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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第7章 ビネンの湖と人攫い
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マルーンとの再会

不定期ですみません。

拙作を読んで頂けたら幸いです。

 翌朝。




 昨日は沙里ちゃんとトニアさんにずっと御者を任せていたので、今日の朝ご飯は俺に任せてもらってゆっくりするよう言ってある。



 ……んだけど、


「んー、早く起きすぎたか。外は……まだ陽も昇ってないなぁ」


 さすがにこんな早くご飯作っても冷めちゃうし、キッチンで作業したらうるさくて他の人も起きちゃいそうだよね。仕方ないからそっと外の様子を見に来たけど、湖からの涼しい空気で余計にしっかり目が覚めちゃったか。



 うろ覚えな適当ラジオ体操やストレッチをして体を解してから、徐々に白んだ空を見て居住袋へ戻った。それでもまだ少し時間が早いので、仕込んだ味噌と醤油種がどうなったか確認してみる。うん、かなり醗酵が進んでる。でもこれまだ仕込んで1週間くらいだったような?もうちょっとしたら両方とも食べられるレベルまでいきそうだ。



 味噌と醤油の匂いかいでたから、今日は和食な気分になっちゃった。


 じゃあ今日は白米に川海苔の味噌汁、目玉焼き、マスの塩焼き、しょうがと塩で揉んだ胡瓜、トマトのサラダ、この間作ってみた川海苔の佃煮。こんなところかな?


 調子に乗って色々作っていたら、トニアさんが起きて来た。


「おはようございます。そろそろ皆を起こしてきましょうか?」


「おはようございます。あー、そうですね。今日は明るい内に色々動きたいし、早めに行動しましょうか」


「はい。ではそのように」


 そう言ってトニアさんが出て来たばかりの和室にまた戻っていく。




 それから30分後。


 まだ眠そうなピーリィも朝ご飯を見たら目が覚めたらしく、いそいそと席に着いた。全員が揃うタイミングで卵を焼いて並べる。そして俺の「いただきます」を皆が唱和して食べ始めた。


 早く自分達で作った味噌と醤油使いたいなぁと思いながら目玉焼きに醤油をかけて食べる。うん、楽しみだ。




 朝ご飯も終わり、後片付けは沙里ちゃんがやると言って食器を持っていかれたので、俺はまったりお茶を飲んでいた。そこへ、


「ヒバリさん、れーだぁまっぷ?に反応がありますよ」


 レーダーマップという言葉に慣れないトニアさんが言いにくそうに俺に声を掛けてくる。ルースさんの指導のおかげで居住袋の中からでもレーダーマップを運用出来る様になったため、今もスキルは自然に発動出来ている。と言ってもまだ無意識の発動では範囲が狭いのが修行不足な所なわけだが。



「ほんとだ。もうちょっと範囲広げてみますね」


 小さなマーカーが映っていたので魔力を籠めて感知範囲を広げると、レーダーマップに更にマーカーが増えていった。複数の塊と、それの前後に2個ずつが重なって映っている。どうやら馬車と馬に乗った護衛みたいだ。

 そして馬車と思われる集団のマーカーの中でちょっと大きい反応が1つある。それに鑑定を当てると、意外なものが判明した。



「……うわぁ」


「どうしたんです?」


 洗い物が終わった沙里ちゃんが手を拭きながらお茶が用意された席に着く。お茶のお代わりを用意しようとしていた姫様に気付いたトニアさんがそっとポットを取り上げている。


「この馬車っぽい集団の1人、召喚勇者ですね。名前は小林優子、固有スキルは……不破猛進(ラッシャーズハイ)?突進攻撃?」


「えっ!?」


 驚きの声を上げる沙里ちゃん、お茶を入れようとして止まったトニアさん。姫様は見た目は変わらない。ちなみに、ルースさんと美李ちゃんピーリィは歯磨きに行っている。


「ということは、馬車にその勇者パーティ、前後は護衛ですか……」


「多分そうでしょうね。南から来たから、トルキスから魔物討伐に来たのかなぁ?何とも言えないですね」


 トニアさんも同じような意見らしく、少し難しそうな顔をした。


「ここは無理に接触せずに様子を見ましょう。幸いこちらにはヒバリさんのれぇだまっぷ?があることですし、油断しなければ不意を突かれる事はないでしょう」


 姫様は特に揺るがずに告げてくる。


「ヒバリさんはその女性を知っていますか?」


「いやぁ、会話も何もすぐに役立たずで分けられちゃったからなぁ」


「そうですか……わたしも美李と一緒にいるので精一杯だったから分からないんですよね」


 沙里ちゃんが知らないってことは美李ちゃんも知らないか。これから湖周りの魔物討伐の予定だったけど、相手も同じだとしたら、どうしたものかねぇ。




 しばらく居住袋の中でやり過ごし、勇者を乗せた馬車が湖の外周らしき場所を西へ走り去って行くのを待った。そしてレーダーマップの範囲外まで行ったところで一息つく。


「なんか、特に止まらずに湖の周りを走って行きましたね」


「そうだね。その辺で狩りを始めたらどうしようかと思ったよ」


 歯磨きが終わったルースさん達も袋で作ったソファもどきで寛いでいたが、待つ事に飽きたピーリィは訓練部屋で飛び跳ねているようだ。居住袋もだけど、訓練部屋も広くしてあげたい。もっと自由に飛べる場所か……帝国領に行けば獣人差別は少ないらしいからやっぱり早めに行かなきゃ!



「さて!じゃあ俺達も魔物討伐とマルーンさん探しに行き……あれ?」


 いざ出発しようと思ったら、また湖の南辺りから北上して来るパーティらしきマーカーがレーダーマップに映り込んできた。今度は4人。でもさっきの勇者パーティと比べてばらけてるし遅い。この様子なら徒歩かな?


「南から来る人が……え?…………マルーンさんだ!」





 俺達は急いで支度を済ませ、フル装備を身に纏ってから馬車を出して居住袋を仕舞う。さすがに徒歩で来たのもおかしいし、乗り合い馬車で途中まで来るにしては時間が早すぎる。

 なので、トルキスに寄らずに湖外周へ向かって野宿をしていたという設定で皆と話をあわせた。まぁ、ほぼ嘘は言ってないから問題ないよね。



「マルーンさーん!」 


 何か地面を見ながらゆっくり歩いていたマルーンのパーティがやっと俺達の200mくらい先に近づいたので声を掛けてみる。

 全員がびくっと体を硬直させ、メンバーに何かを合図してマルーンだけが静かにでもダッシュでこちらに駆け寄ってきた。


「バカッ!静かにしないと見付かるでしょ!って、それ以前になんであんたらがここにいるの!?」


 いきなり怒られた。


「いやそれはこっちの台詞ですよ。突然野営地から姿を消して連絡もなくて、困ったバフさんが俺達に捜索依頼してきたんですよ?」


「バフが?……そういや、何も言ってなかったっけ?あれ、どうだったかね?そっか。態々ありがとさん……えーっと、お前名前なんだっけ?」


「……ヒバリです。皆はそこの木陰にいますよ」


 そう言って皆に出てきてもらうとマルーンが笑顔で皆を迎えていた。俺以外の全員の名前覚えてるじゃん!何で俺だけ!?



 話している間に追いついたマルーンの仲間が合流し、それぞれが再会の挨拶を交わしていた。そしてやっぱり俺だけ名前覚えられてない!


 ……それはさておき。


「で、見付かっちゃうって誰にですか?何で野営地に言伝も無くいなくなってここで何を探しているんですか?」


「ちょっと待っとくれよ!今馬車を追いかけてる最中なんだ。新しい轍を見ながらだからあまり時間は掛けられないんだ。あ、そうだ!あんたらここを馬車が通らなかったかい?何か情報があると助かるんだよ!」


 俺の肩に手を置いてぐらぐら揺らされる〜〜〜。やめて酔っちゃうから無理だから!


「落ち着いてください!道から外れて野宿してたから馬車は直接見たわけじゃないけど、遠くでそんなような集団が通ったみたいです。でもその馬車がどうしたんです?帰らない理由はそれなんですか?」


「見たんだね!?何人いた?武器は?馬車の形は!?」


 またぐらぐら揺らされる〜……俺より身長あるから上からがっつり揺らすのやめてくれ!



「まぁまぁ」「どうどう」


「ちょーっと落ち着こうね〜?か弱い男の子襲っちゃだめよー?」


 見かねたマルーンの仲間が取り押さえ、逆に俺は美李ちゃんとピーリィが前に出て立ち塞がる。

いや、か弱いは否定できないが、おっさんに男の子はないでしょ……


「ヒバリお兄ちゃん、困ってるでしょー!」「めー、だよ!」


 ここで交渉役を姫様と交代し、安定の落ち着きのある声でやっとマルーンが冷静さを取り戻した。




「そっか。あんたらが見た馬車に護衛が4人……うん、確かにあたしらが追っていた奴等に間違いないみたいだね」


 斥候役と思われる女性がマルーンに頷いていた。追いかけていた轍と足(馬?)跡の数が一致したんだろう。


「その方達を追うことが野営地から飛び出した理由なんでしょうか?見たところ、トルキスの方から来たみたいですが」


「ええ。あたしらはヒバリ達が帰った後もすぐに野営地で見回りをしながら狩りをしていたんだ――」




 マルーン達は決められたとおり他のパーティと声の届く距離を保ちながら魔物を探していた。誰かが魔物を見つけたら他のパーティを呼んで複数合同で討伐する。油断すると危険な地中のワーム、やたらと硬いフォレストリザード。


「あのトカゲは魔法に弱いらしいからロウジュ、頼んだよ!」


「ええ、この間怪我して迷惑かけた分きっちり叩き込んでやるわ!」


 マルーンの拳とロウジュと呼ばれた長い金髪を一つ縛りにした女性の短杖をこつんと合わせる。


「ほら、さっさと先いくよ?」


 そんな2人を急かすように斥候の女性トーキが先を顎で示す。マルーンと同じく短髪だが、ストレートの茶髪がさらっと揺れた。

 そして最後の1人、大盾と幅広い鈍器の様な剣を構えた女性ジオが最後尾から賛同の声を出す。うんうん頷くとロウジュよりは短いが少しウェーブのかかった髪が揺れる。


「ほらー、わたしが前出ると目立っちゃうから後ろって言ったのに、止まられたら進めないでしょー?」


 身長180cmのマルーンを更に超える長身のジオが間延びしたしゃべりと盾を押し付けることでやっと移動を再開した。



「きゃ!で、出た……だ、ダイアウルフ!助けて!!!」


 突然聞こえてきた女性の声。話している間に左側に居たパーティは少し先行していたらしい。その叫びに4人は即座に助けに走った。



 現場に追いついた時には男の冒険者はフォレストリザードに捕食され、もう1人の男が助け出そうと魔法を放つが威力が足りない。

 叫び声をあげた女性はダイアウルフに襲われ、大した怪我ではなさそうだが、鎧に噛み付かれそのまま引き摺られてこの場を離れようとしていた。もう1人の女性も追いかけようとするが阻まれて上手く動けずにいた。


「トーキ、いけるか!?」


「無理!あれだと矢が女に当たっちゃうかも!」


「チッ……ジオの盾とロウジュの魔法でそのトカゲを任せた!あたしらは狼いくよ!」


 その行動に気付いたダイアウルフ達が連れ去る奴を守るように立ち塞がる。攻撃の連携は見たことあるけど、守りを固めるだなんて見たことないために焦りが募る。


「なんだいこいつら……邪魔だよッ!」


 マルーンの声に合わせて矢を放つトーキ。それに怯んだダイアウルフを逃がさずきっちり斬り倒して致命傷を与えるマルーン。


 だが、数が多い。



 更に何処からか数匹増え、


 攻めあぐねていたもう1人の女性もダイアウルフに噛まれ引き摺られて行くのが見えた。ついにマルーン達は自身の身を守るだけで手一杯になってしまった。



「おまたせ〜。さぁ、踏ん張りましょう」


 フォレストリザードを倒し合流したジオがドン!と盾を突きたてて先頭に構える。そっとロウジュも最後尾で杖を握りなおしていた。



 引き摺られていく女性2人の叫び声が聞こえるが、6匹を超えたダイアウルフ達とのにらみ合いで動けない。やがてダイアウルフ達が一斉に身を翻して撤退を始める。それを見たマルーン達も付かず離れずの距離を保って追うことにした。


「あんたらはトルキスへ逃げな!ここからなら湖も近いから、そこから道沿いに走って衛兵にこの事を伝えるんだ、いいね!」


「わ、わかった……あいつらを、頼むッ!」




 その後逃げるダイアウルフ達が数度に分けて襲い掛かってきたが、すべて打ち倒しているうちに、ついに足取りが途絶えてしまった。それでもなお進んでみるが、これ以上は野営の準備も無く夜を迎えそうだと撤退を告げて、疲れた体に鞭打ってトルキスへ走った。



 夜にトルキスの町に着いた一行は、さっそく門番に怪我した冒険者2人が来た事を確認するが、そんな2人は来なかったという。町に入って治療施設や薬剤店、冒険者ギルドの出張所(この町には小さな施設しかない)にも確認を取るがやはりいない。


「……おい」


 出張所を出て少ししたところで男の冒険者パーティに声を掛けられた。初めは荒事かと警戒するが、よく見ると怯えている。高圧的な力の入った目じゃない。


 武器を持ってないとアピールして、キョロキョロと辺りを見回す。怪しいが、だからこそ手がかりがあると確信したマルーンが近寄る。


「気をつけろ。この町の周辺で人が消える。それも1人や2人じゃない。出来ればアイリンのギルドに伝えてくれ。俺達は……動けないんだ」


 それだけ口早に告げると何も無かったかのように、男達は去っていった。マルーン達は急ぎ宿を取り、全員固まって一夜を過ごした。





 ――その翌日、警告してくれた男達の死体が湖に上がっていた。



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