表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第8章 南の国境街へ向けて
87/156

初めての海と海水確保

少し短めです。


拙作を読んで頂けたら幸いです。

「ヒバリさん、おきてくださーい。朝ですよ〜」


 沙里ちゃんの声で意識が浮上してくる。


 薄目を開けた時に陽の光が差し込む心地よさにまた目を閉じる。いつの間にか俺の上に、いや、いつもどおりいるピーリィを無意識に撫でてそのまま……


「はーい、起きてくださいねー!」


 ぺちぺちと額を叩かれる。しゃーないなぁ。

もそもそ動いて、なんとか上半身を起こす。


「わたしは朝ご飯を作ってきますから、ちゃんと準備してくださいね?」


 そう言って沙里ちゃんは和室を出て、パタパタと足音をたてて遠ざかって行く。




 俺はやっと目が覚めてきて辺りを見回す。そして部屋へ差し込む朝日を見る。


「おー、ちゃんと陽の光入ってる。東向きに設置しといた甲斐あったなぁ。晴れてよかったよ」


 この世界でも太陽は東から昇り西に沈む。せっかく初の窓もどき設置してみたのだから、居住袋も東向きにしてみた結果がこれだ。


「よし、起きよう!ほら、ピーリィもそろそろ起きよう?」


 まだ俺の上に乗ったままのピーリィを揺らして起こし、残りのユウと美李ちゃんはベラにお願いして和室を出る。姫様とトニアさんはすでに起きて部屋にはいなかった。



 俺もまだ軽くぼーっとする頭で和室を出て、キッチンとの境目の段差で靴を履く。



 以前の居住袋と違う場所はここにもある。


 和室のみ土足厳禁にしていたのを、キッチンより奥全てを土足厳禁にしたのだ。一応袋スキルでスリッパも人数分用意してみた。


 俺は素足のままで歩くけどね!


「沙里ちゃんごめん、顔洗ったら手伝うから!」


「わたし1人でも大丈夫ですよ〜。それより美李達をお願いします」


「了解。あ、それと1人前多く作って、それを別の袋に入れてもらっていいかな?」


「袋に、ですか?」


「うん。これに入れておいて欲しいんだ」


 さっと箱型の袋を作って沙里ちゃんに渡す。不思議がっていたが了承してもらえたので、俺は寝坊組の様子を見にまた和室へ戻った。

 和室の扉を開けた時ちょうどベラに起こされた3人が出てきて顔を洗いに行く。今回は風呂部屋の脱衣所に仮組みで洗面台を設置したので、今日からはキッチンの脇じゃなくここでゆっくり身支度が出来る様になった。


 これはもっと早くやるつもりだったけど、色んな事がありすぎたのと、キッチンの脇で顔を洗うのに慣れちゃって忘れてたんだよね。風呂場作り直す前にユウに言われてよかったよ。




 1時間ほど魔力制御や魔法、武器の扱いの訓練をして、再度全員が揃ってから朝食を食べて一休み。


 別口で作ってもらった朝食をノートと一緒に袋に入れて、俺も後片付けを手伝った。

 この後は村の先にある海辺に行って、出来れば海水を取りたいのだが、大陸の南側は砂浜よりも崖が多く海も荒れ、それ故に漁業もあまり盛んではないらしい。



 沙里ちゃんとトニアさんが御者として座り馬車を走らせ、2時間くらいが過ぎた頃には村が見えてきた。


 少しだけ立ち寄った村で入っていい砂浜の場所を聞いて、実際に海沿いに到着してみたら漁業が少ないのがよくわかった。


 荒々しい崖が多く、その間にちょっとした砂浜があった。そこはビネン湖から伸びた川が海へと至る場所で、川を中心に砂浜が広がっている。その川沿いでは貝がよく獲れるようで、さっそく村で買わせてもらっている。

 しかし、この周辺以外は入り組んだ崖、リアス式海岸のような場所が多い。これなら港の様な施設があるかと思ったが、生憎とどこにも見当たらなかった。

 こちらには護岸工事という概念はないようで、わずかにある砂浜に小船を停泊させ、砂浜の終わり際に石を積み上げた船着場を作って中型船の停泊所にしていた。小さな村がいくつかある程度では設備投資は厳しいのだろう。


「海のことは詳しくないけど、これじゃ沖まで出て漁業ってのは難しいんだろうなぁ」


「南側は海の魔物や魔獣も大型が多いので、あの程度の船ではたちまち餌となってしまうでしょうね」


 1艘だけある古い中型船を見ながらトニアさんが答えた。


「さっきの村で少し魚介も買えたし、あとは海水いっぱい汲み上げて戻りましょう」




 よく晴れた砂浜は熱かったが、海水に入ると気持ちいい。


 海に入る面子は皆ハーフパンツにしている。上着は各個人に任せて俺はTシャツ1枚にしておいた。隣のトニアさんは更に服を羽織っていつでも武器や道具をポケットから出せるようにしていた。

 


「じゃ、これでしばらく待ちますか。やっぱり裸足じゃ熱いし、今度はサンダル型の靴も作ってみようかな」


 中を拡張した30cmくらいの立方体型で半透明の青袋を浅瀬に沈める。これを放置すれば1個につき10tくらいになるはずだ。見た目は小さくても中身は10mにしたつもりだから、これで海水は複数のタンクに確保出来た。

 ちなみに、最近は水も半透明な水色の箱型袋に予備を作ってある。同じ容量が入るもので、水の魔石がなくなったとしても飲用水を切らす心配はない。



 おっと。思考に耽っていたらどれも中身が溜まったらしい。


「おーい、美李ちゃーん!これに消毒魔法おねがーい!」


「はーい!」


 波打ち際で遊んでいた美李ちゃんがばしゃばしゃとこちらへ駆けてくる。俺とトニアさんがいる場所は50cmもない深さだから美李ちゃんでも溺れる事は無いだろうけど、念のために海から上がって青い袋を並べておいた。


 ピーリィとベラは海水はべたつくから嫌だといって近づかず、姫様と沙里ちゃんは近くの日陰で休んでいる。元気に海で遊んでいたのは美李ちゃんとユウの2人だけだった。


「これを片付けたら出発するから、海水に浸かった人は先にシャワー行っちゃって!」


「えー!もう少し遊ぼうよー!」


 ユウがざばぁっと海水から上がって髪を振って騒ぐ。


「遊びに来たんじゃないんだから、そこまでにしてよ?」


 厚めの上着を手前で縛って水着代わりにしたユウが、不満顔でこっちに来る。ハーフパンツを折り畳んでさらに短くし、結んだ上着からへそが見える。つまり、露出度が圧倒的に高い!


「あーもー、どうせ洗濯は沙里ちゃんがするんだから、皆一斉に出してあげた方が楽でしょ?早くシャワーあびてくれないと俺が入れないんだよ!」


 視線を外して馬車を指差し、とっとと向かわせる。


「ヒバリおにいちゃん、終わったよ」


 ふぅ、と息をついて美李ちゃんがぺたんと座る。


「ごめんね、水の時より量が多かったからかなり魔力使っちゃったみたいだね。美李ちゃんもシャワー浴びてゆっくりしておいで。あ、ニアさんも一緒に行ってください。付き添いありがとうございました」


「はい、ではお言葉に甘えて失礼します」


 こうして2人を見送って、俺も箱型の袋を収納して馬車へ戻る。女性陣が全員シャワー浴び終わるのを待って、俺も浴びて出た時にはすでに馬車は走り出していた。



「王都にいた時に作った水着も持って来ればよかったなぁ」


 トニアさんが御者をする馬車で、俺はいつでも交代できるように居住袋から出て色々な袋を作っていた。一応鎧代わりの袋スキル製上着を着ている。

 何が面白いのか俺の作業をユウが横で見ていたが、10分もしないうちに飽きたようで声を掛けてきた。


「王都にはプールでもあったの?」


「そんなのはないよ。王都から北へちょっと行けば海に出られるし、あっちは浜辺も港も大きいのがいっぱいだったじゃん」


「ああ、そういうことか。俺達3人は王都で軟禁されてたから、街の外に出してもらえなかったんだよ。だから海が近いってのも初耳」


「えっ!?えっと……ごめん」


 クッション袋でごろごろしていたユウががばっと起き上がり、申し訳なさそうな顔で謝ってくる。


「んー……別に不自由な生活どころか姫様の紹介で結構いい生活させてもらったから大丈夫。出かけられないのは残念だったけど、商売に料理に忙しかったしなぁ。うん、充実してたと思う」


 そういや、ニング卿は無事かなぁ?


 ぼんやりと考えながら生活用や食材用の袋を補充していく。



「そっか。ヒバリ達は訓練もこの世界のことを教えてもらう事も、外に連れてってもらうこともなかったんだね」


「姫様やトニアさんが色々教えてくれたし、たまに源さんが来て稽古してくれたし、何より食品加工の商売でお金稼げたから、なんだかんだでいい生活してたよ?」


「でも体鍛えないとステータス上がらないよね?今朝も1時間だけだったし、それじゃ強くなれないじゃん!助けられた時、皆弱くみえなかったよ?わけわかんないよー」


「訓練はしてるんだってば。えーっと、ユウ達戦闘スキルを持った人はそれを鍛えると強くなれるでしょ?俺達のスキルは戦闘向きじゃなかった。

 でも、スキルに合った事をするとステータスがあがるんだよ。美李ちゃんは畑仕事を、沙里ちゃんは家事を、俺は袋詰めを。だから俺達はそっちを重視してるんだ」


 ユウは難しい顔をしてうんうん唸っている。そんなに難しい話はしてないんだけどなぁ。


「鑑定宝珠があるわけじゃないし、どれくらいかなんて戦ってみないとわからないよー」


「ああ、俺鑑定スキルも持ってるから書き出そうか?」


「えっ?ヒバリってスキル2個もあるの!?」


 ああ、そこも言ってなかったっけ。そういえばあの男爵邸の戦闘ってユウ達はほとんど居住袋の中にいたから俺達の戦い方見てないのか。”初心者冒険者は越えてる自信あるけど、人を殺した事が無い危うさが残る”くらいって評価を姫様から頂いてる。


 トニアさんには俺はまるで暗殺者だと何度か言われたっけ。


「ちょっと紙と書くもの用意するか」


「あ、ヒバリさん。お待ちください」


 立ち上がって居住袋の中に行こうとしたら、御者をしていたトニアさんから声がかかった。


「こちらを使って下さい。それと、先ほどからトニア、そして姫様と呼ばれていますのであとで……」


 紙と筆とインクを渡しながらトニアさんが言う。


 後でってなに!?気付かなかったのは悪いが、せめてその続きを言ってよ!



 どうせだから全員鑑定して書き出しておくかぁ。はぁ。




今回の話の最後にあった鑑定結果は、第8章前の閑話に資料としてステータスの一覧を置いておきます。


さすがにこれを本編に置いても仕方ないと考え、別にさせて頂きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ