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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第7章 ビネンの湖と人攫い
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夜が明けて

 その後夜明けと共に勇者ユースケと第2王女の一行も駆けつけ、男爵らの罪を暴く姿がトルキスの町中で見られた。


 そのおかげで町は勇者一行とパートロフィ子爵、そして協力した冒険者ギルドを担ぎ上げて大騒ぎだ。なんでも子爵の令嬢であるトレーヌは以前はよく町を視察しては人々の意見を汲み取り少しでもよくしようと動いてくれていた人気者だそうだ。そんな人物が無事保護されたとあって喜ぶ町民は多い。




 そして俺達はというと、落とし穴の魔法(本当は俺の袋だが、美李ちゃんの土魔法と言う事でごまかした)を消して、縛り上げられた男爵の一味が連れて行かれるのを見送ってからトルキスの町に戻って宿で寝た。

 攫われていた人達もひとまず同じ宿で休み、事情聴取は起きてからにしてもらったのだ。深夜動きっぱなしだったんだから、それ位は融通をきかせてもらわないとね!



「ヒバリさんはよかったんですか?」


 朝食……いや、すでに昼食か。その準備を一緒にしていた沙里ちゃんが聞いてくる。


「何が?」


「だって、町では勇者一行が悪辣な男爵を成敗した!って言われてるんですよ?頑張ったのは私達なのに。特にヒバリさん、あれから宿についてすぐ、魔力の使いすぎで倒れるように寝ちゃったじゃないですか。なのに全部あの人達がやったみたいに……」


「んー……嫉妬しないといえば嘘になるけど、目立つわけにはいかないしなぁ。むしろいい隠れ蓑みたいで助かった!っていうのが大きいかな?帝国領に行くまでは見付かるわけに行かないからね」


「……それもそうですね。私達の目的をすっかり忘れてました」


 本来の目的を思い出した沙里ちゃんが苦笑していた。 


「あとはあの令嬢や助けた人達が約束を守ってくれたらそれでいいや」


 落とし穴は別として、袋詰めのスキルを見せちゃった人達には黙っててもらう約束でしかないからなぁ。脅すつもりもないし。




「ごちそうさまっと」


 昼ご飯は獣人一家も誘って一緒に食べた。聞けば、他の助けた人達はトルキス周辺の人だったので、事情聴取が終われば実家に戻るだけだ。

 でもアイリンで屋台をやろうとしていた一家は、攫われた際に荷物もも馬車も全部奪われて服1つすら残っていないという。


「助けて頂いた上に相談に乗ってもらうのは図々しいと思うのですが、我々だけではどうしたらよいかもまったく分からず……」


 夕べの男性陣への報酬は1人金貨1枚を俺から渡してある。実はこっそり姫様から女性陣にも同じく渡してあるのだが、これは救出報酬に含まれていると理由はごまかしたらしい。

 攫われる時に自身の持ち物全て失ってるのは全員同じだから、帰る家があって送ってもらえるとしても、それまでの生活に困るのは目に見えてる。所持金があるっていう安心感も出来るだろうという姫様の配慮だ。



 問題は、この犬の獣人のバーム一家だ。


 助け出した獣人の中で、1人は勇者であるユウコの連れ、もう1人は元々この町の漁師と結婚していたため元の生活に戻るだけだ。


 じゃあこの一家は?


「商売のために用意した道具も、生活品も、所持金も全て失った今、どうすべきかまったく思いつかんのですよ」


「今日の話し合いで子爵か町からの援助が出るといいのですか」


 普段ピンと立っている父親の犬耳が不安からかぺたんと下りてしまっている。母親の方も父親同様不安を隠せていない。2人の子供をぐっと引き寄せているのがその表れなんだろう。


「国は何もしてくれないの?いざとなったらボクが言ってみてもいいよ!ベラの時もそうだけど、この国って獣人に優しくないよねー」




 ……このユウコって子、普通に会話に入って来てるけど、なんでこの子一緒にいるんだろう?


 ユウコは勇者ユースケ一行が見えた途端こちらのパーティに混じって一緒に行動しだした。彼女の友人のベラ(本名はベラトリス)も一緒だ。さっきお昼ご飯食べる時もここにいた。



 今のユウコはポニーテールをやめて髪を下ろしている。くせっ毛なそれは、寝起きもあってかかなり飛び跳ねている。

 ベラトリスは狼人族の獣人で、髪はトニアさんよりさらに短い。そのショートカットの髪は燃える様に赤い。少し濃いから紅色と言った方が合ってるかもしれない。



「で。ユウコさんはなんでここに?勇者ユースケや第2王女様が来たんだから、報告も含めてそっちに行くと思ったんだけど」


「ヒバリつめたーい!ユウって呼んでっていったのに!それに、ユースケさんには会いたくないって言ったじゃん!ベラもボクも行くとこないのにー」


 ぶーぶーと不貞腐れるユウコと、恐縮してるベラ。



 いつから俺の事呼び捨てになってるんだ?


 まだ信用していいのか分からないから、どうしても警戒して厳しい言い方しちゃうんだよなぁ。皆気にならないのかな?


「まぁいいや。今はこれからのバームさん達の事を考えるか。屋台となると……馬車の確保と手軽に食べられる商品だよね。馬車ってあの男爵の家にあった古いほう貰えないか交渉してみたらどうですかね?それくらいは許されないかな」


「可能性はあると思いますよ。馬は難しいかも知れませんが、荷車だけなら勝算は高いですね」


 俺の意見に姫様が答える。それが可能ならかなり楽だろうなぁ。


「あの馬車の大きさなら、道具が少なければ家族が寝泊りするくらいはいけるとして、あとは販売権利と馬車を置いておける場所の確保が出来ればいけるんじゃ?」


「はい。ですが、何を商品にされるのですか?アイリンに居た時は商品を準備してたんですよね?」


 そこでバームさんの方を見るが、顔が曇ってしまう。


「本当は私の故郷の料理をと思っていたのですが反応が悪く、ヒバリさんに頂いた蜂蜜でお菓子で試したところ商人ギルドから販売権を取れたのですが……」


 全部奪われた上に、商人ギルドとの再交渉日はとっくに過ぎて期限切れ、と。

確かにそれは泣きたくもなるな。


「分かりました。商品については何か考えますよ!だからバームさんはこの後の交渉で荷車と販売権の確保を頑張ってください!まずはアイリンじゃなくてここのトルキスの方がいいかもですね。たぶん待遇がいいでしょうから」


「そうですね。無理にアイリンへ戻らず、ここでの商売を目指してみます!

よし……あ、商品については、是非とも知恵を貸して下さい!」


「任せてください」



 お茶を飲んで雑談をしたあと、バームさん一家は明るさを取り戻して部屋へ戻って行った。





「あーーー!どうしよっかなぁ?手軽に食べられて簡単な商品かぁ」


 まだ聴取には時間があるので、俺は何かアイデアが出てこないかとベッドでゴロゴロしていた。何故かピーリィと美李ちゃんもも一緒にゴロゴロしている。

 俺達のパーティだけ大人数なので広い部屋を準備してくれたのだが、相変わらず片側のベッド3つは寄せて使っていたので幅が広い。



「ねー。それよりまたお風呂貸してよー」


 ユウコがゴロゴロする俺達を見下ろして言ってくる。


「あれ?まだいたのか。自分達の部屋に戻ってなくていいの?」


「ヒバリ、ほんとにボクに冷たいよね!?なんでさー!」


「だって、第2王女様から逃げてるんでしょ?面倒事に巻き込まれそうだし、正直まだユウコさんの事は信用してないから。あまり勇者にいい思い出ないんだよね」


 ベラは俺達の言い争いにおろおろするばかりで特に何も言ってこない。

ユウコはまたうーうー唸っていた。



「ヒバリさん、そこまでにしてあげてください。ユウコ様、もしかして飛び出す前に武術を教わっていたのはゲンノスケ様ではありませんか?」


 見かねた姫様が仲介に入ったようだ。


「ゲンノスケ?ああ、いつも源じーって呼んでたから名前覚えてないや。えっとサリスさん?は源じーを知ってるの?あのじーちゃんおっかないほど槍が強くてさぁ。ボクだって大分強くなったんだから旅に出たいって言ったら反対されちゃって、それで飛び出しちゃった!」


 この子、源さんの教え子だったのか!


「ね?ヒバリさん。だからこの子は大丈夫ですよ」


 姫様が微笑んでこちらを見て、それから左右に居る美李ちゃとピーリィを見ろと視線で促す。2人は俺とユウコの言い争いが不安だったのか、俺にしがみ付いていた。自分でも苛立っているのが分かっていたのに大人気なかったか……


「ユウコさん、ごめん。源さんと知り合いだったんだね。俺も王都に居たんだけど勇者に酷い目に遭って、その後源さんに少し武術指導してもらった事があるんだ。

 勇者は嫌いだけど、源さんには恩がある。きつく当たって済まなかった。それに君達も今回の被害者だったんだよね。気遣いも足りなかった」


「あ……えっと、うん。そっか、ヒバリも源じーを知ってたのかぁ。勇者に酷い目に遭ったっていうなら、ボクにいいイメージがないのは分かったよ」


 一つ深呼吸をしてから、ユウコへの今までの態度を謝罪した。


 苛立っていた原因はもう一つ、あの3人の女性を見てから抑えがきいてなかったせいもあったが、それは言わなくてもいいか。どの道自分が大人気なかったのには変わりない。だめだなぁ……




 絶対に秘密にする事を再度約束させてから居住袋を出し、ユウコの希望通り風呂を貸した。その間俺は1人反省会だ。


「ヒバリ、おぬしもなんだかんだとまだ未熟じゃなぁ。男ならもっとしっかりせねばの」


 ルースはそう言ってベッドにうつ伏せになった俺の頭を撫でる。くすぐったい気分になるが、今はされるがままに放置した。しばらくすると撫でる手が増えたが、やっぱりそのまま動かなかった。





「でさぁ、結局サリスさんはなんで源じーを知ってるの?それにヒバリ達の声、ボク聞いた事あるはずなんだけど、みんなの顔見ても思い出せないんだよねー。もしかして、ボクたちって王都で会ってる?」


 無理矢理引っ張っていったベラと共に風呂から上がったユウコは冷茶を飲みながらさっきの続きを聞いてきた。



「それに関しては、聴取が終わってからでよろしいでしょうか?あの魔法も含めて他の勇者様方にも秘密にしているのです。ユウコ様がユースケ様方へ情報を漏らさなかったらお話致します」


「えー……ボク、そういうの自信ないなぁ」


「ならば余計に今は話せません」


「うー、頑張ってみる」



 何か危なそうだなぁ。ちょっとここはモノで釣るか!

ユウとベラ以外にもお茶を用意し終わったところで本題に入る。


「俺達が助けたいきさつはこっちで話すから、その時は黙っててもらえればそれでいいよ。もし約束を守れたらユウコ……ユウさん達にあのゴルリ麦で晩ご飯をご馳走しよう!」


「ゴルリ麦って、あのご飯のこと!?うん!ちゃんと守るからご飯食べたい!ベラもいいよね!?」


「……え、うん。わかった、ベラも守る」


 まだ不安そうだが、ベラトリスさんも頷いてくれた。傍から見たらご飯で釣ってるのバレバレだもんなぁ。簡単に釣れるユウさんはちょっと危なっかしいにもほどがあるぞ?


「あ、それとボクの事はユウって呼び捨てね!さんいらないから!」


 そして喜びの余り美李ちゃんとベッドでゴロゴロし出したユウを横目に、こっちをちらちら見てたベラさんに小声で話しかける。


「こんな方法ですみません。他の勇者には知られたくないのでユウさん……いや、ユウが一番口を滑らせそうだったのが不安で」


「いえ」


「でも絶対騙したり裏切ったりはしません。約束します。あと、内緒ですがうちのパーティにも獣人がいるのでここではベラさんへの差別もないから安心してください」


「ベラ、匂いで分かってました。多分、あの家族も、分かってると思います。ベラもあの家族も、ヒバリ達みて、信用してます。あと、ユウといっしょでベラ。さん、いらないです」


 そう言ってトニアさんとピーリィの方を見る。


 おお、今迄で一番しゃべってくれた!



 それにしても匂いでバレてたのか……

そこはおれの偽装魔法じゃ隠せてないのを知れたのはありがたい情報かも。




 コンコン。と部屋を叩く音がして、


「お客さん、役人さんたちが昨日の事情を聞きたいから、隣の部屋の人達も連れて表に集まって欲しいってさー!」


 宿の女将さんの声がした。


「はーい!今向かいます!


 じゃあ皆、行こうか。ユウ達は約束、頼んだからね!」


「任せて!助けられた話の時、しゃべらない!絶対!」



 なんかいまいち不安だけど、ベラさんがこっち見て頷いてるからお願いしちゃおう。

ベラさん、任せた!




 隣3部屋の全員に声を掛けて、全員で宿の表に出ると馬車が並んでいた。それも立派な作りをした大きめの馬車ばかりだ。きっと子爵が用意してくれたんだろう。


 ユウとベラを含めた助けられた女性陣、男性陣、そして俺達パーティ。それぞれ3グループで馬車に乗り、事情徴収を行うパートロフィ子爵の邸宅へと向かった。



一部設定間違いを修正しました。

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