表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/156

家事のお礼

第7章2話の間の話です。


拙作を読んで頂けたら幸いです。

 美李ちゃんとピーリィが試作中の浴槽で遊び、沙里ちゃんに怒られながら服を乾かしてもらった後の事。



「最近は沙里ちゃんにほとんどの家事を任せちゃってるよね」


「えっ?どうしたんですか、急に」


 2人を乾かし終えた沙里ちゃんが不思議そうに返事をする。


「ほら、洗濯も掃除もご飯も沙里ちゃんがほとんどやってるでしょ?」


「料理はヒバリさんもやってますよね」


「うん。でも家事でやってるのってそれだけじゃん。沙里ちゃんは俺のも含めて洗濯してくれてるでしょ。女の子にパンツまで洗ってもらうのは最初抵抗というか申し訳なさがあったけど、今じゃ当たり前に思ってたからさ」


 魔法とはいえ、まだ高校生の彼女におっさんのパンツを洗わせてるんだよねぇ。しかもうちのパーティの服はほとんどが沙里ちゃんの裁縫で作ってもらってる。勿論俺のパンツも元の世界のようなトランクスを縫ってもらったわけで。



「んー……確かに初めはここの生活に慣れるためにと思って必死でしたけど、今では当たり前のように感じてるんですよねぇ。それに、わたしのスキルって家事をするとどんどん簡単に出来る

ようになるんで遣り甲斐あります!

 それを言ったら、ヒバリさんは袋で色々作ってるし、美李は畑仕事で美味しい野菜とか色々育ててくれてます。美李も畑仕事をすればするほど楽に……いえ、楽しんでやってます。それと同じですよ」


 だから心配しなくても大丈夫ですよ、と微笑みながら俺に言う。


「やっぱり沙里ちゃんはいいお嫁さんになりそうだねぇ」


「えっ!?ほ、ほら!それはここに来てスキルがあるからですってば!」


「嫌だったらスキルがあってもやらないよ。毎日やってくれてるから、やっぱりいいお嫁さんになれるってことだよ!」


 おっと。気付いたら沙里ちゃんの顔が真っ赤だった。あまり言うとセクハラになりかねないからほどほどに、だな。工場の時もセクハラは絶対避けるように上司が嘆いてたっけ。



 沙里ちゃんがなんかぶつぶつ言ってたけど、ここは流れを変えてしまおう!


「んっと、とにかくあれだ。毎日家事ありがとうってことで、今日は仕込みが終わったら俺が何か作るよ。食べたい物言ってね?」


「え……?あ、ああそうですね。何か食べたい物、ですね?ヒバリさんの手料理も、いいですよね」


 またなにか小声で言い始めたが、せっかくだからと美李ちゃん達にも聞いてくると言ってパタパタ駆けていく。


 最近の洗濯は美李ちゃんが受け持ってるらしい。水魔法による水洗いと消毒、そして木枠で作った物干し竿にかけて、水分だけを取り除いてその水を畑に撒いているそうだ。

 ちなみに、いつも美李ちゃんと一緒にいるピーリィが干すのを手伝っている。ピーリィが進んでやっているとか。 本当は美李ちゃんが食器洗浄もやると言ったが、そこは自分にやらせて欲しいと沙里が断ったらしい。


 そんなわけで、皆が食べたいものがいいからと聞きにいった沙里ちゃんの回答は「寿司」だった。生魚はこの世界でも受け入れられたってわけだね!




 そして馬車を走らせた後、途中からビネン湖を目指して森を歩いた後、野営の準備をして晩ご飯の時間になった。



「へい、らっしゃい!今日も新鮮なネタが揃ってますぜ!」


 前回と同じく白バンダナににエプロン姿の俺。テーブルには袋スキルで作ったショーケースに魚介類がずらりと並ぶ。仕込みは沙里ちゃんが、消毒魔法は美李ちゃんが手伝ってくれた。


「タイショー!オススメはー?」


 前回教えたことを忘れずに言ってくるピーリィ。学習能力高いな!


「へい、イクラやマスもいいのが揃ってますが、今日は白身魚の漬けやカニもいいのが手に入りましたぜ!」


「じゃあ、まえとおなじマス!」


 うん、オススメは注文されなかったな!


 さっと握ってピーリィの前の皿に置く。姫様に手を拭いてもらってから1貫を手に取って醤油をつけて一口で頬張る。目を瞑ってもっきゅもっきゅと味わって飲み込む


「タイショー、いいうでだー!」


「おそれいりやす」



「おぬしら、なんじゃその小芝居は?」


 同じく席に着いて沙里ちゃんが握った寿司を食べ始めていたルースさんが呆れたような視線を送りつつも寿司を食べ続けていた。


「いやぁ、元の世界ってどんなの?ってたまに聞かれるから、こういうのもそれっぽくしてみようかなって」


「面倒じゃのぅ。あ、沙里。次はイクラを頼むのじゃ!」


「はーい」


 本来は食べてもらうはずの沙里ちゃんが楽しそうに準備する。座ってていいと言ったんだけど、やらせて欲しいと言われるとね。

 それに、網を出してマツタケを焼き始めてるし。美李ちゃんの視線もマツタケにロックオンされてる。2人はほんとマツタケ好きだよね。




「うーん……家事のお礼のつもりだったんだけどなぁ」


「食べたいものが食べられて嬉しいですよ?」


「いや、こうさ……俺がもてなしたかったって言うか」


「家事をやってるのはヒバリさんも同じなんですから、一緒にご飯を楽しめているならそれでいいじゃないですか。私達は今は家族みたいなものです。それを遠慮されるのは、寂しいですよ」



 そっか、家族か……


 俺はあまり家庭ってやつに触れた時間が少ないから、こういうのは慣れてない分まだ遠慮しちゃうのかもしれないな。


「沙里ちゃんごめん。俺、1人暮らしの方が長いから、こういうのどうしたらいいのか分からないんだ。これからも、それは違うと思ったらどんどん指摘して欲しい」


「はい!」


 俺以上にてきぱきと寿司を握っていく沙里ちゃん。俺ももっと楽しんでいいのかもだな。さっきのピーリィとのやり取りみたいに。



「ヒバリさん、1人暮らしだったんですね」


「そうだねー。前に食品工場で毎日働いてたって言ったけど、うちは両親が子供の頃に離婚しててね。父親と暮らしてたけど、父親の再婚を期に家を出たんだよ。

 それから転勤も何回かあったし、そのままずっと1人暮らしだったなぁ。家事も全部自分でやってたし、大変さは分かってるつもりだよ」


 それが今じゃピーリィと一緒に寝ないと寂しがるとか、ほんと変われば変わるもんだよなぁ。数ヶ月とはいえ彼女がいたことあったけど、彼女から言われて別れた時はそんなもんかってすぐに諦めたくらいなのにね。



「ずっと、1人ですか……でも、今は私達との生活ですからね!みんなで分担して、みんなで協力して頑張りましょうよ!」


「うん、そうだね……」


 沙里ちゃんと笑顔を交し合っていると、美李ちゃんが手を挙げた。


「美李も頑張るからね!ヒバリおにいちゃんのパンツだっていっぱい洗っちゃうよ!」


「いや、パンツ限定にしないで!?」


 その横では、ルースさんがカラカラ笑いながらイクラの軍艦巻きを口に放り込んでいた。




 あ、ちなみに。


 食べ始めたらピーリィとトニアさんは一心不乱に食べ続けてた。早食いか大食い競争かと突っ込みたくなる速度だ。姫様はそんなトニアさんを見るのが楽しいみたいで、自分のペースでゆっくり食べていた。



 これから人探しと森の探索だから忙しくなるけど、その前にゆっくり食事を取れたのはよかったのかも知れない。



 そんな、パーティの絆が深まったと感じる晩ご飯だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ