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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第1章 異世界で食品製造はじめました
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ミンサーと試作品のお披露目

よろしくお願いします。

 朝起きていつものように袋作りをしていて、違和感が確信に変わった。



 毎日朝昼晩と疲れを感じ始めるまで袋を作っていたのだが、明らかに疲れるまでに作れる数が増えすぎている。ここに来て初日で100枚作れなかったのに、2日目で200枚近く、3日目に至っては400枚を超えていた。


そしてついに……今日は朝だけで300枚出来てしまった。


 食品工場に居た頃は半自動(半無意識)で繰り返し作業が出来る体になっていたため、これだけの枚数を作っていた認識がなかったのだ。従業員と言う名の機械精神恐ろしい。



「これ、ついに在庫1000枚超えただろ………

そもそもこんなに必要か?まだ売れると決まったわけでもないのに。しかもまだ疲れてないって今ステータスどうなってんだ?…って、うわ!最大MP700超えてんじゃん!?INTやDEXの上がりもちょっとおかしいけど、MPはそれどころじゃないぞ!?」


 この間街に連れて行って貰った時にこっそり街の人達のステータスを鑑定したけど、普通はどれも平均10〜20程度、HPは50くらいある人も結構いたが、MPはほとんど10あるかないか、魔道具職人ですら100も無かった。いかに自分が異常であるかがよく分かる。



「これが異世界からの召喚勇者は成長率がいいというやつなのかな?まぁそれ以外考えられないし姫様に会えた時に聞いてみよう。あと皆のステータスも鑑定させてもらいたい所だな。

 この件はおいといて、今日はいよいよ器具が揃うんだ!今日から本格的に商品の試作と姫様と旦那様のお墨付きを頂いて販売許可証ゲットだぜ!」




 夕べは贅沢にも牛と豚を使ったハンバーグだったけど、今日はちゃんと採算の取れる食材で攻めるつもりだ。つまり、猪とワニの肉の攻略である。


 まずは昨日ミンチにしておいた2つの肉の少量を塩・胡椒のみで捏ねて焼いてみる。塩水に浸した猪肉は思ったほどの癖はなく、臭みもかなり抑えられていた。むしろ脂の旨味が感じられるようになって、これはこれで好みの味だった。


「これならそのままハンバーグに使えそうだな!やっぱ血抜きが悪くて商品価値を下げちゃってるんだろう。あとでちゃんとしたハンバーグにしてみるか!

 で、もう片方のこれは……このままじゃだめだなぁ。臭みはほとんどないが、味気ない上にとにかくゴムみたいな食感はただの苦行だわ。ワニ肉はハンバーグには無理だな。味としては鶏肉に近いのかもしれないが、あのままじゃ使えない。そうなると……あ」



 調味料など箱に並べられた保存袋(時間経過しないので常温放置でも平気なので全て詰めておいた)の中から昨日作った鶏がらスープを取り出す。冷やしてから袋詰めしたので、中身はゼリー状になっている。


「これと擂り鉢と塩・胡椒・砂糖・酒・醤油・香味油に卵。あとはショウガか。ごま油はないから代用でネギ油(油でネギをじっくり揚げて香りを移したもの)でいこう」


 擂り鉢で粘りが出るまでワニの挽肉を潰し、ここに擂り潰してないがもっと細かく叩いたワニの挽肉と調味料を全て入れて今度は擂らずに混ぜる。それを焼き魚で使われる串に巻きつけてタネが完成した。


「よっし。ワニ肉のつくね串、なんちゃって軟骨入りってところか!」


 早速コンロで焼いてみるが、あまり大きく作らなかったためにすぐに香ばしい匂いを出して焼け、中まで火が通ったことを確認して完成。串焼きは慣れていないため、細い串でやったら串を焦がしそうになったのは内緒だ!誰も居ないからセーフ!

 タレも何も無いがそのまま齧りつく。じわぁっと広がるがらスープとワニの味と、卵とネギ油によって淡白なだけだった肉にしっかりとした食べ応えを感じさせていた。そして時折くにっとした食感のワニ挽肉が軟骨とはちょっと違った印象になってしまった。


「んー…これ、挽肉加えたのは失敗かな?好みで別れるかもしれないが、噛んでも旨味がでないからいらないかもなぁ。これは改良の余地ありっと。

 まだ昼にはもう少し時間あるから、今のうちに猪ハンバーグのタネを作っておこう。あと追加で猪肉を塩水に浸していつでも使えるようにしないと。ああそれとケチャップを作って―――」



 あれやこれやと片付けや各調味料用計量スプーン、煮沸消毒用の袋作成、器具の配置決め、やることはまだまだいっぱいだ。特に計量スプーンは木製の物をせっせと削って、それぞれ擂り切り1杯で必要量にするには大変地味な作業だった。




 気付くと陽は頂点より少し傾き、昼はとっくに過ぎている事を示していた。作業に没頭するとこれがあるから気をつけないとだな、と一人反省をしつつ、ふと気付く。


「あれ?今日は姫様も姉妹も来てないな。それに道具もまだ届かない、か。今日も晩御飯作る事になっているから、夕方頃に来るのかなぁ?たまにはこっちから迎えに行ってみるか!」


 少し日差しが強いが用水路が近いからかたまに涼しい風が吹いてくるのが気持ちいい。途中で拾った棒を振り回しつつ、農園の景色を眺めながら散歩のようにのんびりと歩いた。




「結局店まで着いちゃったな。あ、やっぱり姫様の馬車あるわ。それと隣のは……

中身は工具やらでいっぱいだから鍛冶のおやじさんのかな?」


 2台の御者や従士に挨拶をしつつ、店の中へ入ってみる。すでに昼食を過ぎた後で、客はテラスでお茶を飲んでいる2卓程度のようだった。ウェイターさんに事情を話し、姫様たちのいる厨房へと案内された。

 そこには姫様やトニアさん、遠藤姉妹の他にも、旦那様や料理人たちと賑やかにミンサーを動かして挽肉を作っては交代していた。



「あら、ヒバリ様ごきげんよう。申し訳ありません、もうかなりお待たせしてしまったようですね。」


「おおヒバリ殿!殿下を引き止めていたのは私の方だ!すまんね、どうしても話には聞いていたミンサーとやらを見てみたかったのだよ。ここの者達にもいい刺激になると思ってね」


 どう声をかけたらいいか迷っていたら、先に2人に話しかけられていた。まぁ未知の道具があると言われてそれを見せられたら使いたくはなるだろう。あれだけ楽しそうにやってちゃぁなぁ。


「いえ、普段家に篭っていた分散歩しながらというのも楽しかったので大丈夫ですよ。それにこれだけ助けて頂いている旦那様や姫様に、これ以上謝られてもこちらが困ってしまいますよ

 それでミンサーの方はいかがですか?自分の拙い図面だったので、動作が気になっていたんですよね。傍から見た限りでは上手くいってそうですが」

 

「おう!ちっとネジってやつだけでも面白すぎる技術で色々遊んじまったが、コイツ自体はそんな複雑ってほどでもなかったからな。ここで少しの調整を加えた程度で、この通りよ!」


 答えてくれた職人のおやじさん(後で改めて自己紹介をしたらランブという名前だった)が満足気に答えてくれた。目の前にはワニと思われる挽肉が出来上がっていた。さすがに調整にいい肉使うわけにはいかないだろうし。



「これは是非うちにも欲しいね。ヒバリ殿、無論それなりの礼はするがどうだろう?」


「失礼ですが旦那様、それほどの頻度で挽肉を使うか、私にはどうにも…いえ、決して悪い道具というわけではなく、当店では挽肉というものの使用方法があまりないのです」


 途中からランブさんに睨まれた料理長らしき男性は、後半はこちらへ必死に弁明しているようだった。この世界じゃスープでたまに、なんて言ってたから需要が無いのは当然だろう。


「それに関してはこのヒバリ殿が今開発中の挽肉料理があるから、近々こちらもそういった品目を増やす予定である。なに、心配せんでもこれを絶対に使えと言っているわけじゃない。ただ、この器具はそのうちかなりの需要が見込まれる。私は先駆者のひとりになりたいだけだよ」


 料理長は異論はありませんと言って下がり、旦那様は俺とランブさんとの交渉の続きを始めていた。俺としては自分の名前で食品卸し業をするのはまずいから、旦那様の名前で庶民を中心に商売代行して頂く事を条件にミンサーの方は自由にと、姫様も交えて話がまとめられた。



 

 その後、家に運ぶために一旦ミンサーを分解して綺麗に洗い、そのまま影でこっそり作った袋を取り出して、中に仕舞い運び出した。ちなみに他の料理人たちは、あまりに簡単に分解して見せ、あまりに少ない部品数に驚いていた。シンプルイズベストなのだよ!


 そしていざ姫様達のいる馬車へ乗り込もうとしたら、ランブさんの馬車の前に居た旦那様に呼び止められた。何か伝え忘れてたのかな?と思いつつ返事をして駆け寄ると、


「今日は私とランブ殿も、ヒバリ殿の試食会という食事に参加したい。先日殿下が嬉しそうに語るので気になっていたのだよ!構わないかな?」


「はい。こちらとしても出来れば食材の仕入れの打ち合わせもしたかったので、実際に見ていただきたいです。お口に合うか分かりませんが、是非いらしてください」


 姫様達の馬車にその旨を伝えて、ランブさんの中で3人で色々話し合った。馬車の中はむさ苦しいおっさん3人が会議を続ける。自分の目指している事を語り、そしてそれを真摯に受け止めてくれる2人。こう、漢として熱いものがあるなぁ。




 妙な充実感を覚えつつ帰宅し、そこから急いで調理準備に取り掛かる。ミンサーを熱湯消毒してから組み立てなおし、備え付けの万力でテーブルに固定する。

 その間に沙里にまたポン酢作成をお願いし、俺の方は肉をある程度の大きさに切り分けて、そして牛と豚・猪・ワニの順番にそれぞれミンサーで挽肉にしてボウルに取り分けて並べる。


「じゃあ沙里ちゃん。この牛豚の合い挽きと猪の挽肉に、ここに並べた調味料をスプーン1杯擂り切り丁度ずつ入れて欲しい。あと卵横にある分ずつ入れてね。そうしたら手早くねばりが出るまで捏ねて、あまりタネの温度が上がる前に一旦冷蔵庫に入れておいて」



 真剣に調味料を入れる沙里を横目で確認しながら、ワニのつくねに取り掛かる。こっちはまだ計量スプーンが間に合わなかったんだよなぁ。それにネギ油とこの肉を擂り潰すのに時間がかかるのも欠点といえば欠点か。今回は軟骨代わりの挽肉は入れず、そのまま調味料等全て入れて混ぜ合わせる。そんな作業を、気付くと沙里ちゃんがじーっと見ていた。


「それはつくね、でしょうか?肉は鶏っぽいけと違いますよね」


「正解。これはここでは一番安くて硬い肉のワニなんだよ。川に生息してる害獣扱いだね。味が淡白すぎたから、鶏がらスープを作ってここに入れて調整したんだ」


「……次はこちらも教えてください」


「今日は時間がないから後でね!」



 お皿やパンは美李ちゃんとトニアが手伝ってくれたので準備ができており、こちらもハンバーグを焼いている間に沙里ちゃんがつけ合わせを準備し終わり、オーブンへ放り込んだ後でつくね串も焼いた。今日は御者や従士も含めて10人ということもあって、さすがに一度に全部焼けないから大慌てだ。


 そうこうしている間に出来上がり、姫様と旦那様とランブさんでひとテーブル、遠藤姉妹と俺とトニアさんでひとテーブル。しかしトニアさんは姫様たちの奉仕するため傍らに立っている。酒の準備も終わり、俺が声を掛ける。



「えっと、本日は私の主力商品の試食会という晩餐にいらしていただきありがとうございます。今回の料理は俺達の間では家庭料理にも店の商品にもなるかなり知られた料理です。


 順番に、丸い物が牛と豚を合わせた挽肉のハンバーグ、楕円の物が猪の挽肉のハンバーグ、最後に串に刺さった物がワニの挽肉を使ったつくねです。ハンバーグにはケチャップと呼ばれるトマトソースか醤油を使ったポン酢と大根おろしとバジルをかけて召し上がってください。つくねはそのままで味が付いています。では、」


「うむ。見た目も香りもいい。さっそくいただこう!」


「はい。今回もヒバリ様の料理を楽しみにしていましたよ。では、」


 俺と遠藤姉妹は揃っていただきますと言い、それを合図にトニアさん以外食べ始めた。



「ほう!これは確かに美味い!これはどちらのソースも捨てがたいな!」


「確かに。わしにはこのつくねがたまらん!酒がすすんでしまうわ!」


「猪というのは初めて口にしましたが、確かに少しクセはありますが、決して劣るものではありませんね。どうして皆にはあまり好かれていないか不思議です」


 それぞれいい評価を貰えたようなので安心した!やっぱりワニのつくねは擂り潰したものだけでいったほうがいいな。旦那様には鶏の骨も仕入れ許可もらえたし、必要なものは全て伝えたはず。これで明日は取引予定の相手と直接交渉をする事が確定だ!この辺りは旦那様が酔う前に姫様も交えて予定を詰めておいた。確実にいこう!


 早めに食べ終えて、追加のパテを焼いてトニアさんに渡しておく。そして俺はまた御者や従士に持って行き説明をしたら、さすがにワニは以外だったらしく、また背中を叩かれてしまった。表現が過激だよ……味を気に入って貰えたのは嬉しいが、酒が飲めないのは俺のせいじゃない!



 家の中に戻ると、トニアさんは予備で置いていたつくねを焼いていた。ランブさんからの注文だそうだ。それだけ気に入ってもらえたならこちらも嬉しい!食事前に従士さんたちに運んでもらった器具を整理しつつ、トニアさん経由で姫様にステータスの事で話を聞きたいと伝言を頼んでおいた。


 ランブさんはさすがドワーフという呑みっぷりだったが、そろそろ旦那様は自身が酔い始めていることを自覚しお開きとなった。家で呑み直すというランブさんにつくねを袋(時間経過無)に入れて渡したら喜んでくれた。ほんとに気に入ってくれたんだなぁ。よかった。

 旦那様はランブさんにお願いし、いつの間にか食べ終えていたトニアさんと姉妹が洗い物を片付けてくれていた。俺もミンサーを分解して洗い、袋に入れて熱湯を注いで閉じておく。



 

 すべて片付け終え、トニアさんの用意してくれたお茶を飲みつつ話を切り出してみた。


「えっと、姫様に聞きたいステータスの事なんですが、以前召喚勇者はステータスの成長率が高いと言ってましたが、他の勇者達も成長しているわけですよね?実際にどれぐらい早いのでしょうか?」


 眠そうな美李ちゃんを抱えている沙里ちゃんもこの話には興味があるようだ。

そりゃ自分の体の、しかも生きていく上で重要な能力だから当然か。


「そうですね……城の方達は、騎士団預かりの方はもう小隊長あたりといい勝負が出来るようでした。魔法スキルを持った方も初級クラスなら10発連続で撃てるようになったと聞いています。通常よりは明らかに成長が早いでしょうね」


直接そいつらのステータスを見たわけじゃないから分かりづらいなぁ。

もうちょっとこちらの手の内を見せたほうがいいかもしれない。姫様なら大丈夫だろう。


「えっと、実は俺のスキルの一つの鑑定なんですが、ステータスを数字として見る事が出来るんですよ。それで、おそらくずっと袋を作るスキルを使い続けた所為かMP、つまり魔力の総量がおかしいんですよね 先程の魔法スキル持ちの勇者ですが、初級魔法というとおそらく消費MPは1でしょう。それが10発となると、総量はよくて20って事になるんです。MPは半分以下になると倦怠感が出るそうなので」


 そして街の人たちを見た限りはMPは総じて10もない程度。他のステータスも15前後で、巡回兵たちはさすがに30くらいだった、という話をしておいた。姫様もステータスを数字として見られる事は知らなかったようで、かなり考え込んでいた。



「とにかく、一旦俺のステータスを紙に書くので、ちょっと参考に見てみてください」


 鑑定ウィンドウをチラチラ見ながら紙に書き上げ、姫様に渡してみる。するとMP総量がおかしいと言った意味が分かったようで驚いた顔を隠せないでいた。そして少し視線を落として、俺に尋ねてくる。



「それよりもヒバリ様。先程お話されたステータスの下ですが、ヒバリ様の袋詰めのレベルとやらが2に上がっていますが、こちらは何か変化があったのでしょうか?」



「…………え?」






あれ?ほんとだ………







木沼 雲雀 27歳 男

状態:良好

▼         

HP:20/20

MP:756/756

STR:16

DEF:11

INT:252

DEX:57


固有スキル

 鑑定:LV-

 袋詰め:LV2

適合属性

 闇






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