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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第7章 ビネンの湖と人攫い
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救出と解放 その2

現在インフルエンザにかかっているため更新がさらに遅れています。


読んで頂けたら幸いです。

「この後ここの男爵こらしめるから、なるべく手短によろしくね」


「その前に、ボクも聞きたい事があるんだ」


 ごちそうさま、と手を合わせてこちらに向き直り、奥にある燭台の心許ない明かりしかないこの部屋でも分かるほどの強い目を向けてくる。


「ここに居た悪い人達、どこにやったの?」




 殺気?魔力?何かを纏ったかのように迫力を増したユウコに対し、即座にトニアさんが間に入る。視界の端には沙里ちゃんが美李ちゃんを庇うように前に出ている。


「あなたはあの男達の仲間だったのですか?それでしたら申し訳ありませんが、こちらも相応の対処をさせて頂きます。時間がありませんので」


 いつの間にかトニアさんの斜め後ろ、つまり俺の横に立つ姫様。

こういう交渉ごとは姫様に任せる方がいいんだろう。ちょっと情けないけど。


「あなたは王都に現れたという勇者の1人ですよね?ああ、嘘を言われてもこれから勇者ユースケ様が駆けつけますので。それまでは大人しくして頂けないのであれば……先程ここにいた男共と同じ方法を取らせて頂きます。どうなさいますか?」


 ユウコは、ユースケと言われた時にビクッと体を動かすが、すぐにトニアさんが柄にかけた手に力を入れた事、姫様の続きの言葉を聞いてゆっくりと座り直した。


「……ユースケさんと知り合いなの?」


「先日の魔物大量発生の話はご存知ですか?」


 コクンと頷くユウコを見て、話を続ける。


「その討伐作戦の前に遺跡迷宮で知り合い、場所は違えど共に討伐戦を行いました。現在はこの人攫いの騒動を解決すべく応援を要請しております」


「で、キミ達は先行部隊ってこと?あの男達の姿がないのはなんで?」


「先行……そうですね、概ね合っています。

あの男達は魔法にて別空間へ閉じ込めています。まだ殺すわけにはいきませんから」


 いると言われても見えない事がユウコには納得が出来ない。実はあの男達と繋がっていて油断させてるだけなのかもしれない。そう思うと他の女性を守りながらどうやってここを切り抜けられるのか、普段使わない頭を必死でフル回転させた。



「……ひ、じゃなかったサリスさん。捕まえた男達の姿を見れば安心するんじゃないですかね?」


 泣きたくなるほどいい案が浮かばずにぐるぐるしていたユウコに先程隷属魔法を次々に破壊していた男が声を掛けた。この中では唯一の男だ。


(でもやっぱりどこかで聞いた声。どこだったっけ……?)


「ヒバリさん、よろしいのですか?」


「これは”魔法”ですからね。いいんじゃないですかね?それに、捕まってる男達を見れば納得するっていうなら、さっさと見せて次の行動に移らないと男爵達に逃げられる方が怖いです」


「……わかりました。勇者様もそれでよろしいですか?」


「あっ……う、うん。あいつ等を逃がさないなら、見れればいいよ」


 思い出そうと記憶を探っていたユウコは、今考える事じゃない!と内心で自分を叱った。


「この空間魔法の中に入れてるんですが、灯り欲しいですね」


「あ、ヒバリさんわたしが魔法で火を出します」


「ありがとう。小さくお願いね」


 そう言って何も入ってない麻袋のようなものを出し、口を開ける。

そこへ指先に火を出した少女が中を照らすようにユウコの横に立つ。


 恐る恐る中を覗くと、どういうわけか広い部屋のような空間に縛られた男が1人いた。あと2人はどこだろう?それに、これ袋の中なのに広すぎる?


「ああ、中には入らないで下さい。さっきも言ったとおり魔法で出来た空間ですからね。

あとの2人も同じように別の袋に入れてます。一緒にして逃亡を計られても困りますからね」


 そのまま興味本位で入ろうとしてたユウコの足がぴたっと止まり、撒き戻すように戻ってきた。入りたくなるのも分かるけど。



「あれっ?」


 さてこれでユウコとの話を進められるかと思ったら、奥の方から女の子の声が聞こえてきた。


「お兄ちゃんと……お姉ちゃんたち?」


 その子は3人いた獣人のうちの1人で、他の女性達に庇われる様に抱きかかえられていたのだが、隙間から見えた火の明かりに映し出された場所には、少女には忘れられない顔が見えた。


「えーっと、だれかな?俺のことでいいのかな?」


 その声に振り向いたけど、そこはまだ暗くてよく顔が見えなかった。

それに気付いたのであろう少女が、抱えられていた女性からばっと離れてこちらへ駆けてくる。


「……あれ?キミ、もしかしてアイリンの街に入る前にいた子?」


「うん!ハチミツ……あ、そうだ……あれ、取られちゃったの」


 元気に答えたのも束の間、すぐに暗い顔になってしまった。


「すみません、あの後家族全員でこの町に来てみたのですが、全員ここに捕まってしまったのです。その時に荷物も全て取り上げられてしまって……」


 少女を抱きしめていたのは、その子の母親だった。言われてみれば確かに見覚えがある。美李ちゃんとピーリィも少女に気付いて少女に飛びつきたいがいいのか空気を読もうとしてるみたいだ。



 ん?でもここには男はいないよね?


「ここは女性だけですけど捕まった男性ここにはいないんですか?」


「あっ……男は他の建物の地下に入れられてるって聞いたことがあります!」


 女性のうちの1人がそう答えてくれた。


 他の女性、特に最後の獣人の子はちょっと話すだけでも怯えている。

これは俺に限ったわけじゃなく、ユウコっていう勇者以外の人族全員に怯えているようだった。


「主人と息子も、おそらくそっちに送られているはずです……あの……」


 もうこの後は何を言われるか想像はついた。答えは決まってる。


「だいじょーぶ!あたしたちにまかせて!」


「ピィリたち、たすけるためにきたの!」


 その答えは、美李ちゃんとピーリィが言っていた。

その言葉に母親も少女もお礼や応援を送っている。



 あー……うん。

言おうとしてた事は同じだし、言いたかったけどまぁいいか。って、話が少しずれてるな。


「で、男達の事はもういいかな?後で勇者ユースケでも街の権力者でもいいから引き渡す予定なんだ。但し、ここトルキスの町長は怪しいから引き渡す気はないよ」


 ユウコに向き直して先程の続きを言いながら袋を閉じた。


「うん、わかった。じゃあさっさとボクの話をしちゃおう!」 


 あれ?急に態度が変わったな?さっきまでの目と違うし。


「ああ、キミ達のことは信用するよ。

あの親子を早く残りの家族に会わせたいから。あれ見て疑う気持ちにはなれないよ」


 横を見ると、美李ちゃんとピーリィが親子を励ましている。

その様子を見守る他の女性達も同時に励まされているように見えた。


「あの親子と言うか子供達がジャイアントビーに追われていてね、近くに居た俺達が助けたんだよ。ついでに巣を駆除して、蜂蜜沢山獲れたっていう縁だよ。まさかこんな事に巻き込まれてるとはね……」


 俺の口から溜息がこぼれる。




 そんな俺を見てから、ユウコがこれまでのいきさつを語り出した。


「ボクは王都を出てからすぐにアイリンの迷宮遺跡を目指したんだ。王都にいたと気に槍と魔法の使い方は教えてもらえたから、そんなに苦労はなかったんだけど、やっぱり1人じゃ辛くて……

 そしたらそこの獣人の子、ベラも1人で挑んでたからパーティに誘ったんだよ。初めは嫌がられて逃げられてたんだけどね。ほら、この国って獣人に対して酷い人多いでしょ?ほんとどうなってるんだ!って売られた喧嘩全部買って返り討ちにしてたら、ベラがやっとパーティ組んでくれたんだ!でも、そしたらユースケさんが来るって分かってこの町に逃げたんだ」


「え?同じ勇者なんでしょ?なんで逃げるの……」


 うーうー唸るユウコ。やがて諦めたように口を開く。


「ほら、ボクは王都で訓練受けてる途中で飛び出しちゃったんだ。その時槍を教えてくれたおじーちゃん……あ、おじーちゃんも勇者の1人なんだけどね!その、おじーちゃんの修行の途中で出てきちゃったから、その、一緒に修行した先輩?兄弟子っていうんだっけ?それがユースケさんなんだよ……だから、気まずくてさぁ」


 うわぁ……この子、考えなしで飛び出して何にも連絡してないのか。

てことは、ユースケもこの子がここにいること自体知らないのか!


「で、この町に来たらあの魔物騒ぎでしょ?しょうがないから遺跡はユースケさんに任せてこの町を守るほうに参戦してたんだよ。

 それが終わったと思ったらあいつ等にベラが捕まっちゃって、見つけたときにはあの道具で意識なかったし……結局人質にされてボクも言う事を聞くしかなかったんだ。

 連れて来られてからは何度かあの道具使われたんだけど、頑張って跳ね返してたの。それに、ボクが頑張って抵抗すれば他の人に使われないで済んだんだ!正直、そろそろ危なかったんだけどね」


 へへっと笑うが、その顔は笑っているように見えなかった。


 それからもう少し他の女性からも事情を聞いたが、ユウコはかなり危なかったようだ。その分他の女性は守られたようだが……


 こう言っては悪いかもしれないが、売り物にされそうだったために手を出されず済んだのはまだマシだった、でいいのかな?

 ずっと抵抗していたユウコは、あの人攫い達にとって我慢の限界がきていたらしく、貞操的にもかなり危なかったらしい。無茶するなぁ。


「ユウコさん、お疲れ様。他の女性を守った事は凄いと思うけど、自分の事ももう少し大事にしないとダメだよ?」


「ボクのことはユウでいいよ!……うん、でもさ、ボクしかいなかったんだ……だから、ボクは……」


 元気だった声も、やがて嗚咽に変わっていった。


 そのユウコを姫様がそっと抱き寄せる。大声は出せないと分かっているからか、恥ずかしいからか、姫様の胸の中で静かに泣いていた。




「さて。申し訳ないけどこれ以上時間はかけられない。この後の事を話し合おう」


 タオルと飲み物をユウコに渡して、ずっと視線で急かしていたトニアさんに答える。

そうだよね、時間ないよね。


「ここの全員を連れて動くわけにはいかないから……

ここに居た女性達はこの内鍵を使って閉じこもってもらうのが一番安全、なのかな?」


「そうですね……下手に動くよりは安全ですね」


 そこはトニアさんも考えていたらしく、特に反対はされなかった。

ただ、捕まっていた女性達は不安そうだ。そりゃここにいい思いはないだろうしなぁ。


「それでしたら、ヒバリさんさえよろしければ居住袋に入っていていただけばよいのでは?」


「あ、そっか……

んーと、秘密さえ守ってもらえるならって言ってもさっきユウコ……ユウさんには見せてるから今更か」


 姫様の案でいきたいが、女性達は賛成してくれるかな?


「ボクはユウって呼び捨てでいいよ!袋っていうのはさっきの?あの男達と一緒なのはやだなー」


「ああ、違う違う。臨時の家みたいなもんだよ。

ただ、外が見えないから不安にならないかな?って心配してたんだ」


 もう見せる方が早いだろうと居住袋を出してみる。

ただの大きな布が、縦に手を引いただけで扉のように開く光景に「わぁ!」と周囲の驚きの声が重なった。


「この中で待っていてもらってもいいですか?中には飲み物や食べ物、毛布も用意しておきます。ただ、どの扉も開ける権限がある人が一緒じゃないとまずいか……」


「ルースさんを休ませなければなりませんから、そこに誰か1人付けてはいかがでしょう?」


 トニアさんに言われて思い出した!

ルースさんは魔力使い果たしてるから横にしないとだった!どうりでずっと静かなわけだ。


「すみませんルースさん。すぐに布団に運びますね!」


「う……うむ。せっかくじゃ、ヒバリに運んでもらう役得くらいいいかの?」


「役得?そんなの構いませんよ。むしろ放って置いてすみませんでした」


 そう言って抱き上げると、美李ちゃんが小さく声を上げる。


「きゃー!お姫様だっこ!いいなぁ」


 え?これが役得なの?まぁ、いいか……


「じゃあ美李ちゃん、中でルースさんとここの人達の世話をお願いしていい?

ほら、扉開けるにも魔法だから、さ」


「ん?……あ、そっか!おトイレもお風呂もルースさんじゃ開けられないもんね、まかせて!」


 びしっと敬礼する美李ちゃんを見て笑いそうになったが堪えて、


「他の皆さんも色々お疲れでしょう。中で休んでいるうちに他の人も助け出して、悪者退治も済ませてきますよ。あ、この袋の事は内緒ですからね?」


 はぁ、と呆けたような返事をして俺達3人の後に続いて女性達が居住袋へ恐る恐る入ってくる。

沙里ちゃん、トニアさん、姫様、ピーリィは外で待機だ。




「ちょっと待って!今、お風呂?トイレって言った!?」


 少し遅れてベラと紹介された獣人女性と一緒にユウコも中に入ってくる。王都を出たのなら風呂は入れなかったはずだから、これに釣られるのは仕方ないんだろうな、と思うと少し笑ってしまった。

 

一部名前を間違えていたので修正しました。

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