人攫いの噂
「えっと……滅茶苦茶話が重いんですけど、マジですか……?」
「嘘言ったってしょうがないだろ?マジだよマジ。ちょっと雰囲気盛ってるけど」
マルーンの仲間を見ると頷いている。盛った意味は分からないがマジか……
「でも、話してていいんですか?馬車を追いかけてたんですよね?」
「アンタらの話だと馬車は湖畔を回ってくように走り去ったんだろ?ならこれ以上は追わなくてもいい。森の奥に行かれたら分からないけど、そうじゃないならまたトルキスに来るだろ。まぁ続きを聞いてよ」
この続きをまとめると、
殺された男達と最後に会話したマルーン達が夜中に役人に呼び出されたが、宿屋の主人が冒険者ギルドに連絡してくれた上にアリバイ証明をしてくれたおかげで疑いは晴れた。
でも、その後ギルドの職員にあの男達は行方不明になった仲間を探していただけで怪しい奴等じゃない事、人が消えるのは何か役人や貴族が絡んだ人攫いじゃないかと調査を依頼したばかりだった事を告げられた。
特に先日の魔物の異常発生のどさくさに紛れて そこで危険を感じて夜明け前に町の外へ出て隠れていたら、こんな時間に仕草はきちんとしていないのに兵士の格好をした護衛をつけた馬車が出てくるのが見えたのでこっそりと後を追ってきた、というわけだ。
「馬車が湖沿いを西へ行ったなら、おそらく貴族の別邸が並ぶ区画まで行ったんじゃないかな。だから連れて行かれた奴等は殺される事はないと思う。商品として売り飛ばすつもりなんでしょうよ」
「えっ?こっちは人身売買があるんですか!?」
「こっち……?ヒバリはどこ出身なのさ?」
おっとまずった。どうしようか苦笑いで誤魔化す。
「隷属化の魔道具ですか?あれは迷宮遺跡で発掘されたら国へ買い取らせる法がありますよね?悪用されぬよう罰則と破壊は徹底されているはず……」
へー、そんなのがあるのか。隷属?奴隷ってことだよね?
「そんなもの守る貴族じゃないってことでしょ、ここの奴等は!」
姫様の言葉に苛立ったマルーンが、寄りかかっていた木を叩く。
「それをサリスに当たっても仕方ないじゃろ。それに、わしなら魔力が高いからその隷属化を壊す事が出来ると思うがの」
ずっと口を出さなかったルースが言うと、マルーン達はそれが可能なのか疑いつつも揃って驚きの表情を露にする。
いまいち展開についていけない……。
一息入れようとトニアさんがお茶を用意すると言って馬車へ行こうとしてたので、何か軽い物をマルーンさん達に提供するからと俺と遠藤姉妹が代わりに向かった。その後をルースさんが付いてきて、さっきの隷属化の説明を俺達3人に説明してくれた。
迷宮遺跡から発掘されるという隷属化のネックレス型魔道具によって意思を奪い、ネックレスに刻まれた契約者の指示に従うよう精神を侵食されるらしい。長く脳を支配されると精神が壊れ、やがてただ人形になってしまう危険な魔道具。
しかし魔道具の魔力を使った精神支配なので、魔力の高い者には効果が薄かったり効かなかったりするそうだ。俺達召喚者は多少鍛えればすぐに魔力が上がるし魔力制御を覚えていればほぼ効果はないから安心していいが、ピーリィやトニアさんレベルでは掛けられたら抵抗出来る可能性は低いとか。
そして先程のルースさんの発言は、その刻まれた契約印を過剰魔力によって破壊出来るほどの力があると言っていたのだ。
但し、術者の相当な魔力量消費と契約印を破壊する時の隷属者の身体負担も大きいらしい。過去に召喚勇者がその魔道具から解放した際に起きた事を記録し有識者に伝えたために、国のトップは全員知っているそうだ。
それ故に隷属魔法に支配されてしまった者の解放は国が責任を持って解呪?して、魔道具の改良を促さないためと、解呪直後の弱りきった術者が狙われないよう、その方法の秘匿性を守ってきている。
そんな国家機密みたいな事になっている話だが、ルースさんの話だとエルフ一族には常識ではあるが人族の事は割りとどうでもいいようだ。”そんな汚らわしい物を造った人族が悪い”と。
「隷属化を壊すならヒバリはもっとも適任じゃろうな」
「そうなんですか?」
「おぬしもいい加減自覚を持たんか。その馬鹿げた魔力量に抗える魔道具なぞないじゃろうの。それに、隷属化の魔法は闇属性によって作られたものじゃ。わしもじゃが、ヒバリも闇の適正者だけに相性がよいのじゃよ」
「えーと、ヒバリお兄ちゃんならその魔法なんてワンパンだし!ってことなの?」
美李ちゃんが皿に乗せたおにぎりを運ぼうとして、自分なりに理解して聞いてくる
「わ、わんぱー?それが何かは分からんが、おそらくヒバリなら余裕で破壊してしまうのぉ」
「やっぱりそうなんだ!じゃあもし悪い魔法にかかったら助けてね!」
「大丈夫。そんなのすぐに壊しちゃうさ!」
美李ちゃんの頭を撫でながら答える。でもさっきの話だと、美李ちゃんは隷属化魔法にかからず抵抗出来て終わりって事なんだけど。まぁそこは後で理解してもらおう。それに抵抗に成功してもバテちゃうなら、危ないには変わりないからね。
お茶とおにぎりを渡すと女性とは思えない豪快さで4人が次々と平らげていく。何故かさっき朝ご飯食べたばかりのピーリィも一緒におにぎりを頬張っている。育ち盛りってことで、おなか壊さなければそれでよし!
「この後は馬車を追うんですか?」
「いや。一旦トルキスに戻るつもりだ。ギルドに報告して、また奴等が動くだろうから、今度こそ捕らえるつもりさ」
バシンと拳を手の平にぶつけ、マルーンは湖の方を睨む。
「あ、そういやアンタたちはどうするんだい?」
こちらに振り返り、険しい目から戻して聞いてきた。えーっと、俺達はマルーンさんを探しに来たわけだから、その目的は果たしたんだよな。でも、この様子だと遺跡野営地やアイリンには戻らないから、手伝うしかないのかな?どの道ギルドに報告してバフさんを安心させないとだな。
「バフさんの依頼をギルドに報告したいのでトルキスに行きます」
「お!ならついでにアタシらも馬車に乗せてくれよ!結局夕べ寝られなかったから結構限界でさ」
「えーっと……元は6人乗りの馬車だからかなり狭くなりますよ?」
「そんなのこっちは構わないさ!アンタらがよければ頼むよ」
他のメンバーを見ると、特に反対はないようなので了承した。
御者に俺と沙里ちゃんが座り、中は9人いるがピーリィは姫様が抱え、美李ちゃんはトニアさんに抱えられるか悩んで、結局俺と沙里ちゃんの間に座るようだ。気付くと俺の上になってたけど。
「あー……なんだこの座布団?すっげーやーらけー……」
椅子は他の仲間に譲って床に寝そべるマルーンが、俺が袋で作ったクッションを敷いた上でごろごろしてた。ていうか、寝てなかったというだけあって、すでに目がとろんとまどろんでる。あれはもうすぐに寝落ちるだろうなぁ。
他のメンバーもマルーン同様うつらうつらとし始め、やがてお互いに寄りかかって寝てしまった。ついでにピーリィも姫様に撫でられてすでに寝息をたてている。
多少警戒していたトニアさんとルースさんはさすがに安心したようだ。一応武器は預けてもらってるし、以前からの顔見知りというわけで乗せるのに反対しなかったが、それでも決して警戒を解かなかったのはやり過ぎだと思っちゃう俺達の方がまだ甘いのかな?
ある程度整備された湖畔の道を走るだけだったので、人数による馬足を落としてもそう時間もかからずトルキスの町へと到着した。アイリンからも商人やそれ以外の馬車も門前に列を作っていたので、俺達もその列に加わって順番を待つ。
程なくして順番となり、門番の衛兵に身分証として順にギルドカードを見せた。寝起きのマルーン達を見た衛兵達が一瞬驚いた顔を顕わにしてからすぐに顔を寄せて小声で話しかけてくる。
「おい、お前ら無事だったんだな。町の役人共はまだお前らが犯人だって騒ぐ奴もいるから気をつけろよ!俺達は立場上庇ってやれないがまだ見付かるんじゃないぞ?いいな!」
そう言って何事も無かったように俺達の馬車を町の中へ通してくれた。
「へぇ。ああいう人達もいるんですね」
「おかしなのは貴族とそいつらに尻尾振ってる役人共だけさ」
小声で会話しながら馬車を走らせ、まずはギルド出張所を目指した。
トルキスの町は大きな建物は少ない。しかし広さだけはアイリンにも負けていない。それは、西側半分がすべて貴族の別邸や木材加工場でほぼ使われているためだ。さらにその西区へ入るには別の検問が存在し、関わりの無い者は通る事も許されない。
しかし、湖の周りは漁業もあるために貴族らは渋々湖周辺は西区とせず町民に開放されている。といっても湖から道を挟んですぐに厳重な柵が張り巡らされているが。
宿屋はあっても料理屋や飲み屋の方がメインで、宿泊客は少ない。ここで買った魚介類を一刻も早く次の町へ届けるために、買い終わったらすぐに次の町へ行ってしまうから留まる者は商人以外の旅人か冒険者。あまり金を落とさないから宿としては難しいらしい。
町に入ってすぐに御者を沙里ちゃんと代わり、御者台にはルースさんに付き添ってもらった。そして荷物を漁るフリをして、俺達と色違いのフードっぽい物が付いたローブを4着作った。色はちょっと濃い目のくすんだ茶色だ。
それをマルーン達にあげると、4人は戸惑っていた。
「さっきの話だと目立つのはまずいんでしょう?」
「いや、だからってこんな上等なモンもらえないぞ……」
うーん、外見はそれほど新品っぽくしなかったんだけどなぁ。
「穴もほつれもない時点で上物だよ。服だって新品を買えるのは貴族や商人達なんだ。アタシらだって同じさ。だからこんなのは着た事がないんだよ」
そっか。俺達は姫様が用意してくれた物から始まって、今では沙里ちゃんが布から作ってくれてるんだった。正直トランクスまで作ってもらうのは申し訳なかったけど、こっちの世界のかぼちゃパンツだけは穿きたくなかったから滅茶苦茶頭を下げたさ!
そういう意味でも俺達はいい環境を用意してもらってたんだなぁ。
それはさておき。
「でも、さっきの衛兵さんの話ではマルーンさん達はあまり顔を見られるのはまずいんですよね?だったらこれ使って少しでも目立たないようにしてくれないと困ります。俺達はバフさんに依頼されてマルーンさん達を探しに来たんですから」
「でもなぁ……」
「いーじゃーん!もらえるならほしいよー」
一番大柄な盾役のジオがさっそく羽織って大きさを確かめている。大きいサイズのは1つしかないから、迷わずそれを手にしていた。
「まぁ、せっかくだし」 「そ、そうだよね」
残りの2人もジオを見て自分達もと羽織っていた。それを見たマルーンも溜息をついてから手に取った。これで4人の外見はある程度大丈夫かな?
そして何時の間にか馬車はギルド前に着き、沙里ちゃんが馬車の預かり場所を聞いてそこに向かっていると教えてくれた。ちょっと話が長引いちゃったから結局御者を沙里ちゃんに任せっきりにしちゃったか。
馬車を預けた俺達は、総勢11人で2種類のローブを纏って他の町より少し小さなギルドの中へ入っていった。まずはバフへの依頼完了報告と伝言、そしてマルーンがここの長と話をするために部屋を1つ借りるため受付に話を通してもらっていた。
そして俺達は、やっとこのトルキスの現状を知る事になった。
ちょっと仕事の休みが安定しないので、投稿の間隔も安定してないですね……
それでも読んで頂けたら幸いです。