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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第7章 ビネンの湖と人攫い
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潜入、男爵の屋敷

ちょっと短めですが投稿しておきます。

読んで頂けたら幸いです。

 湖を左回りに走り続けること5時間ほど。


 途中で1回休憩と晩ご飯を食べた。そして御者も途中で交代して、全員が2時間ずつ仮眠を取っている。美李ちゃんとピーリィは5時間通しで寝かせて、2人の晩ご飯は起こしてから食べさせた。



「れえだまっぷに2つの反応……門番でしょうね」


「このまま近づきましょう。門番はヒバリさんにお任せするしかありません。やれますか?」


「は、はい……さっきと同じ、とにかくブラックアウトですぐに意識を刈り取ります。騒がれたり他の兵士が出てきたら、皆で制圧ですよね」


 今回は唯一の男である俺だけが御者として前に出ている。門番も俺1人で無力化しなきゃいけない……落ち着け、同じ、さっきと同じ!




 人攫いから女性を奪還して実行犯は町のギルドへ突き出した。その後2台の馬車でまた町の外へ出て湖を回り込んで男爵の別邸を目指した。

 途中で俺達の馬車は居住袋へ仕舞い、奴等の馬車を使って油断させる作戦になった。とはいえ、姫様達に捕まったフリはしてもらうものの、それは門番の前まで。屋敷の門さえ開けばそこからは自重しない。

 俺達が夜に向かうと同時に、町からもギルドが詰め寄っていく予定なので、おそらく兵力としては屋敷の北である俺達側よりも町と隣り合わせの東側へ集まるだろう。という作戦である。



 だから、ここは俺が御者として奴等と言葉を交わして無力化するしかない。しかも帯剣はしてても装備は奴等から剥がしたものを使うから重いし臭いし防御面でも不安だらけ……


 あーもぉ、早く終わらせて風呂行きたい!


 命のやり取りをするかもしれないという恐怖を誤魔化して大きく息を吐いてそう心の中で叫んだ。


 よし、行こう!




「止まれ!随分遅かったが……いつもの奴じゃないな?」


 格子状の門の内側から松明に照らされた1人の男が警戒を怠らずに声を掛けてくる。


「はい、俺はグダンの兄貴に馬車を任されたんです。今日は上玉なんで、中見てくださいよ!」


 グダンというのは捕らえてギルドに引き渡した奴の名前だ。そこは鑑定で見ておいたのでせっかくだから利用した。


「はーん。まぁいい、中見せろや。おい!」


 もう1人に合図を出して門を開ける。そして2人の男が敷地から出て、先に声を掛けてきた男が馬車の幌を開けようと後ろへ回る。もう1人の男は俺を見張るみたいだ。


 レーダーマップを見て近くにこの2人以外居ない事を確認。俺も幌を開けに行こうとすると制止され、また御者台へ戻るフリをしてブラックアウトを発動する。うっとうめきを上げてその場に崩れる。


「どうしました!大丈夫ですか!?」


 ちょっと大きめの声を出して幌を開けていた男を呼び寄せる。


「おい!何があった!?」


「分かりません!急に倒れて……」


「てめぇが何かしたんじゃねぇのか!?」


 そう言って倒れた男を蹴って生きてるか確認しようとした。今だ!


「あぁ?あ…が……」


 ドサッと崩れ落ちた男2人の武装解除をして馬車に押し込む。馬車の中ではトニアさんが縛り上げ袋に放り込み、沙里ちゃんが御者台に着いて馬車を動かす。そして皆に馬車の中に忘れ物がないか確認してもらった。

 俺は門の側にあった廃材でささっと案山子を作ってさっき剥ぎ取った鎧をつけておいた。さすがに武器を残しておくのは怖いので鎧だけ。


「ヒバリさん、お疲れ様です。ここからが本番ですね」


「じゃの。おぬしの緊張が伝わって、皆やきもきしておったぞ?」 


「わたしも同じ事をやると想像したら緊張してしまいました……」


 トニアさんとルースさんと沙里ちゃんが労いの言葉をかけてくれた。

門を開けるだけでこれだからなぁ。問題はここからだ!


「さぁ、急ぎましょう。囚われた人が何処にいるのか探さなくてはなりません」


 姫様の言葉でさっと陣形を組んで移動を開始した。



 今回は俺とトニアさんが斥候を務め、その他のメンバーが固まって行動している。一応パーティの周囲だけ音遮断を発動し続けているからよほど大きな音を立てたり動かしたりしない限りは大丈夫なはずだ。

多分、だけど。


 よく考えたら音遮断もブラックアウトも王都に居た頃に少し練習しただけなんだよなぁ。特にブラックアウトは目眩ましと違って範囲が3mもないから近づかないと効果がかなり薄れる欠点がある。だから毎回近くに行くしかないんだよね。完全な訓練不足だ。



 馬車を門の内側で繋いで、すぐに手前の建物から調べていく。手前に2つ、奥に大きい2階建ての建物が1つ、後はその建物の東側と南側に1つずつが入り口に明かりがついているので分かる。

 手前の2つは明かりがついていないけど、まずはレーダーマップで人がいるかチェックしてみた。結果は2つ目の大きい建物手前の方に2人反応があった。まったく移動がないから寝てるのかもしれない。


「無理に倒して騒ぐ必要ないですよね?」


「しかし背後から襲われたら危険です」


 どうするか話すために俺とトニアさんも数m後ろの皆と合流する。


「出られなくしておければいいんだけど……」


「あ、おねえちゃん!それならアタシにまかせて!」


 沙里ちゃんの呟きに美李ちゃんが答える。ちょっと声が大きいかな?

しーって指を口に当てるポーズをしたら「あっ」って言って口を押さえていた。


「えっとね、こーして……」


 今は小さく鋭いドリルのような岩弾を撃てる美李ちゃんだが、魔法を覚えたての頃はただの石か岩を作って飛ばしていたのを思い出す光景が目の前で起こされた。

 それでも以前よりもさらに大きい岩を作る。宙に浮く岩が2mくらいになった時、それをそっと建物のドアの前に置いた。なるほどね!


「これで塞き止めるってわけか!あとは窓が……ああ、人が通れそうな窓は無いみたいだね」


 遠巻きに建物の外周を調べたが、小窓はあってもそれ以外はなかった。もしかしたらいつでも誰かを閉じ込めておくか、侵入されないような作りなのかもしれない。


「ナイス美李ちゃん!よし、大きい建物以外は窓がなかったら同じ手で行こう!」


 美李ちゃんとハイタッチしてたらピーリィが少し落ち込んでいた。


「ピィリ、なにもできない……」


「だいじょうぶだよ。これからだけど、ピーリィには少し飛んでもらうかもしれない。夜だから暗いけど見える?」


「うン!みえるようにがんばったの!」


 へぇ、そんな訓練してたのか……ピーリィも色々考えて頑張ってるんだなぁ。そういや前も役立てないって悩んでたっけ。よし、頭を撫でておこう!




 それから少し離れた大きな建物の方へ向かおうとすると、左手の方から騒がしい声が響いた。次いで奥の南側から男が2人歩いてくるのがレーダーマップに映ったので、俺達は一旦植木の陰に身を隠して様子を見る。



「町の奴等が東門に詰め寄ってるらしいぞ。こんな夜になって騒がしいぜまったくよぉ」


「え?俺これから東の交代なんだが……」


「交代も何も、俺だってほんとはもっと後で交代だったのが叩き起こされたんだ。東側は全員寝てられねーだろ」


「明日も休みじゃないってのに、なんだよめんどくせーな」


「それ言ったら隷属印付けやってる奴等に殺されるぞ?あいつら、あの女のせいで何個も魔道具潰されて主の不興を買って、青い顔して魔道具かき集めてるって話だ」


「おいおい、女1人まだ落とせないのか?そりゃぁやべぇな……俺絶対あの小屋と旦那には近づかないでおくわ」


「それが一番だな」



 

 それからも雑談しながら東門の方へ歩いて行った2人を確認し、他にも人が来ないかしばらく待った。よし、他に動きはないか。


 大きい建物の中では人がいくらか動いているが、視界にも見える玄関の方へ集まる様子はない。あれはきっと男爵を守るために玄関のある東側じゃなく南側へ移動してる。2階かどうかは立体で映せない分からないけど。


「あいつらが来たのは南の建物で、旦那ってのは男爵の事だとすると、そいつと隷属してる奴等に近づかないって言ってたから……」


「囚われている者達は西側の建物ということになりますね」


 トニアさんが俺の話を引き継ぎ、さらにルースさんも続く。


「隷属化の魔道具を取り寄せてる最中なら、今ならそれがないということじゃな。それでも予備で1つや2つあるかもしれん、油断は禁物じゃ」


 確かに鵜呑みにするのは危ないか。それと、


「隷属化に抵抗してる女って、やっぱり召喚勇者の人ですかね?」


「うむ。相当に腕の立つ魔導士でない限りは何度も抵抗出来る筈はないのじゃ。そやつで間違いなかろう。じゃが、抵抗し続けておるとなると、そやつの命が危ういかもしれんのぉ」


「やっぱりまずいんですか?」


「当たり前じゃ!ずっと魔力枯渇の状態にされると生命維持のための体力も削られ続けておる。それではまともに飯も食えんじゃろう」


「急ぎましょう!」




 男爵がいると思われる建物には近づかず、そっと右回りで東の建物の外周を確認する。やっぱり窓は高い位置に小さいものがあるだけだ。


「よし、さっきの門番と同じ作戦でいきます。まず俺が新しい女を連れて来たって言ってドアを開けさせます。後ろで皆は縛られたフリをしてもらって、ドアを開けたらそいつの意識を刈り取ります。

 さっきの男達の話だと複数いるはずですから、あとは盾を装備して構えつつ突撃しましょう。ピーリィは入ったらすぐ天井に張り付いて、隙があったら敵をケロ口さんで捕まえてくれ」


「わかったー!」


 やっと自分にも出番がある!と、ピーリィがいそいそとケロ口さんを取り出して組み立てる。改良したおかげで組み立ても早い!



 作戦を伝えてから建物の中に位置するマーカーを1つずつ鑑定していく。女は全部で12人で、うち1人だけ離されているが魔力欠乏症でかなり衰弱してるらしい。これが勇者だ。

 そして男は3人。1人がドア近くで、残りが勇者から少しだけ距離を置いた場所で動かない。寝てるかどうかちょっと分からないな。


「中に勇者を入れて女性が12人で誰も犯罪歴はないです。男は3人でドアの側に1人と奥に2人です。万が一隷属魔法が来ても俺が受けるから大丈夫です。それに攻撃魔法でも1回ならローブで打ち消せるから、どちらにしても隙を突いて無力化しましょう」


「以前に攫った人をどこに売ったか、特徴なども知っているかもしれないので、殺さず捕らえましょう」


 ただ殺すのも殺させるのもいやだっただけだが……

そっか、そういう事も考えないとか。




「じゃあ、縛られたフリをしておいてください。行きます!」




 そうして物陰から出て皆を縛ったように見せたロープを引いて建物のドアを叩いた。




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