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第二話 君の本音が聞きたくて 第二章 婚約騒動

 翌朝。

 誓は結や環と一緒に、国立霊峰学園へと登校する。

 途中の階段で結と別れ、扉を開けて環と一緒に教室へと入る誓。

「おはよう誓……と愛埜さん」

 入ってすぐ声を掛けてくれたのは、男子の制服を颯爽と着こなしている眼鏡の生徒──慧だった。

「ああ、おはよう慧」

「おはよう」

 鞄を机の上に置き、今日の授業で必要なものを取り出しながらそちらへ視線を遣る誓。

「フィリエーナはまだ来てないのか」

「そうだね。まあ風使いの希さんたちもまだだし、その内来ると思うよ」

「そうだな」

 しかし、誓たちの予測に反して、フィリエーナが登校しないままにHRが始まってしまう。

(どうしたんだ? 風邪か?)

 担任も家庭の事情と言うだけで、あっさりとHRが終わった。

「向こうで何かあったのかな?」

「かもな。こういう時、外国ってのは面倒だな。携帯が通じない。AやSならいけるんだろうけど」

 誓の携帯画面に表示されているG8の文字。

 Gは術者や警察を指す記号で、一般人の持つBやお子様用のCよりアクセス出来る幅が広いが、政治家や軍などの持つAやSよりは狭く設定されている。

 次にその後ろの数字が高い程、アクセス権もまた高くなる仕組みだが、幾ら数字が高くてもアクセス出来る横幅が拡がる訳ではない。

「まーでも、二・三日も経つ内には来るでしょ」

「基本的に対妖魔戦は短期決戦ですからね。名家による中期や長期に及ぶ大規模戦闘なら、我々の耳にも入るでしょうし。攻撃型のフィリエーナさんが情報収集に回されるのも考え難いですから」

 希と鈴木の所感にそうだなと相槌を打ち、何処か嫌な予感を覚えながらも、誓は久々の授業へと意識を切り替えた。


タイプ1:自身の1つの適性値を底上げ(攻撃型Aブースト ・防御型Dブースト ・補助型Sブースト ・召還型Cブースト ・特異型SPブースト)

タイプ2:自身の2つの適性値を底上げ(遊撃型ACブースト・天地型ADブースト・幻影型SCブースト)

タイプ3:全体の1つの適性値を底上げ(武装型AAブースト・基地型DAブースト・陰陽型SAブースト・御子型CAブースト・道化型SPAブースト)

タイプ4:自身の4つの適性値を底上げ(無双型Qブースト)

タイプ5:全体の全ての適性値を底上げ(万能型IAブースト) ※他と比べて総合上昇値が2.5倍。


「──と、このようにリンク時における固有スキルは大きく五種類に分けられている。まあこの内、自身の四つの適性値を底上げするquadrisect……Qブーストに関しては覚えておく必要性は薄いので、残りの四種類を先に覚えてしまうといいだろう。特に基本型は全てタイプ1。自身の一つの適性値を底上げするから覚え易いな。またそれぞれの上昇値は──」

 担任の土井蘭華がモニターに浮かぶ文字を指しながら、張りのある声を浸透させていく。

 教卓上のノートPCを操作し、ページが切り替わった。


     二人リンク  三人リンク  四人リンク   五人リンク

タイプ1:20%(×1)→60%(×1)→120%(×1)→200%(×1)

タイプ2:10%(×2)→30%(×2)→ 60%(×2)→100%(×2)

タイプ3:10%(×2)→20%(×3)→ 30%(×4)→ 40%(×5)

タイプ4:5%(×4)→15%(×4)→ 30%(×4)→ 50%(×4)

タイプ5:5%(×10)→10%(×15)→ 15%(×20)→ 20%(×25)


「──と、このようになっている。括弧内は上昇する適正値の数で、見て分かるように上昇値の合計はタイプ5を除いて等しくなっている。我々精霊術士は四人リンクまでしか出来ないが、妖精術士は五人リンクまで出来るからな。一応五人リンクまで覚えておくように」

 五人リンクの所が、目立つようにcheckと書き込まれた。

「リンク数の上限のせいで精霊術士の方が不利に思えるかもしれないが、精霊術士には一つの属性でリンク出来るという強みがある。つまり集団形成において有利にあるということだな。難しく考えず、才溢れる同属性同士で結婚を繰り返して一族を保っても何ら問題はないということだ。一方、妖精術士の場合、そんなことをすれば周りにリンク出来る異なる属性の者がいなくなってしまう。かと言って異なる属性の者たちで子どもを作れば、狙った属性の者が生まれるかはかなり運任せになってしまうし才能が上手く受け継がれるかも怪しくなる。あちらを立てればこちらが立たず。ジレンマに陥ってしまう訳だ」

 サービス問題だがテストに出るぞと蘭華。

 大事なことは、意外とシンプルなものだ。

「特殊型や希少型が強いとされる風潮もあるが、最高適正値を叩き出せるのは何れも基本型となっている。尤も、理論上の最高威力となると話は変わってくるのだが、あくまで理論上だからな。当然、個々人の最大霊力値や補助能力にも左右されるし気にする程のものでもないだろう。ソロの強さで言えば、やはり希少型が他より合計適性値60%分多いので優位にある。だが、ソロの強さなど神領域や神影領域でもない限り、チームの強さの前では大した強みとは言えん。つまり、友情・努力・勝利と、私の好きな展開が鉄板という訳だ」

 ドヤ顔で独自の主張をアピールする担任。

 これもまたよくある光景である。

「先生」

「ん、どうした?」

「神影領域とは何ですか?」

 少しばかりハイテンションになっている蘭華へそんな疑問が飛んだ。

「ふむ、そうか。知らない者も……なるほど、何人かいるようだな。では愛埜」

「はい」

 特に不安もなく席を立った環の様子を見て、半ば結果を確信しながら蘭華は再度口を開く。

「神影領域について、お前から説明してみろ」

「はい。神影領域とは端的に言えば、常態ではないが神領域になれる領域。或いは、なっている領域のことです。つまり、リンクや特異能力によって一時的に神領域へと至っている領域のことですね。この領域においても最大霊力値や霊質の密度の他に、強い精神力が必要とされるので、逆に言えば数値さえ満たせば神領域になれる、或いはなれた者の領域とも言えます」

 淀みなく答える環。

 美しくも武に長け、更には知でも優秀。

 その上、火の精霊術でトップの赤口家所属の術士とくれば、男子生徒たちの評価は鰻登りである。

「うむ、素晴らしい説明だ。流石は赤口家に所属する術──」

「先生!」

 突然響く蒼衣の厳しい声音。

「? どうした赤口?」

「彼女、愛埜さんは破門されたのでもう赤口家の術士ではありません。以後、ご配慮頂けますでしょうか」

 教室がざわつく。

 まさかの赤口家破門という事実を前に、環を見る視線がどことなく冷たく暗いものへと変化する。

 その様子を見て、蒼衣は勝ち誇ったような表情を浮かべた。

 だがそんな中、環は勝ち誇った表情で宣言する。

「その通りです先生。私は今、炎導家所属の術士。もう身も心も誓くんのものですから」

「な、なな、なんですってえええ!」

 叫んでからハッとした蒼衣に、様々な意味での視線が突き刺さった。



「にゃははははッ。それは見たかったなぁ」

「俺はもう負の視線が突き刺さって突き刺さって。ああ、弁当が美味い。お茶が五臓六腑に染み渡る。蘇るよ由紀。本当にありがとう」

 校舎裏の林に囲まれたやや開けた空間、そこにある錆びれたプレハブ小屋の脇にポツンと置いてあるベンチに座る二人。

「本当に美味しいよねぇ。感謝感謝だよぉ。もぐもぐ」

 以前の店売りサンドイッチとは違い、母親お手製のサンドイッチを頬張る結。

 その横顔は、本当に幸せをかみ締めているように見えた。

「本当に癒されるわ。感謝感謝です結お姉様ぁ。はぁ~ん」

「がぅ~」

 こちらは地面に敷いたシートの上で、豹をデフォルメしたような守護精霊であるフラウに頬ずりする環。

 自身の守護精霊に可愛いと強いを両立させたくても出来なかった環が、実に幸せそうに結のフラウを堪能する。

「でもびっくりしたよ。まさか早くも三人目の婚約者なんてね。つい数日前に二人同時婚約の話を聞いたばかりだと思ったけど」

「全くねえ。おかげで今朝はうちでもてんやわんやだったのよ?」

「お嬢様。寝坊したからと言って嘘はいけま──」

 突然強めの風が吹き、シートの上に座って昼食を取っていた鈴木は咄嗟に弁当と慧を守り、口を閉じらされた。

「いや~、季節外れの突風かしらね~。フィリエーナさんも大丈夫だといいけど」

「そうだな」

 こいつは──と、いつも通りの希の自由っぷりに苦笑を覚えながらも、誓は温かな昼食の時間を過ごした。


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