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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第7章 ビネンの湖と人攫い
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救助依頼を受けて

「ちょっと待ってください!マルーンさん達の見回りってそう遠くに行った訳じゃないはずですよね?」


「ああ、勿論そうだ。近くのパーティと声が届くほどの距離を保っていたはずなんだ。だが、あいつらは突然森の西に走っていったって話なんだよ」



 マルーンは女性のみの4人パーティのリーダーで、初めてビネンの森へ赴いた際に助けた縁がある。そのまま野営地に送りに行ったからこそバフとも知り合ったわけだ。


 そのマルーンが、パーティ全員で行方不明って……




 野営地でマルーンの近くに居たパーティの話では、お互い野営地の西側を見回りしていたが、突然何か叫んでから追いかけるように森の奥へと走っていったそうだ。

 バフがアイリンへ運ばれる朝になっても戻らず、少し範囲を広げて捜索したものの見付からなかった、と。そしてアイリンで捜索依頼を出そうとしたが、いるのは疲弊した冒険者ばかり。そこで受付から

俺達が明日森を抜けてトルキスへ向かうという話を聞いて訪ねた。



「お前さん達ならマルーンらの顔を知っている。そして腕も確かだ。森の探索は無理しない程度で構わない。ついでにトルキスでも何か情報がないか聞き込みをしてもらえると助かる」


 頼む、とテーブルの向かいに座るバフが深く頭を下げる。


「別に依頼にしなくていいですよ!どうせ湖の方へ行くんだし、それに知り合いが行方不明だなんて俺だって気になりますよ!」


 横を見ると姫様とトニアさんも無言で頷いて同意してくれた。


「すまねぇ。正直壊れた装備品やしばらく稼ぎが悪くなるから報酬は多くはないが、必ず対価を支払うから……頼む!」


 報酬がいるいらないでしばらくもめたが、結局ギルドは通さず無事にマルーンさん達を見つけることが出来たら何かしら受け取るという事で落ち着いた。いざとなったら報酬はしらばっくれよう!



「そういや俺達がお前らに助けられた後に他のパーティの死体を見つけたろ?その時、ちっと妙なモン見たんだったな」


「妙、ですか?」


「ああ。死んだ男は捜してた奴なんだが、そいつの残りのパーティがいなかった。これも妙なんだが、近くの木に刺さってた矢だ。あのパーティに長弓持ちはいねぇんだ。

 だからもっと先に別のパーティがいたかもしれねぇ。そうすると、ばらけたパーティはもっと多いんじゃねぇかって話になるんだよな」


「そういえば、冒険者ギルドでも行方不明の人が結構居るって噂を聞きました。思ったよりも迷っているパーティが多いのかもしれないですね」


「まぁお前らが森に向かった頃にはもう勇者サマが助けてるかもしれねぇがな。それでも多くに声をかけて損はねぇ。頼むぜ!」


「分かりました。俺達は早朝には出発しますから、もし何か進展したらそれまでにお願いします。それ以降はトルキス経由で情報交換になると思います」


「頼りにしてるぜ!……それにしても」


「どうしました?」


「いや、こうして話すとホントにお前さんがリーダーなんだなってな。こう言っちゃなんだが、パーティに男いたか疑われるか荷物持ちかと思われてたぞ?リーダーなら普段から前に出ないと威厳ねぇぞ?」


「気にしてるんですからもっと優しくお願いします!」


 マルーンさんと初めて会った時も荷物持ち(ポーター)って言われたのショックだったのに!


「とは言ってもなぁ……助けられた俺や野営地にいた連中はお前がパーティにいたのは分かってるが、遠巻きに見てただけのやつらは女だけのパーティだって思ってるらしいぞ?」


「……何それ初耳なんですけど?」


「お前ら同じ外套着てただろ?で、べっぴんさん揃いが野営地の奴等を助け捲くったおかげで守護する衣(クロスオブガード)って呼ぶ奴が出てたぜ」


 そりゃあ俺はフォレストリザードの目を射抜く以外姫様とルースさんの横に仕えるように立ってただけだけどさぁ。実際に助けてたのは他の皆だし、納得出来るけど納得したくない……


「ま、まぁそんな事よりマルーンさんを助けに行くんですよね!それなら急いだ方がいいんじゃないですか?」


 凹む俺を見て沙里ちゃんが割り込んで話を戻してくれた。


「……うん、そうだね。今は助けられる人を優先しないとだよね!」




 途中から雑談になってしまったが、バフからの依頼を受けると伝えた。本当は報酬はいらないけど、その本当の理由をバフに話す訳にはいかないから受け取らないのは不自然だと言われては仕方ない。


「で、明日から捜索に行くんだったよな?」


「いえ、その話を聞いたらすぐに準備をして出ますよ。今なら暗くなる前に野営地に行けますからね」


「そんなに急がなくても、と言いたいとこだが……すまねぇ、助かる」


「はい、任されました」


 差し出された手を出来るだけ力強く握り答える。でも握り返されて骨が折れるかと痛がったら、ほんとに大丈夫か?と心配されたが、俺は前衛じゃないから力は期待しないで欲しいなぁ。




 バフが帰った後は少し皆と打ち合わせをして、すぐに出発の準備を進めた。食材加工の途中だったけど、それは馬車というか居住袋の中なら移動しながらでも出来る。むしろ時間つぶしにもなるから丁度よかった。

 すぐに出発するとは思ってなかったから買い忘れていた矢を補充したり、生活品で使ってる魔石に姉妹に魔力を補充してもらったり、あとは宿のチェックアウトを済ませて馬車を走らせた。


 俺が作ったお揃いの外套は今はちょっと目立つかもしれないので外しておき、馬車に乗るのも俺と遠藤姉妹だけにしておいた。これもこれ以上目立つのはよくないと、皆と相談した結果だ。後の4人は居住袋の中に入っている。



 こうして何事も無く街の検問を抜け、今回は西門から出たらトルキスへ向かう主街道を走る。途中からトルキスの北隣にあるビネン湖の外周を北側から反時計回りに走る予定だ。

 ただ、トルキス西側と川を渡って湖の南西側は貴族の別邸が立ち並ぶ区域でもあるので、そこはなるべく湖に沿って走れば一般漁業区を通るだけで済む。その時だけは最大警戒寄り道なしで通り過ぎるということでまとまった。



 アイリンの街から1時間ほど馬車を走らせ、十分に距離を取ってからトニアさんと御者を交代した。俺も色々雑事を終わらせたいんだよね。

 袋作成で食料用・ゴミ用・排水用・風呂用・トイレ用・防具用・予備の靴と外套、そしてついでだから気晴らしに袋で浴槽を作れないか色々試してみたんだが……


「だめだ。このままだとお湯入れたら滑って転ぶなぁ」


 袋のおかげで転んでもほとんど痛くはない。咄嗟にイテ!って言っちゃうのはしょうがない!練習部屋で試してるから周りもクッションだらけで安全だからいいけど、これじゃ使えないか。


「う〜ん……表面をざらつかせてもだめかぁ。凹み型ならいけると思ったんだけどなぁ」


「うひゃー!」「ぴゃぁー!」


 ツルツル滑るのが楽しいらしく、美李ちゃんとピーリィが緩やかな凹みから滑り込んで、浅い湯の中でクルクル回りながらじゃれあっていた。俺の様子を見に来たらしいがもはや俺は眼中に無い。


「いくら魔法で服が乾かせるからってそんな格好であばれちゃダメだよ!少ししたらちゃんと拭くんだよ?あと、怪我しそうになったらすぐに消しちゃうからね!」


「「はーい!」」


 結局、子供用のビニールプールが出来ただけで終わった。


 そして2人は沙里ちゃんに怒られながらドライヤー魔法で乾かして貰っていた。ほんと仲良いねキミたち。




 そうして時間が過ぎ、森を迂回するように作られた主街道に沿って、南から東へと大きく右周りに馬車を走らせる。そこから更に進むと以前にも通った遺跡野営地へと続く森の南入り口の道になる。

 アイリンから遺跡へは西へ一直線が一番近いが、馬車道の開拓が進んでいない。巡回騎士隊が管理する主街道を経由することで安全に進められる事から、森の遺跡への馬車道はトルキス寄りに出来上がってしまったのだ。そもそも一般の冒険者は馬車なんて持ってないから、道はそれなりの者達のために作られたわけで。今回の魔物討伐と平行してアイリンへの道作りも始めていると街では話題になっていた。


 俺達の馬車は森の遺跡への馬車道へ向かい、途中から道を外れて西に進路変更をして湖を目指す。湖周りは多少開拓されているので馬車を走らせる事が出来る。この辺りの整備は貴族が行ったらしい。伐採した木を運ぶのに道がなければ商売にならないから当然だろう。



 トニアさんが沙里ちゃんに御者を教えながら隣に座っている。俺はルースさん指導の下魔力制御の訓練だ。更にダークミストの感知範囲を広げる練習もしている。

 微弱な物は軽く感知し、動く物や大きい魔力はマーカーの大きさで区別できるようレーダーマップのような表示をイメージを固める練習だ。これが自然に出来る様になれば次はマーカーに名前表示が付けられないかと試行錯誤しながら行っている。


「やりたいイメージはあるんだけど、なかなか形にならないな」


「今までろくな訓練も出来んかったんじゃから、そうホイホイ出来たらたまらんわ。ほれ、さっさと集中せい!」


「くっそー。俺にもチート能力あったらなぁ」


「チートとは懐かしいの。お主等召喚勇者が良く使っておったな。確か、反則級のどえらい能力のことじゃったかの?」


「それを知ってるって事はその勇者も同じ時代の日本人だったのかもですね。それで合ってますよ。俺達以外の召喚者にはみんな戦闘に有利な固有スキル持ってますね」


「確かに固有スキルは戦闘向きではないじゃろうが、召喚勇者らしい身体能力は持っておるじゃろ。ヒバリの魔力量も大概じゃ。スキルで魔力を消費し続けたら増えるなら、魔法を使えるものは皆同じ魔力を手にしていたはずじゃからのぅ」


 そういやルースさんより魔力量が多いんだったっけ。と言っても攻撃魔法は皆無、固有スキルの影響で増えない体力と筋力。前衛として立ちたかった俺としては相変わらず絶望的なんだよなぁ。


「適材適所じゃ。ヒバリはヒバリにしか出来ない事をやればよい。さぁ、雑談はここまでで訓練の再開じゃ!」


 ちなみに美李ピーリィコンビはプール?で遊びつかれて姫様の両脇で寝ている。末っ子である姫様も妹ができたようで嬉しいって前にこっそり教えてもらった事があるから、あれだけ楽しそうに2人の頭を撫でている姫様はそっとしておこう!




 各々同じ事をして時間を過ごすと、森の一部が開けた分岐点に着く。そのトルキス手前の野営地へ向かう道へ曲がり、森の中を1時間ほど走る。ここからは西にある湖を目指すために馬車を降りて居住袋の中に収納して馬を休ませる。外はもう暗くなり始めている。


「適当に西に向かうから馬車は使えませんが、ビネン湖は大きいので通り過ぎる事はないでしょう。湖に出れば馬車を使えるほどの道が出来ているそうなので、そこでまた馬車にいたしましょう」


 トニアさんの説明に全員が頷く。




 全員が同じローブを纏い、武器や防具、道具に不備がないかお互いを確認してから森の中を西へ向かって歩き出す。火の魔石を使ったランタンを2つ、先頭を行く沙里ちゃんと最後尾にいるトニアさんが持つ。隊列

としては、


前衛:沙里、美李、ピーリィ

中衛:ノーザリス、ルース

後衛:俺、トニア


といったところだ。これからもこの隊列にするつもりだ。



 俺はルースさんの指導のを受けながらダークミストの感知範囲を広げて魔物や野獣、そして人がいないか探しながら進む。暗くなっても感知で分かるからそれほど怖く感じないから皆も明るい。いやいや、油断は禁物だ!


「今回は人探しと救助が目的じゃから、獣を見つけてもこちらに害が及ばないなら放置じゃな。魔物は討伐しておく方がよいかの」


 俺の感知スキルを共有してるから全員がレーダーマップ(だんだんそれっぽい表示になってきたそう呼ぶことにした)と目の前の森を見ながら歩き続ける。


「カーナビみたいに道というか地図も出てくれたらよかったですね」


 沙里ちゃんの言葉に俺と美李ちゃんが「あー」と言って納得する。でも魔力感知であるダークミストに地図を反映する機能はないんだよね。


「カーナビとはなんですか?」


 聞いた事の無い名称に姫様が興味を示す。ルースさんやトニアさんも知りたいみたいだ。ピーリィは特に気にせず森を見回している。


「えっと、馬ではなく魔力のような燃料で動く車をカーって言って、それについている膨大な地図を収めていつでも見る事が出来る機械をナビって言うんですよ。

 更にこの空よりもっと高い位置から地図の中で自分がどこにいるか確認出来る機械を飛ばしておいて、いつでも地図と現在地を見られるやつですね」


 ……いまいち分かってないっぽい。さすがに人工衛星なんて説明しても分からないだろうし、まずこの世界に宇宙があるのかも知らないからそこは端折っていいでしょ。


「とにかく、今共有してるダークミストの感知……レーダーマップに空から見た地図が同時に見られるやつですよ」


「そんな物があったら絶対に道に迷いませんね……すごいです」


 はぁ、と溜息をついてトニアさんが簡易地図を取り出して目の前の半透明のレーダーマップと重ねていた。



「ほれ、そろそろ雑談はやめて周囲に集中せい。魔物の大量発生は治まったとはいえ、いつ魔物が湧くか分からんからの。暗くなる前に湖に出ないとまずいのじゃろ?」




 そうして夜の帳の下りた森を歩く。



 2時間くらい歩いたのか、そろそろ晩ご飯をどうしようか悩んでいたら、森が開けて湖畔へと到着した。今日はここで野営にしよう。


 さすがに道沿いに居住袋を設置するわけには行かないので、少し森側に戻って

木々の重なっている所へ設置してカモフラージュで偽装しておいた。明日も早いし晩ご飯と風呂をさくっと済ませて皆で寝る。


 見張りはいらないけど、やっぱり一部からでも外が見えた方がいいし早く居住袋を改良しないとなぁ。






感知の機能は魔力レーダーによるマップなので、以降ダークミストの中のレーダーマップという位置づけで呼ばせていただきます。

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