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第三章 一石二鳥 弐

 リートリエルの本拠地に戻って来たフィリエーナを待っていたのは、見るからに・・・・・気まずそうな顔をした母──セリフィーヌ=リートリエルだった。

「お帰りなさいフィーナ」

「ただいま母様」

 フィリエーナは自身を愛称で呼んだ母とハグを行い、本邸の一室に移動して報告を行う。

 その間、クーガーは別れ、別の所へ報告書を提出しに向かった。

「こちらからも伝えないといけないことがあってね」

 フィリエーナが一通り報告を終えた後に、そう切り出される。

 内容は土のケイオストロの者との、所謂政略結婚。

 一応はその前の婚約話のようだが、行きつく先は同じだ。

「……そぅ、ですか」

「あなたの気持ちもあるし、私としては断りたい面もあったのだけど、私たちがここで置かれている立場はあまりよくないわ。本家の血筋でありながらもね」

 やれやれと、額に左手を当て大袈裟なくらい首を横に振るセリフィーヌ。

「私は自分で選んだ道だからいいにしても、娘のあなたまでそこに甘んじている必要はないのよフィーナ。この話が決まれば、あなたの立場は飛躍的に向上する。相手の男性も特に秀でた話は聞かないけど、かと言って悪い噂がある訳でもない。あなたが今後、ある程度好きに動くにはうってつけの相手だと思うわ。それに、これが運命の出逢いになる可能性もあると思うの」

 運命の出逢い。

 その言葉を聞いた瞬間、フィリエーナの頭に誓の姿がチラついた。

(ここでセイを連想するとか、実は自分で思ってるよりも惹かれてたのかしら)

 まあ術士として大きな熱を貰ったのは確かねと思いながら、フィリエーナは微笑しわらった。

「フィーナ?」

「何? 母様。ああ、婚約の件ね。正直運命の出逢いにはならないと思うけど、わかったわ」

「いいのフィーナ? 断っても……」

断れなかった・・・・・・のでしょう?」

「!」

 実力で断ることはできる、だが、フィリエーナたちの立場はあまりよくない。

 故に、明らかに否定できない話を、対話で断ることは難しい。

「母様ったら分かりやすいのよ。立場とか運命の出逢いとかそんならしくないこと言って、まるで私に反抗して欲しいみたい。それで一緒に暴れようとか、どうせそういう魂胆でしょう?」

 見るからに気まずそうな顔をしたり、やれやれと大袈裟なくらいに首を振ったり。

 それ自体はあり得ることでも、普段と比べて付きまとう演じている感は否めない。

 母が小細工を苦手にしていることを、フィリエーナは経験から知っていた。

 大雑把で大胆不敵。

 そのため、とても分かり易い。

 お国柄もあるだろうが、料理だって日本生まれの父親の方が細かい所まで気を遣うくらいだ。

 何も悪いことではない。

 精霊術士である以上、精神面で図太かったり細かいことに拘らない点は概ね長所として働く。

「フィーナ」

「心配しなくても、相手がダメならぶち壊すわ。でも相手も見ずにそんなことしたらリートリエルの名に瑕がつく。それはダメよ。本家の人間として、最低限の手順は踏まないと、ね」

「そう。あなたがそのつもりなら止めないわ。ただ、私とあの人はこれから暫くあなたから離されることになる。力尽くで破談させるにしても、結構ギリギリになるわよ?」

「そう。パーティに間に合うといいわね?」

 特に力む様子もなく、自然体で軽口を返すフィリエーナ。

「……」

(少し見ない間に随分と見違えたわね。日本で何かあったのかしら? 後でクーガーを問いただしておかないといけないわ。怪しいのは日本の御三家のセイとやらかしら。私のフィーナちゃんにいったいナニを……)

「母様?」

(おっといけない)

 思いがけない娘の成長に思考が明後日の方へ駆け出したセリフィーヌだったが、その娘の声で現実に戻る。

「言うようになったじゃないフィーナ。本家は手強いわよ? 到着した時に母様助けてーって泣いてないといいわね」

「ええ、気を付けるとするわ」



(そうは言ったものの)

 籠の中の鳥。

 フィリエーナの現状は、その一言に尽きた。

 携帯電話と言う翼をもがれ、本家の意向のまま、日々粛々と婚約前の手続きを事務的にこなす毎日。

 母、セリフィーヌの言ったように本家付きの人間によるサポートは一部充実した。

 しかし、質は高まっても幅は広がらず、正式に婚約を結ぶまでと言いつつ狭くなっている。

(参ったわね)

 用意された婚約相手とは、既に二度会った。

 率直に言えば、可もなく不可もなく。

 向こうもどうやらあまり強い立場ではないらしく、話を断ると言う気はなさそうだった。

 言わば、お互いに政治の駒として都合よく用立てられた身。

 違いがあるとすれば、フィリエーナは最終的に断って誰か別の人間へと話をシフトさせるか、単純に破談させるつもりだが、相手は特に伴侶が誰だろうと断らない点である。

 というよりも、フィリエーナの姿を見てあからさまにホッとした様子だった。

 あまりいい噂を聞いてなかったようで、どんなハズレを引かされるのかと戦々恐々としていたらしい。

 リートリエルの人間として、淑女対応を心掛けていたのも不味かった。

(ハズレと言えば思いっ切りハズレなんだけど)

 そんなこんなで、思いの外、婚約に乗り気になってしまった相手。

(失敗したわ)

 はぁ、と溜め息をつくフィリエーナの下に、一羽の白い鳥が舞い込んだ。


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