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第六章 炎導の─── 拾弐

 性欲面で先走った何処ぞのシャチがいたため、魔王との戦闘を終えながら神力満タン状態の由紀。

 残念ながらリヴァイアサンの降霊術を継続とはいかなかったが、戦果は上々。

 昏く凍った結界内へと魔王を封印することに成功した。

(蘇るとしても、屍皇帝を倒せば自ずと砕け散るでしょう。そうなれば──)

 描く未来予想図に満足した由紀は、表情を落ち着かせながら眼前を見遣る。

 他の戦場からの乱入を警戒しながら、ゼルメスへの警戒を強めていたリートリエルの術士たち。

 携帯や無線などの連絡手段は魔術で妨害を受けている。

 事前に決めてあった連絡役が行き来しない以上、劣勢状態にある炎術士では広い戦況の把握は難しい。

 それもあって、遺体や怪我人の避難を終えた後は、ゼルメスへの対応策を意見し合いながらの待機に近い形であった。

 隠形おんぎょう中の六天将を傍に、忍刀・月影小鴉つきかげこがらすで自身も隠形しながら軽く水気を飛ばし、制服を着替えようとする由紀。

 例のシャチと一緒にいた空間の水で濡れた服など、着ていたくなかった。

 忍刀・月影小鴉つきかげこがらすで隠れているとは言え、念のため人目のない場所に移って陰陽術を使う。

バレないよう新たに張った結界の中、軽く身体を湯と水で流し清める由紀。

 その後、ここ最近の身体の発育を鑑みて新調した下着と制服を同じく術で取り寄せ、着替え始める。

(ン、少しキツイ……ですね。降霊術でシンクロし過ぎた影響でしょうか。また少し育って……というよりは増えてが正しいかもしれませんね)

 リヴァイアサンの鱗鏡は増やすたぐいのもの。

 結果としては同じだが、過程としては少し違う。

 これが仮に育つ類のものであれば、成長がもとになるので、成長と言える一歩、1+1の+1がなければ効果はない。

 だがリヴァイアサンの鱗鏡は増やす類のもの。

 ベースが基になるので、成長と言える一歩がない1+0でも、基となる1さえあれば効果が顕れる。

 だから由紀の成長に係わらず、短期間でも成長という結果をもたらすことを可能にしてしまう。

 そうして由紀は、短期間ではまず成長しない筈の最大神力値と最大神容値が急激に増えたことで身体に負荷がかかり、少しキツイと感じてしまっているのだ。


 ……。


 …………。


 一部の読者が勘違いした……とも言い切れない胸元と腰回りも気にかけながら着替えと身支度を終えた由紀は、戻って隠形を解くとその場にいたクーガーへ簡単な説明を行う。

 そして気は進まないが本隊の援護に向かう、というリートリエル組とはそこで別れた。

 風でクローネから情報が伝わる中、確実に悪い流れへと進行する戦況。

 長い巨躯を宙にたなびかせる碧き龍、木神青龍。

 巨躯を広げて空を焦がす燃え盛る鳥、火神朱雀。

 天を衝かんばかりの巨躯が大地に足を下ろした人型の城、土神天空。

 白と黒の体毛に覆われた巨躯で空をも駆ける金色の瞳の虎、金神白虎。

 薄地の天の衣を着て羽衣を漂わせる、人型の上半身のみをくうに浮かせた半身の女神、水神天后。

 少し大きめの時計を抱え、モノクルをかけた体長40センチ程の白兎、木神六合りくごう

 由紀は十二天将の内の6体を連れ、新たに符を取り出しながら誓の元へ向かう。

「みそぎする ならの小川の 川風に いのりぞわたる 下に絶えじと。

 夏山の ならの葉そよぐ 夕ぐれは ことしも秋の ここちこそすれ。

 風そよぐ ならの小川の 夕ぐれは みそぎぞ夏の しるしなりける。リアライズ。輝想・・ 従二位家隆じゅにいいえたか

 八代女王と源頼綱の二首を踏まえた本歌取りによる構成を引用した、清めの効果を強めた歌で罪や穢れを祓い清めながらの回復。

 それを自身に重ねてまとうことで、妖精術の回復力を上げる。

 これだけであればベースとなる妖精術の回復力が低いため、総合的な回復力は落ちてしまうが──。

「いにしの 奈良の都の 八重やえ桜 けふきょう九重ここのえに にほひおいぬるかな。リアライズ。影想 伊勢大輔いせのたいふ

 更に即興で詠まれた歌で、一際ひときわ美しく咲き誇れと効力と速度を増大。

「繋げ。護湖 聖楯」

 六合のサポートを受けた青龍の風を使って誓の傍へと舞い降り、リンクを再度繋ぐ。

 これで5人リンク。

 リンク時の固有スキルを倍加する誓のエクスアイギスを考慮するなら、回復は妖精術主体が望ましい。

「お待たせ致しました、誓様」

「由紀、無事なようで何よりだ。早速で悪いけど回復を頼む」

「はい」

 そのエクスアイギスが発動し、防御値を筆頭に各種適正値が一気に増大となって回復力も上がり、戦況が誓たちの側へと確かに傾いた──


 ──筈だった。


「それはいけませんね」

 虚光術は過去への攻撃。

 例え戦況を覆す転換点が訪れようと、遡って修正をかけられる。

 よってエクスアイギス発動前にリンクメンバーの一人が倒されたため、現在繋がっていた筈の5人リンクは消え──

 必然・・戦況が傾く・・・・・転換点は訪れなかった・・・・・・・・・・

「いい、判断──」

 口と胸部から血を流しながらも、最後まで不敵な顔のままリンクメンバーの一人──美姫が倒れ伏す。

 美姫が倒れたことで、美姫の特異能力で繋がっていたセラフィとの妖精術のリンクも切れ、誓、拓真、由紀の3人リンクとなった。

「──あ? ッ、拓け。神器じんき 千槍鉄槌せんそうてっつい

 一瞬、思考が停止した拓真はしかし、次の瞬間低い声で静かに、されど猛然とエミニガへ向けて攻勢に出る。

「拓け。拓け! 拓け!!」

 エミニガの攻撃に傷つきながらもジェットエンジンで空を駆け、ドンドンと怒りと轟音を加速させながら質量の凶器を次から次へと降らせ続ける。

「鬱陶しいですね」

 音速飛行相手ではエミニガも的が絞りにくいのか、虚光術を分散させており一つ一つのダメージは大きくはない──が、小さくもない。

 拓真は遊撃型。

 防御値は道化型と並ぶワースト2位。

 エクスアイギスも美姫のリンクもない状態では、装甲はかなり薄くなる。

 誓たちが援護に入るもダメージは確実に空を駆ける金を蝕み──。


 畢竟ひっきょう、金の第七位は撃墜された。


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