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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第6章 ビネンの森と迷宮遺跡
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遺跡の仕組み

久々に休みが取れたので頑張って書き上げてみました!

 気を取り直して、今度こそ本題を。




「そうそう、遺跡と魔力の話じゃったな」


 真面目な空気に戻したルースが再び話し出す。



「先程の話の全てが関係ないわけではない。遺跡が魔力を吸い取り、その遺跡から魔物が生まれる。これはわしらエルフが調べ上げた真実じゃ。


 魔物が生まれる場所は遺跡の中だけではない。そうさのぉ……植物の根が地中へ広がるように、遺跡の地中にある核から地上へと根を伸ばすように魔物を排出する管が出ていると想像すると分かるかの?

 じゃから、遺跡の周りが魔物が出現しやすい。そしてそこから飛び出した魔物が自身が生きるために他者の魔力を求めて彷徨い、襲い掛かるのじゃ。


 そして、遺跡は魔物を生み出すが、そのための魔石を作る魔力を吸う魔道具と考えるとよい。ようは、遺跡自体が触れた者から魔力を吸収する魔道具じゃな」



 だから俺も魔力を吸われたと。でも、そうすると疑問があるんだよな。ルースさんを見ると聞かれるだろうと分かっているみたいだ。じゃあ遠慮なく。


「周りの人は吸われてなかったのに、何で俺だけあんな大量に吸われたんですか?他の人も吸われるんですよね?」


「そこじゃな。普通の者は魔力を2,3吸われた程度で済むが、アレは魔力の高い者には貪欲でのぉ。いきなりの美味そうな餌に飛びついてしまったと言う説明が適切かの。

 たまに倒れる者もいるのは、魔力の総量が10も無い者が4,5も吸われれば総量の半分になるからの。具合の悪くなる者も同じような理由じゃろう」


 俺、餌として見られていたわけか……相手は生き物じゃないけど。



「じゃから、おぬし以外の者も吸われておったじゃろう。ただ、吸われた量が少なすぎて体調に影響がないどころか、短時間で回復してしまったから気付けなかったわけじゃ」


「あー。俺が他の人の状態を確認したのは、俺が倒れて気が付いた後だったから、もう完全に回復してたから分からなかったんですね。それに美李ちゃんたちは遺跡に触れてないはずだし」


「これについてはわしがもっとしっかりと説明しておらなんだ責任もある。じゃが……」


 深く頷いた後で、ルースさんの目つきが変わった。


「ヒバリ、おぬしは魔力操作の訓練をしておったな?突然の事とは言え、自身の魔力が吸われている事に気付けば、その流出を止めるくらいは出来たはずじゃぞ?

 少なくとも、倒れるほど吸われる前にはなんとかしてみせぇ!そこだけはわしも残念でならんわ!……とは言え、たった数日でモノに出来る事ではないからの。仕方ないんじゃがなぁ」


「……不出来な弟子ですみません」


 期待してくれていたようで、それを裏切っちゃった申し訳なさに謝っておく。そっか、あの時それに気付けてたら対処出来る術は持っていたのか。


「って言う事は、それさえしっかり弁えていれば、遺跡に吸われる量はかなり抑えられるって事ですか?」


「うむ。ちっとは吸われるが、毛ほども奪われずに済ませられるじゃろうな。じゃか、気を抜くような事があれば危ういのは変わらん。あまり無理をして近づくのはやめた方がいいじゃろうな。

 そして、他の者も少しは魔力操作を覚えてもらわんと、今後遺跡に触れるような事があれば危ういかもしれんの。ヒバリがしっかりと覚え、皆に教えるがいい。それなら自身の修練にもなるじゃろ。

 そもそも、本来は魔法を習うものはまず魔力操作から習うはずなんじゃが、そこは召喚者であるのに放逐されてしまった被害者という境遇では仕方ないのじゃろうなぁ」



 それからはいつものルースさんの表情に戻り、受け答えにもここ数日交わしていたやりとりが戻ってきた。話すべき事は全て終わったのかな?


「では、そろそろ晩ご飯にいたしませんか?」


 内容が雑談や薀蓄のようなものになり始めた頃、姫様がぽんと手を合わせてそのように告げてきた。そういや時間を気にしてなかったけど、もう夕方どころか日が沈んでいるのかもしれないな。


「おお……久方ぶりに長く語ったから、言われてみれば腹が減ったのじゃ!」


「ご飯ー?」 「ごはーん!」


 ルースさんの返事に、マットの上で遊んでいた美李ちゃんとピーリィが即座に反応する。やっぱりもうそんな時間なんだろうな。


 ……あ。俺も腹が減ってきた。





 ピーリィとルースさんのリクエストで刺身を、沙里ちゃんと美李ちゃんのリクエストでいくらの醤油漬け(今回は丼じゃない)を、そして俺のリクエストとして鮭というかますの塩焼きを用意した。

 姫様とトニアさんは特に言ってこなかったが、どうやら昨日と同じような献立でまったく問題ないようだった。



「これがサシミとイクラか!ニアに聞いておったから楽しみにしてたのじゃ!」


「だからこれがよかったんですね。味も喜んでもらえるといいんですが」


「なぁに、ニアがよだれを垂らしそうな顔をして語っておったのじゃ。問題あるまいて」


 あっ!とルースさんの言葉を遮るのに失敗したトニアさんが、いたたまれなくなったのか、沙里ちゃんの準備の手伝いへと戻るというか逃げていった。

 むしろ、それだけ気に入ってもらえたら嬉しいから、直接言ってくれたらいいのになぁ。素直に感情を表すのが苦手なトニアさんらしいとは思うけどね。




 宿から買ったご飯も含めてみんなで平らげた後、ちょっと早いが順番に風呂を済ませて休む事にした。一度休んだとは言え、ルースさんはまだ体調が万全じゃないだろうから、無理させないためにも俺達も一緒に早めに寝てしまえば、ルースさんも気兼ねなく休めるはず。


 あ、ちなみに風呂は最後に1人で入った。女の子と一緒が嫌なわけないが、やっぱり風呂はゆっくり入りたいよね……癒すはずが気疲れして出てくるのはちょっと、ね。

 



「そういえば、ルースさんどうしてあんなに疲れ切ってたんです?」


 結局いつもどおり男部屋改め和風寝室に全員の布団を並べて寝る事になった。今日は宿の方は鍵を掛けてダミー荷物を置いて、居住袋はベッドマットの間に挟んで隠しておいた。宿の部屋は無人である。



「おー……まだ話してなかったかの?」


「私たちは聞きましたが、ヒバリさん達にはまだ話していませんね」


 中々横にならないトニアさんの隣で寝転がる姫様が答えた。最近は行儀が悪いなどと気にする事はなくなったみたいだ。未だに主の隣で寝そべる事に抵抗のあるトニアさんは大変そうだ。



「わしもサリスらに聞いて分かったわけじゃが、消耗し切った大元の原因はヒバリ、おぬしじゃ」


「……え?」


 そこでなんで俺なの?皆を見てもまったく分かってなかったから、理解出来てない俺がおかしいわけじゃないよね?


「おぬしらが夜には戻るといっておったから、街の周囲を観て回っていたわしは宿に戻ろう思ったのじゃが、西の森の方が随分騒がしかったのが気になっての。様子を見に行ってみれば、次々と魔物が生まれておったのじゃ」


「……あっ!」


 ここまで話したところで姫様が小さく声を上げる。何か気付いたのかな?


「分かった者もおるようじゃが、続けるぞ。


 わしは魔物を倒しつつ、ある程度減らした所で一旦街へ戻って魔物の異常発生を伝えておいたのじゃ。初めは信じてもらえなんだが、他の冒険者が同じように駆け込んでの。

 そこからは街に駐留しておった騎士を集め、掃討指揮を執って魔物の数を減らしていったのじゃ。幸い、強力な魔物もおらんかったし片付くのは時間の問題じゃろう」


 ここで一区切りとばかりに間を置いて、俺の方に体ごと向き直してから問われた。


「さて、どうして急に魔物が湧いたと思う?」


「……え?魔物は魔石から生まれるんですよね?…………で、その魔石は、さっきの話だと遺跡で作られて、遺跡は…………あ!」


 ルースさんが、俺が思い至った事が正解だと頷く。



「俺が遺跡に魔力を吸われたせいで、魔物が生まれたのか……」


 もしその魔物によって殺されたり怪我をした人が出たら、それは俺の魔力のせいで負わせたってことなのか……



「ヒバリ、そう思いつめるな。おぬしに伝え忘れたわしのせいじゃ。勇者の能力を舐めていたからの。久しく忘れておったのじゃから。

 それに先程も言ったが、生まれてきたのは雑魚ばかりじゃ。遺跡の魔物排出も2〜3日もすれば落ち着くからの。魔石が大量に獲得出来ると、冒険者たちは寧ろ喜んでおったよ。逞しいのぉ」


 俯いてしまった俺を慰めるように頭を撫でて優しく語り掛けるルースに見た目と違ってやっぱり年上なんだなぁと、まったく違う思考に飛んでしまった。



「と、とにかく!それじゃルースさんはずっと魔物と戦い続けていたんですね?ありがとうございます。明日から数日は自分も討伐に参加してきます!」


 撫でられ続ける状況が恥ずかしくなってきたので、明日から自分の後始末をつけたいと上半身を起こして宣言した。


「それなら私達も一緒に行きます。これはヒバリさんの問題ではなく、パーティの問題です。ですから、ここは全員で行って手早く片付けてしまいましょう」


 姫様の言葉に、他の4人が頷く。特に美李ちゃんとピーリィは自分達のせいだと強く思っているのかもしれない。ここで俺のせいだからと突っぱねてもきっと怒るか泣かれるかもしれないなぁ……



「えーっと……じゃあ、全員で行こう。絶対無理をせず、俺達は俺達のパーティで動くのを約束してほしい。単独も先走りもなし、いいね?」


 全員がそれに頷き、ルースさんも同行すると言ってきたので了承する。




「じゃあ明日は朝から出かけるから、やっぱり今日は早く寝よう」


「わしは起きて飯を食っただけじゃから、まだそんなに眠くはないんじゃがなぁ」


 昼過ぎから夕方まで寝てたんだから分からなくもないが、魔力は回復しても疲労まで回復したかは怪しい。いつもなら鑑定で状態を見ればいいんだけど、ルースさんはステータス隠蔽してるから全部は見られないんだよなぁ。



「だめですよ。さっきの話だと、夕べから今日の昼前までずっと討伐に参加していたんでしょ?今日しっかり休まないなら明日は宿に置いて行きますから」


「じゃが、眠くないのじゃー!」


 と言って布団の上でじたばたするルースさんに、同じく話の途中でぐっすりと寝ていた美李ちゃんとピーリィの2人も加わってしまった。


「わたしもねむくなーい!」 「ピィリも、なーい!」



 こうなると2人は止まらない。最近では、ピーリィも入れて3姉妹だ、と俺達は分かってるが何も知らない街の人は勘違いしてしまうほどだ。特に美李ちゃんとピーリィの仲の良さは急速に進んでいる。おかげで2人はお互い寂しい思いをしなくて済んでいる様でほっとする。



「これで少し遊んだら寝るんだよ?」


 そう言って作ったのは、昼間のものよりもっと大きくて厚みのあるエアクッション。これにあえて空気をハンパに入れて、大型ショッピングモールでよくある児童用遊戯器具みたいにしてみた。ビニールプールのような縁を上げてあるので多少は平気だろう。


 もちろん和室では狭いので、奥にある練習訓練用居住袋を持ってきて隣に立てかけ、その中に作っておいた。こうすれば目の届く範囲で遊ばせられるし。



「わっ!きゃっ!あははっ!」 「きゅぃっ!ぴゃー!」


 足場がふにゃふにゃしてて、誰かが弾むとその反動でクッション全体が弾むように揺れる。トランポリンみたいに跳ね捲くって転がり捲くって、ほんとにショッピングモールでよく見る光景になっていた。



 なお、年齢的な意味で大きなお友達も混じって遊んでいるが。



「おお!これは面白いな!」


 ぽんぽんと弾みながらはしゃぐルースさん。



「これは、不安定な、足場での、訓練に、なりますねっ!」


 初めは美李ちゃん達のフォローをしていたが、途中からその場で立つ訓練を始めたり自由に飛びはねて空中で回転したりと、まるで体操選手のようなアクロバティックな動きを楽しむトニアさん。


 激しく動く人がいればそれだけ跳ねて揺れるので、さらに楽しめているようだ。でも、これはほどほどにさせないと疲れすぎちゃうかもだなぁ。そして揺れるトニアさんの胸を見てたら背中に視線が!?これは危ない!




「はーい!もうおしまい!」


「「「えー!」」」  「はっ!ほっ!」


「ニアさん!おしまいです!」


 聞こえなかったのかまだ飛び跳ねていたトニアさんにも終了だと告げて空気を抜く。よほど楽しかったのか拗ねていたが、またあとで遊べばいいといって折り畳んで部屋の隅に置いたら納得してくれた。どうやら

もう消されると思っていたらしい。



「もう、遊びすぎて汗かいてるじゃないの。もう1回お風呂行ってきなさい!」


 沙里ちゃんに叱られ、素直に向かう4人。トニアさんもいるしそのまま面倒見てもらえば大丈夫だろう。ちょっと珍しい組み合わせだし、仲良くなるいい機会なのかも?



「ヒバリさん、あれは許可がない時は使わせない方がいいですね。いざという時に体力を消耗しすぎていては困りますから」


 あーあ、はしゃぎすぎたから姫様から禁止令が出ちゃった。


「わたしも賛成です。モール行くといつも美李が遊びすぎてちゃんと買い物出来なかったんですよ。だから、ほどほどでお願いしますね?」


 沙里ちゃんからも禁止令か。うちのパーティは母親役が多いなぁ。



 散々暴れてお風呂でさっぱりしたら、3人とも満足したとばかりにすぐに寝付いてしまった。2人は分かるが、ルースさんも子供か!俺達もそれに続いてすぐに寝た。






 翌朝。



 早めに起きてさっさと朝ご飯も済ませ、さっそく森へ向かうために馬車を走らせる。宿には今日は戻らないかもしれないがまだ宿泊すると言って1週間の延長を支払っておいた。



「さすがに色んなパーティがいるみたいですね」


 ダークミストを発動させるまでもなく、門前には数多くの冒険者や騎士たちが集まっていた。皆街を出るための検閲順番を待っているのだ。街の討伐依頼参加者はこの時に登録して外に出るらしい。


 俺達は討伐はついでで、ビネンの森の遺跡前にいる知り合いのパーティの安否を確認に行くという目的を告げて街を出た。討伐参加は強制ではないらしいので登録はしなかったのだ。

 あれだけ参加者がいたら獲物の取り合いになってギスギスしそうだから遠慮したら、周りのパーティも稼ぎのライバルが減ってありがたいとばかりに先に街を出させてくれたし。




「発生した魔物って……あのマーカーってことは、マンティスやゴブリン、オークくらいなんですか?」


 無事に街道に出られ、そのままトニアさんに御者を任せて馬車を走らせている。街から離れた所でルースさんも居住袋から出て馬車の中に出てきたので、ダークミストでマップ確認して聞いてみた。


「そうじゃな。ダイアウルフは戦ったと言っておったし、おぬしらが戦った事のないものとなると……ファンガスという植物系の魔物くらいじゃの」


「しびれ毒の胞子を撒く事がありますが、魔法にも弱いので大した強さではありません」


 ルースさんが挙げた魔物の名前にトニアさんが答えた。胞子ってことは歩くキノコみたいなやつなのかな?でも魔法に弱いなら俺達のパーティでは麻痺にさえ気をつければ問題なさそうだな。



「その程度の魔物達じゃから、いくら数百と言えどすでに2日目じゃ。あともう1日もすれば魔力の500や600程度ならそれ以上魔物が生まれることもあるまい」





「「……えっ?」」


 ルースさんの言葉に俺と姫様の声が被った。



 ”500や600の魔力ならこの程度”と。



 じゃあもし、それが4000もの魔力だったらどうなるのか、と。





「なんじゃ?何かあったのか?」


 冷や汗ダラダラになった俺と、嫌な想像をしてしまった姫様、御者を務めこちらを振り向かないが猫耳だけはこちらに向けるトニアさん、だんだんと理解してきた沙里ちゃん。お子様2人はまだ分かっていない。



「ルースさん……」


「……なんじゃ?」


 ここは原因である俺が聞くしかない、よなぁ。



「もし、遺跡に吸われた魔力が4000って言ったら……どうなります?」




 ……ルースさんからの返事がない。


 が、段々と怒りの表情が出てきた。うわぁ。



「ヒバリ、ちょっとそこに座れ」


「……すでに座ってます」


 ビキッて音が聞こえそうなほどルースさんの顔が引き攣った。


「セイザというやつじゃッ!」



 あー、やっぱり怒られるかぁ。



まだ2日ごとの更新は難しいですが、数日に1度は更新できたらなぁと思っています。


そして、遅々として進まない内容で申し訳ありませんが、今章のタイトルを変更させて頂きました。

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