製品の売り込みと焼肉
「よーし!今日の予定を消化しよう!」
ミンサーお披露目試食会(すでにミンサーは店でお披露目されてたが)から一夜明けた朝。まずはいつもどおりに袋の作成(1000枚)、猪バーグとワニつくねのタネの製造と袋詰め、道具の片付けと仕込み、ソースの製造と袋詰め(夕べ作った小袋)。これだけで午前中が終わってしまった。
袋詰めする際に使われる”はかり”は手動の台はかりだ。しかも重りを横にずらしてバランスが取れたら確定っていうやつ。この世界にバネがないからこういう天秤のような釣り合いを取って量るしかないんだろうなぁ。この辺りもあとで改善したい。
着替えなどを入れるために貰っていたショルダーバッグに袋付与をし、中に出来上がったものを詰め込んでいく。これ、中に入れて運べば軽くなるのは助かる。しかも見た目はただの鞄だし、使用者制限というセキュリティも万全だ!さすがLV2!
昼過ぎからはこちらから店へと出向き、今回はちゃんとした商品の形で製造して旦那様と姫様に交渉に来ていた。販売価格の決定と、その後旦那様が取引のある料理屋兼宿屋の人への売り込みもあるため、俺が焼き方を見せる仕事もあるのだ。
まずは猪バーグとワニつくねの原価をざっくり計算したものを報告。
猪バーグ(1コ100g仮定)原価
肉 2G+調味料 2G+玉葱・ニンニク・パン粉・牛乳・卵 3G=6G*10倍=1袋60G(1kg入り)
ワニつくね(1コ100g)
肉 1G+調味料 2G+しょうが・鶏がらスープ 1G=4G*10倍=1袋40G(1kg入り)
となる。調味料やその他食材が高く見えてしまうが、実際は単に肉が安いからこうなっただけで、もし牛と豚でハンバーグをやれば1袋150G弱と、下手をすれば3倍に膨れ上がってしまうのだ。貴族相手ならこっちでいいが、なるべく関わりたくない相手に商売はしたくない。面倒事はいやだし。
これはうろ覚えだが、原価は売値の6割を超えたら経営として成り立たないって聞いたことがあるから、売値は倍の120ゴールドかなぁ?この売上から姫様への返済、旦那様への手数料、自分への儲け(純利益)をを考えて……
・猪バーグのタネ
1袋(1kg入り):150G(原価60G+姫様15G+旦那様15G+自分60G)
・ワニつくね
1袋(1kg入り):100G(原価40G+姫様10G+旦那様10G+自分40G)
以上で決定された。
本当は120ゴールドの100ゴールドで決めてここから旦那様への家賃を考えればいいかと話したら、家賃を取るつもりは無かったのだがと苦笑され、ならその分もっと価格を上げなさいと姫様に言われてしまった。
その後宿屋の主人達を相手に焼き方の実演とサンプルとして1人1袋ずつを持たせて、返答は後日ということで今回の交渉は終了となった。猪とワニという普段人気の無い肉に半信半疑だった人達も、ハンバーグとつくねを食べてみた事で良い意味で驚いてくれた。つかみはばっちりだ!
ちなみにハンバーグは100gで成形し、ちょっと厚みを無くしてオーブンは使わない形で焼き上げた。オーブンまで手間をかけると、客数を回す店では難しいからだ。つくねはこの世界でもある串焼きの要領と同じなのでそのままにした。あとは肉団子にしてスープに入れてもいいし、調理方法のアレンジは色々試してください、と伝えてある。
サンプルを持って帰る人達に挨拶をしつつ送り出し、今は店でお茶を飲みつつ今後の話をしていた。このテーブルには姫様・旦那様・俺、隣のテーブルには遠藤姉妹、トニアさんは茶道具の乗ったキャスターテーブルの横から動かない。
「城からの配給金を使わないで貯金するための生活費を稼げればいいと思ってたんですがねぇ」
パリパリ。
「ヒバリ殿、大金を稼げとは言わないが、暮らしていく上であって困るものではないんだ。稼げる時に稼いでおきなさい。まぁもっとも、これはもっと高くても売れると思うがね!」
パリパリ。
「ニング卿のおっしゃるとおり、ヒバリ様はもう少し欲張ってもよろしいかと」
パリパリ。
「ひばりお兄ちゃん!ポテチまだあるー?」
「もう、美李はちょっと食べすぎよ?ちゃんと晩御飯食べられる?」
「ハッハッハ!これは食べやすくて止まらんね!是非うちも扱わせてくれ!」
お茶請けと言っても晩飯前だったし、厨房に残っていたじゃがいもをいただいて、簡単に作れるポテトチップスを出していた。味付けは塩を振っただけ!でも皆手が止まってないのが面白くてまた追加で作ってしまった。
毒見だと押し切ってトニアさんにも食べさせたら喜んでいたようなのでこっそり袋に詰めて後で渡してあげよう!彼女は仕事だからと皆と一緒に食べないから、なんとか同じテーブルを囲んで食事してみたいんだよね。姫様が言ったら”命令”になっちゃうからそれは避けたいんだよねぇ
店を後にし、帰りは姫様の馬車で送ってもらっている。今日も晩御飯は皆でうちでご馳走する事になっているのだ。遠藤姉妹は店かうちかの違いだけだが、姫様はほんとに大丈夫なのかな?やっぱり聞きづらい……
まぁ考えても仕方がない。ここは切り替えて美味しいものを食べてもらおう!
帰宅してからさっそく準備に取り掛かる。今日の献立は焼肉。猪肉は事前に血抜きし叩いて柔らかくしたものを用意しておいたのでそれを薄く切って並べ、ついでに豚と牛も切っておいた。タレの方は朝に作っておいた袋詰めを出すだけ。あとはつけ合わせの葉物野菜や簡単なサラダ、そしてこちらも朝作っておいたマヨネーズも出しておく。
焼肉のタレは、ニンニク・しょうが・唐辛子・リンゴ・玉葱をすりおろし、醤油・酒・砂糖・胡椒と一緒にゆっくり煮詰めるだけ。メイン食材は玉葱なので煮ている時にちょっと目にくるが、至って簡単なのだ!
マヨネーズも酢と塩と卵と油さえあれば、後は乳化させるために少しずつ油を入れながら根気よく混ぜるだけ。酢が少ないと食中毒になる心配があるって?そこは鑑定先生に状態確認をお願いしてちょうどいいバランスは確認済みさ!ほんと、泡だて器を作ってもらっていてよかった……
こうなればあとは焼くだけなんだが、せっかくなので移動できる小型コンロをテーブルに置き、底の浅いフライパンを鉄板代わりにこの場で焼いて食べる事にした。そして姫様とトニアさんにはフォーク、遠藤姉妹には箸を渡し、俺は箸と焼くために使う菜箸を準備。
「さて。あとはこの鉄板というかフライパンで焼いて食べるのですが、箸が使えるのは俺達3人だけ。なのでトニアさんは大人しく座って食べてもらいます!これは決定事項です!」
勝ち誇った様に言う俺と戸惑うトニアさん。はっはっは!今のうちに焼き始めちゃえー!
そして焼きあがった肉を次々に皆の小皿にのせ、タレにくぐらせてからそのまま食べたり、野菜に包んだりと思い思いに楽しんでもらう。本当は野菜も焼こうかと思ったけど、さすがにフライパンじゃ狭すぎて諦めた。あとでBBQもしてみたいね。
「目の前で焼いてそれをいただけるなんて初めてです!ヒバリ様、美味しいです!」
「はい姫様。この焼肉というシンプルでありながらも召し上がり方も様々で面白いですね」
「あたしは牛がだいすきです!もっとおねがいします!」
「美李、待っててね。ヒバリさん、焼くのを交代します。私なら菜箸は使えますからね」
そう言って俺から箸をもらい、焼き始める沙里。自分でも食べたかったし、ここはありがたく食べさせてもらおう。ついでにもう少し肉を追加し、みんなで楽しく平らげた。
最後は姫様以外(やろうとしてたが止めた)で片付けをして、俺が道具を煮沸消毒のために袋詰めして中に熱湯を注ぐのを見ていた沙里が声を掛けてきた。
「ヒバリさん、それは何をしているんですか?」
「これは熱湯による消毒をしているんだよ。本来は鍋にいれて煮沸消毒をしたいんだけど、ここは燃料である魔石を無駄に使いたくないからね。それに、俺の作った袋を使えば中に入れた物は温度が固定されるし、閉じれば時間経過止めてるから雑菌が繁殖出来ないんだ。
本来は食中毒の原因である菌の繁殖条件は、
・時間(放置
・水(生物には水分が必須
・温度(人に過ごしやすい温度=菌も同様
・餌(食材カス等
と、大まかにはこんな感じなんだよ。
でも袋詰めしちゃえばこれの全てがクリアされるからね!食中毒対策は万全なんだ!」
………あれ?なんか沙里ちゃんが困った反応してる?
「沙里ちゃ…っと、沙里さん、何かおかしかった?」
沙里ちゃんは横の姫様とトニアさんを見て助けを求めていた。
その視線を受けて、姫様がこちらに話しかけてくる。
「ヒバリ様。衛生面の問題なのですが、水魔法の特徴のひとつである浄化によって、器具等様々な物の消毒は出来るのです。そしてこれは魔石としても流通されていますので、よろしかったらご用意いたしましょうか?」
……なん、だ…と?
俺が熱い思いをしながらやってた作業は魔法で一発だと!?
呆然と立ち竦む俺に、純真無垢な追い討ちが届く。
「ヒバリお兄ちゃん、消毒のまほういるの?あたしできるよ!えーいっ!」
ぱぁっと手元とその対象を淡く光らせて、浄化の魔法とやらを器具にかけていく。
一応全て袋に詰めて片付けは終わった。
なんとか平静を装って皆を見送り、体を拭いてからベッドに倒れこむ。
「衛生管理を熱く語った俺、絶対ドヤ顔してたよ!恥ずかしいわ!」
ゴロゴロとのた打ち回り、やがてそのまま寝てしまうのであった。
予定ではあと1~2話で1章が終わります。よろしくお願いします。