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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第8章 南の国境街へ向けて
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携帯の試作

 少しまぬけな失敗はあったものの、無事に時計の保護袋を全員分作って、各々首やベルトに提げてポケットに仕舞ってもらっている。




 時計は俺達の世界と同じく12時間に区切られて、

短針・長針・秒針がついたごくスタンダードな作りだ。


 これをベラとピーリィに見方を教えて、全員で時間確認が取れる様になった頃には宿から晩ご飯が届いたので美味しく頂いた。





「それにしても……ぷふっ」


「まさかヒバリさんがあのような失敗をされるとは」


「何かの冗談かと思いましたよ……」


 ご飯を食べながらもまだツボに嵌まったらしい沙里ちゃんと姫様とトニアさんが思い出し笑いをしていた。トニアさんがそこまでって珍しいものが見られたが、原因が自分の恥ずかしいミスなのでちょっと居心地が悪い……


「やめてよー!食べてる時に思い出させないでよー!」


 ユウもベラも笑いを堪えていた。



 どうしてこうなった……いや、自分の所為だけど。





 それは保護袋試作1発目を美李ちゃんに渡した時の事。


「ねー、時計動かなくなっちゃったよ?」


「え?もう壊れた……ってことはないよね」


「魔力切れじゃないですか?」



 美李ちゃんが袋に入れた時計を俺と沙里ちゃんに見せてくる。

他の全員もまさかの故障かと集まってきた。


「みてみてー!このカバーに入れると……ほら!」


 ……ん?あれ、これって


「ヒバリさん、もしかしてこの袋、」


「時間経過なしで作成されましたか……?」


 姫様とトニアさんがすぐに思い当たったようで、

俺もそれに気づいた時にはもう遅かった。



「……ぷっ」


 やっと理解した沙里ちゃんが堪え切れなくなってお腹を抱えて轟沈した。続いて、トニアさんから説明を受けたユウとベラも腹筋さんが轟沈。


 俺は恥ずかしさのあまり何も言えなかった。


 何より、慰めてくれる美李ちゃんとそれを真似するピーリィの無垢な優しさがザクザクと心を抉る。あーもう好きにしてくれぇ!




 その後誤魔化すように時計の保護袋を作り直し、

下げるための紐袋は茶色で作って保護袋の引っ掛け穴に通して完成させた。


「よし。これを首か腰から下げて、ポケットに仕舞っておこう。

外に出すと狙われるから、あまり目立たないように使おうね」


 まだ傍にいてくれた美李ちゃんとピーリィには俺が紐を調整して首から下げて、時計を胸ポケットに入れるよう教えた。高級品というか金目の物を見られると碌な事が無いからね。


 後の皆はまだ笑ってるから自分でやってください!




「さっきの時間経過って……ああ、違うんです!そうじゃなくて!」


 晩ご飯後のお風呂前に沙里ちゃんがまた話を蒸し返してきたのかと一瞬不機嫌になりかけたが、それを察してすぐに否定してきた。


「そうじゃなくて、携帯みたいに話せないかなって言ってたのあったじゃないですか。あれも拡張した上に時間経過がなかったのも、通じない原因にならないですか?」


「……あー、そういうことか。確かに、時間経過が無い空間で声を送るって考えるとおかしな話だよね。なるほど。」


 それは一理あるな。そうなると試したくなるよね!



「試作してみるから風呂が空いても作業してたらそのまま放置していいから、

沙里ちゃん達もお風呂行っておいで」


 最近は風呂が気に入ったユウがまだ苦手だというベラを引き摺って一番風呂へ飛び込むのが日常になっていた。次に姫様とトニアさん、その途中から沙里ちゃん美李ちゃんピーリィの3人が入っていく。


 リフォームした風呂だと女性陣全員一遍に入っても大丈夫なくらい広くなったんだけどね。用意ができた順に入ってる感じだ。




 静かになったダイニングルームで1人イメージを始める。



「携帯か……形は、スマフォっていうかガラケーの方がいいか?

元は袋だし、開くって意味ではしっくりくるな」


 長方形の箱をイメージ。色は派手だと目立っちゃうから木目調の茶色。

大きさは……10cmくらいの長さかな?


 今度は拡張も時間経過もなし!

大丈夫、忘れてない。間違えないからな!



「って、だからって1個だけ作ってどうすんだよ!共有化の意味ないじゃん!」


 1人で携帯というか無線機持ってどうすんだよ……

慌てて周りを見たけど、誰もいなくてよかったわ。



 さっきのは消して、改めて今度は一遍に9個を作ってみた。

拡張も時間固定もなし!ちゃんと共有化された9個だ!


「で、今度は……作ったはいいが1人じゃ通話テスト出来ないじゃん!

ほんと今日はミスばかりだなぁ。なんなんだよもう」


 頭をすっきりさせたくて蜂蜜レモン水を作って、

飲みながら誰か風呂から上がってくるのを待つことにした。



「あー!おいしそうっ!あたしも飲む〜」


 1番にここへ来たのは美李ちゃんだった。俺が飲んでた物にロックオンして、髪が濡れたままこちらに駆けて来た。そして髪を拭こうと沙里ちゃんも後を追ってくる。


「まだ拭き終わってないでしょ!」


 がしっと頭を掴まれた美李ちゃんが手だけでレモン水を欲しがってあうあう言ってる。ゾンビ映画のやつみたいだ。


「沙里ちゃんがいいって言ったらあげるから。

それと、そっちが終わったら通話のテストしてくれないかな」


「もう出来たんですか?ちょっと待ってくださいね」


 大人しくなった美李ちゃんの髪を、ドライヤーの魔法と平行してタオルで拭いてあげていた沙里ちゃんが答える。すぐ後ろでピーリィが拭いて貰うのを待ってるのは言ってあげたほうがいいのかね?美李ちゃんが終わるまでは俺が拭いてあげよう。


 おいでと手招きすると俺の膝の上に座って大人しく拭かれるピーリィ。最近は羽を梳くのも慣れたので、痛い思いをさせてないから安心してくれてるようだ。

 美李ちゃんは拭いて貰ってからレモン水を飲み、ピーリィも沙里ちゃんに拭いて貰って同じように飲んでる。沙里ちゃん、お疲れ様。



 3人にお代わりを注いでから、さっきの本題を切り出した。


「じゃあこれを、こうして開くと……

あとはこれを耳と口元に寄せて、会話が出来るかなんだけど、」


 3人に手渡して開け方を見せながら教えて、いざ声を携帯袋へ送ってみる。わざと後ろを向いて口元を覆って、小声で3人の名前を順番に言ってみた。


「あっ……ちょっとだけ聴こえた!何言ってるかわからないけど!」


「えーっと、もしかして名前ですか?」


「ピィリ、よばれた!」


 耳の良いピーリィは聴こえたみたいだが、どうやら基本はあまりよく聴こえないみたいだ。それでも通じるなら十分そうだけど。



「よし、じゃあ次は美李ちゃんとピーリィは訓練所の中から話しかけてもらえる?今度は普通に話すから、そしたらちゃんと聴こえるか分かるから」


「「はーい!」」


 てててーっと3人が廊下を走って行く。


「これで聴こえたらいいですね」


「そうだね。まだ色々問題あるけど、会話出来るだけでも十分だよね」


 沙里ちゃんと話していると、すぐに携帯袋から何か聴こえた気がして慌てて耳元に持っていくと、


『ヒバリおにーちゃん!きこえますかー!?』


『ピィリもいまーす!』


「おお、ちゃんと聴こえるよー!って、大声出してちゃだめか」


「美李、聴こえてる?」


『おねえちゃん!あたしにも聴こえたっ』


「ピーリィも普通に話していいからね?」


『ヒバリ!聴こえたっ』


 どうにも2人は大声で答えちゃうみたいだけど、俺と沙里ちゃんは普通に話しかけて聴こえてるんだから大丈夫だろう。

 ただ、この携帯袋を耳元から離すと途端に聞こえ辛くなるのはしょうがないのかなぁ?これも問題の1つか。


「グループ音声チャットみたいですね」


「ああ、全員と会話出来るからそんな感じだよね。

2人とも、もう戻ってきていいよ。ありがとうね」


 携帯袋を閉じてテーブルに置く。



 これにも紐を通す穴を追加で付けてあるので、時計と同じく茶色で紐を作って取り付けておいた。

 そして2人が戻ってくる時に、ベラとユウ、姫様とトニアさんも2人がはしゃいでるのが気になったのかダイニングルームにやってきた。



「これが携帯ですか。携帯出来るからなのでしょうが、何故携帯と呼ばれているのでしょう?話す事が出来るなら、別な名前がいいと思いますけど……」


 ああ……ケータイって、日本でしか通じない略称だからなぁ。


「本来は携帯電話と言って、電気……えっと、魔力の様なものを動力に話が出来る道具だったんですけど、名前が長い上に携帯出来ない電話もあったので、携帯って略称になっちゃったんですよ」


 不思議そうにしてた姫様に説明してみたが、

電話どころか無線もないんだからいまいち難しいなぁ。


「これはどういった使い方で会話が出来るのですか?」


 トニアさんは名前よりも機能が気になるらしく、しげしげと眺めていた。


「これはねー、」


 さっき使っていた美李ちゃんが得意げに説明を始めたから、もうそっちはお願いしちゃおう!ユウもベラに教えてるから大丈夫か。



「で、使ってみて分かったと思いますが、耳元と口元から離すと全然聴こえなくなっちゃうんですよ」


「それは逆に機密性があっていいと思いますよ」


 内緒話にもいいってことか。

確かに姫様の言うとおりだな。でも、まだ問題が……


「あと、日本人組は分かると思うけど、着信を知らせるような機能がないんだ。だから、誰かが話しかけても携帯を耳元に寄せてないとまったく気付けないっていう欠点があってねぇ」


 これは日本人3人に向けて言った。


 あー、と納得してくれたのはやはり3人で、残りはまた首を傾げる結果になっちゃった。ほんと面倒臭い話ですみません!



「えっと、携帯を閉じてたら声が届かないんですよ。俺達が使ってた携帯って、そういう時に外へ”誰かが話しかけてますよ!”って合図を送ってくれる機能があったんです。

 でもさすがにそんな機能は付け様がないんで、通話をするにはお互いがタイミングを合わせるか、通話すると決めたらずっと耳元に寄せておく必要があるんです」


 実際に皆の携帯を閉じてて貰って俺が携帯に話しかけるが、

耳元に寄せてもまったく聴こえないのを確認してもらった。


「スキルで作った袋は閉じたら別空間と同じだから、こればっかりはどうしようもないんですよねぇ。あとはヘッドフォン……えーっと、頭装備みたいにして、常時片耳に付けていられるように改良するか、ですかね」


 ふむ、と考え込んだ姫様だったが、


「現状はこれ以上出来ないのでしたら、今はこれを使いましょう。

離れても会話出来ると言うだけで十分に有効ですよ」


「そうですね。あとはルースさんのように交換日記も用意して、何時に話しかけるか書き残して、時計で確認して時期を合わせればいいのではないでしょうか?」


 あ、そっか。それでもいいのか。


 せっかく時計買ったんだから、そこで通話する時間を指定すればタイミングは合わせられるのか。それじゃさっそくルースさんにも携帯と時計を送って、通話できる時間の返事が欲しい事と、携帯の使い方を簡単に絵にして交換日記に追記しとこう!



「あの……ヒバリさん。これはもっと大きく出来ないのでしょうか?」


 皆がまだ会話で遊んでると思って姫様とトニアさんが遠慮がちに話しかけてきた。すぐ隣にはベラも悲しそうな顔をしている。


「この大きさだと、耳と口に同時に当てるのは難しく……」


 ……あっ!

獣人の中でも猫と狼の2人の耳は頭上か!


「うわ!気付かずすみません!2人の分は少し縦長に作り直しますから、ちょっと

だけ待っててください。すぐですから!」


 やっちまった。

また変なところでミスしちゃったなぁ。



 2人の携帯を作り直した少し後。


 幸いルースさんはまだ晩ご飯を食べていないらしく、

急いで交換日記に追記して、再び携帯と一緒に共有鞄に仕舞い直した。




 そしてすっかり忘れていた入浴をのんびりゆっくりと済ませて上がると、まだダイニングには全員がいてきゃあきゃあと携帯で遊んでいた。


「ヒバリさん、今ルースさんと繋がっていますよ」


「あれ?ルースさんもう受け取ってくれてたんですね」


 この中で落ち着いていた姫様とトニアさんが俺に気付き、

状況を姫様が説明してトニアさんが携帯を手渡してくれた。


「もしもーし、ヒバリです。ルースさん聴こえますか?」


『おお、ヒバリか!もしもしとはなんじゃ?……ああ、それよりも、時計の保護袋の件聞いたぞ?おぬしは相変わらずじゃなぁ』




 ちょ!?盛り上がってたのってそっちの話か!!!


 ばっと皆のいるテーブルを見ると、目を逸らす者、ごめんね!と手を合わせる者、どうしたの?と不思議そうにする者。



「あ、ハイ……今日は色々やらかしました……」


『クックック。そう落ち込むな。少なくとも、こうしてみなと会話が出来るだけでわしには大変ありがたい贈り物じゃよ。ヒバリ、礼を言うぞ!』




 あぁ、なんか今日1番報われる言葉貰えた気がする。



「師匠も、お元気そうでなによりです」



 なんとか言葉を返して心を落ち着かせて、

それからは俺も一緒になってルースさん達との会話を楽しんだ。



 おかげでちょっと寝るのが遅くなっちゃったのはご愛嬌。

途中でピーリィ、美李ちゃんの順で寝ちゃってたから、そこは反省しとこう!




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