強固体の魔物
投稿が不定期になっていますが、書きあがる限りは早めに投稿したいと思いますので、読んでいただけると幸いです。
何故か商売が始まってしまった休憩?から前線に戻るが、野営地周辺はそれほど酷い湧きは起こらないまま1時間が過ぎた。
パーティごとに分かれて警戒をすることとなり、俺達も警戒しつつ野営地周辺を歩いていた。今のところ数匹の集団がたまに襲ってくる程度で、どれも美李ちゃんの先制魔法と撃ちもらしを沙里ちゃんがフォローして片が付くので正直暇だ。
「……ヒバリ!索敵の範囲を広げるのじゃッ!」
気が抜けそうになったところにルースさんの叫び声がして身体がびくっとしたが、急いで指示に従う。その姿をトニアさんに見られたようで、ちょっと視線が痛い。すみません、真面目にやります!
「周り……野営地から離れた西側に3箇所?ちょっと大きい反応があります!名前は……分からないです!ただ大きいのと、長い?体の長い魔物もいます!」
皆も感覚を共有してるから頭の中で確認して、大きいマーカーが複数いるのを見ているようだ。しかし、この2匹はなんだろう?今度はその未知のマーカーに魔力を集中させると、もう少し形が分かりやすくなった。
「ふむ……これだけでは判断がつかんのぉ。ただ、どちらも動きは遅いようじゃ。力に特化した固体かも知れんので油断は禁物じゃ」
「片方は蛇かもしれませんね。毒にも注意しましょう」
ルースさんとトニアさんが自身の考えを述べる。
「それより、感知出来る事をバラしたくないから、どうやって野営地の人に説明するかですよね?勝手に居なくなるのもまずい気もするし」
「斥候役が危険な魔物を見付けたという事にしましょう。自分が野営地へ伝えに行ってまいります」
「今ならこの周囲には魔物が少ないですから、出来るだけ早くあの魔物を排除した方がいいでしょう。ニア、頼みましたよ」
「はい。ヒバリさん、サリス様をお願い致します」
姫様に言われたトニアさんが野営地へと駆け出して行った。
「では、各々準備があるなら今のうちに済ませておいて下さい」
姫様に言われ、俺はちょっとトイレと告げて離れて用を足す。おそらく女性陣も交代で用を足しているのか、二手に分かれているのが感知で分かった。ここは不要な事を言わないように気をつけよう!
わざとゆっくりと携帯していた水で手を洗って戻るとキャメル色のローブを纏い直す。他の皆もマスクとローブを身に付けて準備をする。
ふと、後ろからローブをくいっと引っ張られた。振り返るとルースさんが居た。てっきりピーリィだと思ってたわ。
「のう、ヒバリ」
「どうしました?」
「その革の外套、皆同じ物のようじゃが街で仕立ててきたのかの?それと、その首の布はなんじゃ?」
「首のはマスクですよ。これでこうして口と鼻を守って、毒や臭いを吸い込まないで済むんです。こっちのローブは皆の分を作ったんです。あ、そういえばドタバタしててルースさんに渡すの忘れてましたね。ちょっと待ってくださいね」
「わしのもあるのか!?」
驚きと期待の目を向けて声を上げるルースさんに苦笑しながら、初めに鍛冶屋に依頼していた防具を。次にローブとマスクを3セットずつ渡すと、さっそくローブを纏ってお揃いだと美李ちゃん達に見せにいっていた。
そこでマスクのつけ方を沙里ちゃんに教わり、自分で調整出来る所まで覚えて満足したようだ。靴は型を取らないと作れないので、後で採寸したら作って渡すと約束した。
「ヒバリ、感謝するぞ!皆とおそろいというのもわしには新鮮じゃ」
そう言ってくるくると回ってローブの具合をみて楽しんでいる。
「そりゃ勿論師匠のも用意してますって。予備は収納ポケットにでも仕舞ってください。くれぐれも、ダメージが許容量を超えたら消滅するのだけは忘れないでくださいね?」
「うむ、心得たのじゃ!……まったく、あの阿呆の勇者もこれくらい気をまわせておれば皆も快く使命を全う出来たというに!」
過去の勇者さん、どれだけ気が利かなかったんだ……
「で、では、そろそろニアも戻ってくるようですから、合流したら出発しましょう」
タイミングを見て姫様が〆てくれたおかげでルースさんの愚痴は止み、気持ちの切り替えが出来ていた。そして気を引き締めるために深呼吸をする。
これから戦う魔物は強くて大きい。なによりどんな魔物かも分からないから油断しないように、皆が怪我しないように、守れなかったあの時のようにならない為の気合を入れた。
30分は歩いたはず。魔物が視界に入るかといった距離まで来た。
「……見えた」
1匹は小型恐竜の様な姿で、ゆっくりと歩いている。目がギョロっとしたコモドドラゴンみたいな感じだ。2mを超えるソレを鑑定の目で確認すると、フォレストリザードという結果が出た。
「あれはフォレストリザードって名前らしいですけど知ってます?」
「あれが!?知ってはいますが……通常はこれくらいの大きさで、姿を隠す固有スキルを発動させて、舌を使って木々を移動しつつ死角から噛み付いてくる魔物なのですが、あんな大きさは見た事ありません」
じっと魔物への視線を外さず説明してくれるトニアさん。これくらいと言った時の手は50cmくらいを指していた。それならこっそり近づいて来られたら危険だというのは分かる。
フォレストリザードがかなり速い動作で舌を枝へ伸ばすと、そのまま枝をバキバキと折ってから舌を戻した。さっきの話しだとあれで枝に飛び移るって言ってたけど?
「!?……自身が重すぎて枝の方が折れてしまうようですね。あれでは木々の移動はないと思っていいのでしょう。しかし舌の力は侮れませんね」
驚くトニアさんに苦笑したルースさんがフォローする。
「まぁ、大量の魔力を使って生まれたのじゃから、こういう事もあるのじゃろう。で、もう1匹はどこじゃ?」
「あれ?近くに反応ありますよね?どこだ……」
上を見るが飛ぶ物もいない。そもそもゆっくり移動してるのだから、空を飛ぶならホバリングになるから目立つか。フォレストリザードみたいに姿を消すというなら話は別だが。試しにそこにいるであろう場所に石を投げてみる。が、素通りして地面に落ちる。
その瞬間、地面が揺れた後ボコッと音とともに何かが噴出してきた!
噴出したソレは、地面に落ちた石へと覆いかぶさる。もぞもぞと動くソレに鑑定の目を向ける。名前はワームでミミズのような魔物だった。つまり地中にいたから位置がはっきり見えなかったのか。
太さは20cmくらいで、長さは地中に埋まってて分かりづらいが、見える部分だけでも3mを超える。まるでアナコンダみたいだ。見た目はでかいミミズなんだけどなぁ。
「もう1匹はワームらしいです」
「あれが……ワームは本来そこらにいる蛇程度の大きさで、獲物に撒きついて腐食効果のある体液を擦り付けきます。そして獲物が弱ったところで血肉を吸うのです。地中から突然襲ってくるからやっかいですが、軽く皮膚を溶かされる間に切り落とせるのでそう脅威ではない……はずなんですが」
「あの大きさだと全身溶かされそうで怖いですね……」
トニアさんの説明を聞く限りは近づかない方がいいな、あれ。
「そこは感知で場所が分かるのじゃから、奇襲を受ける事はあるまい。あとは地中から引き釣り出す手立てがあればよいのぉ」
「……あ。美李、確か地面を揺らすスキルあったよね?」
「あー!どーんってやるやつでいいの?」
ルースさんの言葉に反応した姉妹が何か手立てがあるらしい。話からすると美李ちゃんがあるようだから、土魔法の一種かな?
「さすがに2匹同時は危険です。まずは動きの速そうなワームを誘き寄せて先に叩きましょう」
「何か方法があるんですか?」
「ワームは目がないので音に反応します。ですので、先程のように石を投げて少しずつ寄せる事が出来るはずです」
トニアさんに言われ、手ごろな石を見付けていくつか拾っておく。俺の無駄に高い器用さを活かせるチャンスだからね!
「ヒバリお兄ちゃん!どーんってやるからあたしの近くに魔物来たら教えてね!」
「ヒバリさん、美李を中心に半径5mくらいに効果ありますから、そこに入ったら教えてあげてください」
美李ちゃんの指示と沙里ちゃんのフォローに返事をして、石投げを始める。一度遠くへ石を投げてしまったためまだ20m以上離れている。そこから5mずつ近づくように10mまで寄せる。あとは2mずつ寄せて……
「美李ちゃん、いまだ!」
「いっくよー!せーの、どーーーんっ!」
てっきりそのまま地面に魔力を流すのかと思ったら、手に持った鎚を思いっきり地面に叩きつけた。勿論魔力を籠めているから土魔法も使ってるのだろうけど、どちらかというと鎚魔法だなぁ。
などと思いながらもドゴン!という音とともに地面が揺れる。特に美李ちゃんを中心に5mの地面はひび割れながら揺れていた。そこへ耐え切れなくなったワームが顔を出し、ピクピクと痙攣してのびていた。
「沙里さん、火魔法でトドメを!」
「はい!」
ファイヤーショットを1発撃ってみるがワームの全身には足りず、追加で3発撃ち込んでやっと燃え広がって死んだようだ。プスプスと煙をあげ燃えた体液で異臭がする。くさ!って思わず言っちゃったら、沙里ちゃんがそっと風魔法で臭いを払ってくれて助かったわ。
「フォレストリザードがこちらに向かってきます」
「あれだけ音立てたし、気付きますよねぇ」
ワームの炭から魔石を取り出している時トニアさんから警告を受けた。振動だ魔法だと騒げば当然の結果だよね。
「今度は俺に攻撃させてもらっていいですか?」
実は今日まだ1回も攻撃してなかったので、この機会にボウガンを撃たせてもらえるよう頼むと、どうぞどうぞとばかりに譲ってくれた。
近づいてくるフォレストリザードは、見た目はカメレオンみたいだ。姿を隠すっていうのもカメレオンの擬態に似たスキルなのかな?距離にして20mくらい。初めにワームを誘い出そうとしたくらいの位置になった。いける!
「じゃあ、撃ちます!」
まずは外皮の中でも弱そうな喉元か地面に近い腹側を狙ってみよう。よし、あれだけゆっくり動くのなら喉元がいける!
ビュッと風切り音を立ててボウガンから矢が飛んでいく。狙い通り呼吸するように動く喉元へと命中し……少し傷つけた程度で、矢が弾かれて落ちた。うそだろ!?
もう1射準備していると突然横に突き飛ばされる。
「危ない!」
トニアさんが俺を突き飛ばした後、短剣で何かを弾いた?いや、斬り飛ばしたようだ。足元には何かの肉のようなものがびちびち跳ねている。そしてギャ!という魔物が発したらしい声が聞こえた。
「フォレストリザードの舌です。本来の大きさでしたらこれで獲物の首に巻きついて獲り付き、齧ってきます。この大きさだと逆に一気にアレの口の中に捕まるかもしれませんね」
そんな落ち着いた声が上から聞こえてきた。
「あっぶな!すみません、助かりました」
「いえ、あの大きさだとここまで舌が伸びるとは思わなかったので驚きました。先に注意しておかなかった自分にも責任があります」
こんなサイズのを見た事が無いんだから、誰のせいでもないと思うけどなぁ……ああ、こんなのを生み出す原因を作った俺の責任はあるか。
「外皮は硬くてだめですね。あとは口の中か……あ!あの大きな目を狙ってみます!」
すぐに立ち上がって矢を番え、狙いをつける。
ビュッと再度音を立てて放たれた矢は、舌を斬られて小刻みに震えていたフォレストリザードの大きな目に吸い込まれ……トスと軽い音がして、矢が刺さった。
「今度は刺さりましたね!」
沙里ちゃんが嬉しそうに声を上げる。俺は落ち着いてさらに矢を放ち、もう片方の目にも矢を命中させた。
「すごーい!ヒバリお兄ちゃんまた当たったよ!」
美李ちゃんは俺に飛びついて喜んでいた。
「視界はこれで封じたけど、正直ダメージはそんなにいってないみたいだ……申し訳ないけど、俺じゃ火力不足でした」
「視界を奪うだけでかなり楽に戦えます。これで安心して追撃出来ますよ」
慰めるように言うトニアさんが舌攻撃への警戒を緩め、魔法で追撃するようだ。それを見て姉妹とピーリィも単発魔法を準備し、タイミングを合わせて放つ。もっとも、ピーリィの場合は鉤爪で引っ掻く動作を
風の魔力で伸ばす技なのである程度近づいて放っていたが。
見えないことでその場でバタバタと体をくねらせるだけのフォレストリザードに、風と火と岩の弾丸が複数浴びせられた。ずたずたになった外皮。斬られて短くなった舌を使おうと口をあけたところに、すかさず
ボウガンの矢を叩き込むと怯んで後ずさる。
「せーの、どーーーん!」
魔物が怯んだ隙に飛び出した美李ちゃんが、大きく振りかぶった鎚を脳天へと全身を使って振り下ろす。言葉通りドーン!と重々しい衝撃とともに魔物の頭が地面にめり込み、ピクピクと痙攣した後にそのまま動かなくなった。
鎚を肩に担いでこちらに振り返ってVサインを出す少女。もうほんと立派な戦士じゃないですかー。俺よりよっぽど冒険者してるじゃないですかー。
「はい。美李さん、そういう事はちゃんと魔物が死んだか確認してからにしないと、まだ生きていて反撃を食らうかもしれませんよ?とはいえ、先程の一撃はお見事でした」
「ミリ、つよーい!」
「俺達のパーティだと魔法と素早さばかりだから、美李ちゃんの強さはありがたいよね!」
周りから褒められすぎて照れたのか、沙里ちゃんに抱きついて顔を隠してしまった。可愛いんだが、その時に手放した鎚がゴスンと音を立てたおかげで沙里ちゃんがひゃっと声を上げて身を竦めていたのが、なんとも言えないな……
「でもこれなら単体相手なら問題なさそうですね!」
魔石を回収してからそう言って索敵をすると、ここから西にまたフォレストリザードの3匹の反応があった。少し離れたところにワームも2匹いたので、こいつらを順に倒しに行こうと、さっそく移動を開始する。
ここで、更なる出来事が判明する。
2箇所と思っていた魔物の反応は、近づくにつれ更に数がいる事が分かった。そして、俺たちの目指す魔物の先に人がいるのが確認出来たのだ。その中の1人が野営地を取り仕切っていたバフだと感知が告げてくる。
その先にも複数の人がいるが、パーティらしき集団は魔物の群れを牽制しつつ南へ逃げているのが分かる。おそらく、トルキスの街へ向かっているのだろうとトニアさんが言う。怪我人がいるのか足は速くは無いが、魔物が遅いのであれなら逃げ切れるだろう。
問題はバフ達残されたパーティの方だ。まず、屈強であるはずのバフが動かないで周りに囲まれて守られている。怪我をしている可能性が高い。フォレストリザード3匹にワームが1匹。切り札でもあるなら別だけど逃げなければ彼らは確実に死ぬ。
バフの事を皆に話したが、まず俺達が力を抑えてあの数の魔物に対抗出来るか見極めてからという結論になった。
「わしとサリスは手を出さんから、またおぬしらだけであの数を倒せるか、じゃの。策を弄するなら今のうちに考えておくのじゃぞ」
正直、光属性のルースさんや姫様が遠慮無しに魔法を使えばすぐに終わると言うが、他に人がいるとなると特に姫様を見られるのはまずい。沙里ちゃんや美李ちゃんの全力魔法もピーリィの飛翔もまずい。
限られた力で乗り切れるかを見る為にも、この先の魔物で試すしか無いわけだ。勿論、加減してると危ないとあれば力を使ってもらうしかないけど。
「じゃあ移動しながら作戦を考えよう!あまりゆっくり出来ないから多くは無理だろうけどね」
こうして、あれこれと話しながらも早足で森を進んで行く俺達であった。
次話で今章終わりの予定です。
予定……です。