街の用事その2
昨日投稿したつもりが設定忘れてたようで……
かなり空いてしまいましたが、よかったら読んでいただけたら。
翌朝。
寝返りを打つのに重みを感じて目が覚めると、俺の上にピーリィが寝ていたらしく、寝返った時に脇腹辺りに転がりつつも丸まってくっついていた。
「……あれ?1人で寝てたはずなんだけどなぁ。っていうか、今何時だろ?ここじゃ日差し入らないから分からないや」
ピーリィを起こさないようにそっと上半身を起こしてぐーっと筋を伸ばす。昨日の荒れ道の馬車がこたえたのか、普段と違う場所の筋肉が痛い。こりゃ参ったね。
「ぅー……ひばり?おあよぉ?」
俺の体温が離れた事で、再び捕まえるようと翼のある腕をぱたぱたと動かしてこちらを見つけて身を寄せ、自身の行動で目が覚めたようだ。
「おはよ、ピーリィ。みんなのいる宿の部屋に行くけどどうする?」
「ぅーん、とぉ……いっしょがいー」
答えつつも起き上がるようには見えないピーリィ。でもさすがにここに1人にするのも可哀想だから、そのまま抱きかかえて連れて行くことにした。
それにしても、寝ぼけててもちゃんとしゃべれるようになったんだなぁ。ちょっと前までかなり怪しいしゃべり方だったことを思えば、これなら歳相応の子供としては怪しまれないんじゃないかな?
子供の成長を見守る父親の気分になりつつも、ピーリィを抱えたまま外に出ても大丈夫か確認して居住袋から出る。遠藤姉妹はまだ寝ているが、姫様とトニアさんはすでに起きて身支度をしていた。
「おはようございます、ヒバリさんピーリィ」
「あら?おはようございます。もう少しお早い起床でしたら着替えを見られていたかしら?」
トニアさんは普通に、姫様は髪を梳いてもらっていて反対を向いていたので少し遅れて反応していた。なんか余計な事を付け足してるけど。
「お二人ともおはようございます。そういった事故が起きないよう、今度は出る前に声を掛けますね。但し、この面子以外がいた時はそっと中に引っ込みますけどね!」
おそらく、もうちょっと女性への配慮を問うのと冗談が半々なのだろうけど、一応こちらもそっと出てきた事には理由があるんだよって伝えておいた。いや、たぶんそれも分かってるんだろうけど。
ちょっと言い訳じみた言い方が面白かったのか、姫様が口元を隠して肩を震わせている。やっぱりわざとか!トニアさんに視線を送ってもすっと逸らされたし!
「ヒバリ様でしたら察知能力に長けてらしてるので信用していますよ?」
しれっと言う姫様の事は放って置いて、まだ眠そうなピーリィを姉妹の寝てるベッドへと降ろして隣から毛布を借りてかけておいた。窓から外を見る限り、どうやら朝早くに目が覚めてしまったらしいし、他の子達はまだ寝かせておこう。
「ヒバリさんが起きられたのでしたら、自分は馬の世話をしておきましょう。それと、今のうちに馬車を宿の馬屋に戻しておきます。さすがに馬車を置いて戻ったと気付かれてはよろしくないでしょう」
すっとトニアさんが立ち上がって居住袋を畳んで外に運ぼうと動くが、そこを姫様が軽く制する。
「では私は中に入ってミリ様の畑や居住内の明かりを灯し直しましょう。もういつ効果が切れてもおかしくありませんからね。ニアはその間に馬車をお願いね?」
「かしこまりました」
そう言ってすぐに行動を起こす2人を見送り、静かになった部屋に1人起きているのはいいが……ほとんどの荷物は居住袋の中だし、正直やる事がない。しょうがないので、姫様達がいたベッドに腰掛けてこれからの事を整理してみる。
「う〜ん……ご飯作るにもキッチンに行けないしなぁ。今日やる事は、鍛冶屋行って依頼品受け取って、いつもの食材の仕込みやって、後はルースさんに昨日の事を報告して……それと……」
あれこれ考えつつ横に倒れ、そしてそのまま2度目の睡眠へと落ちていった。
「ひばりさーん、朝ですよ〜。もうご飯も出来てますよ〜」
「ヒバリお兄ちゃん、お寝坊さんはご飯食べられなくなっちゃうよー!」
ゆさゆさと体を揺らされ、少しずつ意識が覚醒していく。
「んぅ?おはよ?……ああ、俺また寝ちゃってたのかぁ」
窓から射し込む光の強さがちょっと朝と言うには落ち着いている感じがする。って事は、数時間は寝ちゃってたって事か。やっちまった……
「ごめん、何も準備手伝えなかったね。後何か出来る事ある?」
2人に声を掛けつつ起き上がろうとすると、脇の辺りに温かい物体を確認。これ、さっきもあったなぁ。やっぱりピーリィか。そして、俺が起きるとピーリィも起きた。これもさっきあったなぁ。
美李ちゃんにピーリィの着替えを頼んでる間に顔を洗ってきた。その後1階でご飯を買っている姫様とトニアさんの手伝いに回って運び込み、皆で朝ご飯をいただく。宿から3人分手作り3人分の半々のご飯だ。
「そういえばルースさん戻ってないんですか?」
食べながらトニアさんに尋ねるが、首を横に振られた。周りを見渡しても全員見ていないようだ。そうか、帰ってきてないのか。
周辺確認の維持程度に持続させていたダークミストの範囲を少し広げてみても、その中にルースさんらしき魔力は見当たらなかった。
「出かける際はまた宿へ言伝を残して行かれた方がいいでしょうね」
「そうですね。今日は鍛冶屋に行く予定だから、その時はお願いして行きましょう」
「では、それは自分が」
姫様が提案し、トニアさんが引き継ぎ実行する流れでまとまり、それからは朝ご飯を味わいしっかりと全部いただいた。宿の購入分と沙里ちゃんが作ってくれた分、どちらも綺麗に平らげる俺達の食べっぷり。昨日の疲れを見せない元気な証だ。
少しだけ食休みをした後はさっそく鍛冶屋へと出掛けた。今回は寝坊したから俺から御者を買って出た。やる事は色々あるが、さすがに御者くらいは任せて欲しい。
「ねー、ヒバリお兄ちゃん。後であたしの畑見てもらっていい?」
「うん、構わないよ。でも珍しいね」
居住袋の中に行っていたはずの美李ちゃんが、俺の肩越しに声を掛けつつ背中に飛びついてきた。そして横に座り直すがぴったりとくっつくのはやめないようだ。誕生日会の後からスキンシップが過剰になってる気がするなぁ。
おっと脱線した。
「普段は美李ちゃんのスキルで色んな物を栽培出来てけど、態々聞くくらいだから何かあったのかな?」
「えっとね、お米がもう実ってきてて、このままでもいいのかな?って。あとはー、お味噌とお醤油も見て欲しいの」
「え?もう米が実ってるの!?確か、植えてから2週間も経ってないよね?」
「うん!あたしがんばったの!」
えっへんとばかりに隣でポーズを決める美李ちゃん。10日程度で米が出来るって、ほんとチートすぎだろ!
「あ、そっか。育てるのは出来てもその後が分からないってことか。水を抜いて金色というか枯れてから稲刈りをして、そこから乾燥させないとなんだよ。じゃあ後で一緒にやろう!まずは田んぼの水だけ抜いておいてね」
「はーい!じゃあ、やってきちゃうね!」
勢い良く飛び出し……いや、居住袋へ飛び込んで行く美李ちゃんを見送ってまた御者として意識を集中させる。といっても、昼にもならない今は特に人通りもまばらでみなのんびりと歩いている。
今日はちょっと衛兵の見回りが少ない気もするが、この様子なら問題ないのだろう。もしかしたら勇者と第二王女の警備に人員を裂かれてるのかも知れないし。
そうして周りを見ながら馬車を走らせてると、いつもより早いくらいに鍛冶屋に着いた。1度も避けも止まりもせずに走れたらそうなるだろうな。
「こんにちは〜。製作依頼したヒバリです、状況はどうでしょう?」
道沿いにある店舗側から入ったものの誰もいないので、ちょっと大きめな声で挨拶してみる。が、ちょっと待ったが反応がない。奥には人の反応が見えるから、単に作業に集中してるのかな?
「こんちはーーーっす!」
「……あー!はいはい、ちょっと待ってくれ!」
もう一度、今度は更に声量を上げると、少し若目の男が返事をしてすぐに出てきてくれた。やっぱり作業中だったのか。でも店番もいないのはどうかと思うぞ。
「すまねぇな。急ぎの仕事が舞い込んでスゲー事になっちまってるから勘弁してくれると助かる。で、そちらも依頼ですかい?ちょっと今は納期は遅くなるのを覚悟して貰えるなら喜んで引き受けますよ」
所々言葉遣いが崩れてるが、なんとか丁寧に対応しようとしてるのが分かるし、何より高圧的じゃないのは好感が持てる。身なりにも少し気を使っていて営業スマイルも出来てるし、もしかしたら営業担当なのかな?
「すでに依頼は済ませてあって、今日は品物を受け取りに来たんですよ。鎧と盾、あとちょっとした道具と細かい金具が沢山ですね。ここの親方さんと直接交渉しました」
「あーあー!あの金具は兄さんのだったのか!あれは若い連中にはとてもいい修練になったのでこちらでも助かったんだ。でもあれは何に使うんだい?もし差し支え無ければ教えて貰いたいぜ」
テンションの上がった男はもうほとんどタメ口になっていたが、それでも愛想の良い笑顔でこちらに尋ねてくる。商売というより、完全に興味の方が勝ってるんだろうなぁ。そこは彼も鍛冶師だってことか。
ちらっとトニアさんと姫様を見るが、特に止めるような素振りは見せなかった。2人も彼はこちらを利用するだけとは見えなかったようだ。ならいいか。
「えっと、あの金具は紐を使った止め具の補助ですね。金具のみやボタンと違って靴紐みたいに調整しやすいんですよ。とりあえず、品は出来てますか?」
「へぇ……おっと、そうでしたね。今運ばせるんでお待ちを。金具は1つ以外直接表の馬車に積み込んでいいんですかね?」
「はい、お願いします」
今運ばせます、と言って奥へと声を掛けて若そうな2人を使って金具を馬車へと積み込みに向かい、それをトニアさんが対応してくれていた。ちなみに、残りの3人は居住袋の中へ入ってもらっている。鍛冶屋にいても退屈だろうし、中で炊きたてご飯やおかずの仕込みをするそうだ。
「おう、来たな!どうだ、鎧の出来栄えは?ランブのアニキにも負けてねぇよな!」
「はい。いい出来ですね。盾の枠部分の稼動もバッチリです!あとは金具とガマ口さんも……はい、大丈夫です。ああ、ありがとうございます。こちらが代金です」
確認が出来たらすぐに待機してた若者2人が馬車に積み込んでくれた。会計を済ませ、その後は親父さんと少し話した。あとはこの営業の男性も交えて金具の使い方を実演してみせておく。ガマ口さんは面倒なのでそういう道具と言ってごまかしたけど。
この世界には穴に軸を通して留めるベルトはあったが、この紐で調整できる通し金具は知らなかったようで、取り入れていいか交渉された。別にこれで儲けるつもりはなかったので、利権に巻き込まれたくないという理由で俺達の事を言わない、王都にいるランブさんにも伝えて使用できないか話を通す事で了承しておいた。これで広まるとしても鍛冶屋中心からだしランブさんに喜んでもらえたら嬉しいな。
「さて、この後は食材を補充しておく?昨日の遺跡前のBBQでちょっと使いすぎちゃったし。それに、トニアさんが見つけてくれた魚介の店でも買い物したい!」
「あ、わたしも行きたいです!魚料理も増やしたいですよね!」
「あたしもお寿司また食べたいなぁ」
美李ちゃんの誕生日会の事を思い出しているんだろう4人がつばを飲むように斜め上を向いて少し呆けていた。
……4人?
沙里ちゃん、美李ちゃん、ピーリィ、トニアさん。その横では姫様が口元を押さえて笑いを堪えている。
すぐにそれに気付いたトニアさんがすまし顔をするが、それが余計にツボだったのか姫様が顔を背けて肩を震わせていた。御者をしていた俺は見なかった事にして前を向いてやりすごす。これ以上話しかけたらまたトニアさんがやらかすから!絶対!
「こちらです」
その後は平穏に道を進み、魚市場らしき通りに出る。前の野菜や穀物の市場とちょっと離れているのは、ビネン湖から近い東か南の門に近い場所が自然と市場になったかららしい。冷却の魔石を使った冷蔵庫は安い物じゃないから運搬はスピード命なんだろうな。
「マスを購入したのはこの先ですね」
トニアさんに案内されつつ歩く。馬車は近くの馬屋へ預けてあるので徒歩だ。この市場は馬車と歩行者の通り道を分けてあるので歩きやすい。急ぎの馬車が多いからこそなのだろうけど、それを守れる治安はすごいな。貴族ならすぐに破りそうなのに。
「市場を仕切る貴族が商人からの成り上がりだからでしょう。以前来た際に店の方がそう話していました」
「へぇ〜。活気は前に行った市場よりもありますね。でも湖だから海の匂いはしないからちょっと不思議な感じです」
「加工品でしたら売っていますが、さすがに生の物はここまでは難しいですね」
それでも加工品は売ってるんだなぁ。と、後ろからのトニアさんとの会話をしつつ歩いていた。そっちも見ていこう。
魚を見てきゃっきゃはしゃぐ美李ちゃんとピーリィが離れすぎないように手を繋いで先頭を歩いていくと、一際大きな店が見えた。うん、これは分かりやすい。この店はマスだらけというか、マスしか売ってないのか!
ここからは沙里ちゃんと2人で食材漁りになった。沙里ちゃんはスキルのおかげか目利きが凄い事になっているので、悪い物は掴まされない。頼もしい相棒だ!
それから他の店も巡ってマス・イクラ・エビ・その他の白身や、海の物の干し魚、さらに湖には川海苔があった!但し、こちらではスープに入れる海草(水草?)としか使われていなかったので、初めはこれが川海苔だとは思わなかったよ。
「これなら板海苔が作れるね!あとは海苔の佃煮もいけるなぁ。ご飯に乗せて食べたい……炊き立てご飯には最高だなぁ」
「あぁ……いいですねぇ」
俺と沙里ちゃんは、海苔が食べられる事を想像して呆けていた。その顔が面白かったのかトニアさんも笑っていたが、横から姫様に囁かれて顔を真っ赤にしていた。どうせさっきのを蒸し返されたんだろうなぁ。姫様のいたずら好きがどんどんエスカレートしてる。いや、むしろこれが姫様の素なんだろう。
それじゃあ止められないな!頑張れ、トニアさん!
楽しく過ごしてるならそりゃぁ止められないな、うん。
馬屋で先程買った物を配達人から受け取り、全て馬車に詰め込んで宿に戻る事にした。少しだけ穀物や野菜購入で寄り道をしたが、ルースさんが戻るかもしれないと思って昼ご飯は宿に戻って摂ろうって話していた。
御者をしつつダークミストの範囲を広げて周囲を確認して進むと、途中でルースさんを見付けた。丁度宿に向かって歩いている様だったので、折角だし拾って行く方がいいかな。
「……どうしました?行き先が変わったようですが」
路地を曲がるとすぐにトニアさんが声を掛けてきた。
「ルースさんを見つけました。馬車で拾って行った方が早いかなって」
ルースさんが無事だったと言う俺の言葉に、全員が安堵の表情を見せたのがなんだか無性に嬉しかった。皆にもルースさんは仲間だって思ってもらえてるんだなぁ。これで騙されていたなんて事になったらショックだけど、俺はもうルースさんを信用しちゃってるんだよね。
「ルースさーん!こっちです!」
さほど大声じゃなくても気付く範囲に近づいてから声を掛けて呼び止める。振り返ったルースさんは、かなり疲れた顔をしていた。
「すみませんトニアさん、御者をお願いします!」
すぐにトニアさんと交代し、馬車を飛び降りてルースさんに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?どこか怪我はありますか?」
「おお、ヒバリ。すまんの、少しばかり無茶をしてもうたわ。なに、怪我はしておらんよ。疲れておるだけじゃ」
鑑定の目で見て確かにHPには異常がないが、MPがかなり減っていた。疲労はこちらと体力の両方かもしれない。あとは何も食べずに動いていたか?状態が疲労と空腹と魔力欠乏が出ている。一体何があったんだ……?
「とにかく、馬車に運びます。そのまま宿へ向かいますから安心してください!」
後で何か言われても構わないから、そのまま抱きかかえて馬車へと戻った。
今年はあと1話は投稿出来そうです。
早く年末年始が終わってくれるといいのですが(泣)