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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第6章 ビネンの森と迷宮遺跡
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倒れた理由と勇者訪問

「……あれ?」


 まず、布っぽい天井が見えた。これ、テントか?




 俺はベッドに横たわってるのか?毛布が掛けてあるし、寝てたのか?そもそもなんで寝てたんだ?



「あっ!ヒバリさん、目を覚ましました!」



 状況を知りたくてもそもそ動いて周りを見てたら沙里ちゃんと目が合った。そして沙里ちゃんの大声でピーリィと美李ちゃんが飛んでくる。


「ごめんなさあああああい!あたしが勝手に入っちゃったからあああああ!」


「ヒバリいいいいいぃ!ごめさなさああああああ!」


 さすがにそのまま抱きつかれはしなかったが、気持ちを抑えているのは2人が握っている毛布からも分かった。



「あーもー、どうしたんだよ2人とも?俺は大丈夫だから、ほら」


 どこも悪くないというアピールで手を広げたら、がばっと2人から抱きつかれた。あれ?抱きつけっていう風に取られたのかな?まぁいっか。



「本当に大丈夫ですか?遺跡から出てくると思ったら急に意識を失ったんですよ。覚えていますか?」


「あーあーあー!そっか、なんでここにいるのか全然分からなかったけど、そういえばそんな事になってたのか」


 それで2人は自分達のせいで俺が倒れたと思ってたのか……


「ほら、別に2人のせいじゃないから。門番の人達だって見学したいって言ったら見せてくれてたでしょ?」


 まだしがみ付いている2人を撫でながらゆっくり話す。



「あれ?じゃああの後どうなったの?ていうか、どれくらい時間過ぎてるの?」


「ヒバリさんが気を失ってから30分も経ってないですよ。今はサリスさんとニアさんがこの救護室の先生と騎士の方達と話してます」


「それにしてもなんだったのかなぁ?急に眩暈がして、そのまま意識が飛んじゃったんだよね。ルースさんが言ってたのってこれなのかな?」


「でも、美李もピーリィも何もなくて、何でヒバリさんだけ?」


「う〜ん……」



 動かない2人を撫でながら沙里ちゃんと会話してると、姫様とトニアさんが他の人を連れて戻ってきた。手を振って無事をアピールするとほっとした2人の様子に、ちょっと申し訳なさが生まれる。



「ああ、ヒバリさん、目覚められたのですね。よかったです」


「こちらの治療師の話では、魔力欠乏症のような症状ですが、ヒバリさんの魔力は減ったように見えないと不思議がっていましたよ。一応こちらの門番をされていた騎士の方々も心配なされてたのでお連れしました」


 2人の騎士は、確かにさっき扉を通らせてくれた気さくな人達だ。子供のする事だからと言っても、笑顔で見学させてくれたんだもんな。


「ご心配かけてすみませんでした。この通り何ともありませんから!」


「本当にびっくりしたよ。あんな事は初めてだったからね。でも異常がないならよかった」


「そうだぞ。あまりパーティの皆に心配掛けるんじゃないぞ?気持ち悪くはないか?」


 騎士達はまだ仕事が残っているからと、声を掛けただけですぐに戻って行った。去る時にもまた頭を下げておいた。とりあえず彼らにお咎めはないと聞けただけでもよかったな。



「で、ヒバリさん。体調は本当に大丈夫なんですか?調べてみてください」


 美李ちゃんやピーリィを撫でながらそっと耳元で囁くトニアさんにどきっとしたが、要するに鑑定を使って自身の状態を見ろってことか。



「えーっと…………ん?……げ」


「……何かあったんですね?」


 俺の反応に全員が顔を近づける。


 近い近い近い!スクラムを組むかのような状態で迫られるって結構怖いんだな!皆可愛いんだからもっとそういう何と言うかな状況になるのかと思ってたよ!



「えっとですね、俺の魔力が半分減ってます」


「半分も、ですか?それは確かに体にくるでしょう……しかし、意識を失うほどとは思えませんが」


 少し体を引きつつ言うと、トニアさんが思案顔で俺から視線を外して考え込む。



「具体的にどれほどの減っているでしょう?」


 そこで姫様が次の質問へと引き継ぐ。


「今だと大体4000ちょっとですね。寝てる間に少し回復しちゃってると思いますけどね」


「よん!?……ゴホン。よんせん、ですか……」


 姫様が大声を上げそうになるが、かろうじて抑え込んでから小声に戻る。


「ヒバリさん、普通……いえ、大魔導士だったとしても、最大魔法を唱えるために必要な魔力はおよそ300ほどでしょう。もちろんそれ以上もありえますが、300を消費して魔法を使用すれば当然体に負荷がかかります。

 5000近い魔力を体から一気に引き抜かれたら意識を失って当然です。半分ということは、今現在の残り魔力はどれほどですか?」


「5000ないぐらいです。正直まだちょっと体がだるいですね」


「あの……以前王都に居た頃では最大3000ほどじゃなかったですか?」


 呆気に取られつつもトニアさんが聞いてくる。


「前にサリスさんが言ったようにスキルを使った結果、魔力ばかりがガンガン増えました」


「……そうでしたか」



 魔力強化や装備品の袋作成時に一気に200や300は当たり前で、居住袋の時は3000消費したと話したら、今度こそ呆れられた。そして、無茶な消費をする時は絶対に誰か1人を側に置く事を厳重注意された。何故叱られる流れに……



「結局は遺跡の壁か扉に直接触ったら吸い取られたって事は、ルースさんが近づくなと言っていたのはこれの事なんですかね?」


「でも、普段から通過する人も美李やピーリィにも異常はなかったんですよ?」



 姫様達が来る前に話していた事だったが、結局全員揃っても答えは出なかった。そして、俺が気絶してからあまり時間が経ってないと言うことは、今からならまだ街に帰れるかもしれない事を姫様が話す。


「判断はヒバリさんに任せますが、それだけ消費しているのであれば無理はしなくても、とは思っています」


 他の皆も出来れば今日はもう動かない方がいいと思っているらしい。



 さて、どうしようかなぁ。





 結局今日は諦めて野営地の隅っこの方でキャンプする事になった。でもさすがに居住袋を出すわけにはいかないので、皆に見守られつつも全員が入れるほどのテント袋をさくっと作って手近な木に吊るして組み立てる。

 魔力というかMPならこれくらいだと50も使わないんだけどなぁ。そう説明しても全員が俺の周りに集まっての作製となったわけで。


 テントさえ作ってしまえば、その中でならこっそり居住袋の中を行き来するくらいは問題ない。まぁそのためにちょっと大きめにしたんだけどね。


 

「さすがにまだ日も暮れてないから、晩ご飯の仕度するのも早過ぎだよね。暇だからまた袋で上着作りを試してるよ」


「ちょっと時間余っちゃいましたね。それならわたしは中で色々済ませておきます」


 そう言って沙里ちゃんは居住袋へと入っていった。ご飯のストックや食材加工の補充をやっておくらしい。手際がいいからほんと助かる。



「じゃあ俺は……ああ、袋でローブ作ってみるか」


 前の服作りは失敗したけど、羽織る程度の服なら作れそうだと思ったんだよね。そう思えたのがローブ。あれなら1枚の布で形を決めて、前をいくつかのボタンで固定出来たらいけそうだし。



 まずは角が丸くなった長方形の袋。そこにいくつかのボタンっぽい凹みを左右に付ける。凹みというか、袋の余白部分を多めに付けてそこにボタンを通す穴を開けておく。そこに紐状の袋の両端に結び目を作って、穴に通して止め具にする。


「始めはこんなもんかな?」


 試しに羽織ってみるが、どうにも上下でバランスが悪い……


「これ、四角と言っても台形の方がいいのかなぁ」



 作っては着て、さらに形を変え、袖口用に穴を付けてみたり、そして形を変える。1時間ほど繰り返してやっと出来上がったのはバームクーヘンを1/2にしたような形だった。ローブのつもりがポンチョになった。

 襟元にもいくつか穴が開いており、そこには追加でフードを紐で固定した。これで雨が降っても雨合羽代わりにもなるな。欠点は、袖を通すわけじゃないから武器を出して戦う時ちょっと邪魔かも?


 でも、ピーリィの翼があっても羽織れるからまずはこれでいこう!後は個人ごとに好みの丈があるだろうしそこは順番に聞くとして、失敗作は全部消して完成品を人数分作っておく。俺と身長の同じトニアさん用、姫様と沙里ちゃん用、美李ちゃんとピーリィ用で3種類の丈でいいかな?

 


 外で遊んでたピーリィと美李ちゃん、その側にいた姫様とトニアさんをテントに呼んで早速着てもらう。うん、丈は大丈夫そうだね。


「何か作ってらしたと思ったら、外套でしたか。ありがとうございます。ですが、魔力を使いすぎたのではないですか?」


 姫様が喜んだ後にこれがスキルで作られた事を思い出し、咎めるようにこちらを見る。1時間で回復した魔力を使い切るほどでも無い事を説明すると信じてくれた。



 他の皆も着て動き回っていた。トニアさんは剣を出し入れしたり振ってみて動きを確認している。ピーリィの翼でも苦しくはなさそうだ。よかった。


「あれ?美李ちゃんは?」


「沙里さんに見せると言って居住袋の中へ行きましたよ」


「じゃあ俺も沙里ちゃんに渡してきますね。外というかテントとピーリィ達をお願いします」


「はい、お任せ下さい」


 外套から手を出してこちらに振る姫様に見送られて、俺も沙里ちゃんの分を持って居住袋へ入る。




「沙里ちゃんと美李ちゃんの分のローブ持ってきたよー」


 中では美李ちゃんが大人しくつまみ食いをしていた。きっと埃を立てるなと言われ、食べ物で釣られたのだろう。


「あ、ヒバリさん。ありがとうございます。色はキャメルで統一したんですね」


「うん。本当はモスグリーンくらいなら大丈夫かと思ったんだけど、作ってみたら意外と派手に見えちゃってね。でも周りを見て問題なさそうなら、モスグリーンかベージュくらいなら作り直せるよ?」


「う〜ん……今はこれでいいです。皆とお揃いの色がいいですから。それはあとで皆と相談ですね!ちょっと待ってくださいね」


 仕込みも終わったらしく片付けを始めたので、俺と美李ちゃんも手伝って手早く終わらせてしまう。それから沙里ちゃんも外套を着て3人で外に出る。



「ああ、確かに全員同じものを着るとパーティっぽい!」


 テントの入り口には3人も戻っていて、これで全員が外套を着た姿を見ることが出来た。そして、先程の沙里ちゃんの言っていた意味が分かった。これなら俺達がパーティだ!と外見から語っている。皆も笑顔でお互いの外套を見ていた。



「特にピーリィは他の人に触られる訳には行きませんから、この外套は助かります」


 そっと俺に囁くトニアさん。今は翼を見えないように魔法で誤魔化しているが、触られたら翼の違和感に気付かれてしまう。

 今回俺が倒れた時も、門番が泣いてしがみ付くピーリィをどかして俺を運ぼうとしたらしく、トニアさんが動いてピーリィを抱きかかえたために無事済んだらしい。


「そっちの問題もあったんですね……ありがとうございます」


「私達はパーティですからね。お互いを守るのは当然ですよ」


 笑顔で外套を広げ、皆と見比べるトニアさん。でも、フードだけは耳の問題で使いづらいって言われた。そっか、けもみみには対応してない形だったか。




「さて、ちょっと早いけど晩ご飯の準備しちゃおうか。明日はなるべく早くに出発して、ルースさんに事情を説明したいからね!」


 あまり心配掛けたくなかったが、忠告を無視してこの体たらくじゃ怒られる事も覚悟しなきゃ、か……まぁ仕方ない。




 テントの陰に小型の魔石コンロと金網と鉄板を用意し、晩ご飯はBBQをする事にした。せっかく森の中の野営地というか見た目キャンプ場にいるんだから、その雰囲気に合わせていくならこれだろう!


 牛・鳥・猪の味つき肉と切った野菜を並べ、更に麺を使って焼きそばと焼きうどん。あとはご飯も準備しておくか。これだけあれば足りるだろう……さすがに足りるよね?




 ジュージューといい音を立て、タレの焼ける香ばしい匂い。


 地面に広い布(本当は俺が作った袋だが)を敷いて、中央に置いたコンロの上で焼き、皆で囲むように座っている。


「ほら、まだいっぱいあるからよく噛んで食べなきゃだめよ?」


 何か凄い勢いで食べる美李ちゃんとピーリィの世話をしつつ、沙里ちゃんも楽しそうに食べている。姫様とトニアさんはじっくり味わっているためあまりしゃべらないけど、満足しているのは顔を見れば分かる。


「ああ、BBQって久しぶりだけど楽しいねぇ」


「ヒバリさんはあまりしなかったんですか?うちは家族でよくしてましたよ」


 沙里ちゃんが焼いては小皿に移し、それを美李ピーリィコンビが素早く取っていく。


「俺は食品工場勤務だったからさ、休みが不定期で平日だったんだ。しかも職場では交代で休みを取るから同僚とも予定を合わせ辛くてね……世間が連休だと休みすら取れなかったし」


「そ、それは大変ですね」


「カレンダーの赤い日は何度恨めしいと思ったか!変な話、こんな事にならなきゃ出来なかったし楽しいよ」


 笑いながらそんな事を言って、肉を頬張る。美味いなぁ。


「大変だったのねー」と真似した美李ちゃんとピーリィが俺の小皿に焼けた野菜を乗せてくる。君達、野菜もちゃんと食べてる……?





 その後、焼きそばや焼きうどんを作ったあたりでお腹が落ち着いてきて、野菜スティックにマヨネーズをつけてまったりと食べていた。


「……ん?何か騒がしいな」


 ここは広場の一番外側で、しかもテントの陰で隠れるように食べていたので少し反応が遅れた。元々人だらけだから感知してもそこかしこにパーティが集まっているのであまり気にしていなかったのだ。



「何か大人数がこっちに向かって来てる。袋とかは片付けておこう」


 皆にそう言ってバレると面倒な物はさっさと仕舞ってしまう。といっても、コンロ等食事がまだ続いてる物に関してはそのままだ。一応、武器も手元に置いておく。


 ……げ。


 鑑定で先に確認したら、本当に面倒臭いのが来た。




「やあ!食事中すまないね!僕はユースケ。一応勇者として国に認められているんだ。そしてこちらの女性は第二王女であるエストリア殿下だ。ああ、別に跪くとか敬礼もいらないからね。そのままで大丈夫だ!」


 よりによって勇者来ちゃったよ。でも幸いカモフラージュによる変装はバレていないから、このまま知らん振りといくか。姫様達にもそう目配せしておいた。



「えーっと、初めまして。勇者様と殿下でしたか。それで、俺達に何か用事でしょうか?」


 こちらは全員座っているのでちょうど見上げる形で名乗った2人とその取り巻きらしき騎士達10人近くを観察する。特に敵対するような雰囲気じゃないか。



「なに、さっきダンジョンから戻ったら、入り口で具合の悪くなった冒険者が居たと聞いてね。治療が必要なら僕達の馬車に乗って街までどうかと思ってね。確か、本当なら今日中に街に戻る予定だったのだろう?」


 ああ、騎士達に事情を聞いて様子を見に来てくれたって事か……本当にそれだけ、だよな?どうにも王族も勇者も信用出来なくてなぁ。



「そうでしたか。態々こちらまでお越し頂き、ありがとうございます。もしよろしければご同行させて頂けたら幸いです」


 悩んでる俺を見かねてか、姫様が会話を引き継ぐ。あれ?姫様は警戒してないのかな?第二王女は姫様の姉としても信用出来るって事?




 いまいち状況を把握しきれず悩んでいたが、特に気にせずご飯を食べていたピーリィの「おかわり!」という声にご飯をよそってあげていた。



「ま、待ってくれ!君達、それは一体何どこから!?」





 やば……!いつもどおり袋からあつあつのご飯をそのまま出しちゃったか!?


 失敗した……これ、どうやって乗り切るか……




 驚愕の表情を貼り付けたまま固まった勇者ことユースケと、困惑する従士やここの常駐騎士達の沈黙の時間が過ぎる。




 そしてピーリィが、もっきゅもっきゅとご飯を頬張っていた。


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