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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第7章 ビネンの湖と人攫い
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お嬢様のお願い

「私は夜に迎えの馬車が来ますので心配は無用ですわ」


 いや、そういう問題じゃないような……

侍女さん2人連れてるし、ドレスから着替えたとはいえ庶民の宿ではこの3人は目立ちすぎでしょ。


「それに、夕食はあのお二方と共にせねばなりませんの。まだ他の者では耐えられませんわ」


 ああ、そこはちゃんと考えてるのか。

なら、いいか?……いや、いいのか?




 宿の女将さんに話を通そうと思ったら、さすがによく抜け出して町を訪問するだけあって、むしろ歓迎されてるし。随分好かれてるもんだ。


 結局俺達の大部屋へ全員で移動してからの話し合いになった。


 さすがに人数が多すぎるから椅子にはトレーヌと姫様、その互いの後ろに侍女とトニアさんが立っている。それと何故か一緒に入ってきたユウとベラが離れた椅子に座っている。

 ベッドには俺と沙里ちゃんが腰掛けて、それぞれの膝上にピーリィと美李ちゃんがいる。ルースさんはベッドに寝転んで他人事のように眺めていた。



「で、どういったご用件でしょうか?」


 俺じゃ安心出来ないと姫様を筆頭に全員にダメ出しをされ、このお嬢様の相手は姫様がすることになった。少し凹んだが自分でもそんな気がしてたし、逆にお願いしておいた。


 このトレーヌお嬢様と話をすると、どうにも主導権を握られちゃうんだよなぁ。



「大したことではないのよ。

んー……手間は手間ね。私個人から報酬を出すから、頼みたい事がありますの」


「内容によりますね。それと、私達パーティ全員の同意を得られなければお受け出来ない可能性もご理解ください」


 姫様は完全に交渉モードだ。微笑んでいるけどまったく友好な感じがしないな。

なんだろう……イラついてる?



「そこのサリ、だったかしら?救出されたあとの……ああ、あれは秘密にする約束でしたわね。ええと、あの場で私達3人に施していただいた料理を教えていただきたいの」


 居住袋の事は黙っててくれたけど、態々秘密だなんて言うから侍女さん達が一瞬顔色変わったじゃないか!絶対わざとだろ!


「3人であのオカユ?を食べた時、本当に安心したのよ。その後のお風呂も温かかったのだけど、あの優しい味はきっと一生忘れませんわ。

 久方ぶりに自分の意思で食べられた食事があれだったの。嫌な思いも残るでしょうけど、それ以上に勇気付けられる食事ですの。ですから、私達がこれからの生を乗り越えるためにもあの料理を食べられるようにしておきたいのですわ」


 だからこのとおり、と頭を下げるトレーヌ。



「分かりました。報酬ということですが、でしたらそこの侍女2人にも我々の秘密を共有し、決して他言しないと約束をして下さい。それが守れない、あとで子爵様へ報告をすると少しでもお考えなら辞退して下さい。その時はトレーヌ様にのみお教えいたしましょう」


 交渉モードとなった姫様は強い。


 そこは王族としての芯の強さがにじみ出るのか、前に座るトレーヌが気圧されている。後ろに立つ侍女2人も姫様が殺気立っているわけではないので対応に困っている様子だ。



「あなた達、今ここで例え父上であったとしても他言しないと誓いなさい。それが出来ないなら宿の食堂で待機なさい。もし誓いを破る事があったなら、私は今回どういった目に遭ったか公にします」


「お、お嬢様!それはなりませんッ!」


「ですから、あなた達が誓うか出て行くなら何も問題はありませんわ。虚偽の誓いをせず、どちらか選びなさい。商人であるこの方達が、こちらの勝手な願いの条件に、自身が不利になる危険を伴ってまで教えても良いとおっしゃって下さいました。それに応えられないならここにいる必要はありませんわ!」


「し、しかし……」


「あなた達とは長年顔を合わせています。虚偽の誓いを立てると考えていてもお見通しですのよ?」


 しばらく、侍女2人とトレーヌの睨み合いのような沈黙が続く。

そして侍女の1人が溜息をつくとその時間が溶けた様に動き出す。


「もう!お嬢様は本当に頑固なのですから!」


「分かりました従いますってば!」


「はい、よろしい」


 トレーヌはにっこりと笑って侍女達に答えた。どうやらあっちの話はまとまったようだ。最後にトレーヌが俺達に頭を下げた。侍女達も慌ててそれに倣う。


 ピーリィは大丈夫だったが、沙里ちゃんと美李ちゃんはさっきの雰囲気に怯えちゃってたぞ!まぁ袋の秘密って結局は俺のスキルの話だから、俺が一番の当事者だったわけで。



「ではヒバリさん、確認は取れましたので。

教えるにはあの中でしか無理でしょうし、こちらの方々と一緒にお願いしますね」


 姫様がこちらに振り返って言ってくる。”あの中”と言った時侍女達が訝しんでいたが、そこはトレーヌがすぐに抑えた。


「あ!それならボクはお風呂入りたい!ベラもいいよね?あとねー、ご飯も食べたい!お米のご飯!」


 難しい話は終わったとみるや、ちゃっかり風呂を希望するユウ。

絶対言うタイミング狙ってたな!


「まぁ、丁度夕ご飯の仕込みもやっちゃうか。じゃあ居住袋出すからあとは各自自由でいいよ。ユウとベラも、今回は特別だからね?」


「わーい!ほら、ベラいこー!」


「ま、まて。ユウ、まだ、ヒバリの準備、終わってないぞ」


 立ち上がったユウがベラを引っ張るが、

ベラの言うとおりまだ居住袋出してないから入れないのになぁ。




「じゃあ、こちらになります。くれぐれもこの魔法の事は内密にお願いしますね……えっと、聞いてます?」


「は、はぁ……」 「あ、はい!」


 呆然とした侍女2人が、遅れて返事をした。その様子が可笑しかったのか、トレーヌがお腹を抱えて震えていた。お嬢様らしくない行動だが、こっちの方が俺が気楽だからいいか。


「自分は馬の世話をしてきます」


 トニアさんはすぐに入って馬の方へ行く。そういや世話はいつもトニアさんに任せっきりだったなぁ。俺も忘れないようにしないと!


「私はトレーヌ様と傍で見ておりますので、沙里さんとヒバリさんで教えて差し上げて下さいね」


 姫様とトレーヌが調理姿が見える位置に隣同士で座る。ルースさんはその後ろのソファに寝そべる。まだ体調悪そうだなぁ。


「さー!ボク達はお風呂だー!」


 ユウがやかましく叫んでベラ、美李ちゃん、ピーリィを引き連れて風呂へと突撃していった。2人の面倒を見てくれるのは助かるから任せちゃえばいいか。


「じゃあ俺達はこれからあなた達におかゆとご飯……

えっと、ゴルリ麦の炊き方を教えます。沙里ちゃん、おかゆを頼んでいい?」


「はい、任せてください!」



 いまだに室内をキョロキョロ見回して、キッチンの設備にも驚いている侍女2人をなんとか料理に意識を集中させる。

 まずはゴルリ麦の説明をして、精米と洗米・ご飯の炊き方とお米から作るおかゆの調理法を教えていく。そこはさすがに本職の侍女さん達だから問題なくすぐに習得してくれた。


 そして彼女達の手で作られたおかゆとおにぎりを、3人の開封許可付きで作った袋に入れてお土産に持たせた。勿論袋の処理は彼女らにお願いしたが、洗って再度使い回すなり服に入れて防具代わりにしてもいいが、決して3人以外の前で使わない事だけは念を押しておいた。



「本当に世話になりましたわ。屋敷に戻りましたらさっそくゴルリ麦の手配をしなくては!そろそろ迎えの馬車が着く頃ですので、慌しくなりますがこれで失礼しますので見送りは不要ですわ。ごきげんよう」


 スカートのすそを持って軽く礼をして部屋を出て行く。そして2人の侍女は深々と頭を下げてからトレーヌの後に続いて去っていった。



「沙里ちゃんお疲れ様。それじゃ俺達も晩ご飯にしよっか。

あー、そうだ。ユウ達も食べてくんだっけ?」


 風呂上りの4人は和室でごろごろした後にお嬢様が帰ると聞いて全員ダイニングキッチンに集まっていた。この宿は事件の関係者は子爵がすべての代金を持ってくれてるから食事もタダで注文出来るけど、どうせ食べたいって言ってたし多めに準備してあった。


「いいの?やったー!もう匂いでメニューはなんとなく分かってたから、楽しみにしてたんだよね〜。ありがと!」


 今日はチーズハンバーグとチキンステーキなんだが、さすがにジュージュー音がしてたし分かってたか。予想通り食べてくならさっき作ったのは全部出しちゃえばいっか。



 皆で晩ご飯を食べた後、姫様とトニアさん、沙里ちゃんとルースさん、そして最後に俺が風呂に入って和室に入ると、何故かお揃いのパジャマ( 多分沙里ちゃんが作ったヤツ)を着たユウとベラも一緒に布団を準備してた。


 風呂とご飯だけじゃなく、このまま泊まって行くらしい。

男の俺も一緒に寝るんだと言っても2人とも大丈夫だと応えた。


 ……まぁいいけどさ。


 2人増えたら更に狭くなったなぁ。女子部屋は女子更衣室兼女子用荷物置き場になってるし。相変わらず部屋を分けた意味ないわこれ。



 明日は朝から子爵の使いが来て、報酬として一緒に市場へ行って買い物の予定だ。うちの馬車も出して買い込むつもりだし、魚介類一杯ゲットするぞ!


 朝から忙しくなるし、もう気にせずとっとと寝よう!





 翌朝、一番に起きたトニアさんと次に早く起きた沙里ちゃんに起こされて目が覚める。周りを見ると、姫様と美李ちゃんもすでに起きているらしく居なかった。

 俺の上にはピーリィが丸くなっていて、ベラはユウを起こそうと頑張っているがうまくいってないみたいだ。


 って、俺もそろそろピーリィを起こして動かないとだな。



 結局なかなか起きないピーリィを抱きかかえて水場に運び、一緒に顔を洗って目を覚ましてもらう。俺達の後ろにはベラに支えられてユウも何とか身支度を始めるようだ。


 でも待ってくれ!着替えるならせめて女子部屋へ行ってくれ!ちょっと大きな声を出したら慌ててベラが女子部屋に押し込んでくれた。しっかりしてくれよもう。




「おはようございます。本日は私が皆様をご案内致します。早速ですが出発致しますので、そちらの馬車で付いて来て下さい」


 今日はさすがにお嬢様はいなかったが、昨日睨みつけてきた爺と呼ばれていた老人執事が案内役のようだ。さすがに今日は普通だな。よかったよかった。


 出掛けたのは全員なんだが、何故かユウとベラは居住袋の中で過ごさせて欲しいと言い出し、まだ少し体調に不安のあるルースさんと姫様とトニアさんが一緒に入っていることになった。

 どうせ買い込んだ荷物を中で整理する人も必要だったし、そこはトニアさんにお願いしておいた。これでガンガン買えるぞ!




 確かにガンガン買えるんだけど……



「まだ報酬の1/2も使われておりませんが、よろしいのですかな?」


 いや、かなり買い込んだんだけど……一体どれだけ報酬くれるつもりなんだ!?普通の馬車ならもうこれ以上入らないと思ったから止めたんだけど!


 居住袋も拡張袋もまだまだ余裕はあるけど、さすがに全部を今仕舞ったら怪しまれるしなぁ。

 今日買ったのはマス・イクラ・ワカメや昆布のような水草・干した小魚・海老・蟹・貝・野菜各種に調理器具、それと予備の火と水の魔力を充填した魔石だ。


 さすがにこれだけ買えば十分でしょ。沙里ちゃんもさすがにちょっと困り顔だ。ですよねー。昼ご飯は屋台で色々買ったけど、その支払いも報酬とは別だと言って執事さんがさっさと済ませちゃうし。



 最後に、昨日寝る前に相談してた獣人一家の屋台メニューも考えてあるから、その分の器具や食材を別途発注しておいた。はい、これで買い物終了!


 結局金貨50枚以上を貰っちゃったか……


 つまり元から100枚分、王都に居た時の1か月分の稼ぎが貰えちゃったってことだな。姫様は当然だと言ってたけど、いいのかねぇ?



 宿に戻る頃には夕方になっていて、今日もユウ達は一緒に食べて泊まって行くそうだ。獣人家族の屋台の立ち上げをみたらこの町を出るし、それまでは面倒みておこうって話でまとまった。


 ちなみに、今日は寿司を作ってみた。


 生魚を食べる事にベラが怖がっていたけど、美李ちゃんの消毒魔法で毒になるものはないと言ったのと、ユウが凄い勢いで食べてたので安心したらしく口にしてくれた。

 その後は気に入ったみたいでユウに負けないくらいの量を食べてたのは、作る方としては嬉しかったな。うん。




 食後の風呂、和室に集まっての就寝。


 2人がやたら馴染んでるのがちょっと気になるけど、明日はいよいよ獣人のバーム家族への指導と旅立ち前の諸々補充だ。忙しくなるぞ!



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