表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第6章 ビネンの森と迷宮遺跡
64/156

再び野営地へ

書きあがったので即投稿してみました。

読んで頂けたら幸いです。

「――で?気付いたら4000もの魔力を吸われて倒れておったと?」


「ですね。起きた後に確認したから、実際はもっと吸われてたかなぁ?下手したら5000……かも?」


「なお悪いわッ!」



 現在、狭い馬車の中で正座させられてます。クッション使わせてくれないから足痛いです。でも何故かルースさんも正面で一緒に正座してるのだが。




 街の東門から出て、今はまだトルキスへ向かう街道のまま馬車を走らせていた。しばらくしたら遺跡方面へと切り替えるが、まだその分岐は見えていない。



「……まぁ、すでに起こってしまった事ばかりに囚われるのはよくないの。もう叱らんからピーリィもミリもそう泣き顔をみせるでない」


 俺の左右には、また責任を感じた2人がくっついていたのだが、これがルースさんにとって物凄く居心地が悪かったようだ。



「で、これからのことじゃ。召喚勇者の能力を忘れておったわしにも責任がある。これから最悪な事態を想定して動かねばならん」


 極めて真面目に、そしてゆっくりと俺達全員を見回してから話し出す。


「先程も言ったが、500や600の魔力であったなら昨日と同じく雑魚が湧く程度で終わるじゃろう。しかし、それが10倍近くの魔力からとなると話が違ってくるのじゃ」


「この状態があと5日以上続くという事でしょうか?」


 姫様が推測を口にする。


 冒険者達を募ったとはいえ、これが1週間も続くとなれば疲労や怪我の心配具合がかなり高まるかもしれない。



 しかし、返ってきた答えは更に酷いものだった。


「発生日数は1〜2日ほどは延びるじゃろう。問題はそこではないのじゃ……」


 これは以前、数人の高魔力所有者が合わせて1000ほどの魔力を吸われた時の話になるが、同じ魔物でも通常より遥かに強い固体が生まれたのじゃ。

 どうやら遺跡は3〜5日で吸収した魔力を全て使い切り次の吸収に備えるらしくての、強い固体……つまり消費魔力を多くして処理を終わらせようとするようなのじゃ


 今日はまだ弱い固体の物しか生まれぬかもしれんが、明日からは確実に強い魔物が生まれてくるじゃろう。もしかすると、今日からすでに生まれておるかもしれん」



 仮に3日で600の魔力を使って魔物を生み出すとすると、1日目で200か……残り4000以上の魔力があと4日程度で生み出されるなら1日1000分の魔力を使って魔物が生み出される事になる、のか?


「じゃあ、もしかしたら今日から4日間、5倍の強さか数の魔物が生まれるかもって事になるじゃないですか!滅茶苦茶やばいですよね!?」


 思わず叫んでしまったが、ルースさんはやっと状況を理解してくれた事に溜息をついていた。そして再び表情を引き締め話を続ける。


「分かったかの?なら、これから気合を入れて討伐をせねばならぬのだから、決して油断するでないぞ?遺跡から生まれる魔物は、その地に関わりのある種類が生まれるのじゃ。そう変わったモノが出るわけではないが、強さは違うと思っておくのじゃ」



 ルースさんの言葉に、全員がしっかりと頷く。


「そうなると、迷宮遺跡前の野営地が心配ですね……遺跡の中にいる人たちは状況を知らないはずだし、外の人たちも囲まれている可能性もありますよね?」


「ふーむ……まだ大量に湧いたとは思えぬが、強い固体が湧き始めたら確かに危ういかもしれんのぉ。じゃが、遺跡の地下入り口前にある部屋に立て篭もっておれば、魔物は遺跡を攻撃せんから生き延びる事は出来るじゃろ。その事は遺跡勤めの者が知っておるはずじゃよ」


 駐屯所代わりしてた部屋は避難所にもなるのか。でも、野営地にいた全員が入れるほど広くは無かったと思う。いずれにせよ、危険な状況は続いていると思っておこう。



 横にいる美李ちゃんの、俺の腕を掴む力が強くなる。話の内容を理解していく内に怖くなってきたんだろう。俺だって自分のせいで魔物が溢れたなんて言われて焦りと恐怖が混じってやばいし。


「美李ちゃん、一緒にバンバン魔物をやっつけよう!ただし、頑張って戦うけど絶対1人で飛び込んだり怪我しないように、皆で片付けよう!」


 ぎゅっと手を握って気合を入れる。少し間があったが、力の入った目をこちらに向けて頷く。まだ罪悪感があるのだろうけど、戦う覚悟は出来たようだ。ピーリィも俺達の手に自分の手を重ねる。


「まもの、やっつけちゃおー!」


「「おー!」」




 馬車の中で装備品や回復薬のチェックをしてしばらくすると、一昨日通った遺跡への分岐着いた。ここからはビネンの森の小道になるので路面が荒れる。


「では、森へ入ります。周囲の警戒と揺れにご注意ください」


 そう言ってトニアさんは馬車を右へと曲げる。


「この間と違ってクッションを用意したし、あそこまでは酷くならないはず。とりあえずダークミストの範囲を少し広げます。皆で確認しながら行こう!」




 ガタガタと揺られる事2時間近く。



 途中でダイアウルフとマンティスの群れと遭遇するが、周りに人がいないからと俺のボウガン以外と姉妹の魔法で一掃していった。特に強い固体はいなかったようで、あっさりと片付く。放置して遺跡に魔力を吸収されるかもしれないと言う事で、魔石だけ回収して先を急ぐ。


「今のところは強さも種類もまだ同じですね。でも、感知で調べると確かにこの間より魔物が周り中に見えますね」


「強い固体がうまれるとしたら、そろそろじゃと思うが……さて、どうかのう」



 そしてほどなくしてダークミストの感知範囲に人の反応を捕らえる。複数に分かれて魔物を討伐している動きから、あの辺りに迷宮遺跡があるのだろう。


「範囲に入りました!まだ野営地の人たちで持ち堪えてるみたいです!でも……人数が少ない……あ、ちょっと反応薄いけど集団があるから、建物の中に立て篭もってるのかも」


「そうじゃな。あの中なら安心じゃろ。あとはしばらくこの周りでわしらが討伐しておれば、数日で終わるはずじゃ。問題の魔物は……まだ生まれておらんか?」


 一度知っている魔物は俺の探知で調べる事が出来るが、今見える範囲には未知の魔物は見えない。魔物の数が多いからはっきりしないのと、もし強固な魔物がいたとしても知っている魔物だと区別がつかない恐れがある、とルースさんが説明する。


「じゃあまだ安心出来ないんですね……」



「ヒバリさん、遺跡が見えてきました!」


 御者をするトニアさんの声に全員が前方に集まる。なんかおばけキノコみたいなのがいる。鑑定の目を向けると、ファンガスという魔物らしい。


 こいつ、麻痺毒の胞子を撒くのか!?一度認識してから感知範囲内を見たら、こいつらがいくつか混じってる!


「ファンガスっていうキノコの魔物がいくつかいます!麻痺毒の胞子をばら撒いてるので注意してください!あのマスク型のマフラーでなんとかなるはず」


 急いで昨日受け取った金具を使ってマスク袋に紐(こちらも袋だが)を通してマスクを完成させる。全員の首に下げて、あとは個人ごとに口元に固定してもらう。


「ああ、ピーリィは俺が調整するから」


 上手く紐の調整が出来ないピーリィは手伝ってマスクを付ける。一応緩め方だけは覚えてもらって、自分でも外せれば大丈夫だろう。


「はーい。ヒバリにまかせるー」


「内側の袋を開けて呼吸するので息苦しくはならないけど、声を出しても聞こえないのは注意してください」


 トニアさんもマスクの調整をしてもらうために御者を交代し、これで全員の準備が出来る。そしてそろそろ魔物との戦闘も近くなったので馬車を居住袋の中へ避難させてから全員を見渡す。


「ヒバリ、今回わしは光属性の治癒魔法を担当しよう。じゃからサリスはわしらの誰かが怪我したら物陰で癒してやるといい。あとは緊急の際の判断はまかせるぞ?」


「ルースさん……助かります」


「ご配慮感謝いたします」


 俺と姫様が頭を下げるが、そういうのはやめい!とルースさんに止められてしまった。姫様が光の適合者だと知られるのはまずいので、ルースさんが治癒を担当してくれるのは助かる。内情を明かしておいたからこそ気を配ってくれたんだろう。




「じゃあ改めて、遺跡周辺の魔物討伐に行こう!とにかく怪我の無いよう、みんな見える範囲だけを狙えばいいからね!」


 盾とボウガンを構え、皆と一緒に駆け出す。


 ……と言っても一番足が遅いのは俺と姫様になるので、周りが合わせてくれるわけだが。





 確実に止めを刺しては即座に魔石だけを回収しつつ進む。20分もせずに遺跡に到着すると、思ったよりも状況は酷かった。


 魔物の群れに加わったファンガスのせいだ。


「ルースさんと沙里ちゃんは治癒とそのフォローを、サリスさんとニアさんは解毒薬と回復薬を!俺とピーリィと美李ちゃんで周りの魔物を叩くよ!それと、沙里ちゃんとニアさんとピーリィは風魔法でファンガスの麻痺毒を吹き飛ばしておいて!」


 一度マスクを外して、周りの冒険者にも聞こえるようにとにかく声を張り上げて指示を出す。これは馬車から降りる前に決めておいた内容を言っただけだから、確認よりも応援が来たとアピールするのが目的だ。



 トニアさんと沙里ちゃんの魔法、そしてピーリィの気流操作を使った羽ばたきによって麻痺毒の胞子を薄め、そこへすかさず治療の魔法や薬で回復させて戦力を増やす。

 俺達3人は魔物の密集している場所に魔法や矢を撃ち込みつつ接近して斬り伏せる。そして攻撃の手が緩んだ所で魔石と矢を回収し、また迫ってくる敵へ攻撃を始める。


 俺の矢と美李ちゃんの岩弾丸の直線的な攻撃、その合間に空を飛ぶ事は禁じたが木々を使って変則的に飛び跳ねるピーリィの斬撃。さらには治療の済んだ冒険者もパーティごとに固まりつつも魔物の討伐に復帰すると、いつしか遺跡周辺の魔物はほぼ片付いてきた。



「いやほんとに助かったよ。急に魔物が増えたと思ったらあっという間に囲まれてね、街からの応援は今日間に合うか分からないと言われてたから、正直いつ遺跡を捨てて逃げ出そうか参ってたのさ」


 落ち着いたところでパーティごとに交代で休憩を取る事となり、一番疲労していたマルーン率いる女性パーティが、周囲の警戒をしていた俺達に話しかけてきた。


「間に合ってよかったです。街の人たちはまだ周囲の魔物を討伐しながら大人数で足並み揃えながら移動してたから、確かに今日は到着しないと思います」


「……やっぱりそうかい。あっちも街を守りながらだから仕方ないんだがね。でもあんたらはどうしてこっちに来たんだい?」


 あーっと……まさか”魔物の大量発生は自分のせいです”とは言いづらいし、何と言っておくのがいいかなぁ。


「丁度こちらにまた来ている途中で魔物の異常を聞いたので、私達も遺跡へ逃げてきたのですよ。ここには安全地帯があると言われたんです」


 こちらに合流してきた姫様がマルーンさんに答える。うん、嘘は言ってない。逃げてきたって所以外は、だけど。



「あー、あの部屋は今は怪我人とランクの低い奴等で大体埋まっちまってるんだよねぇ。悪いがあんたらくらい強いと優先で入れるのはちっと難しいと思うよ」


 頭をかきながら答えるマルーンは苦々しい顔で後ろにある遺跡を振り返る。建物の入り口はすでに多くの人が腰を下ろして休んでいた。あの人たちも交代で休憩し、また魔物の討伐に借り出される人たちだ。


「これだけ人数がいれば、建物の中でなくてもかなり安全でしょう」


「まぁね。あんたらが一掃してくれたおかげで休憩出来るから、これなら乗り切れるだろ。この魔物の大量発生は過去にもあったらしいが、大抵3〜5日で終わったと資料に書いてあったてさ。あと2日くらいならなんとかなるでしょ!頼りにしてるよ、にーちゃん!」


 ニカッと笑顔を浮かべて俺の胸に拳を当ててから自分のパーティの元へと戻っていくマルーンを見送る。



 本当に怖いのはこれからだと知っているのは俺たちのパーティだけ。そしてこの野営地からも犠牲者は出ている。周辺の森へ行った者も全員が帰ってきたわけではないそうだ。10人ほどの冒険者と、それを探しに行ったバフさんのパーティが未だに帰らないらしい。


 本当にこのまま黙ってていいのか?言った方がいいんじゃないのか?正直不安しかない。


「そんな顔をなさらないで下さい。私達で力を合わせて乗り切ってみせましょう。遺跡については国家機密として扱われてもおかしくない案件です。周囲に話せる内容ではないので、今はどうか堪えて下さい」


 姫様の話はもっともだ。この事実を広めてしまったら、遺跡の扱いがどうなるか分からない。魔石で儲けようとして魔物を増やすために、生贄を使って魔力を注ぎ込もうとする連中も出てくるかもしれない。そんな話もあったのだ。


「はい。今は魔物の討伐に集中します!」





 それからしばらくして、周囲に近づく魔物がいないか、魔物自体が近くに生まれていないかを警戒していた。



「ヒバリ〜、おなかすいたぁ」


 とてとてと近づいてきたピーリィが、そのまま俺に倒れこむ。そういや朝早くに街を出て、ここについたのが昼過ぎだったなぁ。周りを見ても休憩を取っているパーティも何かしら食べてるし。


「もう少ししたら交代するから、俺達もご飯の準備しちゃおっか!」


「やったー!」



 周囲の警戒をトニアさんと姫様にお願いしたら、丁度治療魔法を使い続けたルースさんも魔力回復させなければと休憩に入らせてもらうと言って、沙里ちゃんと美李ちゃんと一緒に戻ってきた。


「あまり手の込んだものは出来ないから、ワニつくねとおにぎりと豚汁っぽいものでいくか!最近ワニつくね使ってなかったから、そろそろ減らしておきたいからね」


「じゃあわたしも手伝いますね」


「美李もー!」「ピィリもー!」


 ローブと鎧を仕舞い、袖を捲くる沙里ちゃん。それに続いて妹達も同じく行動を開始する。


「味見ならわしに任せるのじゃ!」


 ルースさんは見てるだけではなく、味見役だと手を挙げていた。




 これからが大変なのは分かっているが、今はしっかり食べてしっかり休んで、万全の態勢で臨めるよう気合を入れておくことにした。今はまだ落ち込む時じゃないはずだ!






 余談だが、つくねを焼いていたらマルーンさんを初めとした外に居た冒険者らが匂いに釣られてやってきて食べたいと懇願され、配る事になってしまった。

 そして何時の間にやら近くにあった誰かの帽子にお金を入れ始め、屋台のように列ができてしまっていた。




 いや、俺達も食べて休憩したいんだけど……






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ