」

 死炎のアイガードを装着した結が、重い空気を跳ね返すかのようにババンッと元気よく前に出る。

「独りじゃないよ。フラウ!」

「光り導け。不知火」

「勇ましく燃え盛れ。獅子王」

 結に続いて誓と環が守護精霊を呼び、三人の周囲が紅緋に輝く。

「果たせ。誓剣 愛火」

「繋げ。護湖 聖楯」

『華と散れ。零刀 雪月花』

 更に誓と由紀、そしてセラフィが妖精具を呼び、誓は深緋こきひ、由紀は翡翠色、セラフィは天色あまいろの輝きを生む。

 セラフィの前に顕現したのは、幸せをもたらす願いの刀。不幸を幸福に変える、一筋の光。

 その刀は、凍える程の深い蒼と銀を強く印象付けながらも、温かな未来ひかりを放つ居合刀。

(スケッチブックに詠唱を書いて召還? そんなこと出来たのか。いや、それなら口を封じられた際の対策としてもっと広まっていてもいい筈。セラフィがそれを口の代わりではなく、俺たちにとっての口での召還と同じように思っているからこそといった所か。ある種の才能だな)

 心の限界。

 誓が改めてそれをひしひしと感じる中、リンクは完了した。

「軽い妨害程度の遠距離を積んだ、基本は耐久力と膂力を魔力でコーティングした近接主体の魔獣……うち何体かは魔鬼か。私にとってはお誂え向きだね」

 誓たちがリンクしていた間に、自身の守護精霊を呼び出した見鶏が抑揚に欠けた声音で、されど何処か得意気にベレー帽を抑える。

 傍らには小さな天使の翼を生やした子ぎつね。

 昨日の互いの能力確認の際、残念ながら見鶏とセラフィのリンクは出来なかった。

 やる前から見鶏が乗り気でなかったことから結果は察せられたが、実際そうなってしょんぼりするセラフィに、あたふたと困りながら謝り宥める見鶏。

 それを揶揄う結に静かにキレる見鶏、その二人を今度はあたふたと困りながら止めようとするセラフィ。

 傍から見る分にはなかなかに愉快な状況だった。

『セラフィのことは好きだけど、出会ってすぐリンクは見鶏には無理。これはセラフィだからじゃなく、相手が誰であっても。だからその、よければ長い目で見てくれると嬉しい』

 そう言って片手を出す見鶏の手を掴み、子犬が尻尾を振る勢いでぶんぶんと嬉しそうに振るセラフィ。

 一件落着。

 二人のリンクは、いい意味でこの先機会があればという着地点に落ち着いた。

 戦闘開始オープンコンバット

 リンクしている誓たちは、リンク時固有スキルによる適正値上昇もあって順調に相手を減らす。

 とは言え、ここはもう敵の陣地。

 相手に何らかの手段で見られているかもしれない状況。

 由紀の陰陽術は出さず、妖精術で後方から支援して貰う形だ。

「2人ともやるな」

 そんな中、セラフィと見鶏、風術士組の活躍が目覚ましい。

 『零刀 雪月花』はそれぞれの効力こそ控えめだが、非常に多才な妖精具だ。

 抜き放った刀身を瞬時に鞘に納める『零』。

 条件付きだが、攻撃を連続で当てて繋ぐことで攻撃値をアップする『刀』

 斬る対象の動きを凍らせ、遅らせる『雪』。

 見える範囲で斬撃の距離を跳ばす『月』。

 斬った対象の霊質──上位次元物質を散らす『花』。

 この内の幾つかは、術士であればわざわざ特異能力として持たせずとも行使可能な能力。

 条件や無駄が多い──、されど風術士でもあるセラフィならば利便性は高まる。

 一方──

 見鶏の持つ特異能力は、力の向きをコントロールするもの。

 前提として自分の知覚範囲でのみ行使可能という条件がつくが、こちらも風術士であればデメリットなどあってないようなものである。

 数的な限界もあるため手数で押されると弱いが、一発屋にはめっぽう強い。

 5連撃程度が関の山な相手など、例え四方を囲まれようと無傷で突破できる。

 学園のクラス分けで最大霊力値的に劣るBクラスでありながら、「三殺」の異名を持つのは伊達ではない。

 誓たちはその後も何回か似た妖魔の群れに遭遇するも、危なげなく突破。

 無事、魔王のいる城の入口へと辿り着いた。




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