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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第8章 南の国境街へ向けて
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道具店での買い物と出国

 翌日。



 今日こそは早朝から生鮮市場に少し立ち寄ってまた買い込んで、昨日買い忘れた各種回復薬も忘れずに補充した。

 越境時はこちらが近づかなくても周りの馬車が寄ってくる事があるので、怪我をした時に姫様の光魔法の治療は見せるわけにはいかない。だから普段より多めに回復薬を確保しておいたというわけだ。


 その後は予定通り鍛冶屋にもすぐに向かった。まだ時間も早い方だったおかげで大して待たずに順番となり、ベラとユウの装備を受け取ってから少し店員と話す時間が出来た。

 ついでにただの鉄塊の重りと滑車が売っていたので、漬物石代わりに様々なサイズも購入させてもらった。紐を通す穴も開いてたし、これなら滑車台を組めば大きいものだって俺でも持ち上げられるし。


 本来の用途は量り売りの時の目安で所謂”分銅”ってやつだが、

さすがに漬物石代わりに使いますだなんて言えなかった。




 本当は馬車に乗ってすぐに越境のため街を出る予定だったんだけど、

ちょっと寄りたい所が出来ちゃったわけで。



「魔道具、ですか」


「はい。以前の召喚勇者が伝えた技術で作られた魔道具が、この街でも結構あるみたいなんですよ。鍛冶屋の店員さんに道具を見せて貰ってたら、それなら魔道具専門店へ寄ってみたらって勧められて」


「で、見事にヒバリが釣られちゃったみたいだよ?」


 呆れた顔で俺を指さすユウ。

いいじゃないか、便利な道具。




 そんなわけで少しだけ寄り道して、魔道具店で1時間制限を言い渡されてしまったので急ぎ足で商品を見て、欲しい物は皆にプレゼンして許可が出た物は買わせて頂いた。


 てか、なんで俺だけ必死になってるの?皆だって便利な道具はあった方がいいよね?1対6になってるのおかしくないかな!?


 ちなみに、1人参加しなかったピーリィはどうでもいいらしく、

椅子で姫様の膝枕でお昼寝だったりする。



 プレゼンの結果は……


・冷蔵庫

→袋スキルの中は温度が一定になるので不要

・細かな温度設定可能なオーブン付コンロ

→沙里ちゃんにより採用

・自動脱穀機

→美李ちゃんは苦になってないので不要

・自動精穀機

→ゴルリ麦のもみすりにも便利なので採用

(改良してもらって精米も出来るようにした)

・ブレンダー

→マヨネーズ等撹拌に便利なので採用

・エアコン

→そもそも居住袋内が温度一定空間のため不要

・大型シャワー装置

→今のより水圧が弱くて不採用

・蛇口各種

→キッチンや風呂場に必要数採用

・淡い火魔法の室内ランプ

→室内点灯係の姫様以外が賛成により採用

・馬車用サスペンション

→御者番3人により採用


 最後のは魔道具ってわけじゃないが、ここ最近発売された改良型でかなりの揺れを軽減するらしいので俺と沙里ちゃんとトニアさんの3人で即決させて頂いた。


 何気に不採用が多い気がするが、まぁ理由が納得出来るので仕方ない。それにしても、室内ランプって結局火しかないのかぁ。光魔法ってほんと希少なんだね。




 馬車のサスペンションはすぐに作業を始めてもらって、その間に会計を済ませておいた。1時間ほどで出来ると言われたのでせっかくだから近くの料理屋で昼ご飯を済ませてきた。


「やっぱりこっちのお茶は美味しいなぁ」


「また茶葉が増えてしまいましたね」


 姫様と俺が気に入った紅茶の茶葉を店員に尋ねたら、しっかりと会計横で売られていたために見事に釣られて買ってしまった。うん、後悔はない!



「そうだ。美李ちゃんにお願いがあったんだった」


「ん?なーに?」


 お腹一杯になって皆で魔道具店へ戻っている途中で、

この間の茶の木の事を思い出したので忘れないうちにお願いしておいた。


「いーよ!あたしのちからでばーんと育てちゃうからねっ」


 腕を曲げて力こぶを作る仕草をしながら快く引き受けてくれた。よし、これで茶の栽培もいけそうだ!ついでに畑の部屋も大きいものに引っ越しさせようかなぁ?あそこだけまだ窓もどきのない旧居住袋だし。



 サスペンションは無事に取り付け終了して、その後御者台に置きっぱなしになっていたクッションを従業員に興味を持たれてちょっと面倒だったけどやんわり断って店を出た。




 そして今度こそこのメースの街を出る。



 御者台には街に入った時と同じく俺とトニアさんの2人だけだ。荷物はある程度詰め込んで、俺達が商売のための様相を作る。勿論武具も装備してある。

 これから魔物が現れると分かっている越境に何も装備せずに出ていくなんて怪しいなんてものじゃないから当然だ。


 と言っても、この半端な時間に出発する方が珍しいみたいで、門番が検問時に何度も大丈夫か?と心配してくれていた。怪しむのではなく本当に心配してくれるのだからいい人達なんだろうな。




 門番の衛兵達に見送られて街を出て10分もしない走らせた先に、1台の馬車が止まっていた。そしてこちらに気付くと手を挙げて呼んでいるようにみえた。


「あれ?誰でしょう?」


 街を出てすぐ御者を申し出た沙里ちゃんが気付いた。馬車の中にいた俺も御者台に顔を出し、それに続いてピーリィも俺の上から同じポーズをする。


「んー?……犯罪歴もないし、あの1台以外周りに隠れてる人もいないね」


 意識を集中してレーダーマップの範囲を広げて周囲も確認するが、特に何も異常を感じない。あの馬車にもう1人がいるらしい……あ、外に出てきて同じように手を挙げた。なんだろ?


「ヒバリさん、どうかしましたか?」


 レーダーマップを広げた事に反応したらしいトニアさんがすぐに居住袋から出てきて、それに続いて馬車に出していた荷物を片付けていた皆もぞろぞろ出てきた。



「いやー、あれ誰だろうなって」


 指差す先にいる2人の冒険者風男性。武具も装備しているが構える様子もない。近づくにつれて表情も見え、やっぱり特に異常は感じられない。が、そこでトニアさんが気付いた。



「……あれは、シールズ子爵家のニング卿に仕えていた者では?恐らく……はい、見覚えがあります」


 更に近づくとトニアさんが確信して頷いた。


 ニング卿と言えば、俺と遠藤姉妹がお世話になった農園経営の四男のあの人か!王都では源さん含めて大変な目に遭ってるって伝え聞いたけど大丈夫だったのかな?今更ながら心配になってきた……


「あの人の所の人なら大丈夫ですかね?」


「それでも何が起こるか分かりませんから、警戒だけは解かずにおきましょう」



 ゆっくりと馬車の速度を落とし、手を挙げていた男2人の前で停止させる。そして俺とトニアさんだけ降りて、沙里ちゃんにはいつでも駆け出せるよう手綱は握ったままにしてもらい、他の皆も武器は抜かないがいつでも動ける態勢は維持していた。



「突然の呼び止めに応じて頂き感謝致します。あなた方が乗っておられる馬車はシールズ子爵家所有であったものとお見受け致します」


「確かに。これはニング卿より譲り受けた馬車です。あなた達は?」


 姫様御者台へ出て、2人の男に答えた。


「やはり!我らシールズ子爵家に仕えし者。ニング様より言伝が御座います。お聞き届け頂けるだろうか?」


「内容によりますが、善処致しましょう」


 膝をつき申し出た2人に、とりあえず話を聞こうって流れでいいのかな?

俺達の態勢はこのまま、2人の男性を馬車の影に移動させてから話してもらった。



 第一王女が始めたクーデターは、第一王妃も加わり激しくはなったが、いまだ源さんを初めとする騎士団が国王と王子を守り切り拮抗しているらしい。

 ニング卿は第一王女側に就いたシールズ子爵家と対立する形で国王側で奮闘しているが無事とのこと。以前王都を出るときに渡した袋が役に立ったようで、孤立しそうだった王子を無事救出して感謝していると。

 そして、このままでは物量で圧されてしまう可能性があるので、帝国からの支援要請は兵力も含める事を国王直筆の書簡を認めてこの場で渡すために、馬車の情報を頼りにここまで追いかけて来たそうだ。


 俺達が寄り道しまくってたからかなり待ってしまったようで、

さっきまで魔道具店でさらに待たせてしまった事が申し訳ない……



 一度姫様とトニアさんに言われて2人のカモフラージュを解いて姿を確認させると驚きの声をあげていたが、再び膝をついて書簡を取り出してこちらへ差し出す。


「では、こちらを」


「確かに預かりました。本当によくここまで届けてくれました」


「「ははッ!」」



 さすがに手ぶらで帰すのも申し訳ないので、2人の魔力に触れさせてもらい、馬車も入る程度のテントより少し広い居住袋と食材を詰めた袋を贈らせてもらった。

 開封権限は2人の他にニング卿と源さんも付与させてある事を伝えると、袋を作ったのが俺だった事に驚かれた。いや、そこからなのか……


 危険な情勢になりつつ王国に不安になって、どうにもこの2人が狙われるフラグが立ったようで思わず袋を渡したけど、姫様も同じことを思ったのか2人と別れる時に十分に気を付けるように念を押していた。



「ヒバリさん、ありがとうございます」


「えーっと、さっきの袋ですか?勝手に渡しちゃったけど、なんかあの2人が危ない目に遭いそうな気がしちゃったんで……」


「私もです。ですが、あの袋があれば身を隠すにも容易ですから感謝いたします」


「出国前に情報をくれた報酬ってことで。ニング卿、無事でよかったなぁ」


「わたし達もお世話になったから、ほんとよかったですね」


 馬車の中で姫様と話していたら、御者を続けていた沙里ちゃんもやっぱりほっとしたようだ。俺達3人は住まわせて貰った上に仕事も手助けして貰って助かったからなぁ。


「ふーん。3人はその貴族の領地で匿ってもらってたんだね」


 まだ警戒態勢の時に全員出たままだったので、御者台で沙里ちゃんの隣に座ったユウが振り返って会話に参加してきた。


「匿うって……まぁ、城の人間と関わらないようにしてたから間違ってはいないけど」


 周りに何もない所だったけど、過ごすには騒がしくなくていい所だったな。もし元の世界に帰れないならああいう立地に住みたい。ほんと、田舎っぽいのに王都の端っこって、いい物件だったんだなぁ。




 思い出というほど過去の話じゃないはずなのに、何故か懐かしい気持ちになってぼーっとしてしまった。早く王国の問題が解決するといいな。



「それにしても……本当に馬車の揺れが少なくなりましたね。この越境道は決して完全な整備とは言い難いものですが、これならば投擲にもまったく影響がありません」


「いい買い物でしたよね!」


 トニアさんと沙里ちゃんに言われて気付いたけど、確かに全然違う!むしろ、言われるまで揺れを気にしなかったってほどだ。これで更にクッション袋を敷いてるから、乗り心地は自動車感覚に近づいたと思う。


「お尻にダメージが来ないのはほんと助かるなぁ」


「あとは背もたれがあるといいですねぇ」


 おー、そっちは考えてなかった。

この世界では座椅子って見たことないな。


 ……いや、そもそも床に座る文化がないんだから、座椅子があるわけないか。無いのなら、あとで作るしか手はない!ソファ型は作ったことあるから何とかなるでしょ。




 いざ越境開始!と思ったらすぐに引き止められて時間使ったためか、

昼過ぎでは周りに全く馬車が見えなくなってしまった。


 その分自由に動けるからいいんだけどね!

それに、重要な情報と書簡を貰えたのはきっと良い事のはず。




 こうして、帝国領内まで順調にいけば2日ほどの、初めての国境越え旅が始まった。



 やりたい事もいっぱいだし、襲撃の警戒もあるし、まったく暇のない旅になるんだろうなぁなんて考えていたら、この後ほんとにその通りになっちゃったわけで。


ここで第8章を区切らせて頂いて、また閑話を挟んで第9章を開始させて頂きます。

ここまでのお付き合い、そして評価やブックマークをありがとうございます!


この先もハッピーエンドを目指して投稿していきますので、拙作をお読みいただけたら幸いです。

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