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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第9章 越境の道
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獣人達の困惑と安堵

 ヒバリ達がカールという男達と対峙していた頃。



 獣人側ではどうしたらよいか、リーダーと呼べる存在もいないために判断に困っていた。少なくとも、目の前にいる3人からは敵意は感じられない。

 普段であれば何でもない事なのに、先ほどの迫害してきた人族のせいで正常な判断が出来ずにいたのだ。




「安心してください。今、私の仲間達が制圧してくれています」


 初めにお辞儀をしてきた猫人族の女が静かに言う。

隣の鳥人族もだいじょぶ!とにこやかに言う。



「お前達は……そこの人族に捕らわれたのか?」


 獣人達は武器を構える手を緩めず、御者台に座る人族の女を指差した。


「いえ。確かに主従関係ではありますが、それは他の人族から助けて頂いたそのお心に報いたいと思ったからで、自らの意思です」


「ピィリは、いっしょにいたいからいるだけだよ?」



 馬の前に立つ2人の獣人が言う。

ますます分からない。何故従うのか?それは隷属とどう違うのか?


「一つよろしいでしょうか?」


 黙っていた人族の女が話しかけてきた。


「私はトニアを隷属させてはおりません。そこは誤解なきよう。それと、お給金を渡すと言っても聞き入れて貰えないので、そこは私も困っています」


「いえ、ですからそれはお断り致しましたよ?」


 2人の間では何度もあったやりとりのようだ。

猫人族の女も困った顔で人族の女を見ている。




 その時、馬車の向こうで動きがあった。


 その前から騒がしかったが、今は目の前の3人の事で手一杯であまり気にする余裕はなかったのだ。


「あら?どうされました?」


 馬車の中で誰かに話しかけられ、人族の女が振り返る。


「仕方ありませんね。荷物を人質代わりに預かりましょう。

その時に相手の兵の半分は意識を奪っておいてください」



(おい……随分物騒な話してるぞ!?)


(いよいよ我らにも襲ってくるのか!?)


 そう身構える獣人達に、馬車の向こう側で激しい怒鳴り声と戦闘音が聞こえて来た。あの声は、俺達を追いやろうとしていた男の声だ!



 続いて響く轟音と地響き。



 そして人族の叫び声。



(あ、あちら側では何が起きてるんだ!?)


 戦闘が見える位置にいる仲間も唖然としていてこちらへ伝えてはくれない。横に飛び出してしまいたいが、どうにも動けない。



 そんな戦闘も長くはなかった。


「さあ!あと抵抗するのは誰だい?ボクはまだ準備運動も終わってないよっ!」


 女の声が響いて静まり返る。

そして、またも男の声が聞こえてきた。



 内容から察するに、どうやら俺達を脅していた男は捕まったらしい。

さらに獣人側に手出しはするなと約束させているようだ。




「さあ、あちらは片付いたようです。あなた方も安心なさってください」


 人族の女が手を叩いてからそう言った。



「あ、あんた……いや、貴方達は一体何者なのですか?」


 武器を構えるのも忘れて呆然と立ち尽くしてしまった。


「ただの食品商団ですよ」



(いや、さすがにそれは嘘だろう!?)


 事の成り行きを見守っていた獣人全員がそう思っていた。




 それからはあっという間に獣人達の包囲網は解体され、脅してきた男の姿は見えなかった。それどころか、武装していた人族が半数になっていた。


 地面には抉られたような跡や膝程まで陥没した場所もあった。



(何があったか聞きづらいぞ!)


(しかし、ほとんど血の臭いはしない。どうなってるんだ!?)


(見た限りでは強そうなのは2人か3人しかいないが……)




 ますます困惑する獣人達を放っておいて、

助けてくれた人族達はそれぞれやるべき事を決めて動いてた。


 ただ、自分達が理不尽な脅しからは解放されたと理解し、家族や仲間の無事をひとまず喜びあう。その姿を見たノーザリスとトニアも微笑ましく眺め、それからヒバリ達の元へと向かって行った。


 なお、ピーリィはすでにヒバリに抱き着いている。

実はこの2人の仲睦まじい姿が、獣人達を安堵させた一番の要因だったりする。






 そしてヒバリ達は――



「さーて、何が出てくるかなぁ?」


 さっそく馬車を検分するヒバリ。背にはピーリィが張り付いているが、

いつもの事なので気にならないようだ。



「この辺はただの魔石に宝石、装飾品か。じゃあもう1台へ、」


「ヒバリ―!あっちの馬車は装備品だらけだったよ」


「あの馬車は食材でしたね」


「こっちは化粧品や嗜好品っぽいです」


 それぞれ2人組になって10台の馬車を調べる。

と言っても4組にしかなれないから、2周半する必要があった。



「じゃあ、皆で手分けして袋に入れちゃってね。

壊れそうなものはこっちの拡張じゃない袋に入れてからね!」


 それぞれ大小いくつかの袋を渡して再び馬車へ行く。



「俺達の方もこっちを……って、なんだ?この椅子にも何か入ってるぞ?」


 他の椅子は下に荷物を入れられるようになっているのに、

一際豪華な椅子は不自然なほど下枠が頑丈に出来ていた。


 いくらあのおっさんが太っててもここまで頑丈にするのは怪しすぎだ。

よく見れば鍵穴もあるし。さてどうしたものか。



「あとの2台は特に何もありませんでした。あれは武装人員を運ぶためだけのようですね。多少武具があった程度でした」


 悩んでいると、トニアさんが姫様と報告に来てくれた。


「丁度良かった!これ、どう思います?」


 椅子の下の鍵穴を指差して聞く。


「……これくらいでしたら開けられます」


 中身見るべきかの確認だったのに、すでにピッキングの判断ですと?


「では任せました」 「はい」



 そんな俺の驚きは無視され、トニアさんが数分で開錠してみせた。


「これは!?」


 姫様が思わず声を上げた。



「あー……やっぱりあいつ黒でしたか」


「この証拠があれば次の街で衛兵に引き渡せますね。預かった荷物はすべて返す約束ですから、キチンと持ち主に返してから引き渡しましょう」


 姫様が怒りを込めて言う。



 あの男の馬車から出て来た物は、複数の隷属の魔道具だった。



 隷属行為は王国や帝国全てにおいて禁忌とされている。特に遺跡迷宮から手に入れられた時は破格の値で国が買い取り、責任をもって破壊される。

 迷宮遺跡で獲得した物は全て門番に報告する決まりになっているため、もし隷属の魔道具を手に入れたのに報告せず逃げた場合は重罪とされる。


 よって、本来出回ってはいけない代物なのだが、前回のトルキスに続きここでも見付かった。しかも、カールは王国では名のある商会らしい。

 俺達は知らなかったが、姫様達や周りの人達は名前を知っていたし、周りの人族は逆らえないほど大きいようだ。そこの副支部長がこうして犯罪に手を染めている。



「王国は思ったよりも更に危険な状態なのかもしれませんね……」


 姫様は溜息をつく。


「この者達は帝国で引き取って頂くほかありません。

今はこの魔道具を保管しておき、他所へ流れないよう注意しましょう」


 トニアさんは魔道具を袋に詰めて、空になった椅子下の収納に再び鍵を掛けていた。




 結局真っ黒だったカール。その男を中心とした10台は調べ終わり、周りにいた10台も調べた。

 こちらは本当に戦闘員の移動と食材だけのようで、武器だけ仕舞って食材はすべて自由にさせた。そりゃ俺達だってそこまで鬼じゃないし。






 それから俺達全員は獣人側と話をした。



 と言っても、俺達があの男と対峙している間に姫様達が話してくれていたおかげか、あまり警戒されずに話し合いの場が設けられた。

 彼らはこの場に現れる前に、今まではいなかったが代表を決めたらしい。パウダと名乗る犬族の男。人族との対立時に最前にいた者だった。



 椅子は2つ用意して、姫様とパウダが座る。

残りのメンバーはお互い後ろに立っている。


 ただ、ユウとベラには人族の監視をしてもらってるのでここにはいない。

それはパウダ達にも伝えてある。そして奴等が隷属の魔道具を持っていた事も。



「サリス殿、そして仲間の方々、本当に助かった。あのままでは我々はどちらに挑んでも死んでいただろう。しかし、今までは奴等が魔物討伐にも力を入れていたため対処出来ていたが、これからはどうするのだ?」


「それに関してですが――」



 ここは姫様に対応してもらった。パウダ達はてっきり俺が相手だと思って姫様が座った時には面食らっていたが、内容を聞き頷いてくれていた。


 これからの隊列だが、例の問題を起こした人族は最後尾にして、その前を残りの人族、更に前を獣人達、先頭は俺達の馬車となった。

 本当は俺達が人族と獣人族の間でもよかったのだが、これから魔物と戦闘があるのが分かっているのでまずは先頭に立たせてもらうと言ったのだ。



「その……実力を疑うわけではないが、大丈夫なのか?」


 見た目は俺以外全員女性。しかも子供が2人もいる。

そして、先ほどの戦闘はユウ以外特に目立った事はしていない。


「それはこれから行う戦闘を見て判断してください。それよりも、あの人族が後ろに付くわけですから、まずはそちらの様子を見て、何事もなければそれが一番ですが油断は出来ません」


「貴方達が我らを襲うとは考えていませんので、我らは後ろに気を配りましょう。実力は……確かに、何も出来なかった我らが言えた事ではなかった。すまぬ」


「いえ。非戦闘員を抱えて守り抜いたのです。

その時間があったからこそ私達は間に合っただけですよ」


「そう言って頂けると、我らも報われます」


 パウダと他の獣人達も頭を下げる。


「では、他に何か質問などありましたら遠慮なくどうぞ」


「それならば、貴方達は商人と聞きましたが、回復薬の余裕はありますか?出来れば売って頂けると――」




 そこからしばらく商談のようになってしまったので、深刻な問題はないみたいだ。そこでトニアさんにそっと声をかけて、


「俺達4人は昼ご飯の準備しちゃいますね」


「分かりました。あ、食材に余裕があるようでしたら、」


 トニアさんがちらっと獣人達を見る。


「ああ!じゃあ80人前くらい準備しちゃいますね」


 この場は姫様とトニアさんに任せて離れる。

ピーリィは相変わらず俺の背中にくっついてきた。



「あの鳥人族は、随分とあの人族に懐いておるのだな……」


 パウダは声に出すつもりはなかったが、気付くと呟いていた。

それほどまでに不思議な光景だったようだ。


「色々と複雑な事情があるのですが、ヒバリさんがピーリィを助け、それからも家族のように接してきたからこその関係でしょう」


「今回の事で人族とはこれまでかと諦めかけていたが、あれを見ると正直羨ましいという気持ちが強い」


「人族全てがあのカールという男ばかりではないですが、それでもまだ獣人達を卑しめる者もいます。ヒバリさん達のような方々がもっと増える未来を願っています」


「……そうですな。今の王国は住み辛かった。だが我らも争い対立するより、ああして信頼しあう未来を願っている」


 そう言って遠くではしゃぐピーリィ達を見続けた。




「さて。難しい話はここまでといたしましょう」


 ノーザリスがぱたっと手を軽く合わせてこの場を〆た。


「ヒバリさん達がこれから昼ご飯をご馳走してくださるようなので、パウダ様方は皆様に声をかけて頂けますか?30分か1時間後には出来上がっていると思いますので、その頃に集まってくださいね」


「……は?我らは60は下らない数がいますぞ!?」


「はい。ですから80人前用意すると言ってました」


 トニアが答えると、パウダだけではなく他の獣人達もみな同じように口を半開きに固まってしまった。たった1時間でどうするのだ、と。


「ま、まぁ頂けるというならありがたく頂戴する。で、我らに手伝える事はあるのだろう?さすがに全て任せるのは申し訳ない」


「いえ、あの方々は料理人でもあるのですよ。むしろ手を出す方がかえって邪魔になってしまうかもしれません。斯く言う私も、待つだけの身ですよ?」



 そう言われてしまってはパウダ達としても仕方なく獣人側へ声をかける役目のみ引き受ける事にした。当人達が半信半疑のため、伝えられた方も半信半疑な伝言ゲームになっているが、やがて漂ってくるいい匂いに誰もがその昼飯に涎と腹の虫に耐える羽目になっていた。



「この匂いはたまらんぞ!」


「え?ほんとにこれ僕達が食べるやつの匂いなの!?」


「こういう時自分の鼻の良さが恨めしいぜぇ……」



 やがて、まだ呼んでもいないのにじわじわとにじりよってきていた獣人達にヒバリ達が気付いたのはもう少し後だった。




 そして、今度は別な意味での戦場が開幕したのである。



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