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第六章 炎導の─── 玖

「誓」

「わかってる」

 美姫の声に少し硬い声音で返し、集中する誓。

 敵の出現と攻撃に、炎を見舞って相対する。

「ほほ、いやはや、その昔同胞を尽く屠ってくれただけありますな。ですがだからこそ──」

 誓の炎に続くように降り注ぐ『神器じんき 千槍鉄槌せんそうてっつい』。

「対策済み、ですな」

 生み出した白に自身を呑ませ、その場から消えた老魔王は、時間を置いて発生した他の白から悠々と出現する。

「チッ。しっかり拘束しとけよ美姫」

 最初に決めていればと、愚痴を入れる拓真。

「拘束はしっかりしてた。分かり切った不当で不毛な愚痴はやめてくれる? バカ拓」

「チッ」

 勿論理由を察していた拓真は舌打ちを残して、空中から攻撃の雨を降らせる制空権の維持へと逃げる。

 如何に本体を内へ拘束しようと、浸食力の高い術が外から迎えに来るのでは効きは弱まる。

「とりあえず判断材料増やそうか」

 上も警戒している相手の位置へ次々炎を出現させる誓。

 魔力抵抗が強く、対象の直接発火は厳しいが、いる場所を燃やすことは可能。

 普段であればそんな溜めも何もない瞬間燃焼攻撃は大した威力を出せないが、今の状態なら話は別。

 590%という圧倒的な適正値が、魔王すら嫌がる灼熱のあぎととなって間を置かず襲い掛かる。

「流石誓。適切な判断。どこぞの狭量な間抜けとはやはり違う」

「ッ」

 表情を軽く歪めた拓真は下にいる美姫に向け、長さ30センチ程の5本の鉄針を投げつける。

 それを『鎧布がいふ 流転るてん』でさばき、勢いを殺さず誓の視線だけで踊らされる老魔王へと槍林の合間を縫ってお見舞いする美姫。

 土の妖精術でコーティングされた攻撃は、白の浸食を防ぐ壁となって金の妖精術の貫通力を上げ、老魔王に更なる回避という行動を取らせた。

 口角を上げる美姫。

 エクスアイギスのサポートを受け、防御値を爆上げした状態であれば──。

 最初から外側の防御も上げておけば届く。

「「協力召還」」

 再度召還値の高い誓に続き、美姫は意気揚々と檻を編む太い熱砂の糸を奔らせる。

 簡単には白を使わせまいと、ガレスティやフィリエーナもそれぞれにサポートを受け、鉄塊を大きく穿ち侵食しながら出現する白を燃やす。

「拓け。神器じんき 千槍鉄槌せんそうてっつい

 今度こそ鉄の暴虐に呑まれるかに見えた老魔王はしかし、少々ぎこちないながらも自身の白に吸われるように消え失せる。

「美姫てめぇ」

「バカ拓がタイミング外したんじゃない? それに心配しないでも──」

「誓剣 愛火。我が誓いに応え、汝が力を揮え。雷公鞭!」

 通常の攻撃がすり抜けるような、触れられないものや見えないものに干渉出来る特性が雷公鞭の真骨頂。

 空間も次元も時間も誓の今と違うようなものでもない限り──、そこに存在する限り雷公鞭に捉えられないものなどない。

 何もない空間から出現した白が弾けるように燃え割れ、傷ついた老魔王が膝をつく。

「いやはや、これは老体にはちとこたえますな──」

「そのまま逝っとけ」

 そこへ間髪入れず降り注ぐは『神器じんき 千槍鉄槌せんそうてっつい』。

 雷火で内外を焼かれて対応の遅れた老魔王は、遂に鉄の暴虐へと呑まれた。

「やったか!?」

「タケ、それフラグ」

 飛来する流れ弾のような白に辟易としていた猛から思わず上がった声に、律楼がこれまた間髪入れずツッコミを入れる。

 そして大方の予想通り再度白より元気な姿を現す老魔王。

「ほほ、久々に死んでしまいましたな」

「冗談キツイぜ。老いぼれは素直に死んどけよ」

 ユーディットが悪態をつく。

 その合間、由紀とのリンクが切れたのを認識しつつ、誓は視線の先を灼熱地獄へと変えていく。

 エクスアイギスを使えない分、美姫による捕縛へのサポートも行いつつ、締めは魔術無効化付きの『ガ・ジャルグ』で決め、燃やし尽くす。

「いやはや、もう少し老体をいたわって頂きたいですの」

 またもや白より元気な姿を現す老魔王。

(ダメか。相手に拘束中でも逃亡可能な術がある以上、単に加減して封じ込むことは不可能。となれば、ガ・ジャルグを突き刺した状態で拘束して封じてみるか)

 そう思考して誓が次なる手を打つ。

 途中まで録画を再生したかのように再現される魔王討伐劇。

「ほほ。やはりこたえますな。しかし何度やろうと無駄──」

 老魔王の余裕につけ込み、『ガ・ジャルグ』を突き刺した状態で手放し、土と炎の鎖で幾重にも拘束する檻に閉じ込める。

「ぬぁ────……」

 即席ながら声も洩れぬ程に封じ込め、一先ず警戒を続ける誓たち。

「……」


  「……」


    「……」


      「……どうやら、今度は大丈夫みたい、だな?」

 猛がまたフラグにならないよなと不安に思いながら、沈黙に耐え切れず口を開いた。

「ああ。倒した訳じゃないけど、とりあえずは大丈夫かな」

「久しぶりに見たけど、相変わらず見事な腕ねセイ。助かったわ」

みんな(・・・)のお蔭さ」

「フフ、そうね。オリコたちも来てくれてありがとう」

「い、いえ。無事、と言っていいのかわかりませんが、またお会いできて何よりですフィリエーナさ!? 即応態勢!!」

「「?!」」

 衝撃の光景を先に視た(・・・・)緒莉子の鬼気迫る大声に、全員が即座に対応できるよう身構え警戒を強める。

 そこへ堕ちた幾百の氷炎。

「あら、気付かれてしまいましたか」

「「!!」」

 冷気と熱気、対極を伴って舞い降りたのは、あまりに濃密な死の気配。

 昏く光るドレスを纏い、その上に形だけなら医師の着る白衣にも見える衣を羽織る、深い黒と碧で彩られた魔帝──


 リートリエルの主力と戦っていた筈の、屍皇帝エミニガ。


「またまみえましたね、炎導誓。私の写し身よ。さあ、存分に殺し合いましょう」 


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