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第三章 一石二鳥 陸

「誓様。お待たせ致しました」

「? 由紀? あっ!」

 そうして誓が気付いた時には既に遅く──

 そこにあった筈の店、『陰陽郷 椿』は忽然と消え去っていた。

 『末永くお幸せにね~』

 あの言葉はそういうことかと、誓はやられたと頭を抱える。

 誓の考えなどお見通しだったのだろう。

 時間操作によって先に出た筈の誓と、残って買い物をして来た筈の由紀が殆ど同時に店の外へと出る結果にさせられた。

 二人伴って外に出たのなら、掛けられたあの言葉にも納得がいく。

 事情を察した由紀に宥められつつ、夜の帳が落ちて来たので、一先ず誓は由紀と共にホテルへ。

 携帯の検索にヒットしたホテルに電話で確認を行い、着いた頃にはいやいや今回は購入金額を考慮してもかなりいい買い物だったと気分を持ち直した誓。

 色々と由紀に感謝しつつ、従業員にチップを渡して部屋に入る。

 誓が先にシャワーを浴び、続いて由紀がシャワーしている間に結たちと近況報告。

 環が転移魔術で一時合流を企てるも──

「先程誓様がシャワーを浴びられていた間に、主に情報漏洩を避けるための結界を張っておきました」

 そう何食わぬ顔で告げた由紀によって阻まれる。

 その後、嬉しさを滲ませながらはにかむ由紀とベッドの上で寝るまで語り合いながら、その日は更けていった──。



 日が変わって、昼。

 何故昼なのか。

 それは誓が死炎のアイガードの性能確認のため、日頃から甲斐甲斐しく尽くしてくれる婚約者の由紀の了承を得て、実に半日以上も手を触れていたからだ。

 手で触ったり、握ったり、掴んだり、逆に手を触らせてみたり。

 不知火のブーストは3時間、その際のクールタイムも3時間。

 検証の末、誓と由紀は実に30時間という現実の15時間を体験をすることとなった。

 本来は昨夜寝る前に少し試すだけのつもりが、気付けばホテル滞在時間ギリギリ。

 誓の暴走は明らかだったが、想いを寄せる由紀にとっては止まった世界に誓と二人きりに感じる夢のようなひと時。止める筈もなく──

 かくして、始めは誰もが思いそうなことをやってるだけの筈が、気付けば突き抜けた結果を招くといういつもの結果に落ち着く誓であった。

 沽券も何もあったものではない。

 あったものではないが──

 傍らで恥ずかしそうに微笑む由紀。

 誓のあるようでない沽券と引き換えに、由紀の好感度や親密度に幸福度が格段に上昇したと考えれば、悪くない。

 寧ろプラスに振り切れてる程、有意義な時間であった。

 未だ後ろ髪を引かれるほどに──

(これは俺が持ってると不味い禁断のアイテムだな。早く結先輩に渡してしまおう。少し前まではそんなに意識してなかった筈だけど、今の俺にとっては由紀がマジで傾国傾城級の美少女過ぎる。最近以前にも増して魅力的になったというか艶が出たというか、とにかくそっちを意識するとダメだ。持っていかれる。由紀は絵に描いたような花も恥じらう清楚系、男を立てて基本受け身でありながらしっかり備えて尽くすタイプ。俺が自分で抑制しないと止まれないからな。よし)

 今回由紀の魅力に完全敗北を喫した誓はそう心に決め、ホテルをチェックアウト。

 環に物資を魔術で送って貰い、準備は万端。

 旅行中の術士を装い、リートリエルとケイオストロを除いた幾つかの家の支部を訪ねる。

 そして先の二家についてちょっと小耳にはさんだのですが、注意点があれば教えて頂けると助かりますと尋ねる。

 日本で買ってきたカップラーメンと箸、抹茶セットや漢字Tシャツを見せて気に入ったものを幾つか渡すと、概ね上機嫌で答えてくれた。

 少し怪しい所は忍刀・月影小鴉を使い、暫し聞き耳を立てながら情報収集を重ねる。

 翌日にケイオストロ周辺を担当してる結たちと合流することを電話で話し合い、その日も由紀と二人でホテルへと泊まる誓。

 今度こそと、先制を仕掛けた環。

 しかし、この日は昨日『陰陽郷 椿』に入る際に解いた由紀の術が解かれていなかったため、またもや失敗する。

 結との電話先でわめく環に苦笑しながら、誓は結とおやすみを言い交す。



 流石に2日連続で翌日の昼にということもなく、しっかり朝食を頂いて、今日の予定を確認してから9時にはホテルを後にした誓たち。

 傍目には如何にもキリッとしている雰囲気を醸し出している気になっている冴えない誓だったが、2日連続で負けたのは言うまでもない。

 昨日の決心は何処へやら。

(ごめん昨日の俺。由紀の魅力には勝てなかったよ)

 考えると悲しくなったが、誓は思考を先へ進める。

(何だろう。美少女具合では結先輩やマキちゃんとそこまで違いはない筈なのに。やはり恥じらいか、俺は恥じらいに弱いのか。いやいや、それも大きいかもしれないけど、そうじゃない)

 誓の頭にニヤリとする自称、性悪鬼畜女を全肯定するのも吝かではない恥らう乙女が浮かんで冷静になったのをいいことに、一部否定する。

 誓にも言い訳……もとい、言い分はあった。

(何故か、ここで固く繋いでおかないと不味い気がする)

 この先、由紀との関係が引き裂かれるような、途切れるような、どうにも気持ちの悪い感覚。

 そんな言い知れぬ不安が誓を襲い、それを振り払うかのように由紀の温もりを求めた。

 これが吉と出るのか凶と出るのか、この時の二人には、まだ知る由もない……


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