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第四章 ランカー 伍

「変だな」

 向かった先での討伐を終え、休憩がてらあるかも知れない次の指示に備えて待機中の誓たち。

「ああ、どうにもキナ臭いぜ誓。これだけ鬼たちを暴れさせておいて、未だに本命が見えねえってのはどういうことだ?」

「炎導金城の本家は大悟様こそ外してるけど、静様と要小父様がいるし、仮に魔王クラスの襲撃があっても問題ないと思う」

 誓の中で響く警鐘を肯定するように、拓真と美姫が意見を述べる。

「とすると、狙いは炎導金城以外か? この近辺で他に妖魔の標的になりそうな所なんて──」

「学校?」

 術士の育成の場なら或いはと、美姫が言っている自分自身納得いかなそうに首を傾げながらもそう口にした。

「陽動の規模と時間帯で考えれば可能性は低そうだけど、一応向かってみようか」

 誓ももやっとした気持ちを抱えながらも、零とは言い切れず、その指針で行こうと全員の顔を見渡した。

 ──と、その時、携帯が着信を知らせる。

「もしもし、母さん。丁度良かった。今から一応拓真たちの学校に──、な、んだって?」

「誓様?」

 途端に表情を険しくした誓の異変に、由紀が心配そうに見つめて来る。

「ダメだ! 俺たちがすぐに行く! 母さんはそこにいてくれ」

「誓。何が何処で起きてる?」

「と、父さん──っ」

「誓?」

 自分でも少し取り乱していると感じた誓は、一度深呼吸をしてから口を開く。

「父さんの偽者たちと魔王が魔鬼を複数連れて赤口家を襲撃。死者多数だが魔王が手を出してこないこともあってまだ応戦中らしい。赤口家は他の精霊術士たちに応援を求めたらしいが、相手は神炎と魔王。術式統括庁経由でこちらにも応援要請が回された」

「そんな──」

 由紀が誓の気持ちを代弁するかのように、悲痛に顔を歪ませる。

 由紀の肩の上に優しく手を乗せ、由紀の目を見て大丈夫と言うように力強く頷く誓。

「頼むみんな。力を貸してくれ」

「正直、赤口家を助けるのはいい気しねぇが、俺が誓を助けるのは当然だろ」

 相手に対する気負いも揺らぎもなく、相棒の拓真が頼もしい返答をくれる。

「終わったらドヤ顔で精霊術士を公的に見下せるのは美味しい」

 実にらしい理由で、積極性を見せてくれる美姫。本当に頼もしい限りである。

「微力ながら、ご助力致します」

 表情を戻した由紀が、落ち着いた声音でこうべを垂れる。

「ありがとう」

 感謝を告げ、この先の苦難を見据える。

「行こう」

 覚悟を決めて、青龍へと跳び移った。



「く──」

「させない!」

 傷ついた鬼型の魔鬼に今にも押し切られそうな怪我だらけの環の相手を、誓は着地のついでに一撃で屠りながら赤口家の敷地内へ着地を決める。

(術士が軒並み若い。既に最終防衛ラインか。それとやっぱり──)

 環の両手を覆う白い手袋。

 その指先から見える極細の線状の武器──鋼線を見て、もしかしてが確信へと変わる。

 昔、術士でありながら下位次元百%の武器を使い、周りの子に苛められていた女の子を助けた。

(確かあの時の呼び名は──)

「マ──」

「あなたは──ッ」

 誓たちを見て苦渋に顔を顰めた蒼衣の大声によって、誓はその名を発する機会を失ってしまう。

 一度ぶつかって友情が芽生える程、世の中簡単ではない。

「……術式統括庁からの要請で来た。悪いが、ここは俺たち炎導金城に任せて貰う」

「妖精術士」

 近くの赤口家の術士が、不愉快さを隠そうともせずにその気持ちごと音に出す。

「こりゃまた、随分手酷くやられてんなぁ。にしても、へぇ、確かにナリは似てるな。随分ダーク方面へイッてる感じだけどよ」

 そんな幾多の視線などまるで相手にせず、拓真は周囲を見渡してから悠々と状況確認を行う。

「妖魔は残り一体っぽいけど、目の前のコイツらは境悟小父さんを真似るだけあって、穢れた火の扱いがパない。髪も瞳も真っ赤だし、軽くイラつく」

 遠くの魔王と近くの二体の神炎を視覚で、他の妖魔の気配を土の術的触覚で確かめながら、美姫はいつもより冷えた表情でどす黒く燃え盛る敵を睨む。

 神領域は妖精術士や精霊術士にとっての頂とも言える聖域。

 霊力値が5万8000を超え、霊質の上位次元密度が80%を超え、その上で強靭な精神力を持って初めて到達出来る高み。

 その聖域を土足で踏みにじられている現実には、さしもの美姫も嫌悪感を抱いた。

「神領域の者は全適正値が倍になる。それに、どこまで本物に近いか分からないけど、妖精具を持っている時の父さんの炎は現象を跳び越える。神炎と合わさって、下手な二重三重の防御は身を焼くだけだ。気は抜くな」

「っ。はい」

 勝手知ったる息子の忠告に、由紀が答えて気を引き締める。

「退きなさいあなたたち!」

「あぁん?」

 気を引き締めてこれからという時に横から邪魔が入り、拓真が迷惑そうな声を上げた。

「いくら妖精術士と言えど、娘と同じ年頃の者たちをみすみす死なせる訳には参りません」

「お母様。いけませんわ。そのケガで無茶は」

 衣服を血の跡と鮮血で染め、見るからに軽くない怪我を押して気丈にも前へ出る母親を蒼衣が止めようとする。

(赤口さんの母親か。当主は父親だった筈。生死は分からないが既にリタイアしたか)

「ちっ。気持ちは買うがやめとけオバさん。既にてめえの出る幕じゃねえんだよ。なあ誓」

「ああ。炎導誓と金城拓真、火の第三位と金の第七位、二人の日本ランカーが本気を出す戦場。下手に巻き込まれて死なれても面倒だ。怪我人は舞台から降りて貰おう」

 言いながら二人の前へと歩み出る。

「日本ランカー。あなたたちが?」

「嘘……」

 向けられる疑惑などどうでもいいと、誓は二人に背を向けたままご丁寧にこちらの様子を伺っている敵と対峙する。

(狙われる術士とその状況。手駒の試し切りではという意見があったが、どうやらそのようだな。人の命で随分ふざけた真似をしてくれる)

「由紀。リンク後は彼女たちの治療と警護を頼む」

「かしこまりました。ご武運を。リアライズ。影想 木神六合、青龍。水神天后」

 誓の言葉に従い、由紀は守備力よりも移動力を重視して赤口家の面々の治療と守りに入る。

 抵抗しようとする者もいたが、天后の加護を受けた六合と青龍の風に絡め取られ、若い術士たちは早々に無力化された。

「それで、そっちで高みの見物決めてニヤけてる律儀なクソ魔王はどうするよ?」

 ダボッたくマントを羽織った蒼髪に四つ目を持つ魔王を見据え、拓真もまた口元をニヤけさせる。

「この一帯はもう焼け野原同然だ。俺のことは気にせず、全力でぶっ放せ」

 拓真の期待に満ちた好戦的な雰囲気を抑えることなく、誓はゴーサインを出した。

 明らかに戦場を俯瞰している魔王だが、敵の事情など知ったことではないと。

「へへ、そうこなくちゃな。おい美姫。力貸しな」

「全く。仕方ないからサポートしてあげる。泣いて喜べ」

 久々の手加減無用な状況に、拓真が嬉々として命令を下す。

 誓が拓真側については仕方ないと、美姫も渋々従った。

「切り裂け。壊拳 鎌鼬信玄」

「おどれ。鎧布 流転」

「……護湖 聖楯」

「果たせ。誓剣 愛火」

 そして誓たちは、至極当然のように四人リンクを行う。

「!? そんな──」

「蒼衣? いったいどうし──」

 驚愕の事実に言葉を失う蒼衣に疑問を投じる母親だったが──。

「光り導け。不知火」

 その光景に同じく言葉を失い、同時に納得した。

「火の妖精術と、精霊術。二つの使い手」

 驚く赤口家の面々を前に、誓は更に信じられない行動に出る。


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