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漬物と畑の引っ越し

少し短めです。


拙作をお読みいただけたら幸いです。

 ルースさんの依頼品を作った後にキッチンへ行った。

そこには食材整理が終わった沙里ちゃんが一休みしてた。


「沙里ちゃん、ちょっとキッチン使わせてね〜」


「何か作るんですか?」


 お茶を飲みつつどうぞと返事をして、準備を始めた俺に聞いてきた。



「せっかく味噌が出来たんだからやってみかったのと、精米の時に出来る米糠がやっといい量溜まったおかげでぬか漬けを、ね」


「あぁ……こっちで漬物と言えば、ピクルスみたいな酢か塩かハーブでしたよね。ぬか漬けってすぐ作れるものなんですか?」


「初めは1週間くらいかかるけど、やることは全然難しくないんだよ。これも工場でやってたから分かるし。ああ、漬け過ぎには注意ってくらいかな?」



 話しながらも手を動かす。


 直径30cmを超える程度の樽型袋を作り、中に炒った米糠と一度沸かして溶かした塩水を冷ましたものを混ぜてなじませる。味噌より硬いくらいで塩水を入れるのをやめて、そこに沙里ちゃんに乾燥を頼んだ柑橘の皮と海藻、用意しておいた唐辛子を入れて再び混ぜる。



 そこへ野菜の切りくずを入れて醗酵促すんだけど……


「沙里ちゃんごめん、ちょっと美李ちゃん呼んできてもらえるかな?多分まだ訓練してるはずなんだ」


「分かりました。ちょっと待ってくださいね」


 ダイニングを出る時に靴を脱いで、てててーと廊下を小走りに奥へと呼びに行ってくれた。そしてすぐに2人で戻ってくる。


「なーに?」


「実は今ぬか漬け作るところなんだけど、これに消毒魔法とスキルで醗酵を促してほしいんだよ。本来なら1週間以上置いてからじゃないと使えないんだけど、美李ちゃんにやってもらったらすぐじゃないかなーってね」


「おつけもの!おつけものはいいものです!」


 なぜ敬語……?


「美李はおばあちゃんの家でよく漬物を食べてたんですよ」


 美李ちゃんの手洗いをフォローしながら苦笑して教えてくれた。

じゃあ美李ちゃんも好きだったってことか。沙里ちゃんは?


「わたしは……前にぬか床をダメにしたことがあったので……」


「ああ、俺も自宅でやってみた時混ぜ返すの忘れて腐らせた事あるなぁ」


「ヒバリさんも!?わたしもです!好きな味になってただけにショックだったんですよ」


「でもここでなら美李ちゃんという強い味方がいるからね!」


「任せなさい!」


 手をワキワキさせてドヤってる美李ちゃんに、沙里ちゃんも笑っていた。

それに俺のスキル袋もあるから温度管理も楽なんだよね。




 さっそく出来たばかりのぬか床をしばらくこね回してもらうと、徐々にいい匂いがしてきた。って、もう醗酵進んでるのか!?相変わらず凄いな!


「うわー……捨て野菜、もう役目終わったかも……」


「え?1週間以上かかるって言ってましたよね?」


「ん?もういーの?」


 捨て野菜とはいえ食べられる部分だってある。せっかくなので取り出して水洗いをして齧ってみた。うん……すでにぬか漬けになってる。


「休み休みこねてたけど、30分でもう使えるのか……あれ?でもこれって、漬ける時に美李ちゃんに頼んだら、漬けてこねたら出来上がっちゃうんじゃ……?」


「えっ……それって漬物って言っていいんですか?」


「ま、まぁスキルだしいいんじゃない?塩もみみたいだけどきっと漬物だよ!

よし美李ちゃん、さっそくやってみよう!」


 とりあえず定番の胡瓜と茄子を洗ってしっかり水気を取ってから塩で揉み、ぬか床に差し込んでから美李ちゃんがこねくり回すこと数分。


「……出来ちゃいました!」


 取り出してもらったらしなっとしてたので、水洗いをして輪切りにして3人で食べてみたら……ほんとに出来てた。すげー!漬けこみ放置して忘れるとかもう関係ねー!


「よし、これからはぬか漬け食べたくなったら美李ちゃんに在庫をお願いしよう!

ぬか床の管理は樽袋に入ってるから大丈夫だし、味管理は任せて!」


「うん!おねえちゃんみたいにダメにしないよっ!」


「っもう!」



 しばらく3人でぬか漬けをつまんで談笑してたら、ユウも参加して再度ぬか漬けを作ってもらわないと足りなくなってしまった。あとで時間を作ってある程度溜め込むか。どうせまた時間停止した袋に入れておけばいいんだしね。




「ピクルスのようにきつくないのですね。

ヌカヅケは食べやすいので美味しいです」


 獣人組はカリコリと音を立てて黙々と食べてる。お茶は紅茶しかなかったから、ぬか漬けにも使った海藻……まぁ見た目からして昆布なんだけど、これでだし汁を作ってみた。



「村の方も不思議がっておりましたが、この海藻から美味しいスープが作れるのですね。本当に不思議です」


「俺達からしたらだしを取るって結構普通なんですけどね。誰も取ってなかったおかげで大量に確保出来たからよかったですよ」


「村の方たちにもお教えしておりましたし、これから市場に出回る日も近いかもしれませんね」



 晩ご飯前に奇妙なお茶会になっちゃったけど、どれも皆も気に入ってくれたようでよかった。これでまた色々出来そうだ!





 ちなみに。



 ぬか漬けの次にどうしてもやってみたかった卵の黄身の味噌漬けをやってみた。小さい箱型袋に入れた味噌に窪みをつけて漉し布を敷いてから黄身を乗せ、また漉し布を被せてその上に味噌乗せて埋める。


 で、これも美李ちゃんにやってもらったのだが……


「これ、もんじゃだめだよね?」


「そうだね」


「んー!」


 おいしくなーれ!と唱えながら味噌に手を付けて念じている。ステータスの魔力が減ってるから何らかの効果は発揮してるっぽい。



「どうかな……?」


 漉し布を持ち上げてみると、そこにはただの黄身があった。


「味が染みて……ないね。でも少しは染みてるか」


 味噌もいけると思ったけどダメだった。

直接触れないとダメみたいだ。残念。



 まぁこれは2〜3日後を楽しみにしておこう!




 そして晩ご飯後にどうしてもやっておきたかった美李ちゃんの畑袋の引っ越しをしておいた。


 以前の畑の倍の広さにして、あとは畑の旧居住袋を新しい袋の中で解除すればあっという間に引っ越し完了だ。細かい畑の位置修正は後で美李ちゃんが自分でやりたいから大丈夫と言うので、手がいる時は絶対声をかける約束をしてから任せておいた。


 力仕事じゃ敵わなくなっちゃったけど、道具の移動とかは呼ぶようにと念を押して、今日は手を出さずに寝てもらった。どうせ朝や馬車の移動中は時間作れるしね。



 次の朝に早起き出来なかった俺は、畑を見に行ったらすでに道具以外ほとんど終わってて唖然とするわけだが。田んぼの範囲は広がり、今までの野菜達もきちんと並ぶように再配置されてるし。


「こっちも広げてみたの!今度は何をそだてよっかなぁ?」


 挨拶をすると水撒きをやめてこちらに駆け寄ってきた。


 一仕事終えてすっきりとした美李ちゃんが満足気に見渡す。

作り変えた畑の居住袋の中にも朝陽が射し込んでいた。



 それにしても……


まさかすでに広くして余ってた場所にも土が敷かれて畝も作られてるとは。

 さすがにまだ何も植えていないようで、そこだけはほっとした。

美李ちゃん仕事早すぎるよ!俺がやれることって道具整理だけじゃん!




 仕方ないから道具を立てかける木枠を増やして、そこに直置きだった農具を並べていく。ただの木枠程度なら木材と鋸と釘があればすぐだし。



 とにかく、これで新たに収穫できるものが増えそうだからいいかな?


「美李ちゃんが作るとほんと美味しく育つからなぁ。

でも、無理しない程度にやってくれればいいからね?」


「楽しいからだいじょーぶ!今度のお野菜も期待してね!」


 美李ちゃんがこちらにVサインを出して笑う。

俺は、手の汚れをタオルで拭いてから頭を撫でて畑を見渡した。



 葉物野菜にじゃが芋や麦・米などの穀物、オレンジなどの果樹、ハーブ類、トマトや胡瓜などウリ科も棒で作った棚に並ぶ。

 ニング卿の農園のような広さはないものの、住宅街の公園より広いここもちゃんと立派な農園になっている。もう家庭菜園ってレベルじゃないなぁ。



 何か出来ることはないか聞いたら、肥料はスキルだし害虫はそもそもこの中に持ち込んでないから大丈夫だけど、受粉が大変らしい。そりゃぁこれだけ広ければそうだろう。

 虫がいないってことは、受粉はすべて人の手でやるしかない。ピーリィの手伝いもこれが中心だそうだ。手で花を持って着けたり、軽く風を起こして花粉を飛ばしているらしい。なるほど。


「手伝いがいる時は声かけてね!」


「うん!」



 そして朝ご飯に呼ばれる前に2人で道具を片付け、

採れたてのトマトを齧りながら畑を後にした。



 うん、うまい!


 工場で作っている時は料理をしていると言うより製品を作っている感覚になってしまうので、自宅で何か作りたくなっちゃうんですよね。レシピもレシピを見る感覚ではなく作業工程といったところでしょうか。

 だからせめて物語の中ではいつも楽しく料理してて欲しいなという気持ちがあったりします。


今も自宅で料理してますが、「楽しい料理」は休みじゃないとあまり時間はとれないので……

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