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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第8章 南の国境街へ向けて
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買い物と時計

「ここが鍛冶屋か。結構大きいね」


 街中なのでゆっくりと馬車を走らせて20分後、商業区に入ってやっと布生地屋オススメの鍛冶屋に到着した。




 受付兼武具屋と作業場は建物が別になっているらしく、他の客も店舗の方にのみ出入りしている。受付が3つもあるのは少し驚いたが、ここに来る人は大抵越境後か準備のためなので、こうして流れを滞らせないための措置らしい。大口より数をこなして利益を出すタイプだ。



 10分もすれば順番が回ってきて、俺とトニアさんで一通り受付の男性と相談し、簡単にユウとベラのサイズを測ってもらってから皆の下へ戻ってきた。


「オーダーメイドの物は今は諦めました。さすがにここで2週間近く足止めは無理ですね。ユウとベラの鎧は予定通り鉄板と皮の合わせ鎧が2日後、それと一緒にユウの大盾と2人の武器も受け取る手筈になりました」


「では、早くても2日後にここを出発と言う事ですね。それまでに諸々の準備を整えておきましょう」


 姫様への報告が済んでから、次の目的地である市場へ移動なのだが、ちょっと面白い物を聞いたのでそれも提案しておく。


「あ、さっき隣の人が時計を持ってたから聞いたんですが、この街は時計屋があるらしいんですよ。せっかくなので欲しいんで、市場の後はそっちにも回りますね」


「そういえば……サリスさんの時計もこの系列の店で作られた物でしたね」


「あれを日常で使うには目立ってしまいますから持ってきませんでしたが、ヒバリさん達は時計に興味がおありでしたか」


 トニアさんと姫様の話だと、姫様は使ってたのか。俺達の前では使ってなかったから、この世界に時計があるとは知らなかったぞ。


「あれって貴族の人達が使うくらいの高級品なんでしょ?ヒバリ、お金足りるの?」


「ユウは見た事あったのか……さっきの商人さんの話だと、この街ならシンプルでいいなら金貨200枚くらいで買えるって言ってたよ」


「200!?……いや、それを高くないでしょみたいに言われちゃうとボクは何も言えないよぉ。トルキスで子爵さんに補償してもらったのだって金貨50枚も貰えて喜んでたのに……装備の買い直しで半分飛ぶ予定だし……」


 馬車の中でユウがいじけてだんだん声が小さくなっていく。


「いや、今回の装備は俺達が出すよ?」


「なんでさー?」


 いじけた上にちょっと怒りの感情が混ざった声で答える。


「越境する時ほぼ確実に魔物戦闘になるって言ってたじゃん。それに、敵は魔物だけじゃなくて周りの人にも警戒しなきゃなんだから、それなりの装備しててもらって戦力を期待してるし、見た目がしっかりしてたら威嚇にもなるでしょ?」


「うーん……なんだか誤魔化されてる気もするんだよなぁ」


 ユウはまだ納得いかないらしい。するとベラが、


「ユウ。今のベラ達、装備大事。戦うのだから、準備も大事。

その分戦って返す。ベラ達なら、出来る!」


「むー……よし!じゃあ戦闘になったらボク達が前衛だからね!

ちゃんと働いて返すからね!」



 それを言ったら、うちらのご飯いつも一緒に食べてるよね?

なんて今のユウに突っ込みを入れたらやぶへびだよな。よし、黙ってよう!




 話しながら走らせた馬車はすぐに市場に着くが、夕方前では生鮮品はほとんど残っていなかった。仕方ないので乾物と調味料、それと穀物を買い込んでは馬車に入れ、馬車の中では共有化した食料庫の袋へ放り込んでいく。


「なんかこれ、バケツリレーみたいだな……」


「……ぷっ」


 俺の次の順番になってる沙里ちゃんには通じたらしく、思わず噴出して手が止まってしまう。え、そんなに面白い事は言ってないんだけど?


「ヒバリさん、なんだかお父さんと同じような事言うんですね」


 おやじさんと一緒、だと!?そんなばかな……


「ほら、ヒバリ!手が止まってるよ!」


 おやじ扱いにショックを受けていると、どんどん送られて来る荷物に俺の前の番のユウが叱責してくる。あ、はいすみません。




「ゴルリ麦は少なかったけど、調味料を中心に結構仕入れられたな。酒もワインや焼酎みたいなの買えたし、酢もいい品質の物があってよかったよ」


「調理器具も結構色々ありましたね。泡だて器やザル、漉し網にフライパンと今のサイズより大きいのがあってよっかった〜。今までのだとちょっと小さくて不便だったんです」


「シャワースタンドの小さいけどあったから、あれはルースさん1人用としてぴったりだよね!さっそく仕舞ってこよう」



 調理器具も見付けては購入した。いや、勿論必要だから買ってるから決して無駄遣いしてるわけじゃない。トルキスの町で獣人さんに器具を譲った分の補充も兼ねてるし。

 麦麹や小麦、葡萄のイースト菌も手に入ったから、味噌やパンもしばらくは困らないんじゃないかな?


 惜しみなく買い込むからベラやユウは目を丸くしてたけど、一応俺達は商人って事になってるから、大量購入に店の人は驚いていない。


 いや、配送なしで一度に運んでるのは驚いていたか。



 実際王都で金貨1万枚以上稼いでた上にトルキスで褒賞金も貰ってたしなぁ。金に困ってないのはありがたいことだ。ユウ達の反応は当然のことで、ちょっと感覚が狂ってるのかもしれない。気をつけよう!




 ……って言ってたのはどこのどいつだ?


「きゅ、9個ですか!?ああはい!在庫はございます!すぐに用意致しますのでッ!おおい!誰かーッ!」


 時計屋で、一番安いとは言え金貨200枚を全員分の9個。金貨1800枚、トルキスで金貨10枚分となる白金貨と更に10倍の赤金貨にある程度両替してもらっていたから、今回は赤金貨18枚を出して店員に告げると、一度の大口購入に慌てて奥の店員に準備するよう大声を出した。


 ユウが赤金貨をまじまじと眺めている。この間俺も初めて見た時は珍しくてずっと眺めてたっけ。沙里ちゃんと美李ちゃんも同じ様に角度を変えながらいじっていた。



 しょうがないよ、時計は必要なんだよ。今まで持ってなかったからすっごい不便だったんだよねぇ。これで集合時間やご飯時も分かりやすいし!

 姫様やトニアさんは王都に居た時は持ってたらしいから、皆がいじってるのを見守ってるだけだった。



 あまり時間を空けずに店員が戻り、説明を始めた。


「こちらは上に付く水晶に微量の魔力を流す事で時を刻む魔道具です。1度の充填で1週間ほど保ちますが、お忘れにならないよう3日程度に充填する習慣となるようお勧め致します」


 これってネジ巻きじゃなくて魔道具だったのか!

天辺にある水晶って飾りじゃなくて充電池みたいなものなのかな?


「全て修理補償が付きますので、もし故障した際にはここか王都の支店、帝都の本店であれば無償で修理致します。化粧箱と専用の鎖付き携帯袋にお入れ致しますので少々お待ちください」


 代金を受け取り、恭しく頭を下げて再び奥の店員達に指示を出す。俺達は待機椅子に座って出された紅茶を飲んで待っていた。



「ねぇ、ほんとにボク達もいいの?」


「この世界には携帯だってないんだから、せめて時間が判るものがないと不便でしょ?」


「そうだけどさぁ……」


「王都でハンバーグとつくねで稼がせてもらった分はまだまだあるから大丈夫だって」


「そうそう!急に王都でハンバーグが食べられるようになった時はほんとびっくりしたよ!……あれ?もしかしてうどんもヒバリ達が?」


「そうそう。うどんは主に美李ちゃんが作ってくれてたんだよ」


 ねー、と美李ちゃんと顔を合わせて頷き合っていた。



「ヒバリさん」


 ずっと黙っていた沙里ちゃんが、静かに声を掛けてきた。


「あの、共有化っていう袋って、声は届かないんですか?」


「んー……ルースさんに共有化した拡張袋を渡す時に生き物は入らないって試した時に声も出したけど、届かなかったなぁ」


 そしてまた沙里ちゃんが考え込んで、


「それって拡張したから広すぎて届かない、なんて事ないですかね?」


「どうだろ……そういや普通の袋じゃ大して物が詰められないからと思って試してなかったな」


 最近は拡張しない袋って挽肉みたいな中身がしっかり見える方がいい食材用以外全部付与してたから分からないや。


「さっき携帯って言われて、それって今のヒバリさんなら似た感じで作れないのかなって思ったんですよ」



 ……それが出来たら面白いかも。


 離れた場所と会話が出来るだなんて、実現したらルースさんとも会話出来るじゃん!これは試す価値、大いにありだな!


「沙里ちゃんナイス!宿に戻ったら色々やってみるよ!」


「あっ……はい!」


 自分のアイディアが受け入れられたのが嬉しいのか、沙里ちゃんが嬉しそうに照れた顔を向けて微笑んだ。



 会話を聞いていた姫様達こちらの世界の人は、電話はおろか携帯という別の意味も理解出来るわけも無く、今は唯々首をかしげるばかりだった。


 この会話の間、ユウと美李ちゃんはサンプルでいじらせて貰っている懐中時計に夢中で聞いていなかった。俺と沙里ちゃんの話しの途中から、飽きたピーリィも時計をいじる方へ行ってたけど。




「お待たせ致しました。どうぞこちらを」


 時刻の調整と魔力の充填方法の説明を受けた後、初回の魔力充填と時刻合わせもサービスで済ませていると言われ、俺も素直にお礼を言っておいた。


 設定時刻は帝都にあるという本店の時計台を基準にしているらしく、時折本店から正確な時刻に合わせた時計が運び込まれ、誤差が無いか確認をしてるらしい。



 1人ずつ手渡して、ルースさん以外全員に配り終えてから店を後にする。皆が嬉しそうに受け取る様子を見た店員は本当に嬉しそうに価値を分かって頂けるお客様との出会いに感謝致します、と深々と頭を下げて見送ってくれた。

 聞いた話では、冒険者らしき客は値切り交渉ばかりで挙句に怒鳴り散らしていくわ、商人ですら価値を分かってくれない客が増えたそうだ。


 ああ、俺は絶対欲しかったから値切るって考えがなかったな。それが好印象になってたわけか。本来は時刻合わせと少しの充填と化粧箱のみで、あとは有償らしい。


 うん。ほんとラッキーだったな。いい買い物をした!




 買い物で時間をかけたのですでに時刻は17時。

日が沈みかけて朱色から薄暗くなり始めた。


 宿に戻った俺達は馬車を預けてから晩ご飯を女将さんに注文して、部屋へ向かおうとした時に肩を叩かれた。


「くれぐれも、よろしく頼むよ?」


 にっこりと笑顔で告げてくるが、ただ怖いだけの笑顔だった。


「そういうのじゃないんですってば。勘弁してくださいよほんと」


 肩を離した女将さんに苦笑で返して全員で部屋に入った。




「さて。今日の晩ご飯は全部宿の注文で済ませるとして、荷物整理の前に俺は時計の保護カバーを作っちゃいますね」


「あれ?袋とチェーン貰ったよね?」


 早速時計をチェーンと袋に繋いでポケットに仕舞っていたユウが時計を取り出して聞いてくる。他の人も不思議に思ったみたいだ。


「時計って壊れ易いと思うし、持ったまま戦闘なんてしたらもっと壊れると思わない?だから、俺の袋作成でパスケースというか、ジプロックで防水仕様みたいな感じで入れておけば早々壊れないはずだよ」


「ああ!それなら多少乱暴に扱っても、もし下に落としたとしても大丈夫そうですね!」


「こんな高い物だし、壊れないようにしとけば安心だね!」


 沙里ちゃんと美李ちゃんも納得してくれたようだが、またもや俺達異世界人ばかりに通じる話になって

しまった。そこは申し訳ないが、ちゃんと全員に分かるように説明して理解してもらった。





 ユウには実際に別の物を袋に入れてから剣で斬りつけてもらって袋スキルの耐久性を実感してもらった。なんか実演販売というか通販番組みたいなやり取りに笑っていたら訝しがられたが、それを説明したら同郷の3人が笑っていた。




 あー、今日は元の世界ネタだらけですんません!

姫様、トニアさん、ピーリィ、ベラの4人には分かりづらかったろうし。


 ユウが加わって同郷人が増えたせいか、どうにもそっちへ話が流れていっちゃうんだよなぁ。



 とにかく、まずは時計用の保護袋を作っちゃおう!



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