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塩とにがりと豆腐

第8章5話目の中の話になります。


何故か閑話では飲食ががっつり絡む話ばかりになってますね……自分でも謎です!元々食品業ネタだからなのでしょうけど。

 メースを目指して進む道中の晩御飯前、作業を手伝ってもらいたくて少し早めに馬車を止めてもらった。そして今は広い場所がいいからと、訓練所の一部にコンロと大鍋、そして海水の入った拡張箱型袋を用意してある。



「さー、そろそろこの海水をどうにかしたいので、集まって頂きました!」


「「わー!ぱちぱちー!」」


「えぇ?……ぱちぱちー」



 美李ちゃんとピーリィの拍手に釣られて、何となく拍手する沙里ちゃん。

なんだかんだと付き合いいいよね〜。





「で、今日はこの海水を蒸発させて塩を取り出したいのと、

ついでににがりも取りたいと思います!」


「にがり?」


 美李ちゃんとピーリィが首を傾げた。

正確には、沙里ちゃん以外誰も分かっていなかった。


「この海水を蒸発させて塩を取り出す時に残る苦い液体をにがりって言って、

豆腐を作る時に欠かせない凝固剤になります」


 ここまで説明してユウが理解し、豆腐という言葉に美李ちゃんが何となく分かってくれたっぽい。


「要するに、塩を作るついでに別のも作りたいってことで!」



 豆腐と言っても理解は出来ないだろうし、

ここはもう進めてからちゃんと説明しよう。



 まずは海水を大鍋に入れて煮立たせよう!


「あ、待ってください。それなら少しずつ鍋に入れて、直接火魔法で燃やしてしまいましょうか?いっぺんに煮込んでもなかなか蒸発しないから、ある程度蒸発させたのを大鍋に移して仕上げた方がいいと思います」


 お、おおぅ。そっか、大鍋じゃ沸騰まで時間かかるし大変か。


 すぐにもう一つ鍋を用意して、入れては沙里ちゃんとユウが半分以下に蒸発させて、それを大鍋に移す。もくもくと上がった蒸気は、美李ちゃんとベラが水として操って別の拡張袋に回収してる。

 俺とピーリィは海水を入れたり移す役。姫様とトニアさんは見学と外への警戒をお願いしておいた。


 しばらく繰り返して大鍋3個が一杯になった所で、今度は大鍋をじっくり蒸発させる。この時点でかなりの濃度になってるから、ピーリィが手に付いたのを舐めてぺっとやってた。


「煮込むのは俺が見てるから、皆は順番にお風呂どうぞ。

特にピーリィは塩でべたべたしてるはずだから、痒くなる前に洗っておいで」


 いったんコンロと鍋を別の袋へ仕舞い、その中でじっくり煮込む。これで万が一消し忘れてもすぐに大事にはならないはず。俺が忘れなければいいだけなんだけどね!



 たまに木へらで混ぜながら徐々に蒸発させていくこと数時間。途中で白く濁ったモノが出たが、鑑定スキルで確認すると塩じゃなくて硫酸カルシウムって出たけど、使い道が分からないので一旦漉し布を通しておいた。

 さらに煮込むと、そろそろ塩で重くなった鍋の中。まだ残ってる水分を舐めると、しょっぱさより苦さが口に広がって顔を顰めて唸ってしまった。


「よ、よし。こんなもんでいいか」


 コンロを止めて、塩を漉し布に通してにがりと分け、

大きく広げた袋の上に乗せた漉し布付の大ざるに塩を広げる。


 これで乾燥させればいいはずなんだけど、これで大丈夫かなぁ?

さすがに塩は作ったことないから手探りだし、失敗してもしょうがない。


 しおだけに!


 ……って思ったけど口には出さなかった。

近づいてきた沙里ちゃんに気付いてよかったぜ。セーフ!



「ヒバリさん、お風呂空きましたよ」


 そう告げに来た沙里ちゃん。せっかくだから頼んでみるか。


「沙里ちゃん、後ででいいんだけど塩にドライヤーをかけて乾燥してもらっていいかな?それで塩が完成だと思うんだ。味は……どうだろ?乾燥しないと何とも言えないや」


「今じゃなくていいんですか?」


「うん。しっかりと水分が落ちてからの方が苦くないだろうしね」


「じゃあ、明日やってみますね」


 にこりと笑って引き受けましたと返してくれた。



 鍋に残ったにがりは冷ましてから袋に入れたいから、今日の所はこのまま放置でいいかな?火元だけは確認したし、不要な道具は片付けて俺も風呂行こう。




 翌日、御者はまたトニアさんにお願いしちゃって、俺はにがりの保管を、沙里ちゃんには塩の乾燥と、2人で分担して作業した。ピーリィは風魔法で沙里ちゃんのフォロー、美李ちゃんはにがりを袋に入れるフォローについてくれている。


 最近またトニアさんに甘えてばかりだから、何か食べたいものがないか聞いたら、甘い酒とおつまみとのリクエストを受けた。近いうちに用意すると約束をしたら、珍しくしっぽが揺れていたからこれは期待を裏切れないな!



 そんなこんなで塩とにがりが完成。



「なかなかいい塩が出来たね。まだ海水たっぷり残ってるのに、

塩がこれだけ作れたらしばらく買わなくていいかもね」


 海水を入れた箱型の拡張袋の1つ、それの半分を使って50kg以上の塩が出来た。乾燥させては袋に流しいれてた沙里ちゃんとピーリィだが、さすがに量が量だけににがりを詰めたら俺達も手伝って終わらせた。


「これ、初めに沙里ちゃん達が半分……いや、あれだと1/3くらいまで蒸発してくれてたからすぐに塩に出来たけど、そうじゃなかったら滅茶苦茶時間かかったんだろうねぇ。塩作ってる人すごいわ」


「手間暇を考えたら高いのも納得ですね!

それにしても、こんなににがりっているんですか?」


 にがりも10kgくらい残ってる。正確には、大鍋3個では全然追いつかなくて、煮詰める前に半分は後回しにしようと判断して別の袋に仕舞ってある。だから、もし全部煮込んでいたら塩もにがりもこの倍は作れたはずだったのだ。さすがにやりすぎた……


「まぁ、塩の在庫が減ったらまたやろう。その時はまた協力よろしく!」


 先送り在庫決定である。



「あとは途中で出来たこのカルシウムなんだけど……

正直栄養サプリ程度にしか分からないんだよねぇ」


 こちらも意外と量が出来てしまった。ただの白い粉だし、ちょっと石灰を思い出す。決して危ない粉の方ではない。鑑定さんもカルシウムと言ってるから安心だ!


「カルシウムですか……骨が弱い人にはいいサプリでも、摂り過ぎると副作用があるってテレビで言ってましたね」


「ああ、健康番組のやつか。ああいうのはどれも摂り過ぎはよくないのに、紹介されるとそればかり口にするから怖いよね。じゃあこれは保留でいいか」


 うちのパーティに骨の弱い人はいないから大丈夫かな。

分かりやすく透明な袋に入れて俺の鞄に放り込む。


 塩とにがりは調味料用の共有鞄に入れて、あとは道具をすべて片付けてひと段落。このメンバーがいたから早かったが、これはちょっと気軽には手を出さないでおこう。そうそう塩とにがりが切れる事もないだろうし。




 翌日の昼休憩。


 豆腐作りは全員興味があったらしく、ここは全員参加になった。



「さて!ここからが豆腐つくりだ。まぁこれは俺がいた職場でも作ってたから苦労はないと思うけどね。道具はあるものでやるしかないけど、きちんと考えて準備すれば大丈夫!」



 昨日から半日以上水に浸しておいてふっくらした大豆ざるに上げてしっかり水気を切っておく。それを複数のすり鉢に作業しやすい量ずつ、大豆と水をほぼ同じ量を入れてひたすら擂り潰す。

 さすがにミキサーは無いからすり鉢でひたすら擂り潰すしかないのが今回の一番苦労するところかもしれない。これはもう皆で交代しながら頑張った。

 擂り潰したものをどんどん鍋に入れて、全部入った所で弱火でじっくり30分。更に人肌程度まで冷ましてから、漉し布で豆乳を絞り出す。搾りカス、つまりおからだ。


 これの煮物好きなんだよなぁ。後で卯の花作ってみよう!


「なんか、甘くて美味しそうな匂いするね〜」


 美李ちゃんとピーリィが鍋のそばでくんくんしてる。

よくみると周りの皆も匂いに集中してた。



「出来立て豆乳、飲んでみよっか!」


 皆にコップ1杯分を入れてあげると、日本人組はあまりいい反応がないがこっちの世界の住民には喜ばれた。現代っ子は豆乳だめかぁ。俺は好きだけど。


「えーっと、気に入ってもらえたようなので、豆乳はあとでまた作っておきますので!今日は飲むのここまでで!」


 4人がお代わりを求めて1回は答えたが、なんか危なそうなので早めにストップをかけさせてもらった。豆腐が食べたいからなんとしても確保せねば。



 で、ちょっと脱線しちゃったけど続きをやろう。



 豆乳を鍋に入れてコンロを点ける。この時低すぎても高すぎてもダメなので、ここは真剣にいこう。狙うは80℃。ゆっくりと撹拌しながら温めて、灰汁を取りながら鑑定先生を信じて70℃を超えたあたりで鍋をどかして余熱で確認。


 よし。80℃をちょっと超えたくらいだから大丈夫だろう。


 撹拌しながらお湯で割ったにがりを全体になじむように入れて、さらにゆっくりと撹拌する。にがりの量は食品工場の時の感覚で入れたけどどうだろう?

 不安になりつつも撹拌をやめて鍋に蓋をして、時間経過は有るが冷まさないよう袋を作って入れて30分くらい置く。



 その間に沙里ちゃんが作ってくれた昼ご飯を食べて時間調整。皆は豆乳を飲んだ後に先に食べててもらった。そうじゃないと豆乳飲みまくりそうで危なかったし。


「さて……」


 袋を解除して鍋の蓋を開ける。


 上には透明な水、下には……若干柔らかいが、お玉で掬ってみるとちゃんと豆腐になっていた。それをざるに掬って入れて水切りをさせておく。

 本当は型があれば木綿豆腐に出来たのだが、さすがにそんなものは用意してなかった。そもそも豆腐の型なんて売ってないし。


「まぁこれはこれで。本当は型に入れて四角にするんだけど、こっちのざる豆腐ってのもあるので、今日はこれでいきましょう」


「あ。じゃあパンの型に入れておいてみます?あれも四角のもありますよ」


 沙里ちゃんが道具入れの棚袋から取り出して見せてくる。


「横穴はないけどいけるかな?試してみよう」


 漉し布を中に敷いて、そこへ豆腐を掬っては入れていく。8分目くらい埋まった所で上に同じパンの型を置いて、中に重し代わりのまな板と水の入った小鍋を乗せる。下にあるバットが水を受けてくれるから大丈夫だろう。

 これと残りもざる豆腐にして冷蔵庫で冷やしておく。あとは冷えてないが今食べる分ってことで、皆にも小さいざるに入れてから小皿に乗せてある。


「これは醤油と薬味の野菜をかけて食べたり、別な料理に使ったり出来ます。

ああ、出来立てだと塩のみってのもいいかもです。食べ方は自由にどうぞ」



 俺はそのままでスプーンで掬って一口食べた。


「おお、結構よく出来てる!これで料理の幅が広がるなぁ」


 塩だけのシンプルな味付けにしたが、大豆の濃厚な美味さと甘さが口に広がる。やっぱり出来立てはいい!しかも量産品みたいに薄めることもないから味がぼやけてないのがたまらん!



 周りを見ると、ここでも豆乳の時と同じでこっちの世界の住人はシンプルな塩が気に入ったようだ。日本人組は当然即醤油だった。面白いな。


「これは他にはどういった食べ方があるのですか?」


 珍しく姫様が前のめりだ……

俺たちの世界では大豆は女性の美容にも最適だと言ったせいか?


「えーっと、今みたいにシンプルに食べたり、ちゃんと冷やしてからもいいですね。あとは味噌汁の具にしたり、麻婆豆腐という辛い料理に使ったり……


 ……ああっ!?湯葉を試すの忘れてた!」


 出来立て豆乳と言えば湯葉でしょ!工場の時も灰汁取りの後にわざとゆっくり温めて蓋を開けてつまみ食いしてたのに、それを忘れるとは……


「ユバ、ですか?」


 姫様の目が光る。

あれ?この人こんなに食にこだわってたっけ?




 結局俺の分で取っておいた2杯目の豆乳を生贄にした。


 薄い鉄板をコンロにかけて、じっくりと豆乳を温める。

そしてそのまま放置すれば、表面が徐々に色付き始める。


「じゃあこれを箸か串で真ん中の下から……すっと持ち上げます」


 おおー!と声があがる。


「あっためた牛乳にできるやつだ!」


 美李ちゃんが言う。正解!やってることは一緒だ。



 少ない量の豆乳だが何枚かは作れたので、折り畳んで皆に食べてもらう。


 そのままでもいいが、おれはやっぱり醤油かなぁ?あとは時間をおいて硬くなってから何か出来たはずだけど、それはさすがに知らないや。



 食べてみた姫様が俄然豆腐に燃えてしまったので、うちの台所事情は大豆の仕込みが多くなってしまった。本来は水に浸けすぎるとよくないが、そこは俺のスキル袋でいい状態を保ったまま置いておけるから安心だ。

 あとは徐々に豆乳の在庫を増やしていく事になった。その分増えたおからは俺と沙里ちゃんで試行錯誤で卯の花を、更におから入りハンバーグの開発もしてみた。


 このハンバーグも姫様に受けた。カロリーを落として栄養価は上がったって話なんだが、姫様って美容と健康にすごいこだわりがあるって分かったのが、今回の大きな出来事かもしれない。これ、売れるんじゃないか?




 なんだろう……


 悪い事を考えているわけじゃないのに、これを商売にするのは上手くいくと思う反面怖い事になりそうな気がする。


 女性の美を利用する商売はやるべきかどうか……

今は考えない方がいいんだろう。きっとそうだ!


 異世界人とは人体構造が違うかもしれないからね!

もし違ってたら破滅だもんね!




 ……姫様にもそこの確証がない事をしっかり言っておこう。


食品製造では味見は絶対です。

これは業務なので仕方なく色々食べます。


ただ、好きなものは味見をしすぎますが!

春巻や肉まんの具は特に酷いものでした(遠い目



あと2話ほど閑話を挟んでから本編になる予定です。


拙作をお読みいただけたら幸いです。

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