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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第6章 ビネンの森と迷宮遺跡
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遺跡騒動の終息

休みに書く時間作りました!

「まずはダークミストの目眩ましを使うのはどうかな?」


「ヒバリ、おぬしあほうか?闇の適合者だと知られたくないと言っておったのに自ら使うのか?それに、フォレストリザードの目を射抜く腕がある上に、目のないワームに目眩ましなぞ無意味じゃろうが」


「じゃあ、ケロ口さんの出番かな!」


 俺はいそいそとケロ口さんを組み立て始める。


「……その袋の事も知られてはいけません。ヒバリさん、ご自分の立場も考慮してください」




 早足で次の魔物の群れに移動し、そっと近づき様子を窺っていた。あまり時間も無いのでいつまでもこうしているわけにもいかないので、作戦を提案してみたが、思いっきりダメ出しされた。その理由を聞いて、ぐうの音も出ないってこういうことか……



「もう!さっきと同じ攻撃方法で行きましょう!順番が逆で、先にフォレストリザードを全部倒しましょう。ワームに気付かれたら美李が地面を叩いて、先にそちらを仕留めましょう!

 まずはヒバリさんの矢で目潰しをお願いします。その後ニアさんに舌の攻撃に対応してもらって、その間にわたしと美李とピーリィで魔法を撃ち込みます。それでいいですね?」


「それでいいでーす!」 「ピィリもー!」


 結局仲良し三姉妹の案が採用され、俺の案はすべて却下された。安全策を考えたんだけどなぁ。




「とにかく急ぎましょう!まずは俺が奴等の目を潰して……あ、ひとつ美李ちゃんにお願いがあるんだ」


「なーに?」


「この袋に泥水を作って欲しいんだ。土が多めでお願い」


「いいよ!えいっ」


 右手から土、左手から水って……器用なことしてるな。出来上がった複数の泥水の袋を閉じ、準備完了だ。


「……行きます」


 静かに照準を合わせ、まずは1射目。トスっと刺さった矢に魔物の叫び声。これはさっきと一緒だ。ここからさらに2匹の片目を連続して射抜く。

 突然の痛みで暴れたフォレストリザードを見ながら移動し、もう片方の目が狙える位置へついたら即座に矢を放つ。1つ2つ3つと慌てずに確実に視界を奪う。よかった、ここまでは上手くいった!


「ニアさん、舌の迎撃は任せます!」


「お任せ下さい」


「後の3人は魔法で攻撃……美李ちゃん!ワームが気づいてこっちに来る!地震準備お願い!」


「あっちから?いっくよー!」


 魔法を準備しようとした美李ちゃんが鎚を握る。


「沙里ちゃんとピーリィは先に1匹でもいいからフォレストリザードを狙って魔法を!」


「はい!」 「サリ、ひだりから!」


 沙里ちゃんの火魔法が先に撃ち込まれ、さらにピーリィの風を纏った爪が硬いはずの皮膚を簡単にざっくりと抉る。ピーリィが攻撃後に左に逸れると、追撃として沙里ちゃんの火魔法が傷口に突き刺さるように着弾する。


 それを横目で確認しながら美李ちゃんの方に集中する。もうすぐワームが2匹とも美李ちゃんの攻撃範囲に入る。まだだ……


「よし!美李ちゃんいっけー!」


「せーの、どーーーんっ!」


 ドゴン!


 たまらず地中から飛び出すワーム。


「沙里ちゃんワームに火魔法を撃ちこんで!ニアさん、リザードの舌がきた時だけ……あ」


 声を掛けている途中でトニアさんが1匹の舌を斬り飛ばしてるのが見えた。うん、俺が言うまでもなかった。


「美李ちゃんはフォレストリザードに水魔法で穴を開けちゃえ!ピーリィもまた風の爪で切り裂いて!」


 指示を飛ばしながら俺もワームへと矢を撃ちこむ。あいつに撃つと腐食液のせいで矢の回収は諦めるしかないだろうけど、今は短時間で終わらせる事が先決だ!


 ワーム2匹は刺さった矢も燃やしながら全身に火が回り、そして煙を上げて動かなくなった。


 残りはフォレストリザードが2匹。1匹は無傷でもう1匹は舌を切られた上に外皮にいくつか抉られた後が見える。

 ピーリィは弱った方には興味をなくしたのか、トドメは任せたとばかりに右の無傷のフォレストリザードへ爪を振るう。少し浅かったが無理をせず木々を蹴って距離を取るところは慎重だ。舌の攻撃が来るかもしれないから、盾を構えてピーリィの前に立つ。


 ビュンという音がした次の瞬間には舌が目の前に迫るが、しっかりと正面に捕らえてから斜めに当たるように盾を傾ける。しかし、想像以上に盾に衝撃がきた!


 ある程度は盾表面の袋が吸収してくれるけど、やっぱり攻撃は重い!なんとか誰も居ない右側に力を逸らして踏ん張れたか。目が見えなくてもピーリィが飛んで行った方向をしっかりと狙うあたり耳がいいのか、気配を読む術があるのか……?


「ボウガンで追撃したかったけど、いなすのに精一杯だったごめん!」


「十分です」


 態勢を崩してはいないが追撃が来ないか確認をしてからトニアさんの声がする方をちらりと見る。


 瀕死だった方は3人の手で片付いていて、すでに俺とピーリィが対峙する最後のフォレストリザードへと魔法を放とうとしていた。

 トニアさんが正面に立って舌を警戒し、その斜め後ろから姉妹が火と土の魔法を弾丸の様に射出する。着弾で魔物の体が跳ねて、そのせいでいくつか浅く当たったものがあったが、そこは物量で押し切って無事に討伐された。



「うむ、怪我も無く討伐できたの」


「そうですね。危なげなく戦えていたと思います」


 手早く魔石を回収してると、ルースさんとトニアさんから合格をもらえたようだ。まぁ、いくつかダメ出しされたけど。




「そういえば、この泥水使わなかったなぁ」


 バフたちのもとへ走りながら思い出した。


「あれはどんな意図があったのですか?」


 俺に背負われている姫様が聞いてくる。トニアさんが背負うと言ったのに何故か俺を指名してきたから背負っているが、それを言った時のトニアさんの妬ましい視線が痛かった。俺の心の平穏のためにも出来れば荒れる発言はやめて欲しいなぁ。

 ほら、美李ちゃんやピーリィも”次は自分の番だ!”って期待した目をしてるもん。今はそれどころじゃないからスルーしてるけど。


「えーっと、フォレストリザードって姿を消すって言ってたから、俺たちの世界で言うペイントボールの代わりにしようかな、と。要は俺達なら消えても位置だけは見えるけど、やっぱり姿が見えてないと危ないから泥をかぶせようかなって」


「なるほど。これから助けに行く人達にも見えるようにするのは特に有効でしょう。では、次回は目潰しの後にすぐ実行しておいては?」


「分かりました。やってみます!」




 森の中を転ばないように気をつけて駆け足で5分。やっとバフ達が視界に入る。


 盾役と思われる男2人が必死にフォレストリザードの舌を弾いている。バフはその後ろに倒れ、もう1人の男が治療をしているようだ。やばい、思っていた以上にまずそうだ!



「バフさん!生きてますか!?今治療出来る者を回します!周りの人ももう少しだけ耐えて下さい!」


 俺はあえて大声を出して魔物のを注意を引く。作戦はさっき戦ったやり方と同じだが、まずは自分達に向いてくれないとあの人達がもたない。急げ!


 姫様を降ろしてルースさんとともにバフのもとへ向かわせ、それを守るようにトニアさんと沙里ちゃんとピーリィが前に出る。

 こちらはまずワームを片付けにいくのだが、ここに1匹ファンガスが混じっているのが見えていたので、いつでもマスクを装着出来るようあごに引っ掛けて美李ちゃんと走る。

 今回はワームが近づくのを待つのではなく、手前まで行って即小規模地震(という魔法名だった)を叩き込んでもらう。


「美李ちゃん、いける!」


「うん!どーーーん!」


 3度目のワーム戦も美李ちゃんの鎚魔法にあっけなく姿を晒し、そこへ俺の矢の連射と鎚を地に立てて水魔法を撃つ美李ちゃんの猛攻に体液を流しきって倒れた。

 そして何故か離れていたのに転んでいるファンガスに駆け寄り、持ち替えた剣で一方的に斬りつけて、トドメは美李ちゃんが鎚で潰してこちらも終了。



 一方、バフのもとについたルースさんが治癒魔法をかける。姫様も痺れで痙攣した体とファンガスの姿から麻痺毒と判断し、解毒薬を飲ませて痙攣を止めさせていた。


 そのすぐ後ろでは盾役を交代したトニアさんとピーリィが迫る3本の舌を弾き、そして徐々に舌を斬り裂く。その舌の連打から守られている沙里ちゃんが火魔法を1匹に集中して放って弱らせる事が出来た。


「よし、あと2匹……あっ!」


 形勢が不利とみたのか、残り2匹が森の景色に溶け込むように姿を眩ませた。そうなると、舌の攻撃の脅威度が増す。感知で位置は分かっても攻撃のタイミングが見えない。


「やばっ!泥水行きます!」


 魔石回収は後回しにしていたが、先にバフ達の護衛に行こうと動いていたため少し出遅れた。慌てて泥水の袋を取り出し、下手投げでそれぞれのフォレストリザードがいる真上へと投げる。

 そして真上より少し手前辺りで袋を消去し、2匹に泥水をかぶせて姿をあぶりだした。これなら口を開いているかどうかも丸分かりだ。


「泥が落ちる前に仕留める!先に目を潰すよ!」


 言いながらもすでに射撃を始めて確実に目に撃ち込む。少し移動して2匹4つの目をすべて潰し終えた。痛みに耐え切れないのか姿を隠せないようで、泥のない部分もおぼろげに見えてしまっていた。

 3人の魔法攻撃の隙間に飛び込むのは危ないのでピーリィには舌攻撃からの守りに留めてもらった。あとは気をつけつつも撃ち続ける3人の前に、残りの2匹もほどなくトドメをさされて戦闘は終了した。




「すまん、助かったぜ……」


 まだ起き上がれないが、魔物が倒された安心感で気を失っていたバフが意識を取り戻した。そして彼の右腕は肘から先が食いちぎられ失われていた。

 ワームに足をやられ、ファンガスに麻痺毒を散布されながらもフォレストリザードと戦い、右腕と引き換えに口の中へ剣を突き入れて1匹仕留めたらしい。

 しかし、その間にパーティの内の2人がフォレストリザードとワームに食われ、溶かされたそうだ。さらにバフの体に麻痺毒が回り、いよいよ全滅かという時に俺達が駆けつけた、と。


「……すみません」


「うん?なんで助けたお前らが謝ってんだ?」


「その、もっと早く着いていれば」


「あいつらが食われたのはもっと前だ。ちっとばかり早くてもどの道間に合わなかったんだ。そこは気にすんじゃねぇよ」



 本当はこの魔物が生まれた原因は俺のせいだって言いたいが、遺跡のシステムは明かせないし、何よりバフ達に何を言われるかが怖い。情けないがやっぱり怖いんだ。



「あーっと。それより、近くに女共のパーティはいなかったか?あいつらなら逃げられるとは思うんだが、途中で俺達が引き付けるために別れちまったんだよ」


「ああそれでしたら、遠目ですのでよく見えませんでしたが、ここから南の方へ逃げていく人影が見えたので、他に人がいないのでしたらおそらくそれがその人達かと」


 トニアさんがぼかして説明してくれた。女性かどうかは分からないけど、南に逃げる集団がいたのは確かだ。それと、野営地の防衛が持ち直した事、アイリンの街からもゆっくりだが大規模討伐が向かってる事も話しておいた。


「そうかい……情報助かる。それなら女共はたぶんトルキスへ逃げたのかもしれねぇな。そっちにあとで使いを出すか。それと助けてもらって悪いんだが、もう1つ頼まれてくれねぇかな?」


「俺達は今野営地周辺の討伐をしてるんで、そのついででいいなら構いませんよ」


「ああ、まだ魔物がいるかもしれねぇが、俺達と女共が二手に別れた場所まで連れて行ってもらいてぇんだ。食われちまった仲間の遺品でも拾えたら、ってな……」


 やっと起き上がれるようになったバフが立ち上がって、左手で己の武器の斧を拾って担ぐ。


「魔物討伐が目的なのでもちろんいいですよ。あ、その前にここの魔物の魔石を取らせてください。死体に釣られて何が来るか分からないですから」


「おう、それくらい待つぜ!すまねぇが頼む!」




 魔石を回収してすぐに出発する。さすがに走る必要はないので歩きだが、バフの案内で20分もしないうちにその場所に着いた。装備品もだが、食いちぎられた腕や足が散乱している。


「うっ……美李ちゃんピーリィ、沙里ちゃんもこっち行こうか」


「うん……」 「ヒバリさん……はい」 「どうしたのー?」


 ピーリィは特にショックを受けていないようだが、俺達にはかなりの絵面だ。まだ救いなのは、食べられたからか手足以外は血だまりがある程度で済んでいることくらいだろう。


(これを引き起こしたのは、俺か……)


 3人には見ないようにしてもらうが、おれはその血だまりをじっと見ていた。




「んー?」


「どうかしましたか?」


 遺品を集め終えたバフが首をかしげている。


「あー、いや。なんでもねぇ、待たせて悪かったな」


「そうですか。じゃあ魔物を討伐しながら野営地に戻りましょう」




 戻る時にもあえて魔物と遭遇する道を通ると告げて、見付けては討伐をしながら野営地へと戻っていく。途中でフォレストリザード2匹と1匹を怪我の無いよう確実に仕留めて、1度休憩を入れてまた歩き出す。



 日が暮れる頃野営地が見えてくるが、ここから野営地を挟んで反対側にフォレストリザードの群れが2つ見えた。防衛していた冒険者のうちの3つのパーティが迎え撃っているようだがあまり状況はいいようには見えない……


「トニアさん……野営地の向こう側が……」


 こっそりとトニアさんに相談すると少し考えてから、ここは任せて欲しいと言ってバフへ話しかける。


「バフさん、これだけ野営地に近づいたのに、巡回しているはずのパーティの誰にも会わないのはおかしいです。私達は急いで向かいますが、そちらも出来れば急いでください。途中に魔物が居た場合は仕留めますので魔石の回収をお願いしたいのですが、よろしいですか?」


「……確かに、誰の気配もないのはおかしいな。分かった、俺達もなるべく急ぐが、あんたらが急いだ方が確実だ。任せた!」





 こうして先行して野営地へ、さらに回り込んで魔物の場所へと飛び込んだ。途中に魔物がいないのは分かっていたので、バフ達もすぐにここに気付くだろう。とにかく今は魔物だ!


「怪我人は下がってください!魔物は俺達が引き受けます!」


 今回も大声で注意を引き、同じ戦法で3匹、そして2匹のフォレストリザードを討伐してみせた。もちろん俺は目潰し以外何もしてないが。

 それでも周りの人は俺達パーティに握手やハグを迫って”このまま総崩れになるかと思った”と泣かれたのには参った。原因が俺だなんて本当に怖くて言えないよ……





 ちなみに、女性陣にハグも握手も断られた(主にトニアさんの鉄壁に負けた)野郎共はすべて俺に雪崩れ込んで来た。むさ苦しすぎてゴリゴリ精神を削られたおかげで、落ち着いた頃には疲れてへたりこんだ。



 おかげで自分の責任と向かい合う時間が取れないよ……




 こうして野営地での戦いは落ち着きをみせ、さらにアイリンからの討伐隊が来た事で俺達のお役御免になったタイミングでそっと街へ帰らせてもらった。途中からあの勇者一行も参戦したらしく、そこから勢いがついて早いペースで討伐を進められたそうだ。



 俺が起こしてしまった遺跡騒動は、これ以上の犠牲者は出ずに終息したのだった。



次話から新章となります。


「ビネンの湖と人攫い」


の予定です。また拙作を読んで頂けたら幸いです!

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