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第一話 日溜まりの笑顔 第一章 ボーイミーツガール?

「未確認飛行物体発見」

 袖にサラサラと流れるものを纏わせて、絹のような黒髪を肩甲骨の辺りまで流した、体躯の小柄な少女がそのことを端的に知らせる。

 少女の発した言葉の内容とは裏腹に、その口調は至って平坦だ。そう、水は水素と酸素から出来ている、と教科書通りに説明する時の化学の先生みたいに。

「つーか、例の魔獣を発見しただけだろ?」

 夕暮れ時の街中で、心底どうでも良さそうに、短めの茶色い髪を軽く逆立てた、一見野性的な少年が確認を取る。

「これだから何処へ行っても上に都道府県内一が付くバカは困る。私は飛行物体と言った。これ重要。視た感じの強さは事前報告通りっぽい」

「てめぇ。喧嘩売ってるな? なあおい、売ってんだろ?」

 いつもと変わらぬ鬼畜少女の純度百%の鬼畜発言に反応して、いつものように喧嘩腰になる、これでも一応少女のお守り役を仰せつかった少年。

 その様子は、傍から見ればか弱い少女がチンピラに絡まれた時の再現だ。

 ただ、違っているのは一つだけ。

「大丈夫。バカがバカをしない限り、私に負けはない。それに──」

 少女の方が少年よりも、力において優位にあるという、弱肉強食さながらの紛れも無い事実。

「この……」

 その上、残念なことに頭の回転でも少女の方が上だった。

「バカやってないで、見つけたなら早いトコ始末しておこう」

 いつもの遣り取りを微笑ましく感じながら、この場のリーダーであるこれと言って目立つ所のない黒髪の少年──遠藤(せい)が、助け舟という体裁を装った判決を下す。

「──それに今ならもれなく、炎導の次期当主様が味方する予定」

 待ってましたと言わんばかりに薄い桃色に色付いた唇の端を吊り上げて、外見日本人形のような、中身は意識も無意識も鬼畜でいっぱいの少女──藤原美姫が勝利宣言をした。

「ち……わーったよ誓」

 遣る瀬無い思いを抱きつつ、誓より十センチ近く背の高い野生的な少年──金城(かねしろ)拓真は渋々の体で了承の意を示す。

「幼馴染の言うことには素直。人これをツンデレと言う」

「言わねーし! それに俺たちは男同士だ! 大体使い方間違ってるんじゃないか? え? どうなんだよ美姫」

 反射的に言葉を返した拓真は、ここぞとばかりにそのまま反撃を試みる。

 だが──

「ふーん。なら何がどう間違ってるか説明して。その方面に詳しい拓真さん?」

 殊更に『その方面に詳しい』を強調し、したり顔で美姫が『さん』付けで受け答えする。

「~~ッ。……けっ」

 まんまとしてやられた拓真は、敗北宣言に等しい態度を取りながらも、これを微かな抵抗とした。

「それでどうする? 三人で手早く片付けるか?」

 相手が魔獣クラスと確認が取れたので、気持ちリラックスして誓が今後の方針の議決を促す。

「見た感じ、正直一人で十分なレベル。この中で街中の空戦を得意とするのはバカ拓だけ。でも相手は低高度を飛ぶタイプだから誓でも私でも問題ない」

 美姫は淡々と状況分析を口にする。

「なら俺にやらせろよ。華麗に退治ってやるぜ」

 拓真が意気揚々に告げると──

「じゃあ私は防御と周囲との隔離を担当する」

 美姫があっさりこれを認め──

「なら俺は遠距離から弾幕張るか」

 誓が役割分担も含めてオーケーを出した。

 いつも通りの遣り取り。

 いつも通りの三人。

 これが炎導誓の日常、つまりは普通だ。



 妖魔。

 科学の発展した現代において、未だに解明出来ていないものの一つだ。

 彼等はとても強い。

 どのくらいかと言えば、誇張でも何でもなく人間を滅ぼせるくらいだ。

 では、何故まだ人間がこの地に存命しているかと言えば、その理由は至ってシンプルである。

 人間が人間同士で争っているように、妖魔も妖魔同士で争っているから人間に構っている余裕などない──と、つまりはそういうことだ。

 しかし、人間だって妖魔の気分でただやられる訳にはいかない。

 古来より人間の中にも妖魔に対抗し得る存在があった。

 彼等は独自に研鑽を積み、ネットワークを広げ、表社会に根回しをして、現代社会において逞しくも堂々と暮らしている。

 それが妖精術士、精霊術士と呼ばれる存在だ。

 東洋では妖精術士が、西洋では精霊術士がそれぞれ幅を利かせている。

 そして現代──、日本の妖魔退治において、大御所とも言うべき家系がある。

 火の妖精術士として日本一を謳われる家系──

 その名は遠藤家。

 真の名を、炎導家と言う。

 今年の春に高校一年生になる遠藤誓は、その次期当主候補の一人。

 妖精術のサラブレッドだ。

 極々平凡な見た目に反して──。

「バカ拓突っ込み過ぎ」

「うるせえな。こいつが無駄に硬いんだよ!」

 (くだん)の魔獣は適度に速く、そして極度に硬かった。

 拓真の攻撃は通じてはいるが、外見上は敵の身体に引っ掻いた傷痕を増やすに止まっている。

「このやろ、防御力だけ魔鬼クラスが。俺を手古摺らせるんじゃねぇよ!」

 大きさが一メートル強ある相手の魔獣は、ムササビに猛禽類の爪と牙を足し、(わに)のように滑らかに引き締まった鱗で全身を覆っている格好だ。

「なるほどな。一応俺たちに回されるだけのことはあったか」

 離れた位置から半ば傍観を決め込みつつ、その実冷静且つ慎重に、誓が『炎』の弾幕を用意する。

 その数は十と四。

「防御するこっちの身にもなるといい。猪突猛進を絵に描いたような猪侍。それで高位の遊撃型とは片腹痛い」

 わざわざ片手でお腹を押さえ、毒を吐きつつも美姫は拓真への攻撃を尽く『土』の布で防いだ。

 因みに無表情。

「誓、まだか?」

 手と足の先に纏った『金属』で空を駆け、空中の敵と応戦していた拓真は、敵の硬さに嘆息しつつ援護を期待する。

「今行く」

 そう言って誓は炎弾を放つ。

 普段ならもっと速い内に、且つ威力のある炎を撃つことが出来るのだが、それでは敵を倒してしまいかねない。

 そうすると前線の拓真が不機嫌になるので、威力の見極めと調整に時間が掛かった。

 その場合、美姫は喜んで拓真を貶すので、それはそれで見ていて飽きないのだが──

(今日も既に散々イワされているからな)

 幼馴染で戦友でもある少年の境遇に憐憫の情を抱きつつ、誓が炎弾をコントロールする。

 多角的に二種の速度に分かれて飛来した炎弾は、拓真の髪一本燃やすことも、放つ熱で衣服を焦がすこともなく見事全弾魔獣に命中した。

「グオオオン」

 ムササビとは似ても似付かぬ低く響く声を発して魔獣が態勢を崩す。

「チャンス到来。うらららららららら」

 ここぞとばかりに、拓真が炎で開いた鱗の隙間を狙って、未だに燃えている魔獣に向かって果敢に攻め立てた。

「おらあっ」

 そして止めの一撃。

 哀れ魔獣は撃たれた後に内側から燃やされ、その上ボコられついでに必要のない一閃両断までされて地に倒れ伏した。

「────、生命反応なし。対象の死亡を確認」

 美姫が離れた位置から、地を介して敵だった魔獣の状態を読み取る。

「誓。後始末をお願い」

「ああ」

 美姫の言葉に頷くと、誓は魔力を失った魔獣の死体を、骨も残さず火葬した。


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― 新着の感想 ―
[一言] センスが良いタイトル! 内容も細かいところまでしっかり書かれてて丁寧でよかったです! これからも頑張ってくださいっ!
[良い点] ”炎導の双術士” タイトルにセンスがあり、 まず手に取ってみたいと 思わせてくれますね。 どのような存在で、 どのような活躍を見せてくれるのか、 物語の先の展開が幅広くとれるので、 とても…
2021/02/17 07:06 退会済み
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