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姫様の愚痴と酔っ払い

休みが取れた隙にちゃちゃっと!

 遺跡での魔物大量発生事件が落ち着いて宿に戻った晩。



「はぁ……」


 グラスを片手に溜息をつくノーザリス。


 グラスの中身はお酒だ。この世界では15歳で成人とみなし、飲酒も許される歳となる。だから、ノーザリスが飲んでいてもおかしくはない。



 ただ、実際に飲んでいるのを見るのは初めてだった。




「えーっと、サリスさんどうかしました……?」


「いーえー。なんでもないですよぉ?」 


 だめだ。すでに酔ってる!



 サリスさんが今飲んでるのは王都で買って置いたワインだ。


 ただのワインじゃない。実は以前美李ちゃんに「スキルで醗酵を進められる」と聞いた時、その効果を見せてもらうために頼んだのがパンとワインだったのだ。

 と言ってもうちのパーティに酒を好んで飲む人がいなかったので、主に料理に使っていただけだったんだが……


 今日は何故か姫様が晩酌をしていた。



「……なんでもないと言っても説得力ありませんね」


 はぁ、とまた溜息をつく。姫様、随分弱気になってる?


「ヒバリさん、現在の最大魔力量はいくつですか?」


「えーっと……10000ちょっとですかね」


「そうですよねぇ。私が1000、ルースさんが1500、そしてヒバリさんが10000以上ですか……私が呼んでしまったとは言え、召喚勇者様の能力は桁違い過ぎますよぉ。

 私だってこれでも真剣に魔力修行をしてきたんですのよ?それが、たった1ヶ月ほどで10倍だなんて、自信無くします!」


「はぁ。なんか、すみません」


「あ、その、別に怒ってる訳ではないのです。ただ、召喚の儀を行うまでに召喚宝珠に3ヶ月近く必死に魔力を注いできた日々が、ヒバリさんでしたらたった10日もかからずに充填されてしまうと思い至ってしまって……」


 

 一応ハズレ勇者扱いされた俺達3人だけど、基本能力と言うか成長速度で言えば全然負けてないらしい。でも、あんな扱いを受けた後で協力しろと言われてもいやだよなぁ。


 何より、魔王の話を聞いた後じゃ正直なんで召喚されたのか疑問に思うし、目的が無くなったから帰りましょうなんて言って帰れるわけでもない。



(ぶっちゃけ、だからどうした?って言っちゃうと姫様に大ダメージを与えちゃうんだろうなぁ。うーん……あ、そうだ!)




 いそいそと食材を取り出し、調理を開始する。


「あの……甘い匂いがしますが、いったい何を?」


「お酒もいいかもですが、疲れた時には甘い物がいいんですよ。せっかくだから試しに作ってみたいのがあるんですよね」


 シャカシャカと生クリームを泡立ててから一旦冷蔵保存し、小麦粉で生地を作って休ませている間にフルーツを切っておく。あとは蜂蜜を用意して、いざ生地焼きだ!



 温めたフライパンに薄く油を引いて、お玉1杯の生地を入れて、そのお玉の底で中心から外へ回すように生地を伸ばす。

 薄くなった生地の端が少し浮いたらひっくり返して、両面に軽く焼き色を付けた。あとは一旦大き目の皿に取り置き、そこへ先に用意したフルーツや生クリームをトッピングしてから生地を畳む。


 そして皿に移し変えてナイフとフォーク、好みで蜂蜜とバターを用意してから姫様の前に置く。


「さ、どうぞ。これはクレープというデザートです。パンケーキを薄く焼いた感じですね。俺達の世界じゃこれを手に持って食べ歩きして楽しんだり、こうやってフォークで切って食べる物です。バターや蜂蜜は好みで使ってください」


「まぁ!フルーツの彩りが鮮やかで綺麗ですね。頂きますわ」


 流麗な動きでナイフを使って切り取ったクレープをフォークへ乗せるように刺すと、サリスの小さな口へと運ばれていった。


「あぁ……これは美味しいですわ。クリームと生地の甘さと、少し酸味のあるオレンジやリンゴなどがちょうど良い加減の甘さになっているのですね」


 はぁ、と先ほどとは違う溜息をついて、余韻を楽しんだ後にまた食べる。決して大口でも忙しくもなく、静かにクレープを食べていく。



「気に入ってもらえたならよかったです。寝る前だからあまり食べ過ぎるのはよくないですが、もう1つ作りましょうか?」


「ええ、お願いしますわ!あ、それと作るのは2つでもいいかしら?」


「え?はい、構わないですけど、そんなに食べられるんですか?」


 聞き返すと、にっこりと微笑んだ姫様が、横へと視線を向けた。



 そこには、姫様を心配して見守っていたのであろうトニアさんがそっと立っていた。ああ、彼女にも食べさせたかったのか!


「じゃあすぐに作りますから、ニアさんも隣に座って待ってて下さいね!」


「いえ、自分は、」


「ほら、一緒に頂きましょう?」


 遠慮するトニアさんをすぐに捕まえて隣の席へ連れて来る。

さすがに断るのは申し訳ないと思ったのか、渋々ながらも席に着く。



「それでは、こちらのお二人にクレープをどうぞ。お気に召したら嬉しいです」


 姫様とのやりとりの間にさくっとクレープを作る。生地はすぐ焼けるし盛り付けも単純だからこそすでに出来てるわけで。


「あ、はい……その、いただきます」


 観念したトニアさんが姫様と並んでクレープを食べる。

その反応を見ながら自分のクレープを作って一緒に食べた。




「それにしても、このお酒はかなり深い味わいになっていますね」


 結局クレープをおかわりして満足したトニアさんは、匂いに釣られてさっきまで姫様が飲んでいたワインにも手を出していた。


「美李ちゃんのスキルに熟成効果があって、それが醗酵にも応用が効くとは思わなかったですよねぇ。と言っても俺は酒が飲めないんで良し悪しは分からないんですけどね」



 料理に酒を使うけど、飲む事は無い。


 アレルギーってわけじゃないが、小さい頃離婚したばかりの父親が酔って暴れるのを見てきた所為か、どうしても自分が酔って暴れるんじゃないかという恐怖が勝って飲む気になれない。

 おかげで会社の飲み会の時も送迎役を買って出て、それを利用して酒を飲まずにやり過ごしてきた。


「まぁ、人それぞれってことで勘弁してください」


 幸いそれ以上追及されるような言葉は無かったが、代わりに何かつまみを作れないか言われたので小さい肉団子と野菜スティックのマヨネーズ付きを出しておいた。



 それから1時間後。


「だから、ヒバリさんはたまに卑屈になったり自分を下に見すぎる事があるんですって!」


 トニアさんが酔っていた。しかも絡み酒だ。


「そうですねぇ。大規模戦闘では難しいですが、隠密や索敵においてはヒバリさんはかなり優秀ですよ?魔力だって、私の10倍ですし……

 あれだけ頑張ってきたのに美李さんや沙里さんにも追い付かれそうですし。そうですよね、私は光の適合があるだけですものね」


 姫様は……酔っているのかフリなのか分からない。


「えーっと、俺が真ん中に座ると動きづらいんですけど」


 3つ並べたダイニングキッチンの椅子に、右側には姫様が、左側にはトニアさんが。そして俺は何故か真ん中に座らされた。つまみを作る前は正面の椅子に座ってたはずなんだが……


「ほら、ヒバリさんも飲みましょう!」


 俺だけワインじゃなくて葡萄ジュースにしてもらってるけど、そこは守ってくれるがガンガン注がれる。そこまで飲めませんて!


「ほら、そろそろ寝ましょう?昨日は戦闘もあったし馬車の強行軍で街まで戻ってきたんですから、いい加減寝ないと明日に響きますよ!」


「もう少し、よいでしょう?普段こうやってゆっくり飲む機会などなかったのですわぁ」


 姫様が俺の右肩にしなだれかかる。


「自分はー……ええと、自分もー?」


 トニアさんも俺の左肩にしなだれかかる。


 いや、トニアさんの場合は腕に抱きつく。そうなると当然腕には胸の感触が。このパーティ一番の大きさの柔らかい物体が形を歪ませて腕に!


「あら。トニアが甘えるだなんて珍しいわ。幼少時はよく私に抱きついていないと安心出来なかった、あの頃を思い出しますわ」


 そう言って姫様は俺を挟んでトニアさんの頭を撫でる。



 それは当然俺へ胸を押し付ける事になるわけで……


「あの、姫様、あまりくっつかれるとですね、」


「あっ……そうですわね……でも、私はまったく不快にならないので構いませんわ。それに、トニアほどではありませんが、これでも結構ありましてよ?」


 一瞬離れたが、また腕に抱きつく形に戻ってトニアさんを撫でる。そして、撫でられるのが気持ちいいのか、もっと撫でてと言わんばかりに更に強く腕に抱きつくトニアさん。



 やばいって!ただでさえ女性ばかりに囲まれた状況だってのに、処理するチャンスもなくここまで来た健全男子( ここはおっさんとは言わない!)にはきつすぎるだろ!!!

 トニアさんはまったく分かってないが、姫様はわざとだ!反応を楽しんでるだけだ!前から思ってたけど、姫様って結構Sだよね!?


 体を動かすと余計に胸の感触が伝わってくるから、ついには動けなくなってしまった……



 しばらくして、姫様がワインを飲もうと腕の拘束を緩めた。


(よし!今のうちに脱出だ!)


 すっと後ろに立ち上がろうとしたら、バランスを崩したトニアさんが俺の太もも辺りに左手をついて自身を支える。立ち上がろうとした俺は、足を抑えられて立てずに椅子に腰を落とされる。

 俺がまた座った事で手をついていたトニアさんは、更に前のめりになり俺に膝枕されるように倒れ込んだ。ちょうど、あの部分に。


「あら。あらあらあら」


 その流れを見ながらワインを手にした姫様が暢気な声を出す。


「ふぁ……何でしょう?雄の匂いがします」


「うわああああああああ!?」


 トニアさんの発言に、器用さMAX発動させてトニアさんを起き上がらせ、テーブルに押し戻すと、即座に立ち上がってその場を逃げた。


 それはもう脱兎のごとく風呂場へ逃げた。




 これだから酔っ払いは!!!!!!!




 夜中にシャワーを浴びて着替えて、居住袋には姫様とトニアさんとすでに寝ているルースさんを残して飛び出し、宿のベッドへと逃げ込んだ。



「酔っ払いには近づかない。これは元の世界もこっちの世界も共通なんだなぁ。よく覚えておこう。色々限界がありすぎる……」



 空いているベッドで横になり、更に疲れることになった体はすぐに深い眠りへと落ちていったのであった。 



ヒバリは賢者じゃないので、こういうのはどうしてるのかとふと考えた事があったので書いてみました。不快な方がいらしたら済みません!

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