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第六章 守れなかったモノ、守れたモノ 弐

「この土日で片付くと一番いいのよね~。それなら私たちにも無理がないし」

 駅のホームで三つある術者専用車両の一番左側へ乗り込み、東京から慧の実家のある神奈川に向かう一行。

「向こうの出方次第だけど、その辺に関してはそんなに分の悪い賭けじゃないだろ」

 車両の一角を陣取る形で座りながら、話を続ける。

 誓の反対側には希と慧が座り、鈴木は立ち。

 誓の側には左にフィリエーナ、右に私服姿の由紀が座り、同じく私服姿のクーガーが立ちの形である。

「そうなの?」

 誓の考えに、フィリエーナが視線と疑問をよこした。

「ああ。関東や精霊術に限った話じゃないけど、それなりに有名な家系なんて数える程だからな。赤口家も合わせて昨日までに五つ。パッと思いつくので残ってるのはそれこそ慧の所と東北との境にある竜飛家の茨城支部くらいだ。まあ支部と言っても、今じゃそっちが本部みたいなものらしいけど」

 竜飛家の本部のある岩手には、土の妖精術でトップの御槌家がいる。

 その御槌家は青森の遥家と協力関係にあり、更に秋田と山形は金と水の妖精術でナンバー3に目されている家同士がこれまた協力関係を結んでいる。

 御槌家との縄張りがはっきりしない宮城を跳ばして、福島から東北方面と茨城から関東方面を両睨み出来る位置へと拠点を設けたのは苦肉の策だったが、これがなかなか上手くいっていた。

「道理で、ケイが急いだ筈だわ。それにムスビ先輩が今はって言ったのも、そういうことね」

「うん」

「だろうな」

 納得のフィリエーナの言に、やや落ち着かない様子で慧が頷き、誓も結の取った態度について同意する。

(まあ竜飛家には竜飛影斎がいるし、大丈夫だよな?)

 一抹の不安を残して、電車が走り出した。

「大丈夫ですよ慧さん。今までの傾向から見ても、相手は日暮れ時から行動しています。私たちが着くまでにドンパチということもないでしょう」

 間を置かず何度も携帯に着信履歴がないか確認する慧を安心させるように、鈴木が状況から分析した推測を伝える。

「……ふぅ。うん、そうだね。ありがとう鈴木さん。──ところでその、そちらの人たちは……」

 落ち着いた慧だったが、次いで直面してしまった問題を振ることになった。

「そうね、先ず私から紹介しておきましょうか。今回、残念なことに私と同様日本支部に左遷されたクーガー=メルテロッサよ。普段は外を回って貰うつもり。戦闘面での実力は今一つだけど、経験はそれなりだからサポートなら結構頼りになるわ。セイともリンク出来たし、まあ言ったようにサポート要員ね」

「クーガーだ。色々不安もあると思うけど、リートリエルの名に賭けて全力を尽くさせて貰う。よろしく」

 白い歯をキラリとさせ、ナイスガイさながらに真摯な気持ちで挨拶をこなすクーガー。

「んぅ爽やかー。クーガーさんの外見で誓の実力だったら物語の主人公に引っ張りだこね」

「おい」

「あの、誓様は男性としてとても魅力的です。自信を持って下さい」

 自分の見た目がカッコイイなどと自惚れておらずとも、そんな風に言われていい気はしないと不満を零した誓を、由紀がフォローする。

(誓様、ね)

 その様付けに、何やら通常とは異なる響きというか色合いを感じたフィリエーナは、失礼にならない程度にそっと由紀を見た。

「おほん、次は俺から紹介しよう。栃木は児玉家当主のご息女、木の妖精術士にして陰陽師でもある児玉由紀だ。陰陽術に関しては俺は勿論、炎導金城の両当主も信頼を置いている。今回、俺が友人としてついていくことの条件というかお目付け役となった訳だが、彼女自身とは仲良くして貰えると嬉しい」

 現当主の息子という立場を利用して、考えられる限り最高の人選を通した手前、人間関係にフォローを入れる誓。

 形振り構わないのなら拓真を同行させる所だが、精霊術士として助力を求められたために、それは出来ない。

 慧と炎導の双方を立てつつ戦力を整える上で、陰陽師でもあり誓との将来を考えられている由紀の存在は、かなりありがたかった。

「皆様、どうかよろしくお願い致します」

「ここ、こちらこそよろしく」

 淑女そのものといった由紀の姿に、慧が慌ててお辞儀を返す。

(凄く綺麗で可憐でお淑やかで優しそうで、レベル高いよッ。おっぱいも大きいのに形良さそうだし。しかも良家の出自とかどんだけ~。誓はこんな美少女といつも一緒なの?)

「すぅ~はぁ~。クーガーさんは外だからいいけど、由紀さんはどうするの?」

 深呼吸して普段の冷静さを取り戻した慧が、由紀の扱いについて誓に聞く。

「俺の傍仕えの陰陽師として紹介しよう。男としてはちょっとあれだけど、友人の家に泊まる際に親に同行させるよう言われたことにすれば納得して貰えるだろう。それなら嘘は言ってないしな」

「ノゾミに仕えるスズキもいるし、大丈夫じゃないかしら」

 誓の考えを、フィリエーナが肯定した。

 フィリエーナにそう言って貰えるなら大丈夫そうだなと、誓が安堵したのも束の間──。

「私と違って、誓の方は未来のお嫁さん候補だしね。いざとなれば、危険と分かっていながら心配でついて来たいじらしい婚約者設定で問題ないでしょう」

「「お、お嫁さん候補!?」」

 希の発言に場が色めき立つ。

「お前の発言が問題だ。全くその話はいいから──」

 誓が苛立ち半分に冷静に流そうとするも──。

「あら、その辺詳しく聞かせて貰いたいわ。ねえセイ」

 フィリエーナがニッコリと笑ってない笑顔で、背を向ける誓の心を捕まえる。

「その話は時間がある時にしよう。今はそれより氷堂家の戦力について聞きたいんだけど。みんなも、ここにいる意味は分かっているだろう?」

 しかし、誓はそんな話題などより優先すべきことがあるだろうと、別段慌てることもなく話題の流れを修正する。

 何か言いたそう&聞きたそうな面々は、酷く冷徹な視線で縫い止めた。

(いやぁ、鳥肌もんだね~。ホント見た目平凡なのに、こういう気迫はちょっと桁違いますよ。潜ってる修羅場の違いかな~)

 希は誓の後半の台詞に冷めた場を温めようと、風を操って局所的な暖房を入れる。

 氷堂家の主力の情報を聞いている内に、電車が目的地へと着いた。


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