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第六章 炎導の─── 拾

「炎術士相手に炎の魔術で攻撃なんて、随分ふざけた真似してくれるわね」

「単調な炎しか出せない生娘にそのように言われるのは心外ですね。魔術による炎の使い手など、石を投げれば当たる程いるでしょうに。より造詣が深いのはどちらか、比べるまでもないことです」

 そうして証拠とでも言わんばかりに放り出されるソレ。

「フレイズ!?」

「セリ、フィーヌ。撤退、し、リート、ェルの血を──ッ」

 グシャと、既に半分も体積を失っていたリートリエル当主にしてアメリカは火のランカー第二位が、無慈悲にその生を終えた。

「そうですね。まあ一応、曲がりなりにも(・・・・・・・)神炎である煌炎のリートリエルの当主とそのリンクメンバー相手とあっては、私も一番得意な魔術スペシャリテを使わざるを得ませんでしたよ、とでも言っておきましょうか?」

 僅かに作ったかのような嗜虐的な笑みをとるエミニガ。

 神影領域を愚弄するかのようでいて、その実、取ってつけたような軽い扱い。

「母様、抑えて」

 母の心痛と怒りを見て取ったフィリエーナが機先を制す。

「大丈夫よフィーナちゃん。大丈夫」

 内部での対立こそあれど、それは大家にありがちな昔からの根深い派閥問題や上下関係に起因する所が大きい。

 言い方は悪いが、個人として見るのであれば、セリフィーヌにとってフレイズはかなりマシだった。

「ッ、ッ」

 一方、こちらは必死に抑えているユーディット。

(親父ッ。もしかしてアイツまで、クソ! 落ち着け。闇雲に向かっても犬死だ。こっちにはガレスにセリフィーヌさん、それに火の化身のような奴にキレてる戦闘機もいる。敵の首魁がわざわざ出向いてくれてる今ならチャンスはある!)

 エミニガが軽く腕を振り、老魔王の封を解く。

 誓は抜けた『誓剣 愛火』を手元へ召還した。

「爺、手酷くやられたようね」

「申し訳ありませぬ。ほほ、やはりあの男の息子は侮れませぬな。魔術無効化の可能な槍に、空間の裏表関係なく迸る音速以上の雷火を放つ鞭、もう一つは味方の能力を上げる支援系ですかの? なかなかに多才な妖精具のようですじゃ」

 それを、より正しくは空間云々の話を聞いてエミニガが笑みを深めた。

「やはり、そうでなくては」

 魔帝と老魔王が並び立つ。

「今更ながら凄い所に来ちゃったな」

 自身の強張った身体をほぐす律楼。

 否応なしにブルッていることを自覚する。

(ホント常人枠にはきっついね、これは)

『遠藤くん、クローネさんとクラウニアさんたちには連絡がついたよ。クラウニアさんたちは吸血鬼との戦闘を継続して足止め。クローネさんたちはすぐこっちに向かってくれるって。ただ、死なずに再生する魔王の足止めが完璧にはできないから長引くと合流される可能性があるとだけ。環さんはどっか飛ばす? って言ってたみたいだけど、流石に、ね』

 律楼の守護精霊ミカベルの特異能力、四人リンクで風の属性を追加できる『カルテット』を用いた緒莉子が、味方陣営に情報を伝えてくれる。

(マキちゃん……、死なずの魔王を他人様の所にポイは流石に看過できません。由紀は、相手の土俵内だろうしまだ時間がかかるか。急所に貰うのは避けないとな)

 誓が了承の意味の炎を灯す。

 それを見て一先ず安心する緒莉子。

『言われたように、由紀さんがリートリエルを置いて独りで魔王と戦ってることは伝えませんでしたけど、これでよかったんですよね?』

『ええ、ここで誓さんに余計な動揺を与えては、生き残れるものも生き残れなくなりますので。ありがとうございます』

 戦闘中の誓が精神的に強いことをクローネは聞いていたが、実際にどの程度かまだクローネには計りかねるし、精神的に強いから精神的負荷をかけていいということでもない。

 秘書はこの辺の気遣いスキルも相応であった。

(それに由紀が誓さんの迷惑になるような道を自分から選ぶとは考えにくい。相手が魔王なので不安は否めませんが、勝てる算段あってのことでしょう)

 エミニガが一歩前に出る。

「さて、リートリエル本隊の燃えカスは残して来た屍鬼たちで充分でしょうし、私も改めて楽しませて頂きましょうか」

「待てコラ、魔術士タイプと言ってなかったか? 壁役も呼ばずに前に出てやる気かよ」

 拓真が残して来た話を鵜吞みにせず、いつもと変わらぬ自然体な喧嘩腰で探りを入れる。

「そうですね。壁役を突破して希望を見つけた相手の、そんなもの最初から必要なかったということを知った時の絶望に染まる顔を見るのも嫌いではないのですが……」

「悪趣味ね」

「いい趣味してる」

 フィリエーナと美姫がそれぞれに違った感想を零す。

 しかしその実、狙いは似ていた。

「でしょう? 可愛らしい日本人形のようなお嬢さん、あなたは特別に、死んだ後も私の傍で踊らせてあげましょうか」

「魅力的な提案だけど、こっちが狩った時はそっちの死体を上手く使えないのが難点」

 美姫の返しを聞き、可笑しそうにエミニガが笑う。

「ごめんなさい。本当に面白いお嬢さん。早速あなたから──と言いたいのですが、そちらの思惑に乗るのもあまり面白くないので──」

 エミニガが魔術を使う。

「「!!」」

 覚えのある魔方陣。

 視えない攻撃。

 それに合わせ、動く誓たち。

「誓剣 愛火。我が誓いに応え、汝が力を揮え──」

「拓け──」

「──まずは用済みのリートリエル、ですね」

「ガレスに合わせろ風女!」

 攻撃面であまり期待できないながら、防御に秀でた美姫に敵の攻撃が向かうことが一番だったが、戦場で最善手を打てないことなどままあること。

 視えない魔術と『神器じんき 千槍鉄槌せんそうてっつい』に『雷公鞭』、ガレスたちリンクメンバーの攻撃が──

 加えて流星乱射ハッピーシューティングスターまでも炸裂した。


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