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第二章 婚約騒動 伍

 その場に残るのも居心地悪く、誓たちは少し場所を移して身体を休める。

「驚きましたね」

「ちょっと予想外の展開だったね~。で、うちのタケはどうでるのかな?」

 あくまで軽い調子を崩さず、律楼は緒莉子が促すも実らなかった助け舟を再度送った。

「どうでるも何も……あー、なんていうかその、アド……アドバイス、ありがとな」

「あ、ああ。どういたしまして」

 まさかアドレス交換ではと少し期待した気持ちを押し込めながら、誓は応じた。

 何せこの学園に入ってから増えた誓の友人帳とも言えるアドレスは──

 氷堂慧。

 愛埜環。

 俺の結。

 フィリエーナ。この4つ。

 今となってはあながち間違いではない、俺の結。

 こちらは想い出補正もあり、温かい気持ちが湧き上がるので、今となっては誓も気に入っていた。

 一方、リートリエルは万一他人に見られると厄介なので省いてることもあり、誓にとってはやや不本意な形。

 そして、この4つの内、2つは今となっては兼婚約者枠。

 実質、純粋に友人枠と呼べるものは2つだけである。

 繰り返すが──、2つだけである。

 入学からもう一月ひとつきは経過している。美姫ひとの高校生活を心配してる場合ではない。

(初めのチャンスを逃したのはやはり痛い)

 希によって早々に御三家の人間とバレ、友だち作りの出鼻を挫かれる形となった誓。

 続くように、御三家暗躍の悪い噂まで拡がったものだから救えない。

 序盤を逃すと、交換のタイミングは難度が上がる。

 精霊術の学園でぼっち気味の誓には難しい注文であり、現状だった。

(マジで慧には感謝だな)

 現在、誓にとって唯一とも言える男友達。

 本人が水の精霊術で日本トップ5に入る家の跡取りなため、他の水術士との関係もある以上、常に一緒とはいかない。

 それでも、誓からしてみれば正に心のオアシスとも言うべき存在であった。

「タケが恥ずかしがってもなぁ。誰得だっての」

「律楼。さっきからうるさいぞ」

「~♪」

 猛の返しに何処吹く風と口笛で流す律楼。

「まあ妖精術も扱える点には正直驚いたけど、言われて見れば、炎導家の次期当主候補が妖精術を使えて当然って言えば当然だしな」

「炎導家の次期当主候補が精霊術を扱うことにこそ驚くべきだったのに、私たちにとっては最初からそうだったから、遠藤君が妖精術士でないことに疑問こそ湧いても、妖精術士でもある可能性は考えもしませんでしたね」

「第三位も納得」

「いやはや何とも、恐ろしいまでの才能だね」

 妖精術士でもある誓に対して、四人の感想の最後に出た表現。

「才能……か。それも活かせなければ、宝の持ち腐れだけどね」

 気持ちがマイナス気味なのもあって、誓はそこに反応してしまった。

「え?」

「いや、悪い。こっちの話。修練の進捗状況がどうにも煮詰まってて、努力はしてるけど感性が低いのか全然手応えなくてさ。今日時間空いたのも、稽古のし過ぎを心配した家族に休養を言い渡されたからなんだよね」

「煮詰まってるって……。まあ、私たちの年齢で遠藤君くらいの実力なら、おかしくないのかな」

「遠の字の稽古のし過ぎ、想像し難い」

「そうだな。どっちかって言えば緒莉子みたく、休みも練習の内! とか言う側に思えるけど。一体どれだけ長く稽古してるんだ?」

 実際、言われたことがあるのだろう。妙に実感のこもった口調の猛だった。

「いや、その辺は俺も弁えてるよ。だから時間は大したことない筈なんだけど」

「時間、は?」

「ん? ああ、うちは結構大所帯だから回復出来る人間も比例してそれなりにいるからさ。つい神領域たち相手に意識なくなるまで手合わせをね。まあ俺だって仮にも火の第三位だし、意識不明の重体になるのはせいぜい一日に一回くらいで──」

「おい」

「いやそれダメだから! どう考えてもアウトだから! 三途の川渡りかけてるからね!」

「オレさ、色々と履き違えてる奴はタケで見慣れてると思ってたけど、認識甘かった。努力って、無茶とイコールで結べたんだな。特攻と無駄死にだけじゃなかったんだ」

「加賀里は無駄死にしてない!」

 憤懣やる形無しと、猛がすかさず抗議の声を上げるも──

「してるよ。私たちがいなかったらとっくにね」

 緒莉子にあっさり撃沈された。

「ぐ、そりゃ加賀里だってお前たちの力添えは否定しないけど、だからって──」

「……」

「遠の字、どうした?」

「ん、ああ。前から思ってたんだけど、一人称が本家の苗字ってのがな」

 どうにも四人の遣り取りに置いてけぼりになりがちな誓に対する鉄のフォローに、折角なのでありがたく乗っかる。

「ああ。それなら問題ない。一人称に加賀里を使ってるのは本家の当主に元当主、そして次期当主であるこの加賀里だけだ。普段から家のことを考えるようにって習わしでね。多い時でも三・四人しかいないからそうそう混乱することもない」

「それなのに無駄死に特攻を仕掛けるタケは大いに問題ありだけどな」

「ですね」

 律楼と緒莉子に言葉に続く形で、コクコクと鉄も頷く。

「だー! うるさいぞお前たち。加賀里だって少しは考えてるんだ!」

「例えば?」

「そりゃ……、そう、これからは御三家ともっと仲良くしようとかッ」

 猛の発言に律楼と緒莉子、鉄の三人はやや呆れを含んだような顔で、無言のままに視線を交わす。

「精霊術士たち同士は繋がりがあると言っても、他属性とは半分以上建前じゃないか。同属性でも上の方はギスギスしてるし。今のままじゃ加賀里は安心して特攻に専念出来ない!」

「猛君は今でも十二分にしてるでしょ」

 家のことを考えてというよりは自分本位からの論理展開オチに、やっぱりと思いつつ三人を代表して苦言を呈す緒莉子。

(するなとは言わないんだな。まあ程度の差はあれ、攻撃型に攻撃するなとは言い難いか)

 誓がそんなことを思ってる中──

「オレは妖精術士と組むのにそれ程抵抗ないけど。本家としてはかなり問題あるんじゃないか?」

 一応、次期当主の意向なので、律楼がもしもを広げた。

「ですね……と言いたい所なんだけど、不幸中の幸いにも、先の一件で加賀里家は求心力と経済力、加えて人材にも大打撃を受けたから、主だった分家以外は他家に取られたりこちらから引き取りをお願いしたりで、残ってるのは旗揚げ当初くらいの規模だけ。だからタイミング的にはありだけど……、下手しなくてももっと減るかも。ただ、ある程度時間がかかるにしても、個人的には風の鈴風と大手を振るって組めるのは大きいと思う。猛君が言ったように、精霊術士同士でも他属性とは表面上の付き合いのみってパターン多いから。利権の食い合いが原因で、合同企画も結局企画倒れになることが多いし」

「流石緒莉子はお利口さんだな!」

 緒莉子の説明に、顔を輝かせて猛が褒める。

「もぅ、その言い方止めてって言ってるでしょ。そもそも、御三家側にしたら今の加賀里を吸収してもうま味は少ないし」

「でも土の属性が加わるのは大きいんじゃないか? 御三家って火の炎導と金の金城に水の水記、そこへ木の児玉と風の鈴風が加わってる状態だろ」

「ああいや、こっちの精霊術士たちの間じゃ話に上りもしないだろうけど、関西に残った水記が鳥取にある土の埼淘家と組んでる。関東に移った炎導金城とは水記程深い関係にはないけどね。だから、属性は一応全て揃ってるよ」

「そうなのか。それじゃダメかな」

 誓の情報に難しそうな顔をする猛。

「別にそう悲観しなくてもいいんじゃないか」

「どういうこと?」

「さっきも言ったように埼淘の本拠は鳥取だ。活躍の場も西が殆どだからね。こっちに常在している土の術士はかなり少ない。逆に向こうは木の術士が少ないんだけど、それは今は関係ないね」

「詳しいな遠藤」

 素で驚いた表情の猛。

「え? もしかして、俺が炎導の次期当主候補ってこと、忘れられてる?」

「…………ああッ」

 ポンッと、猛が自身の掌に握った手を降ろした。

「ごめんごめん! 見た目冴えないからすっかり。いやどうしてかな。さっき戦ってる姿は冴え渡ってたのに」

「よく言われるよ」

 最早いつものことと、誓はやや諦観の混じった心境で答えた。


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