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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第6章 ビネンの森と迷宮遺跡
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ビネン森の迷宮遺跡前

「はー……やっと追いついた……」




 後ろにサリスを背負い、前には美李がしがみついているというよく分からない姿のヒバリがぜぇぜぇと息を切らして森の奥から出てきた。



「ちょっと、なんで美李がぶらさがってるの!?」


「そうだよー!みりずるいよー!」


「そうよ……じゃなくて!美李なら自分で走った方が早いでしょう!?」


 こっちはまだ呼吸が整ってないからしゃべれないが、沙里ちゃんとピーリィが文句を言いつつ駆け寄って来るのが見える。


「えー、いいじゃん。お姉ちゃん達だけでも大丈夫だったでしょう?」


「それはそうだけど、美李はヒバリさんを休ませてあげなさい!」


「つぎはピィリだよ!」


「あら、あまりヒバリさんを困らせてはいけませんよ?」


「そう言うサリスさんも降りてあげてくださいよぉ」



 突然始まった喧騒と、おそらく被害者であろう彼の様子に口を挟めないでいた女性パーティに気付いた姫様がやっと降りて、そして彼女らに歩み寄って挨拶をする。


「皆さんご無事でなによりです。私達の狙っていたダイアウルフの群れが気付かれたわけでもないのに急に走っていくのを見て何かあるなと、ピーリィとニアに先行してもらいました。やはりどなたか怪我をされているのですね?」



 まだ状況を理解出来ていない頭を振って切り替えたリーダーらしき女性が武器を仕舞い短い赤褐色の髪をかいて一歩前に出て応じる。


「助太刀ありがとう。本当に助かったよ。1人足をやられちまって、後もう少しで野営地だからと気張って歩いてきんだけど、まさかダイアウルフに狙われてたとは思わなかったよ」


「……治療薬と体力回復薬があれば大丈夫そうですね。こちらを使ってください」


 そう言って肩がけ鞄から取り出し、リーダーの女性へと手渡す。


「済まない。変に遠慮して仲間を犠牲にしたくないので使わせてもらうよ。お代は後で相談ってことでよろしく。あ、体で返せってのはナシで頼むよ?」


「先に治療を始めてください。お代は、そうですね……情報が欲しいです。あなた方はどう見ても初心者でもないですし、そこまで追い詰められた経緯を知りたいです」



 治療を他の仲間に任せて交渉に移ろうと振り返った女性が、また呆れ顔を見せつつこちらを窺う。


「はぁ?アタシらがどうしてボロボロかって理由がお代になるの?」


「どんな情報もタダではありません、よね?」


 要するにタダであげてもいいと思っていたが、それですっきりしないのなら情報で支払った事にしろと暗に言っているのだ。腹の探りあいは姫様にとって城内で生き残る生活手段でもあったので、こういった交渉は任せるに限る。



「……まぁいいや。で、アタシらがいつものように遺跡の野営地から近場で狩りをしてたんだが、今日はやけに魔物が多くてなぁ。倒しても間を置かずに次から次へと群れがやってきたんだよ。さすがに疲れが酷くて撤退してる最中にこいつが足をやられちまって……あとはアンタらが助けてくれたってわけだ」


「普段この様な事は?」


「んー……ここで2週間近くやってるが、ないねぇ。ちっと運がなかった……いや、助けられたんだから運が良かったのかね?」


 溜息交じりに答え、治療を続ける仲間を見る。



「ヒバリさん。お疲れとは思いますが、感知範囲を広げてください」


 騒がしい会話には参加せずにダイアウルフの剥ぎ取りを1人で全て終えたトニアさんが、隣に屈みこんで囁く。俺はまだ荒れた息のまま頷いて実行する。


 彼女達が歩いてきた方向は西。その先には魔物数匹が集まった印がいくつか見えた。しかも群れ同士の距離はさほど離れていない。

 更にその群れから逃げる点。群れはそれを追わず、逃げ延びた点は範囲外へと消えていく。この流れは、以前に……


 トニアさんの顔を見ると、彼女も察したようだ。


「これ、アイリンに、入る、前、の、状況……同じ?」


「可能性はかなり高いです。人攫いの噂もおそらくは」



 あいつ等、あれで全員じゃなかったのか。むしろ魔物の強さも跳ね上がる森の中で同じ事をやってのける分たちが悪い。それに、これだけ組織だって動けるのだとしたら、敵はもっと多いのかもしれない。


(俺達が襲われたのは末端だったってことか……?)





 仲間の治療を終えたパーティと一緒に野営地へ向かう事になった俺達も、装備や状態を確認して出発する。今度は私だ!と言わんばかりにピーリィが背中にしがみ付く。


「女性パーティに男1人か……荷物持ち(ポーター)くんも苦労してるみたいだねぇ」


 さっくばらんな髪を揺らしてクックックと笑いながら俺の肩を叩くリーダーの女性。


「あら。ヒバリさんはこのパーティのリーダーですよ?」


「はぁ!?」


 訂正してきた姫様と俺を見比べ、そして他のメンバーを見回してもそれが冗談ではないと悟った女性は、


「はぁ!?マジなの!?」



会って一番の驚きの声を上げていた。



そうだよねぇ、そう思うよねぇ……

いや、そもそも驚きたいのはこっちだよ。





 治療したとは言え失った血も多いだろうとあまり無理をさせない程度の速度で歩き、1時間ほどで遺跡へと到着した。


 ピラミッドや洞窟をイメージしていたが、見た目は四角い3階建て位のビルだ。といっても上の階は何もない部屋を駐屯所代わりに使用されており、迷宮として存在しているのはすべて地下になる。1人銀貨1枚という通行税を徴収するための門番でもあるのだ。

 その周りは綺麗に整地されているが、野営地として利用するパーティのテントがあちこちに建てられている。ちょっと立派なテントが見えるのは、街営の簡易治療施設と道具屋、そして修理鍛冶師だ。



「なるほど。これならしばらくはここで寝泊りして遺跡に挑めるってことですね。でもこれ、見た目はただのキャンプ場だなぁ」


「あ、確かにキャンプ場っぽいですね」


 俺の感想に沙里ちゃんが同意する。戦争や災害を経験していたなら難民キャンプとでも言うのかな?などと平和だった元の世界の生活を思い出す。




「どうしたマルーン?随分賑やかなパーティになってんじゃねーか!新しいメンバー捕まえて来たのか?」


 大柄ではないが筋肉質なおじさん……男が真正面に立つように現れ、一行は足を止めることになった。言い直したのは、鑑定で見たら年は2歳上なだけだったんだ。見た目凄いおっさんなのに!



「ちがうよ。むしろアタシらが助けられたのさ。それより治療所行かなきゃなんだ。そこを通しておくれよ」


「……かなり疲労してんな。ああ、すまねぇ早く連れてってやんな」


 片足を引きずる女性を見てすぐに身を引いた。女性だからと絡んできたのかと思ったが、そうした判断と理解の早さは冒険者としての経験なのか、人としての経験なのか。




「で、お前らがマルーンを助けたってのはどういったことなんだ?ああ、別に疑ってるわけじゃねぇ。何か起きたのなら知っておきたいだけだ。

 俺はバフ。ここの野営地を仕切ってるとまではいわねぇが、それなりに言う事聞かせられるって程度のモンだ」


 バフと名乗る茶色というより薄いオレンジの髪をした男の言動には、周りの者達もそれとなく注視している。それが仲間や部下なのかライバルなのかは不明だが、確かに仕切るくらいの実力は示しているのだろう。



「俺達が狙っていたダイアウルフの群れが、気付かれたわけでもないのに急に走り出したからそっと追いかけたら、あの女性たちのパーティが奇襲をかけられそうになってたんで、逆にこちらからダイアウルフ達に襲い掛かって討伐した、ってだけですよ」


「数は?」


「4匹ですね。パーティには負傷者がいたようなので、手を出した後ですが了承は得ました」


 顎に手をあて少し考える仕草をした後、ニッと笑って話し始める。


「そうかいそうかい、そいつは助かったよ!マルーンのパーティはそれなりの実力はあるが、あんな状態じゃぁさすがにダイアウルフ4匹は無傷で乗り切るのは無理だっただろう」


 大声で話すのはやはり周りにも聞こえるようにわざとだろう。話しながら腕を使って大げさに言うあたりは、全員に向かってのアピールかな?




「そういうのはやめてくんない?助けてもらったのは事実だが、アタシらが情けないってふれ回してるようで気分が悪いよ、ったく……」


 怪我人を預けてきたマルーンさんがこちらに戻ってきたと思ったら、バフに苦々しい顔を向けていた。こちらに向き直る時にはそんな顔してなかったけど。


「とにかく助かったよ。おかげで無事に戻れたし、感謝してる。で、アンタたちはこれからどうするんだい?ここまで来たってことは迷宮遺跡に挑みに来たんだろ?」


「いやぁ。俺の師匠からお前にはまだ早い!って言われちゃってるんですよね。本当はダイアウルフを倒したらアイリンの街に帰る予定だったんです。師匠達に心配かけてしまうから、今から帰れるかちょっと仲間と相談しないとですね」


 一応街に待ってる人がいるとアピールしておくか。このまま遺跡探索のライバルと思われても嫌だし。そういった感情を持つかも分からないけど。



「今ちょうど勇者と姫さんが迷宮遺跡に入ってるはずだよ。1日半くらい潜ってるから、もうそろそろ出てくるんじゃないかね?どうせなら顔を見て行ったらどうだい?話のタネにもなるでしょ」


「おお、そうだったな!お前達、運がいいぞ!」



 ……げ。


 あまり関わりたくないと思っていたが、今ならまだ出てこないのか!これは早めに立ち去った方がよさそうだなぁ。もっとも、その第2王女と一緒に行った勇者のどちらもよく知らないんだけど。

 ちらっと姫様達の方を見たら、どちらかと言うと喜んでる?第1王女と違って仲が良かったのかな?この辺もちょっと話しないとわからないか。



「まぁ入る入らないは自由さ。ただ、アタシらを助けてくれたっていう報告だけは詰所に付き合って欲しいんだよ」


「……分かりました。俺たちは日暮れ前には街戻るか、最低でも森の外には出たいのであまりゆっくりは出来ませんが、それでもいいですか?」


「助かる。じゃあ早速案内するよ!」





 マルーンさんに連れられた俺達は、例の俺達の世界のビルの様な建物の門をくぐり、玄関の様なドアから広いロビーの様な場所に入る。奥には大きい扉があって、門番として2人の騎士が左右に立ち、更にもう2人がおそらく通行者への受付係だろう。

 俺達はそこに用はないので、端にある階段から2階へ上がる。そこには受付があり、マルーンさんが受付の騎士に声を掛けるとすぐに隣の応接室っぽい区画に通される。仕切りがないので部屋というわけじゃないが。


 とりあえず俺達は全員椅子に座った。丸いテーブルに椅子が8個あったが、美李ちゃんは沙里ちゃんの膝上、ピーリィは俺の膝上に座った。何故?



「すまんね。こういった報告も義務でね。粗方は聞いているが、君達からも聞いておかねば整合性が取れないので話して欲しい」


 別の騎士が紙とペンを持って正面に座り、俺達の姿も歳も気にせず本題に入る。先程のバフに語った事と同じ事をここでも話し、意外とすぐに開放された。



「思ったよりあっさり終わりましたね」


「ここじゃ報告する事なんざ日常茶飯事だからね。アイツらも仕事と割り切っていつもどおり終わらせただけさ」



 1階へと戻った俺達は、丁度どこかのパーティがこれから迷宮へと入る所を見られた。受付っぽい騎士が門番に声を掛け、大きい扉が開かれる。

 そこから見えるのは、コンクリートのようなグレーで四方を固められた壁があり、少し先から階段でもあるのか徐々に下がっていた。


「へぇ……迷宮遺跡って入り口抜けたら階段ですぐ地下に潜るのか」


「広いといってもどれくらいか想像も出来ませんね」


 沙里ちゃんも俺と一緒に開いた扉の先をぼーっと眺めていた。



「もっと近くでみたーい!」


「ピィリもー!」


 その隙に2人がだーっと走って扉の前まで行ってしまった。


「待って!扉をくぐっちゃダメだからね!?」


 慌てて2人を止めに駆け寄るが、門番の騎士達は子供の微笑ましい行動とでも思ってくれたのか、怒鳴られるどころか少しだけなら扉を越えてもいいとさえ言っていた。



 ああもう!ルースさんに近づくなって言われてるのに!


 やっと追いついた俺は騎士達に「すみません」と謝りつつ2人を捕まえる。さすがに勘弁してくれ……通行料払うどころか許可すら得てないのだから、問題視されなくてよかった……


 それ以上奥に行かないという約束で少しだけ扉をくぐった先に残ったが、さすがにこれ以上迷惑は掛けられない。


「さ、もう戻るよー」


「「はーい!」」





 扉の向こうで待つ3人の下へ戻ろうと振り返り、歩き出す時に扉…いや、壁?に少し手を付いた時にそれは起こった。



「な……んだ?」



 急な眩暈。抜ける力。徐々に失われる平衡感覚。



 今、自分はどちらを向いているのか分からないが、おそらく倒れたのであろう軽い衝撃だけは感じる事が出来た。



 周りで皆が俺の名前を呼ぶ声が遠くに聞こえ、そして意識が途切れた。



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