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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第7章 ビネンの湖と人攫い
67/156

嵐の後の

少し体調を崩し更新が遅れてしまいました。

読んで頂けたら幸いです。

「うー……だるい」



 結局今回も街に戻れたのは深夜。野宿してもよかったが、森には街で依頼を受けた冒険者で溢れているため、いつどこで見られるか分からないので居住袋は使えない。

 だから、無理矢理にでも馬車で街まで走り抜けた。といっても、2/3はトニアさんが御者をしてくれたわけだが。



 勇者一行も討伐隊に参加しているなら、下手に遭遇したくなかったんだよなぁ。あまり関わるとボロが出そうでいやだし。

 俺達が帰る頃は野営地に街からの冒険者は到着してなかったけど魔物も徐々に駆逐されていって落ち着きを取り戻していたし、おかげで勇者の顔を見ずに無事に宿まで帰れたってわけだ。



「ぴゅぃ〜……」


 いつものように俺の上で丸くなってるピーリィ。そっと頭を撫でる。今日は宿のベッドで寝たから朝日が射し込んでいる。

 やっぱりちゃんと太陽(この世界でも太陽でいいのか?)の光を感じて目が覚めるのはいいなぁ。そろそろ居住袋をなんとか改良したい!生活リズム、大事。



 くっつけられた隣のベッドを見ると、沙里ちゃんと美李ちゃんが身を寄せ合って寝ていた。こちらもまだ起きる様子はない。昨日あれだけの強行軍をやっちゃったからしょうがない。




 しばらく呆けていると、居住袋がすーっと開かれた。


 出てきたのは頭だけ。キョロキョロと部屋の中を見て、そーっと忍び足で全身を出す。そして音も立てずに移動しようとしたが……


「ルースさん、後ろが詰まっておりますので早めにお願いします」


「これ!大きい声を出すでない!ヒバリ達が起きてしまうのじゃ!」


 いや、ルースさんの声の方がよっぽど大声だけど。



 今の居住袋だとルースさんに開閉権限つけてないから、出入りするにはこうして別の人に頼むしかない、か……やっぱり早めに居住袋は改良しよう!


 そんな事を考えていたらルースさんと目が合った。


「なんじゃ、ヒバリはもう起きておったか。つまらん」


「朝一でがっかりした顔見せるのはどうかと思いますよ。おはようございます、ルースさんニアさん。サリスさんは?」


「おはようございます。仕度は済んでますので、じきにこちらへいらっしゃいますよ」


「ヒバリ、おはようなのじゃ!ベッドに潜り込んで、知らない女子(おなご)が隣に居たらどうなるか見れんで残念じゃったわ」


 知ってるし自分の事をおなごって言う辺りがちょっとアレだが。いや、見た目は幼女中身はBBA……いえ、なんでもないです!


「ヒバリよ」


「はい……すみません」


「うむ、分かっておるなら謝罪を受けよう」


 やっぱり心を読まれてましたかー。




 しばらく会話をしていたら沙里ちゃん美李ちゃんピーリィの順番で全員が起きだし、それぞれが身支度のために居住袋へと入っていく。宿の部屋に残ったのは俺とルースさんトニアさん姫様だ。



「ヒバリさん、このあとどうされたいですか?」


 姫様が聞いてくる。


 これは帰りにも少し話し合っていたのだが、森にはまだ俺が原因で発生した魔物がいる。勿論、今もアイリンの街で雇われた冒険者達の一斉討伐を行っているから時間の問題でもある。

 それに勇者パーティも参加しているのだから早々危機には陥らないはずだ。あの勇者は剣特化で魔力量は多くないから、あの人らがまた遺跡に入ってもさほど影響はないそうだ。そもそも勇者扱いされた人は魔力制御の訓練を受けてるわけだしね。



 で、俺達はどうするか。


 追われる身である俺達はそう長く同じ場所に滞在するのは危険だ。いち早く帝国領へ行かなければならない。

 でも俺は、自分が原因である魔物達を放って逃げるのはいやだ。知る限りでは20人以上の死者は出ていたらしい。残された人達の事を思うと罪悪感でいっぱいだ。このまま逃亡していいのか悩んでいるのを話した。


 そこで、東にある遺跡から南にあるビネン湖、そしてその近くにあるトルキスの町へ迂回しながら南の国境街を目指す事を提案された。

 これは、討伐隊が森の中心よりやや南にある遺跡を拠点として、そこから南以外に力を入れて進めて行く事を門番をしていた衛兵から聞いていた。

 それならトルキスの街からの戦力もあるだろうが討伐隊が力を入れていないのなら、そこを俺達が回ってみてはどうか?と。湖を左回りに1周するルートになるので、無理をしないなら5〜7日はかかるらしい。そして、トルキスで一度休息してから再度旅立つ。



「――というのはいかがですか?」


「そうですね、それならいいかもですね」


「ただ、一つ気がかりもありますが……」


 トルキスという町は貴族の別邸が特に多い。それは、森から伐採された木材を一旦湖で保管し、そこから何らかの技術で加工してから出荷する。

 そしてそれを商いにしているのが貴族達。首都で世話になったニング卿が農業を担う貴族であったように、こちらには林業の貴族がいるというわけだ。


「貴族と関わるのは避けたいなぁ」


「一介の冒険者として向かうだけでしたら接点はないでしょうが、何かで巻き込まれる恐れはないかと思いますが、不測の事態は起こりえますので注意は必要でしょう」


 トニアさんが答える。


「なんじゃ、そこまで心配せんでもよかろうに。貴族なぞ碌な者でもないが、所詮庶民の区画には来んのじゃろ?わしらが近寄らねばよいだけじゃ。堂々としておればよい!」


 渋い顔をして話す3人に、会話を見守っていたルースさんが堪え切れずに口を挟む。ここまで黙って聞いてくれただけでもこちらに配慮していたのだろう。


「ああ、それなら俺、湖の市場行きたいです!魚中心に食材買い漁りたいですねぇ。イクラも水草もこの機会に溜め込みたい!」


「おお!イクラはわしも欲しいぞ!」


 食べ物の話に盛り上がる俺とルースさんを、姫様とトニアさんが優しく見守ってた。




「勝手に話進めちゃってたけど、3人はそれでいい?」


 沙里ちゃん達が用意してくれた遅めの朝食をとり、食後に先程の予定を皆に伝えた。少し遠回りになる事と、またあの魔物を倒しに行く事。


「はい。皆で一緒に行けるならそれでいいですよ」


「だよね!また皆で魔物やっつけちゃお!」


「ピィリもいっしょならいいよ?」


 また魔物と戦う事も構わないって言ってくれた。皆には危ない事はさせたくないけど、俺1人ではダイアウルフ1匹だってギリギリだ。後で俺が出来る事で何かお返し出来る様に考えておこう。




 朝ご飯の後にもう1日宿泊すると前払いしてから宿を出て、まずは冒険者ギルドへと向かった。討伐隊の現状を聞きたかったのと、トルキスの町の情報が欲しかったためだ。


 ギルド内は昨日の討伐隊参加者が報酬受け取りに来ていてかなり賑わっていた。おかげでかなりの順番待ちだ。文句を言いつつもちゃんと並んでいる冒険者達。意外とマナーいいんだなぁ。


 やっと俺達の番になり受付の男性に聞くと、討伐隊は今日から野営地に陣を構えてそこを中心に無理をしないペースで探索するそうだ。統括は第二王女で、勇者は斥候がもたらした情報から一番厳しいと思われる場所を優先して討伐する。さすがは勇者様ご一行だ。

 そして案の定遺跡の南側はトルキスの町から別依頼として冒険者を募って討伐をさせる手筈とのこと。俺達もトルキスに用があるので湖へ迂回しながら魔物がいたら討伐していくと受付に言っておいた。


 本当は町の方がおまけなんだけど。



「……そうか、あいつらのパーティは全滅だったか。単独で突っ込むからだ。馬鹿野郎が!」


「他にも単身で出て戻らない奴が結構いるらしいじゃねぇか」


「死体を見てないのはまだわからねぇだろ?」


「それに昨日は単身どころかパーティでも戻ってない奴等も多いって話だったよな」


 ついでに何か受けられそうな依頼がないか待合所の掲示板を見に来たら、近くの男たちの会話が聞こえてきた。……やっぱり、戻らない人が多いんだな。



 ぎゅ。



 一瞬だったのかしばらくだったのか自分でも分からないが、身体が罪悪感で重く動けなくなっていた。そんな俺の手を左右から握ってくれた。その温かさを感じて、深呼吸する。


「ありがと。とにかく今は、魔物の討伐と助けられる人がいたら助けたい。だから、一緒に頑張って欲しい。あ、勿論怪我しないようにね!」


 美李ちゃんとピーリィの手を握り返す。任せろ!とばかりに気合の入った顔を向けてから今度は抱きついてきた。


「わしらもおるんじゃから心配するな!」


 そこへルースさんがバシバシと背中を叩いてくる。痛い。これ遠慮なしで叩いてるよね?左右の2人のせいで上手く動けないからやられ放題なんですけど!




 冒険者ギルドを後にして、昨日何故か屋台をやらされたおかげで減り捲くった食材の補充のために市場に向かった。特に減った肉類を買ってから宿に戻って昼ご飯を食べた。

 明日はまた朝から森を探索予定だから早めに休みたいのと、買った肉を加工して袋詰めしておきたかったので観光はなしだ。

 野菜は用途ごとに切って袋詰め、肉は適度な大きさに切って下味を付けてから袋詰め。特にワニ肉はそのままじゃ硬くて食べられた物じゃないからしっかりやっておかないとね!



 居住袋の中で俺と沙里ちゃんで食材加工を、その間に美李ちゃんとピーリィはルースさんの指導で魔力制御の訓練をしていた。


 そこへ、


「ヒバリさん、ちょっとよろしいですか?お会いしたいという方が宿の食堂に来られているそうです」


 トニアさんに呼ばれて作業を沙里ちゃんにお願いしてから居住袋から宿の部屋へ出る。ここには今トニアさんと姫様だけだ。客人は下にいるという事だったので3人で向かった。


「……誰だろう?」


 ちょうど昼のピークが過ぎた後で客足もまばらになった食堂に着いてから 宿の主であるおやじさんに飲み物を頼んだ。客人は1人という話だったので辺りを見回す。といってもすぐに分かった。



「バフさん、どうしたんですか?」


 尋ねてきた人は、あの遺跡迷宮を取り仕切っていたバフだった。昨日利き腕の肘から先を失ったばかりだというのに、その辛さをまったく見せずに振り返って笑みを浮かべる。


「おお、ヒバリ!昨日は助かった。ありがとう」


 そう言ってこちらに頭を下げる。


「いえ!本当はもっと早く到着していれば、その……」


「ん?ああ、こいつか。あの状況で命があっただけ儲けモノだ。それにうちのパーティは誰一人死んじゃいない。改めて礼を言わせてくれ」


 左手でも剣を振れるように鍛えてあるからな!と力こぶを見せてニカッと笑う。この人は強いなぁ。



「野営地の方はいいのですか?まとめ役のあなたがいないと色々と大変では?」


「ああ、そこは勇者たちがやってくれてる間は問題ない。それに俺はまず自分の怪我を治せとさ。ほんとありがたいぜ。それに俺だってずっと野営地にいるわけじゃないからな。そこは冒険者同士臨機応変ってやつだ」


 宿のおやじさんが運んできた飲み物をバフにも渡し、一息入れて話を進めることにした。姫様から切り出す。


「態々私達の居る宿まで来たのはお礼のためだけじゃないのですよね?」


「……ああ。これは俺がギルドから依頼という形で指名報酬を出すつもりだが、あんたらに受けてもらいたい」 




 その依頼内容は、行方不明になっているマルーンさん率いるパーティの捜索と救助だった。野営地に残った彼女達は、昨夜の見回り番の時に忽然と姿を消したらしいのだ。



 すぐに詳しい話を聞かせてもらうことにした。



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