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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第8章 南の国境街へ向けて
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訓練と勉強

「これほんとなの!?おかしーって!」


 メモを見たユウが騒ぐ。




 鑑定スキルがあるからとみんなのステータスを書き出したんだけど、

ユウにはお気に召さなかったみたいだ。



「ユウとベラはいつもどうやって戦闘してたの?」


「んー?ボクが槍持って前衛で、ベラが片手剣と盾で後衛かな。ボクが食らいそうな攻撃をベラが逸らしてくれるの。あと少しの傷なら水魔法で治してくれるよ!」


 この前まで遺跡迷宮にいたってことは、ある程度の広さはあるだろうけど、そこで槍の前衛に合わせるって……ベラって結構苦労してるんじゃないか?


「バランス悪くない?ユウの槍を掻い潜るベラが凄い気がするんだけど」


「うっ……ボクが連携下手なんだよぉ」


 自覚してたのか、気まずそうな顔で視線を逸らすユウ。

分かってたならなんとかすればいいのに……



「それよりも!ヒバリの魔力おかしいじゃん!城に居た頃の魔法得意な子よりもめちゃくちゃMP高いのなんで!?」


 自分の不利を悟ったユウが強引に話を戻す。


「だからさっきも言ったけど、固有スキルに沿った鍛錬をすればステータス上がり易いんだってば。俺達3人は毎日数時間以上欠かさず集中してやってるようなもんなんだよ。ユウ達は同じ事してる?」


「そ、そんなにはしてないけど、ちゃんと遺跡迷宮とかで戦闘してたよ!」


「戦闘時間は?」


「1回に……5分しないで倒してたもん!」


「1時間に何回くらい戦うの?」


「え?えーっと……3〜4回?くらい?」


「訓練……鍛錬みたいなことは?」


「し、してない」


 ユウの声は段々と小さくなって行き、ついには完全に勢いが無くなってしまった。うーん、実質1時間で15分ちょっとってことか。


「ヒバリさん、遺跡に挑む冒険者としてみればそれくらいが普通のようですよ?戦闘だらけになって探査が出来なければ得られる財も得られませんから」


 話を聞いていたトニアさんが、顔はこちらに向けずに馬を操りながら話しかけてきた。

ユウがあれだけ騒げば気になるよね!


「ああ、宝探しみたいな面が強いのか」


 そりゃ戦闘ばかりしてたらまったく進めないよね。

一攫千金目当てなんだろうし、むしろ戦闘は避ける人が多いのかもしれないな。


「その紙を見せていただいてよろしいですか?」


「あ、じゃあ俺が御者を変わりますよ。どうせ戦闘のアドバイスなんて出来ないですからね」


 そういって御者台に行き、トニアさんが幌の中に入る。昨日からほとんどトニアさんに御者を任せちゃったから丁度いい交代だったかも。




「ユウさんとベラさんの魔法技能が極端に少なすぎますね。特にユウさんは勇者としての成長が望めるはずがこれでは……

 それと、ユウさんの固有スキルの性能は槍でなければなりませんか?自分には盾役として前衛に立ち、時には盾によるスキル突進で道を開く使い方を提案いたします」


 トニアさんはざっと紙を読んでからしばらく熟考し、これからのユウの立ち回りに意見を述べた。それと、ユウとベラがまったく魔法の鍛錬をしていない事も指摘した。


「魔法は……なんか苦手なんだよー。ベラも水が苦手なのに水の適合者で、なんだかやりにくそうだし。

 あと、盾でスキルは使った事無いから分かんない。ボクは源じーに槍を習ってたから、槍以外は使ったことないんだ。早く動くのが苦手で、それをスキルでカバーしてたから盾ってどうだろ……」


 突進と言えば槍だろうから、槍ばかり使ってたのは分かるなぁ。でも、トニアさんの言う所謂シールドチャージも納得出来る。止まらない盾突進て、盾が強力なほどやばい威力じゃないか?


「盾、面白いんじゃないかな?ニアさん、奥の訓練所で試してみたらどうでしょう?武器は短槍にするって手もあるし」


「自分も試すべきだと思います。素早さ重視ではなく皆を守り攻撃の機会を作り、時には突進で蹴散らす。パーティ戦において高い効果があるでしょう」 


「えっ?そ、そうかな?そこまで言うなら、やってみよっかなー」


 2人から後押しされて満更でもなくなったのか、ユウは試す方向で話を進めるみたいだ。


「ではさっそく昼食の前に検証してみましょう。ヒバリさん、こちらをお願いしても?」


「はい、大丈夫です。あ、一応だれか連絡役に1人寄越して下さい」


「分かりました。ではユウさん、参りましょう」


 なんだかんだとトニアさんは訓練好きだよなぁ。あれ、内心はかなり昂ぶってるぞ。ユウ、頑張れ!




 こうしてトニアさんとユウが訓練のために居住袋に入って行き、代わりにピーリィが出てきた。


「じゃーん!ピィリがヒバリのオセワしにきました!」


 いつもハーフパンツだったピーリィが珍しくスカートを履いてきていた。いや、正確には黄色のワンピースだ。袖は翼を通すために無く、それがこの海の見える景色と相まって夏っぽくていい。


 すぐにクッション持参で御者台の隣に座ってにかっと笑う。


「おお!ピーリィ新しい服着てきたんだね。よく似合ってるよ。お嬢様っぽくていいね〜」


「にあってる!?かわいい?かわいい?」


 さすがに暴れはしなかったものの、褒められた事が嬉しいのかヒバリの腕にくっついてぐりぐりと頭を押し付けてきた。


「うん。可愛いよ」


 手綱と鞭を左手で持ち、右手でピーリィの頭を撫でると、今度は脇腹に頭を擦り付けてくる。しばらくするとそのままもたれかかった静かになり、ぼそっと呟いた。


「ルースにもみせたかったー」


 まだ別れて1日しか経っていないが、すでに寂しさが湧き上がってしまったようだ。なんだかんだと世話してくれてたからなぁ。



「あ……そうだ。ピーリィ、今は会えないけど、手紙ならすぐに届けられるよ?」


「てがみ?」


 意味が分からずに顔を上げて首を傾げた。


「えーっと、ピーリィって字は書けたっけ?」


「んーん。かけない」


「あ、そこからか……それなら字を習って、ルースさんに手紙出してみようよ!手紙を書ければルースさんとお話できるぞー?」


「ほんと!?ピィリ、字かいてルースとおはなししたい!」


「じゃあ昼ご飯の時に皆に話してみよう!」


「うん!」


 ご機嫌になったピーリィが足をぱたぱたさせながらまたぐりぐりと頭を擦り付けてくる。うん、準備しておいてよかったな。




 それから1時間もしないで昼食の準備が出来たと美李ちゃんが声を掛けに来て、ご飯に反応したピーリィがきゃっきゃと美李ちゃんに抱きつきながら居住袋へと戻っていく。


 さて。じゃあ俺は馬車を止める場所を探しますかね。



 街道を少し外れた林の陰に馬車を止め、周囲をレーダーマップの範囲を広げて確認する。


「……うん。今のところ後続の馬車はないか。先に進む馬車はいるけど、それは問題ないしな。あとはー……進行方向から来る馬車がいくつかあるけど、通り過ぎた後に出発すれば大丈夫か」


「えーっと、ヒバリさん?」


 気付くと沙里ちゃんが馬車を降りて俺の後ろに立っていた。


「ん?どうかした?」


「その、独り言のようにブツブツ言ってたから、声を掛けて大丈夫かなって」


 あれ?声に出してたか。やばい恥ずかしいな。


「ああごめん、ご飯出来たのかな?」


「はい。ニアさん達は忙しいので先に食べようとサリスさんから言われたから呼びに来ました」


 たちってことは……まだ訓練してるのか!

向かう時にかなりやる気だったからなぁ。2人とも頑張れ!




 馬車を居住袋の中に入れ、馬達にも餌や水を用意してからキッチンへ向かうと、案の定3人以外が座って待っていた。


「ニアはユウさんとベラさんの訓練をもう少し続けたいから先に食べてください、とのことです。遠慮せず先に頂きましょう」


 姫様は特に気にせず落ち着いていた。

まぁトニアさんだからそんなに無茶はしないだろう……しないよね?



「とにかく、冷める前に食べちゃおうか。3人の分は袋に入れておけば大丈夫でしょ。あ、沙里ちゃん今回も1人前は、」


「もう箱に入れてありますよ」


「ありがとう。じゃあ、いただきまーす!」


 最近米続きだったから、今日はハンバーガーにしてくれたようだ。付け合せはポテトフライと数種類のピクルス。それと唐揚げも大皿に盛り付けられている。


「ピクルスなんて何時の間に作ってたの?」


「下準備の時に残った野菜で何か出来ないかなって試してたんです。他にも試したいけど、わたしピクルス以外は塩もみくらいしか知らなくて……」


 沙里ちゃんも色々試してるんだなぁ。俺も何か漬物作りたくなってきたな。


「へ〜。俺はたくあんはわからないけど、醤油漬けやぬか漬けなら分かるよ。あとでやってみよっか!」


 沙里ちゃんと料理で盛り上がっている横では、美李ちゃんとピーリィがポテトや唐揚げを食べさせあっていたり、最近は何でもチャレンジといった風にフォークやナイフを使わずにハンバーガーを手に取ってぱくっと食べる姫様。うん、皆楽しそうだ。


 そこへ、


「わーん!ニアさん厳しいよぉ!」


「うぅ……魔法、苦手だ……」


 トニアさんがユウとベラを連れて戻ってきた。


「お疲れ様。って、ニアさん魔法も教えてたんですか?」


「はい。さすがに召喚勇者が初級の火魔法1つでは余りにももったいなさすぎましたので」


 うわぁ……戦闘スタイルの試しだけだと思ったら魔法もやってたのか。そりゃベラも災難だったな。いや、生き残る力って意味ではいい機会だったんだよな、うん。


「すぐに3人の分も用意しますね」


 沙里ちゃんが席を立って3人のハンバーガーを並べる。俺は甘い物を出そうと考え、簡単な蜂蜜レモン水に氷を浮かべてピッチャーをテーブルの真ん中に置いた。それとコップに入れた分を全員に置く。


「初めの1杯は配っておいたから、残りはここから入れてね」


「ぷはぁ〜……美味しい!もう1杯!」


 さっそく一気飲みしたユウがコップを差し出す。

いや、おかわりは自分でって言ったんだけど。まぁいいか。


「はい、次からは自分で入れてね」


 ついでに空になっていたり減っていた全員にもう一度注いでおく。




「あ、そうだ。ピーリィ、サリスさんにお願いがあるんだよね?」


 皆昼ご飯を食べ終わってデザートのプリンを食べながら、沙里ちゃんからもらった箱型袋をノートと共に収納しておいた。その時にさっき話していた事を思い出したので話を振る。


「あ!サリス、あのね……?ピィリに、字をおしえて!」


「あら。私でよければお教えしますよ。でも、どうして急に覚えたいと思ったのです?」


 姫様はピーリィの方を向いて話を聞きすぐに承諾するが、何故覚えたくなったのか気になったようだ。それは周りの皆も同じみたいだ。


「えっとね、ヒバリが、ルースにオテガミをかくとおはなしができるっていったの」


 定住してないルースさんに手紙が届くのか?と、誰もが訝しげに俺の顔を見る。そうだよね、普通はそうなるよね。



 さすがに皆に見られた状態ではちょっと怯んだけど、軽く咳払いをして詳しい話をすることにした。


「えーっと、実はルースさんと別れる前……正確には男爵のあの騒動が終わった後なんだけど、袋詰めスキルがLV6になりました」


 少しして沙里ちゃんが「あっ」と小さく声を上げるが、他の人にはまだそれがどういうことか、次の言葉を待っていた。そんな中でユウが手を挙げる。


「ちょっと待って!固有スキルにレベルなんてあったっけ?そんなの聞いた事無いよ!?」


 ユウはあのステータスを書き出したメモでは気付かなかったらしい。

そもそも他の召喚勇者のスキルなんてこっちも知らないしなぁ。


「俺の袋詰めにはあるんだよ。で、LV6の効果が……」



”能力付与をした袋同士のリンクを形成し、生物以外を共有することが出来る”



「つまり、この共有スキルを付けた袋同士はどちらからも出し入れ出来るんだ。だからこれから食材庫やアイテム収納もこのスキルを付けた物に作り直して、買い物したら即ここに入れられるんだ」


「だから最近1食多く作らせていたんですね」


 ここまでの説明で沙里ちゃん、姫様、トニアさんは納得したらしい。他のメンバーはまだよく分かってないみたいだ。特に沙里ちゃんにはご飯を別に包ませていたからすぐに分かったようだ。


「で。この共有化をした鞄型の袋はルースさんにも持たせてあったりする。生き物はダメだけど、ご飯やノートは問題ないからね。だから、字が書ければ時間がある時にルースさんが読んでくれるんだよ!」


 一旦仕舞ったノートを取り出し、ルースさんから返事があるのを皆に見せる。と言ってもまだ2日目だから少ないが。


 おおーっと驚く声と、感心してノートと袋を見て触るメンバーに別れた。そしてあることを突っ込まれる。


「ヒバリさん、字……汚いですね」


「えっ?」


 姫様の一言に一斉にノートに群がってルースさんの字と比べられ、


「あ、ほんとですね」


「あたしよりきたなーい」


 遠藤姉妹も納得の出来のようだ!



 ……あれ?俺達召喚者って自動翻訳みたいに言葉の読み書きは勝手に出来る様になってたよね?いや、元から字は汚かったけど、ここでもそれは適用されちゃうの!?


「これは、ヒバリさんも一緒に字をお教えしましょう」


 にこやかに姫様が告げる。


「あ、ハイ……」



 周りではベラも教わりたいと手を挙げ、ユウや沙里ちゃんは字を書いてみて合格をもらっていた。美李ちゃんは一緒にやってみたいらしく、わたしも!と手を挙げている。




 その様子を1人納得がいかず凹むヒバリの姿があった。



 えぇー……そこは異世界に飛ばされたオマケ補正でなんとかしてくれるものじゃないの!?




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