救出と解放 その3
病欠とは言え、寝転がっているだけなので時間あっていい感じです(笑
ルースさんをソファに寝かせて、
後は美李ちゃんに面倒をお願いしてから居住袋を後にする。
外に出る時、ユウコも「一緒に戦う!」と騒いでいたが、他の女性達を安心させるためにも居住袋の中に残ってもらった。さすがに突然あの中に放置されたら落ち着かないだろうし。
「まずは捕まった男性達を解放してこの中で休んでもらう予定だから、それまでに使い方を覚えておいて」
とユウコに頼んでおいたら、
「じゃあ、男達を助けたらボクも戦闘に参加するからね!」
って、それじゃ使い方覚えてもらう意味ないじゃん!
なんか、更に時間を無駄にした気がする。うん、先を急ごう。
「東の建物は町と隣り合わせだからありえないとして、
あとは……西と南と中央の男爵の家か……男爵の家はないだろうなぁ」
「自分もそう思います。南も先程交代の門番が出てきた事から、
おそらく宿舎と考えられますので、ここは西の建物を優先すべきかと」
なるほど。トニアさんの言う事はもっともだ。
「じゃあ、西の建物を探りましょう。ピーリィ、もしさっきの家と同じような小さい窓だけだったら、飛んでその窓からそっと中を見てもらえるかな?」
「はーい!ピィリ、やっちゃうよー!」
おお、ノリのいい返事だけどちゃんと小声で言うのを見ると、
ちゃんと状況を見て判断してるんだなぁ。思わず頭を撫でちゃった。
西側の建物は、さっきの女性達が監禁されていたような小窓しかない建物1つだけだった。周りには何もないし、中央の建物から距離は離れている。ここで合っているかもしれない。
ただ、見張り小屋みたいなのがないのはちょっと不安か。
そう思って前に進もうとしたら、突然トニアさんに掴まれた。
「ヒバリさん、足元に罠があります。ほら、そこです」
罠!?伸ばしかけた足をそーっと戻してトニアさんが指し示す場所をよーく見る。
なんか、糸の様な物がぴんと張っていた。
「あぶなっ!これ、何の罠ですかね?矢が飛んでくる……違うか」
「音、でしょうね」
糸を辿って目線を奥へ移すと、何か金属の棒が吊るされていた。これって鳴子ってやつかぁ。魔力を使った物なら分かるんだけど、こういう罠はまったく気付かなかったわ……
「空には……なさそうですね。でも人の高さでもいくつか設置されているようです。
十分気をつけて行きましょう」
「じゃあ、近づく前に先にあの建物の中を探ってみます」
そう言ってダークミストの範囲を普段以上に広げる。建物までの距離はおよそ200m以上はある。普段の倍近い範囲だからちょっと気合入れてみよう!
「中は……入り口付近に3人……奥の部屋に……一列にされた8人?
いや、もう1人ちょっと魔力の弱った人がいますね」
「3人、もしくは奥の部屋の1〜2人も敵がいる可能性がありますね」
そっか。奥の部屋全員が攫われた人かは別なのか。
あ、でも鑑定すれば分かるはず。もうちょっと気合入れよう!
「……えっと、奥の部屋は……全員監禁された人だけみたいです。鑑定したら獣人が2人、アイリンで登録された冒険者が7人です。全員体力が半減してるので間違いないでしょう」
「なるほど。ヒバリさんの鑑定でしたら確実でしょう。ではピーリィ、上空に罠はないようですが、気を付けて飛んで小窓から中の様子を見てきてくれますか?危ないと思ったらすぐに逃げるんですよ」
「うん。いってくる!」
待ってましたと言わんばかりに外套を背中へ回し、静かに上昇する。周りの木よりも高くなったところですーっと建物の方へ流れるように飛んで行った。
建物の周りで2回ほど停滞して、すぐに戻ってきた。
「みんな、ねてたよ。だいじょうぶ。あと、まど1つあいてた!」
ピーリィの報告に頷いてから頭を撫でた。ちょっとくすぐったそうだ。
「では、自分が先行して罠の場所を教えますので、決して踏まないよう注意して着いて来て下さい」
「分かりました」
沙里ちゃん、姫様、ピーリィと目を合わせて全員で頷く。
元々重装備をしてないので移動での音はない。
あとはとにかくトニアさんの指示通りに歩を進めて家屋に近づく。ここからは俺の仕事だ!
「じゃあ、壁際にいる犯罪歴持ちの3人をブラックアウトで意識を奪います。
壁際まで近ければ範囲に入るのでいけるはず」
「その後はどうします?」
「ピーリィに窓から入ってもらって、扉を開けてもらおうかと」
「……問題は、本当にその3人以外に仲間がいないか、ですね」
姫様とトニアさんと会話して、少し悩んでしまった。
「そうなったらいっそドアを吹き飛ばしちゃいましょう!」
おっと。ここで沙里ちゃんの過激な言葉が出てきたな。
でも、ここまで来たら悩むよりその方がいいのかもしれない。
「そうだね。ピーリィ、悪い奴がまだ残ってたら声で知らせてすぐに外に逃げて。絶対無理しないでね!」
「うん!」
小声での作戦会議も終わり、まずは俺が3人をブラックアウトで意識を奪っていく。2人目の意識を奪う際に少し呻き声が漏れた時はちょっと焦ったが大丈夫だった。
こうして3人を無力化して、俺達3人は扉の前へ、ピーリィは窓から潜入する。そしてほどなく扉は開けられた。よかった、敵に襲われた騒ぎも無くピーリィが出てきた時は本当にほっとした。
その中でもトニアさんはまだ気を緩めずに素早く中へ入って奥の部屋を確認しに行く。俺は3人の武装を解除して縛り上げて袋に放り込んだ。やつらの武装はピーリィに袋に入れてもらった。こんなもんかな?
「ヒバリさん、こちらへ」
「あ、はい」
トニアさんに奥の部屋に呼ばれ、ピーリィには続きをしてもらうようお願いしておいた。
他にも武器があったら危ないから見てもらわないとね。
「どうしました?……あ、そうか」
さっきの女性達と同様、男達も裸で拘束されていた。そりゃそうか。トニアさんは落ち着いているけど、部屋に入ろうとした沙里ちゃんは小さく悲鳴を上げて慌てて戻って行った。勿論姫様はトニアさんが引き止め済みだ。さすがです!
拘束を解いてから近くにまとめてあった服を着せて、まずは弱ってる人だけ姫様に治療魔法をかけてもらう。そして、ここからは俺が隷属印を壊す作業だ。
1度やったし壊すのは余裕なんだけど……
9人中5人が隷属印をつけられ、残り4人が飢餓状態だったから、
すぐに連続して5人の隷属印を壊したら姫様から呆れられた視線が。
いや、さすがに俺も疲れてますよ?
魔力半分以上使ってちょっと無理してますからね?それを言ったら、
「もう、これ以上驚きませんから」
と、溜息つかれた。
一度扉を閉めて、水を飲ませて意識が戻った男達から順にゆっくり食べるようにとおかゆを食べさせた。さすがに女性達と違って扱いが酷かったからおにぎりは無理だろうし。
「えっ!?妻や娘は無事なんですか!?」
あの獣人のお父さんだ。
「はい。他に連れて行かれた人がいたら分かりませんが、今居た女性達は助け出しました。今から呼び出しますが、この魔法は絶対に口外しないと約束してくれますか?」
これはここにいる男性全員に聞いた。
皆おかゆを食べながらではあるが、危害を加える気がない、
元居た場所に帰れるという安心感から、それぐらいならと全員が頷いた。
居住袋を出して壁に立てかける。そして開く。
「おーい!男性陣を助けたから、出てきてくださーい」
そう声を掛ければ、中からどたばたと獣人親子が一番に飛び出してきた。
「あなた!」
「おお……よかった。無事なんだな?……本当によかった!」
獣人家族は4人で無事を確かめ合っている。
他の男達も家族の再会を見守っている。皆悪そうな奴はいないかな?
じーっとみているピーリィが、ふと俺のズボンを掴んできた。
そっか、お母さん亡くしたばかりだもんな。寂しいよな。
「よっと。ピーリィが頑張ったからあの子達はまた一緒になれたんだ。
ほんと、よく頑張ったね」
ピーリィを抱きかかえて、そっと背中を撫でる。
「うん。よかった……マーマたちといっしょ、よかったね!」
ここで降ろすのも憚られ、ピーリィが元気になるまでそのまま続けた。
「ここからはどうしましょう?」
「え?どうするって、助け出した後は男爵を捕まえに行くんじゃ?」
「いえ、女性達をよく見てください。男に乱暴されかけた女性達に、このまま男性達と一緒に閉じ込められるだなんて耐えられないでしょう」
「あ、そっか。一緒に居住袋にってわけには……いかないですね」
よく見れば獣人親子以外の女性は誰も居住袋から外に出ていない。
それだけ怖い思いをしたわけだし。うーん、気付いてなかったわ……
「では、沙里さんと美李さんにこちらに残っていただいて、居住袋は開けたままここに設置して前に岩を置いてもらいましょう。この家の扉は閉めていただいて、男性陣はこの家の中でお待ち下さい。
何かあれば岩の向こうの居住袋の中へ声を掛けて頂くということで。侵入できないのであれば女性達の不安も和らぐでしょう」
「そう……ですね。せっかく家族の再会が出来たわけですが、
もう少しだけ辛抱していただけますか?」
男性陣に少し不満があったようだが、そこは女性陣の事を思って男が守ってやってくれれば報酬を出すと言ったらやる気を出してくれた。
でもさすがに武器を渡すのは怖かったので、あいつらから取り上げた盾で我慢してもらった。まぁ扉さえ破られなければ大丈夫だと思うけど。
「なに、もうわしも動く事ができるのでな。さっさと阿呆な貴族を懲らしめてくるのじゃ!」
そう言うルースさんのまだちょっと具合が悪そうだけど、
それでも1人で歩けるようになったのなら不意打ちや騙し討ちは安心だ!
ちなみに、勇者であるユウコは風呂に入った所でまったく動かなくなったそうだ。
久々の風呂が気持ちよすぎて出てこないって……
こんな時に暢気な人だなぁ。まぁ、中に入れば戦力にはなるか。
「ルースさん、お願いします。じゃあ美李ちゃんはここの前に岩を置いて!男性陣は俺達が出た後にしっかりと扉に鍵を掛けて守って下さい。報酬はちゃんとだしますからね!」
「「「おおッ!」」」
って、声大きいから!もっと小声でお願いします!
準備が終わったのを見届けて、俺達4人は家屋を出た。
「では、鍵を掛けます。御武運を!」
男性陣の1人が中からそう言って、扉に鍵をかける音が聞こえた。
「こっちも行きましょう!東門の方はまだギルドの人達が粘ってるんですかね?
あっちはまだ明るく見えますね」
「男爵が逃げ出す前に捕らえに行きましょう」
中央にある屋敷に近づいてレーダーマップの確認をすると、
今も2階で陣を構える集団がいた。中心はやっぱり男爵か……
「まだ変わりませんね。1階はほとんど人はいません。
階段前と残りは全員2階ですね。さて、どう攻めますかねぇ」
2階だったらピーリィに運んでもらって……っていっても1人ずつじゃだめか。裏口から行ったら……陣を崩さず正面口から逃げられたらまずいよなぁ。
「あ、そうか!こういうのはどうですかね?」
そこから数分の作戦会議。
姫様、トニアさん、ピーリィからも同意を得られた。
さぁ、仕上げと行きますか!