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第六章 炎導の─── 拾死

「デモンストレーションはこれでおしまいです。本命は──わかりますか?」

「!!」

 短剣を宙へと浮かべ、ここが決め所と複数の虚光術の魔方陣を展開させたエミニガがニヤッと誓に問いかける。

 絆や縁を断つ呪いの短剣には運命操作系の魔術が使われている。

 故に、短剣はエミニガの狙う対象へと必然的に導かれる。

 視覚のみならず熱探知でも相手の動きを把握可能なフィリエーナが、接近戦でエミニガの攻撃を貰ったのもこれが理由だ。

 呪いの短剣にも多くの魔力を注ぎ込み、効果を高めるエミニガ。

 本命でなかったフィリエーナが除外されるとすれば──。

 この場に残るは誓の他にセラフィとクローネに環、そして誓の第一婚約者である──

「由──」



 虚光術に後押しされた呪いの短剣が、過去の由紀の胸へと突き刺さって現在を改変する。

 青龍や六合に白虎も、虚光術によって打ち取られた。

 それでも強い抵抗があったのか、辛うじて一命を取り留めた由紀だったが、傷は深く倒れて血だまりを作る。

 誓と繋がっていたリンクが、離れるのを拒むように切れた。


「──紀? 由紀?」

(何故俺は今彼女のことを? 回復役が倒れたら不味いのは確かだがこれまで積み重ねた攻撃の機会を中断してまでなんて必要以上に心配し過ぎ──ッ!!)

 酷く不快な頭痛が誓を襲った。


『私は、その……、誓様の嫁候補ですから。誓様を置いて死んだりしません』

『由紀。ありがとう。ずっと生きて俺の傍にいてくれ』

『──っ。はい。誓様。由紀はずっとあなたの傍に』


(今、俺は何を、由紀が婚約者であることを忘れっぁ! ぁ゛ああぁあア゛ああぁあアァあああ゛!!)

 これまで積み重ねた大切な何かを、切り裂かれるのを必死に堪えるような、繋ぎ止めるような──。


『いえ、いいえ誓様。それは、由紀が今とても幸せなことの裏返しのようなものです。だから、どうかお気になさらないで下さい。由紀はお慕いしている殿方の一人目の婚約者にして頂いて、こうして日々よくして頂いて、とても、とても幸せでございます』

『ありがとう。俺も由紀が一人目の婚約者になってくれて凄く幸せだよ』

『誓様……、お慕いしております』

『俺も好きだよ。由紀、好きだ』


 例え燃え盛ろうと、普段何ともない『ガ・ジャルグ』を持つ手が熱い。

「ほぅ、抵抗しますか。しかし──」

 エミニガは嗤う。

 戦闘どころではない誓に向かって、トドメとばかりに魔術を展開。

 フィリエーナやセラフィにクローネ、そして環が防ごうと動くも、もう遅い・・・・

 虚光術と氷炎魔術が誓を襲い──。


『誓、私より先に逝くことは許しませんよ。これは母の願い(当主命令)です』

 最期に誓の脳裏に浮かんだのは、堪えるような母の後ろ姿だった。


 セラフィや環と繋がっていた誓のリンクが切れる。

「誓、くん……? ぃや、嫌よ、嫌ぁああああぁぁあ!!」

 環の絶叫が響く中──


 日本は火の第三位、妖精術士でもあり精霊術士でもある炎導誓は死亡した。



 ──。


 ────


 ──────



 ────…………、





『なんでこの俺がガキ共と一緒に魔王討伐なんか、クソッ、仕方ねーな』


 ……カーネスト、さん。


『俺は子守をする気はねえ……。だがま、それが男なら話は別だ』


『それでどうなんだ? お前らはガキか、それとも男か?』


『俺らはガキじゃねー! なあ誓!』


 拓真。


『……男の覚悟はしてきました。ガキを卒業するために』


『……女も抱いたことねーくせに、一丁前に吠えやがる』


『だッ!? それとこれとは関係──』


『ガキだな。だがま、見込みのあるガキだ。生きて帰れるか知らねえが、血反吐と泥にまみれても最後までついて来い。高みを教えてやる』


 神……炎。 


『いいかお前ら。神領域だからつええんじゃねえ。つええから神領域なんだ』


『はぁあ? 当たり前だろ』


『わかってねえな。女も同じ。抱いたからつええんじゃねえ。つええから抱くんだ』


『何が言いたいかわかんねー。わかるか誓?』


『いやさっぱり』


『つまりはココ・・だ。想いがデケエってことだ。お前みたく感情を抑え過ぎるのも問題だな。ま、今はいい、それも重要な要素の一つではあるからな』


『想い』



「──そうだ。だから後は……・・・・お前に任せるぜ・・・・・・・




 …………────、



 ──────


 ────


 ──。



『「幼子おさなごよ。どうして泣き叫ぶのか』」

「「!!?」」

 完全に息の根を止めた誓が立ちあがった。

 その事実にまず驚くエミニガや環たち。

『「なんじ、世界にあらざれども本質は変わらず。故に楽園をえがくのだ。世界の破滅こそ汝が産声うぶごえとならん』」

「この召還詠唱は、まさか──」

 エミニガが何かに気づき、しかし信じられないと思考につられて行動を止めてしまう。

『「願わくば、けがれ無き想いよどうか永久とこしえに』」

「誓?」

 人一倍音に敏感なセラフィも気づく。

 今の誓が誓ではない・・・・・ことに──

『「例え汝が地に堕ちようと、新たな萌芽ほうがが天をも超える。創星そうせい──』」

 条件が満たされたことで一時的に使用される誓の器。

 そこに託された力が、今は亡き神炎の精霊術士、カーネスト=ヴィルフレムの守護精霊が解放される。

『「フィクススターレイジ!』!!」

 莫大な熱量を有する疑似恒星が天に、そらへと昇り、確かな力の燃料となって消えた誓の命に火を灯し、燃え動かす。

 そうして誓は正に神の炎に導かれ、死の淵より蘇った。



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