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第五章 四面楚歌 参

 例の気がかりを解消すべく、放課後の屋上へと、一人やって来る誓。

(別に、ぼっちって訳じゃないからな!)

 誰にともなく牽制しながら、風下へと移動する。

(さて、炎導として調べるなら希に連絡する所なんだが、半分くらい私的なものだからな。財布が軽くて気は重いけどあそこを使うか)

「はい。どのようなご用件でしょう?」

 気の強そうな凛とした女性の声が、誓の鼓膜を震わせる。

 普通はあるだろう、こちらは誰それといった文句を省いた対応。

 ここで見当違いなことを言えば、そこで通話は終わってしまう。

「マロンさん。悪いけど竜飛家と片倉結の関係について調べて欲しい」

 だからこちらがそちらを知っていることと、仕事の依頼内容を簡潔に述べた。

 メンバーズだから電話帳に登録されているらしいが、知っている者が掛けているかどうかの確認ということで、結局ゲストの時とこの辺は変わっていなかった。

「あらいいの? 最近婚約指輪ならぬ婚約装束を買ってお金がないと聞いていたけど」

「何処でそれを……。いやまあ、マロンさんならおかしくないけども」

(炎導金城の両家で色々噂になってるしな)

 いくらそこらより遥かに結界の強固な御三家の内情だろうと、あの騒ぎ具合ではこの人物に知られてもおかしくないと、誓は肩を落とした。

 情報屋 棚から牡丹栗ぼたくり。通称マロン。

 ぼったくりを思わせる名前に違わず高い金を取るが、仕事は棚から牡丹餅的なプラスαアルファまでしてくれる凄腕の情報屋だ。

 電話口に出るのはいつもこの女性──誓はマロンさんと呼んでいる──だが、経営は一応複数人によるものであるらしい。

 この情報屋との関係は、誓が中学生の頃、御三家や鈴風家の情報以外の視点を得たいと思ったことから始まった。

 いくつかの情報屋に自身についての情報を集めるよう依頼した際、一番優秀な成果を挙げたのがこの『情報屋 棚から牡丹栗』だったのだ。

 アンダーグラウンド寄りの立ち位置でありながら、妖魔を調査対象から外して人に関する情報に絞っている点も誓は高く評価している。

 大手の術士たちが躍起になって探すような妖魔の情報収集など、命が幾つあっても足りない。

 頼む方としても尻込みするし、必要な時にいつの間にかいなくなっていて使えませんでしたとなっても困る。

(その点、マロンさんは妖魔の情報収集すら卒なく出来そうな腕なのに、危険度の落ちる人に限ってるからな。安心感と期待感が違う。同時にかなり危険な存在でもあるけど)

 頼りになる情報屋程、敵側に回ったら厄介な存在もそうないだろう。

 最強の敵が仲間になったら最強の味方、その逆バージョンだ。

「とにかく、急ぎじゃないけど、早いなら早いに越したことはないからさ。頼むよ」

 おそらく歳も近いだろうと踏んでいる誓は、上客ということもあってやや気楽な心構えで婉曲に追加注文を付ける。

 信じられないことに片手間の仕事という話なので、割と融通が利くのもありがたかった。

「オッケー。大事なメンバーズさん第一号の頼みだし。それくらいならお安い御用よ。ただまあ、それでも中三日は見ておいてね」

「分かってる。十分だよ。それじゃ、いつものトコに前金を送るから」

 そうして一度通話を切り、前金の五十万をサクッと送金する誓。

 前金で五十万に加え、成果を貰うには向こうの提示する別途報酬が必要となる。

 必ずしも成果を買う必要はないものの、当然必要経費扱いの前金は帰って来ない。

 万が一、誓と同じメンバーズの情報が入っていた場合は、その人が払っている年会費の半額を上乗せで買うか、額はそのままに欠陥情報を購入するかを選ぶ素敵仕様。

 ぼったくりというのも、あながち間違いではない。

 間を置かずに掛かって来た電話を取る。

「入金を確認したわ。それじゃ、可愛いお嫁さんと仲良くね」

「ちょ。分かってからかってるだろマロンさん!」

 クスクスと笑いを残して通話が切れる。

 美姫と由紀と一緒に入った、いつかの店で見掛けた少女の笑顔が自然と頭に浮かんだ。

(まさか──な)

 後に残された誓は、熱くなった頬を冷ますように天を仰ぐ。

 この日、魔王の手先により水の精霊術士で五指に数えられていた家が一つ滅んでしまう。

 滅ぼしたのは、誓たちが倒したのと同じ外見のコピーゾンビたちで、贋作親父の姿も例外ではなかった。

 悪夢はまだ、離れない。


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