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紐付き武器と忍者

第8章最終話の中の話で、今回も短めです。


拙作をお読みいただけたら幸いです。

「んー……これじゃだめっぽいな」


 ボウガンの矢に細い紐袋を括り付けてセットしてみたが、いざ撃つには紐が絡まりそうだった。紐を短くしたら飛距離が出せなくなるし、長ければ撃つのに気を使い過ぎて役に立たない。




 メースを出てニング卿の使いの人達とのやりとりの後、

御者台であれこれ試してみたが上手くいかなかった。


「何故紐を……ああ、矢の回収ですか」


 馬車から御者台に出て来たトニアさんが察してくれる。


「やっぱわかっちゃいますか。ニアさんもナイフ……小刀の投擲って回収が面倒じゃないですか?」


「自分が投擲に使うのはその場で捨てても良いと思ってますから。勿論回収出来るのであればしますけど。特に矢は鏃が回収出来ればいい方で、使い捨てでも仕方ありません」


 矢は防がれたり刺さってもまた使われないように折られるのはよくある。それに、相手に矢が刺さったまま攻撃魔法を当てれば当然矢も破壊される。消耗品として常識のアイテムだ。


「やっぱりだめかぁ。一応、矢以外も考えてみたんですけど、俺には扱い切れないみたいでどうにも……」


 手持ちの道具で何か出来ないかと紐で結んでみた物を取り出していく。5円玉を重ねて野球の球程大きくしたような分銅、束ねる穴付きの投擲小刀。この2種にも細い紐袋を10mくらいの長さにして結んである。


「作ってみたけど、分銅は重過ぎるしナイフじゃ軽い上に手元に引き戻す時危ないし。紐にカモフラージュを付与して俺達以外に見えなくしたけど、扱えないんじゃ意味ないしなぁ。どうですか?」


 なんか独り言みたいになっちゃったけど、トニアさんは2つを手に取って確かめててまったく返事がない。もしかしてこれ、トニアさんなら使えるのかな?


「あ、はい。すみません、これは自分に使わせて頂けるならモノにしてみせます。ですが、この分銅の方はさすがに衝撃が大きいと思われます。何かしら篭手の様な防具があれば違うと思います」


「じゃあナイフはそのままってことで。流星錘は何か防具を考えますか」


「これはリュウセイスイと言うのですか?」


 分銅の紐を短く持ってグルグル回しながら聞いてきた。

いや、危ないですから。ここ、走ってる馬車の御者台の上ですから!


「流星……流れ星って分かります?その分銅の部分がそれに見立てて作られた武器の名前なんですよ。本来は分銅じゃなくて丸だったり棘だったりしますけどね」


 関心したように聞いているトニアさんが、分銅部分をぽーんと上に軽く投げて落ちて来た所をずっしりとキャッチしていた。それを見て、


「……あっ、そうか、捕れればいいんだ!ちょっと御者をお願いします!」



 トニアさんに御者を代わってもらって、

さっそく袋作成のためのイメージを始める。


 目指すのはグローブ。分銅が野球の球みたいなら、それをキャッチ出来ればいい。大まかな手の形をしていて、指が入る隙間があって、手首の辺りに紐を結べる穴があればいい。但し、衝撃が和らぐよう素材は厚めに。



「これでいけるかな?」


 グローブもどきを手に嵌めて、重さ2kgほどの分銅を投げ入れてみる。衝撃は来るが痛くないしある程度受け止められる。全力で引き戻したらちょっと痛いかもだが、そこは袋として手首辺りを上に開くと中の拡張

された空間が広がって見える。

 投げ入れてみると、2〜3m先の中の壁にぶつかって転がって止まった。かなりの耐久値をつけたから微々たるものだが、少し減っている。でもこれなら手で受けてダメージになるより安全だ。


「あとはグローブに紐を縛り付けて一体化して……っと」


 これでどうですか?って隣を向くと、食い入るようにトニアさんが見ていた。馬達が勝手に道沿いを走ってくれてるからいいけど、ちゃんと前を見てくださいね?


「見てたから分かると思いますけど、これで受け止めてください。手で受けるのが辛いほど早く引き戻す時は掌の部分を開いて袋の中で受ければ安全です。普段も中に入れておけます。

 でも、このグローブの耐久値が無くなれば壊れるので、グローブは消耗品と思っておいた方がいいですね。紐は手首に巻くか中に仕舞って調整して下さい」


 俺では扱い辛いのでどうぞ、と渡すと、さっそく訓練場へ行ってきますと言って居住袋の中に行ってしまった。



 一連の様子を見守っていた沙里ちゃんが御者台に出てきて隣に座る。


「すごく嬉しそうでしたね。わたしの位置から尻尾が揺れていたのが見えちゃってましたよ」


「そんなに!?最近のニアさんは結構感情を出してきてくれるよね。打ち解けてきてくれたのなら嬉しいなぁ」


「結構前からですよ?ああ、ヒバリさんはいつも後ろから見てないから気付かなかっただけですよ、きっと」


「よし!じゃあ後で忍者道具みたいなのを作って、またニアさんに渡してみよう!アタリがあればわかるはず!」


「あまり変なものは作らないでくださいね?」


 うーん……そこは自信がないなぁ。





「つまり、ヒバリさんはニンジャの末裔……!

だから闇の適合者だったと。それならば納得です」


 忍者道具の説明をしようと思ったらまず忍者の説明をする事になった。決して表舞台に出てこない隠密の諜報部隊がトニアさんの中でヒットしたらしく、しきりに頷いて素直に話を聞いてくれた。


 で。


「いや、俺は違うんです。そういう人達が俺のいた国で存在していたっていう話です。俺が生まれた頃には平和になっていたので、今もいるかなんて分からないんですよ」


「しかし、話に聞くニンジャとヒバリさんの闇魔法はほぼ同じじゃないですか。それこそがニンジャの血を引く証と思われます!」



 おおぅ……どうしてこう外国人ってニンジャが好きなんだろうなぁって他人事のようにテレビで観てたけど、こうして目の前で自分が同じ状況を味わう事になるとは……


 途中から面倒臭くなって道具の話に戻した。


 撒き菱、鉤縄、手裏剣に苦無、寸鉄、からくり屋敷等分かる範囲で絵に描いてみたが、俺の画力ではからくり屋敷までは説明出来なかった。

 あとは忍術も話したけど、これはこっちの世界に魔法があるから関心ないだろうと思ってたけど、むしろ俺たちの世界には魔法がないと聞かされていたからか”やはりニンジャ凄い!”に戻ってしまった。



 長い布を腰に巻いて地に付けないように走る修行、その先の壁走りの話が気に入ったのか、この日から訓練所で走り込みの修練を積むトニアさんの姿が見られるようになったとか。



「苦無や寸鉄なんてこっちの世界でも同じのあるのにねぇ」


「ヒバリさん、そこではないです」


 急に騒ぎ出したトニアさんを不審に思った姫様が聞き出したらしく、

俺は馬車の中で正座をさせられていた。


「あの子は従者として、裏方に徹することに誇りを持っています。そこへヒバリさんの話で彼女の中の英雄像が出来てしまったのです」


「忍者は英雄じゃないって説明したんですけどね……」


「そのニンジャの道具を作ってくださったと聞いてますが?」


 絵には描いたけど……作ったっていうと流星錘の事かな?


「えーっと、流星錘なら忍者道具じゃないですよ。まぁ似たようなものもありますけどね。あれは中国……えっと、俺のいた国じゃなくて隣の国の武器ですね」


「あの子はニンジャの物だと喜んで見せてきましたよ」


 うわぁ、と沙里ちゃんの苦々しい横顔が見えた。

御者をやってるから振り向かないだけ偉いぞ!


「じゃあ訂正してきましょうか?」


「うぅん……それも、あの子の憧れを壊すようで忍びないといいますか」


「忍びだけに?」


「はい?」


 ぷっと沙里ちゃんが吹いてるのが聞こえたが、姫様には訳が分からず首を傾げている。余計な事言っちゃったな。


「ま、まぁあれですよ!これ以上変に誤解されないように気を付けます。あと、俺が忍者の末裔じゃないって事だけは姫様からも言っておいてもらえますか?どうもそこも問題な気がしますから」



 何とかその場を誤魔化して、姫様にも誤解を解くための協力を仰ぐ。それでも忍者道具は次に時間の取れる街で鍛冶屋に依頼するはめになりそうだ。




 後日、トニアさんはユウにも忍者の事を聞いたらしく、聞いた内容が某漫画の忍者の話だったので更に酷い事になっていた。姫様が頭を抱えていたが、さすがにこれは俺のせいじゃない!





 ……さて、俺は馬車用の座椅子を作らないとな!



次回から第9章を開始します。


ふと思ったのですが、


 主人公の名前にどこの食品製造業か分かるようにしてみたのですが、気付いた方はおられるのでしょうか…?苗字の方は捻ってるので分かり辛いかもしれませんね。

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