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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第6章 ビネンの森と迷宮遺跡
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勇者とごはん

ちょっと遅れてます。

詳しくは活動報告にて。

 こっちの世界じゃありえないこの袋、見たら気付かれるのは分かってたから他のも全て隠したってのに、まさか自分でミスして取り出してるとか何やってんだよ俺!




「えっと、この袋がどうかしましたか?」


 背中に嫌な汗が出るほど緊張しつつなんとか答える。


「そう!その袋だよ!その中身、ご飯……あ、いや、これじゃ通じないか。それは米じゃないのかい!?」


「……え?中身?袋じゃなくて?」


 どうもこの勇者とやらの問い質したい物は袋じゃない……?



「袋?ああ、それは多分僕と同じ世界から来た者が王都で流行らせている食材で使ってるという物だったよね。うん、知ってるよ」


 ……あー。そうか、俺が王都で商売してたのが出回っていたんだから、見たことある人もいるわけか。あれ?それじゃ別に焦る事なかったのか!



「そうか!それもその人が売っていたということなんだね!?どこで買ったのか是非教えて欲しい。それと出来れば譲ってもらいたい。もちろんちゃんと代金は支払うから頼むよ!」


 このまま交渉を進めるつもりのこの勇者をどうしたらいいものか。やっぱりみんな米が恋しいんだなぁ。怯える必要がないと分かったら、今度はどう対応していいか迷っちゃうよ。下手な事言ってバレてもいやだし。



「失礼。これは帝国領の一部で栽培されているゴルリ麦と言います。私達もこのような食べ方は知りませんでしたが、北のカルバクロールの街で旅の方がゴルリ麦を求め、私達にこの作り方を教えてくださったのです。

 これで商売をする事を考えていますので、ここで教えてしまうと私達の商売も先行きが危うくなるかもしれません。ここは穀物の名前だけでご容赦いただけないでしょうか?」


 横から話に参加してくれた姫様が主導権を握るよう一気に捲くし立てて進める。確かに姫様の立場から見れば嘘は言っていない。米を使った屋台もいいねと話した事もあるし。



「うぅん……そうか。商品として売り出したいと思ってるなら、突然現れた僕が強引に奪うのは格好が悪いね。ゴルリ麦、そして帝国産。これを教えて貰っただけでも十分助かるよ」


 勢いに飲まれたとは言え、そこですっぱりと引く所はこいつは結構まともな性格なのかもしれない。他の勇者で感心出来たのは源さん以外初めてかも。こういう奴もいたんだなぁ。



「勇者として恥じる事のない行動をと、即座に自身を見つめなおせるユースケ様はやはり勇者ですわ。街に戻りましたらさっそくゴルリ麦とやらを手配しましょう」


「ありがとうエスト。キミに格好悪い所は見せられないからね。もし僕が道を外していたらいつでも叱ってくれ。僕はまだまだ半人前なのだから」



 ユースケの横にいた第二王女がするりと会話に参加したと思ったらもう惚気話か?と思えるくらいの2人の世界を作っている。なんだこの姫様は。

 ちらっとこちらの横にいる俺達のパーティの姫様を見ると、困った顔でこちらへ視線を返した。驚かないってことは、これが普通なのか……





「幸いまだ残っているので、少し包みましょうか?」


 話が進まないと言うか相手されなくなってどうしたらいいか分からないから、ご飯の話題で釣ってみる。


「本当かい!?それは助かるよ。僕の故郷ではこれが主食でね。こっちに来てから色んな店には行ったけど、どこにもなかったんだよ」


「では、時間も差し迫っていますしあとは馬車で移動した後にいたしましょう」


 このままあいつに話をさせると日が暮れると判断した第二王女は手早く取りまとめると、馬車3台を手配させてこちらに戻ってくる。



「こちらはゴルリ麦の調理法を教えてくださった方のレシピで作った軽食ですので、殿下と勇者様御一行で召し上がってください。私達のパーティで作った物ですので、ご心配でしたらそのままで構いません」


 姫様に持って行かせたバスケットにはおにぎりが入っている。具は焼き魚のみだが、それ以外はまた何を言われるか分からないからやめておいた。

  俺達もテントを片付けて荷物を確認する。勿論野営地のバフやマルーン、そして世話になった騎士達への挨拶も済ませた。





 馬車は程なくして野営地を出発する。さすがに完全に舗装されていない道は揺れも大きい。むしろこの道を馬車で行けるという頑丈な作りに驚くくらいだ。


「これは下手すれば酔いそうですね……前の馬車はこの状況でもご飯食べるのかなぁ?俺なら吐いちゃうよ。クッションだけじゃカバーしきれないや」



 先頭に従士達の馬車、真ん中が勇者と第二王女、殿が俺達パーティと御者2人だ。いくらご飯の情報を教えたとは言え、よく身元の確認もせずに俺達を馬車に誘ったもんだ。


「あねう……殿下は直感で行動なさるのですが、それが悪い方へ向かう事がない、いえ、良い方向へと流れを作るのに長けているのです。狙ってというより自然となさる所が多くの方に慕われているのですよ」


「へぇ。まぁ俺達にやましい事は無いし、むしろ堂々としていればいいでしょ。情報という対価を払って乗せてもらってる。それで十分でしょうね」





 2時間ほどで街道まで出た時には俺達日本人組は乗り物酔いになっていた。普段の馬車なら大丈夫だけど、あの悪路は無理だった。むしろなんでこっちの世界の人達は全員平気なの!?


 幸い道中に魔物達も見当たらず、時折遭遇した猪は先頭の馬車のメンバーだけで事足りた。戦闘で馬車が止まった隙に外で吐かせてもらった。あれ無理……実家では車に乗ってたけどここまでの悪路はないよ……

 そして例に漏れずユースケも酔っているので、ここで30分ほど休憩を取って、その後は1時間もすれば街に戻れたが、さすがに夜も更けている。時計があれば日付変更前には間に合ったと分かったんだろうけど、今はその手段がない。





「本当にここでいいのかい?」


「はい、この先の宿を取ってますが、さすがにこの状況で乗り付けてしまったら宿に迷惑を掛けてしまいますから。送って頂きありがとうございました」


 全員で前の馬車の下へ行って頭を下げる。



 夜中に王族と護衛の馬車3台で宿の入り口につけたらそれこそ大騒ぎだ。街の検問の時に降ろして貰うつもりだったが、この面子だと顔パスになったので止まることなく門を越えていた。なので、慌てて声を掛けて宿のかなり手前で降ろしてもらったのだ。


「こちらこそ貴重な情報ありがとう。これで僕もご飯が食べられるよ!もし屋台を始めたら買いに行くからね!では」


 第二王女と共に軽く手を振り、それを合図としたか馬車が走り出す。夜の街に吸い込まれていった所でやっとほっとした。



「あー…ドキドキした。下手な会話して何か言われないか言葉に気をつけなきゃだったし、美李ちゃんやピーリィもよく我慢できたね。お疲れ様」


「あまりしゃべっちゃだめって言われてたけど、気持ち悪くてそれどころじゃなかったよぉ」


 ぐったりとした美李ちゃんがもたれかかってくる。ピーリィはあの振動の中でもトニアさんか俺にくっついて寝ていたため、まだ寝ぼけているいるのか手を繋いだままぼーっとこちらを見ていた。沙里ちゃんもまだ気持ち悪さが抜けずに静かだ。



「じゃあ行こうか。ここに留まるのは危ないから宿に急ごう。皆大丈夫?」


 見渡して全員と視線を合わせるとそれぞれが頷く。俺もだけど、姉妹の疲れはまずいからさっさと部屋に行こう。




「ああ、お客さん。アンタの連れから遅くなるとは聞いていたが随分遅かったね。ここはまだ酔っ払いが多いから早く部屋に行ってくれ」


 さすがにこの時間では受付嬢ではなく、料理屋の方のおやじさんが対応してくれた。俺達は言われたとおりなるべく顔を見せないようにそっと階段を上がっていく。




「つっかれたぁ!」


 部屋に入った途端、美李ちゃんベッドへ倒れこむ。沙里ちゃんもそれに続いてベッドに腰掛けて溜息をつく。俺は途中から抱きかかえていたピーリィをそっとベッドに寝かせてから近くに腰を下ろした。


「皆さん、今酔いの気持ち悪さだけでも治療しますね」


 実は、馬車の中でも魔法を使って治そうかと言われて悩んだのだが、下手に光魔法に気付かれたら後が面倒だと我慢し続けたのだ。姫様が魔法を使っている間に、トニアさんが居住袋を立て掛けて馬の様子を見てくると言って中に入っていった。そういや連れて行ったの忘れてた。



「はー……ありがとうございます。おかげで楽になりました」


 3人とも酔いさえなくなればいつもどおり。むしろ途中で吐いてしまった分体調が戻ればお腹が空くわけで。


「あ。もしかして、沙里ちゃんと美李ちゃんもお腹空いた?」


 吐いてしまったのは俺だけじゃない。となれば、思う事は一緒なわけで。


「だよね〜」


「本当はこんな時間に食べない方がいいんでしょうけど、ね」


 やっぱりか。ここは何か軽いものでも作るかな?



「あれ?そういえばルースさんいないですね。さっき宿の人が伝言受けてたみたいだけど、いないとは言われなかったしどうしたんだろ?ちょっと聞いてくるね」


「じゃあわたしは何か食べるものを用意します」


「あたしも手伝うー!」


 部屋を出る俺と食事の用意をする姉妹、それとすぐに寝てしまったピーリィをあやす姫様。それぞれが動く。





「すみませーん」


「どうしたい?そろそろ店じまいだが何か注文か?」


「はい、飲み物を5つお願いします。それと、俺達の連れってどこか出かけるって言ってました?」


 果実系の飲み物を作りながら、思い出すのに時間がかかるのかおやじさんが唸っていた。ああ、と思い出せたようでこちらに顔を向ける。


「夕方頃かな?野暮用が出来たとかで、夜に戻らなくても朝には戻るから朝飯は用意してくれって言ってたな」


「あ、そうなんですね。ありがとうございます」



 営業時間外と言うことで銅貨を多めに支払い、ジュースを受け取って部屋へ戻る。中ではすでにおにぎりとつくねが用意されていて、寝ていたはずのピーリィも行儀良く座って待っていた。


「ヒバリ、はやくすわって!」


「ジュース配るから先に食べ始めていいよ」


 ピーリィに急かされるもゆっくり配り終えて、自分の分がない事に気付く。まあ水もあるしいいか。席に着いて全員で夜食をいただいた。



「と、言うわけでルースさん朝には戻るそうですから心配要らないと伝えていったようです。どちらにしろあとは朝になってからですかね」


「そうですか。皆さんもお疲れでしょうから、今日はこのままお休みしましょう」



 食べ終えた途端、姉妹とピーリィはすでにうとうとと舟を漕いでいた。あれだけ慌しく1日を過ごしたらそりゃあ疲れるだろう。


「じゃあ俺達ももう休みましょう。おやすみなさい」


 挨拶も出来ず寝てしまった3人をベッドに寝かせたトニアさんも、姫様と一緒に隣のベッドへ入っていく。ベッドは3個ずつ寄せてあるので実質2箇所でしか寝られないのだが、その2箇所とも女性陣に取られたら俺はどうしたらいいんだ?


 さすがに許可されてもいないのに俺からもぐりこむのは問題ありすぎる!いや、いつも逆にもぐりこまれてはいるんだけど。でもなぁ。





 ……あ。居住袋の中行けばいいのか。


 なんで2択でドキドキしてたんだろ。さっさと寝よ寝よ。



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