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第六章 守れなかったモノ、守れたモノ 漆

「終わりだ」

 雷撃轟く暴風の中、紅き炎が濁った黒炎を消し飛ばす。

 竜巻が役目を終えて風に溶け込みながら空へと還ると、地上にはフィリエーナとクーガーとのリンクにより紅緋に輝く炎の精霊を纏った誓だけが残った。

「神炎が、倒れた……」

 誰が呟いたかも分からない小さな音だったにも係わらず、その音はこの戦場にいる全ての術士に聞こえた。

「今が勝機です。皆の者、奮い立ちなさい!」

 夕が声を張り上げ、自らも果敢に攻め立てる。

「氷堂家と魔鬼を一気に殲滅する! 慧。みんな。俺に続け」

 言いながら魔鬼の群れへと駆け、言い終わる頃には一体仕留めて紅蓮の狼煙を上げる誓。

「うん!」

「続く? 冗談。並んであげるわ! 行くわよクーガー!」

「ああ!」

「勇ましいことです。では私は続くとしましょう。お嬢様、援護をお願い致します」

「オッケー。暴れなさい鈴木」

 その誓の姿に奮起され、慧やフィリエーナは意気軒昂と魔鬼を攻め立てる。

「夕様と慧様たちに続け、遅れを取るな!」

「うおおおおお!」

 魔鬼たちだけならばと、波に乗った波状攻撃を仕掛ける氷堂家の術士たち。

 天后や玄武、二体の水神もここが見せ場とその力を存分に発揮する。

 そして──。

 重傷者は何名か出したものの、死者を出すことなくこの難局を乗り切った。

「フゥ、ここは何とかなったわね」

「ああ」

 守護精霊をしまってリンクを切ったフィリエーナと誓が、拳の裏を軽く合わせて互いの健闘を称えあう。

 慧は気持ちが追いついていないのか、守れた家族たちの姿を目に、まだ放心しているようだった。

「いやぁお見事お見事。ホント高みの見物だったわ」

 そこへ軽く拍手を打つ希が地上に降りて来る。

「冗談が下手ねノゾミ。スズキの不可解な連撃の数々。まさか無関係とは言わせないわよ?」

 召還値が同じ60%でありながら、自身に霊力値で勝るフィリエーナよりも、高火力を連発して奮闘していた鈴木。

 その鈴木は目を閉じていて、風でまだ周囲を警戒しているようだった。

「いやあ見る目あるねぇ。流石リートリエル家のご令嬢」

「そっちこそ。流石鈴風家ね」

 希とフィリエーナが『うふふふ』と不気味な笑顔をかわす。

 傍に来たクーガーと誓が、その光景に苦笑をかわした。

「兎にも角にも、私たちの勝ちは決まり。やったね」

「……うん、やった。ありがとう誓。みんな」

 希の勝利宣言に、やっと実感が湧いて来た慧が反応を返し、お礼を述べる。

「慧!」

「母様」

 駆け寄って来る母に慧が笑顔を向ける。

 パチィン!

「ぁ……」

「なんて無茶を。自分がどれだけ危ない橋を渡ったのか分かっているのですか」

 しかし、突然の平手打ちに場が凍りついた──

「……母様。ごめ──」

「無事で本当に良かった。あなたにもしもがなくて、本当に」

 ──のは一時だけで、謝ろうとした慧を優しく抱き寄せた夕の感極まった様子を、誓たちは温かく見守る。

「夕。急を要しそうな負傷者は全員治療に入らせた。色々と確認もしたいし、一度皆を集めよう」

 二人の傍に歩み寄った男性が、夕の肩に優しく手を乗せる。

「ええ、そうね。分かったわあなた」

 瞳に浮かんだ雫を拭った夕が、振り返って了承する。

(この人が慧のお父さんか。そう言えば夕さんの傍で戦ってたな)

 二人を見て、跳び越えた時に見た様子が頭に浮かんだ。

「あなた方にも礼を言いたいですし、良ければご一緒して下さい」

 初めの出会いでいきなり帰れと告げた夕の見せた歓迎の意思に、全員の表情が緩んだ。

『誓様』

 そこへ風に乗った由紀の声で情報が入る。

「……分かった」

「誓?」

 突然独り言を言った形になった誓を、風の流れを感知した希と鈴木を除いた面々が訝しむ。

「ではお言葉に甘えさせて頂いて……、俺たちはここでお暇します」

「え?」

 予想外の返答に、慧は完全に置いてけぼりとなった。

「慧は家族と暫くゆっくり休むといい。慣れない体験で、体力的にも精神的にも疲れているだろうからね」

「それはいいけど──」

「分かってるじゃない」

 慧の言葉を遮ったフィリエーナは、何処かにメールを打ち始める。

「そりゃリートリエルである君が来ない筈ないしな。ただ悪いけど、気は遣わないよ」

 理解ある戦友に、フィリエーナが視線でそれで構わないと返す。

「もしかして誓……」

 いつの間にやら誓の傍に来ている先程の戦闘では見なかった式神──六合──を連れている由紀を見て、漸く慧の中で一本の線に繋がる。

 てっきり、神炎を倒した後も由紀は希と一緒に後方から支援をしていたものと、慧は思っていた。

 実際に、十二天将の何体かは戦線で活躍もしていたので、疑う余地などあろう筈もなかった。

 だがしかし──、由紀本人は本当にいたのか?

「悪いな慧。ここからは友人として動けない。家族、守れてよかったな」

 そう、炎導金城の束縛を友人と事件に遭遇する形で抜けた誓は、その友人の束縛からも抜けて、一歩先へ手を進めていた。

 即ち、尾行。

 隠れて様子を見ているだろう魔王の帰りを、由紀に追わせたのである。

 魔王が戦場へ出て来ていたら、上手く手傷を負わせて言葉巧みにお帰り願おうと思っていたが、おかげで手間が省けた。

「誓」

 こちらを見つめる慧とその傍にいる両親を見て、誓は嬉しくも一抹の寂しさも感じていた。

(あの時、俺にもっと力があれば──)

「行こう。案内してくれ」

「畏まりました。それでは皆様、乗って下さい」

 零れ落ちた水は戻せないと踵を返した誓が、由紀の青龍に跳び移る。

「じゃね」

「また学校でお会いしましょう」

 颯爽と飛び乗った希が慧に手を振り、鈴木も軽く一礼して飛び移った。

「行くわよクーガー」

「ああ」

 フィリエーナとクーガーも跳び移り、最後に由紀と六合の乗馬ならぬ乗龍を完了して青龍が空を翔る。

(さあ、いよいよ魔王の玉座へ殴り込みだ)


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