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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第6章 ビネンの森と迷宮遺跡
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森での採取と討伐依頼

ギリギリで書き上げたため、いつもと少し時間ずれました……

 ルースさんの訓練が始まってから2日が過ぎた朝。




 本当なら昨日の時点で鍛冶屋の用事が済んでるはずだったのだが、納得がいかないので2日待ってくれ!と言われたので更にもう1日を丸々修行の時間にあてた。


 そして翌日の今日は、せっかくなので冒険者ギルドで何か依頼を受けて森の方へ行ってみようという事になった。訓練の成果が出せるか試すのもいいだろうという流れになってそれに賛成したのだ。



「よく考えたらこの街に着いてから全然外に出てなかったよね」


「そうでしたね。森の魔物は少し強いって言ってたけど、何が居るんでしょうね」


 ギルドを出て歩きながら沙里ちゃんと会話し、途中で走って行きそうなピーリィを背負っては降ろして、次は美李ちゃんにせがまれて背負ってと繰り返す。何か忙しいな。



「そうですね……ビネンの森は魔物だと昆虫系や獣系、そして植物系がいくつか生息していたはずです。野獣だとビッグボアはもうお分かりでしょうが、グラスディアという角を持った素早い獣もいます。こちらも食用肉としての扱いがあるようです」 


 トニアさんがいつもどおり周りを警戒しつつもすぐに答えてくれた。



「わしは行かん方がいいじゃろうなぁ。あの辺りは遺跡もあるから、魔力の高い者はあまり近づかん方がいいのじゃよ。ヒバリらも、もし近づくなら、体に異変を感じたらそれ以上近づかん方がいいぞ?」


「……何か起こるんですか?」


 元魔王ですら近づきたくないなどと言われると、流石に気になる。でも現状では色んな冒険者が攻略に挑んでいると聞くけど、それは皆魔力が低いから平気なのかな?


「今はまだ言えぬが、遺跡から魔物が生まれるというのだけは確かじゃ。そしてわしはその現状を調べるために世界を回っておる。無論、友やその子孫の様子も見て回っておるがの。

 とにかくじゃ、出来うるならば近づかん方がよいぞ。忠告はしておいたでな。わしは他を見て回る事にしておく事にしようかの」



 夜には宿に戻ると言ってルースさんはそのまま歩いて行ってしまった。今はということは後で教えてもらえるのかなぁ……宿には戻ると言ってたからこのままお別れというわけじゃなさそうだ。





 何となくもやもやした気持ちになりつつも、せっかくギルドで依頼を受けたのだから森へ行く事にした。受けたのは薬草採取と昆虫系魔物であるマンティス討伐の2件だ。


「マンティスって事は大きいカマキリだろうなぁ。魔石を抜く前の素材剥ぎ取りはカマだけでいいんですか?」


「はい。他は使い道が無いようですからそれだけですね」


 昆虫の魔物っていうと硬い殻を持ってるイメージだけど、特に使い道ないのか。まぁ魔物だから作られた生物だとそんなものなのかな?それなら野獣の方が食用肉の他にも角や毛皮といった素材にもなると思うと、そちらの方が報酬以外のお金稼ぎにはいいのかもしれない。


 魔物は駆除、野獣は狩猟ってことで納得しておこう!





 久々に徒歩のみで移動をして街の西門から外へ出て、すぐ先に見える森へと向かった。遠くから見るだけでも広大な森とその奥に見える山脈。ちょっとしたハイキング気分ではあるが、まだ森に着いていないのだからそれぐらいでもいいだろう。



 向かっているビネンの森は縦横400km近くにも及ぶほどの大きさで、北には迂回してきたボルネオール山脈、南には大きなビネン湖がある。

 そして湖の南側にはこの森の木を伐採し木材加工として栄える町トルキスがある。王国内の木材、特に巨木などの素材はこの森から産出されているのである。

 副都市であるアイリンは森とその中枢にある遺跡で、トルキスの町は森からの伐採によって繁栄しているので、どちらもビネンの森によって成り立っている。


 そうしたこともあり、トルキスという町はさほど大きくはないがアイリンと同等程度の貴族達が屋敷を建てている。彼らにとって森は金であり、それをいかに多く仕入れ加工できるかを競い合っているのである。



「じゃああまりトルキスっていう町には行きたくないですねぇ。貴族っていうとニング卿以外はあからさまに嫌な顔されてきましたから」 


 トニアさんに森の周辺情報を聞いて一番の感想がこれだった。いや、魔物や遺跡の話もするけど、今は貴族の話で思い出しちゃったんだもん、しょうがないさ!


「気持ちは分かりますけどね」


「もー!ヒバリお兄ちゃん、ちっちゃいこと言ってちゃだめでしょー?」


 沙里ちゃんと美李ちゃんに呆れられつつ、そのまま雑談に移らせてもらった。もうあとは森に着いてからの依頼達成が出来ればいいし。



(ちょっとイラッとしたあたり、俺ってちっちゃいのか……?)



 少し気にしてたヒバリだった。





 ある程度街から離れた所で居住袋から馬車を出す。普通は森に馬車を止めておける場所がないためにトルキスへ行き来してる定期便の有料乗り合い馬車を利用するそうだが、俺達はいつでも居住袋から出せるからちょっとした木々のある場所までは歩く事にしたのだ。


 そして馬車に切り替えてからは街から50kmほど離れた森へも3時間もせずに到着した。もちろん手前で馬車は居住袋に戻しておいた。ここからはダークミスとの感知に引っかかるものが多く、魔力に反応するこの魔法だが森の中心部へ向けてもやのような反応が強くなっているようだ。


「この変な反応は遺跡に向かって濃くなっているんですかね?ちょっと感知する魔力の質を弱めてみますか」


 そう言いつつ少し感度を落とす。この辺りの制御が出来る様になったのもルースさんからの訓練の成果だろう。昨日も丸一日ずっと制御の訓練を続けたおかげで苦も無くやってみせる。



「昨晩もヒバリさんが寝ても魔法が維持されてましたね。範囲はかなり狭まったものでしたが、全く途切れずに一晩過ごせたのは初めてじゃないですか?」


「そうだったんですか?意識し切れてないので分からなかったです。これが維持できたらかなり楽になりますね!……それよりも、またニアさんちゃんと寝てないんですか?」


 じと目で見るとちょっと気まずそうに視線を逸らしつつ、


「まったく寝ていないわけではありません。眠りを浅くして意識を保つ事が出来たからこそ分かっただけですから」


 と、そそくさと自身や姫様の装備品のチェックへ行ってしまった。





 全員が装備品や道具などのチェックを済ませ、さっそく森へと入る。


 何かの野鳥がぎゃあぎゃあと声を上げて逃げていく。襲い掛かってくるようなやつでないから無視してたが、もしかしたら食用に出来たかな?その辺は確認し忘れたか。



 熱帯地域というわけでもないので俺達日本人は山の麓の森に来た様な感覚だ。広葉樹に針葉樹、時折倒木はあるものの、足場はそんなに悪くない。

 遺跡を目指す人達が作った道に出ればちょっと開けてるので、もっと道として開拓すれば馬車も通れそうなほど幅があるらしい。といっても俺達は適当な場所から森に入ったから道らしい道はない。


「……あ、薬草ありますね」


 気になる植物にはすぐ鑑定を発動させていた俺がまず1つ目を見つける。依頼の数は30株だったから、これならみんなで手分けすればすぐに終わりそうだ。


「ヒバリお兄ちゃん!これは違うの?」


「んー……ちょっと違うね。でも依頼品じゃないだけで、薬の材料みたいだから取っておこう!」


「わかったー!」


 元気よく返事する美李ちゃんが、とにかく似たような草は全部採る事にしたようだ。沙里ちゃんと一緒に、ついでにきのこも採っている。


「ヒバリ!ココ、ココ!」


「ピーリィも見つけるの早いなぁ。さすがだね」


「ぴゅぃ〜。ピィリ、これしってるからね!」



 元々薬草採取などは母親としていたらしく、今回の薬草も知っているとあって見つけるのが早い。ただ株ごと上手く採る事が出来ないようで、とにかく見つけたら呼んでもらう事にした。



「このきのこでしたら食べられるのかしら?」


「サリスさん、それも毒がありますので触らないようお気をつけください」



 ……さっきから、なぜ姫様は毒きのこばかり採りたがるんだろう?





「あっ……何かこっちに向かってくる。これは、グラスディア?ってなんです?」


「森の獣ですね。草の様な毛を持つ事から苔鹿とも呼ばれています。縄張りに入った者を角で襲いますが、その角が折られるとすぐに逃げてしまいます。肉はあまり美味しくはありませんが食用になります。毛皮は使い道がありませんね」


「角が折れると逃げるって……じゃあなんで角で攻撃してくるんだろう?」


「まぁ、そういう獣としか。角は需要があるので、狙うなら角ですね」


 苦笑しつつトニアさんが最後まで説明をしてくれた。




 鹿の数は7匹。姫様とトニアさんには控えてもらって、まずは俺達だけで戦闘してみる事にした。元々人でなければ魔物も狩りつつ馬車旅をしてきたんだから、この程度は何も問題ないとトニアさんからも言われている。



「よーし、じゃあ落ち着いていこう!まずはピーリィ以外の3人で魔法と俺のボウガンで1匹ずつ仕留めて、あとは残りを1人1匹仕留める。いいね?」


 全員が頷くのを確認する。


「じゃあ……魔法準備……撃って!」



 鹿の距離を見つつ、視界に入ったところで3人が一斉に攻撃を放つ。


 矢は頭を上げた瞬間の喉元に、風の刃は口元からその先の首を切り裂き、弾丸となった岩は胸元に深々と刺さる。


 ……まぁ、俺の矢を当てた奴だけは即死してないけど動けないようだし放置でいいか。



「じゃあ残りを倒そう!」


 俺はボウガンを仕舞って片手剣に切り替える。美李ちゃんは斧で、沙里ちゃんは刺突剣でいくようだ。ピーリィは森だと自由に飛べなくて辛いかと思ったが、逆に木を蹴りつつ短い跳躍でまるでNINJAのごとく相手を翻弄し始めていた。



「っと、よそ見してる場合じゃないか!」


 立派な2本の角を串刺し狙って突き出す鹿をいなして胴体を斬りつける。角の付け根にも1撃入れてみたが、俺には硬くて折るのは無理と判断した。


 ちらっと周りを見ると、すでに3人は止めに入ったようだ。美李ちゃんに至っては角を折られた鹿が逃げ出そうと怯んだ所にフルスイングで首を刎ねて試合終了した。



「角か……よし」


 盾表面の留め金を外し収納袋を開く。これで盾で受けると異空間のような広い袋へご招待だ。一度距離を取っていたため、鹿が勢いよく突進を再開させる。


 盾表面の収納袋に片方の角を突っ込ませつつ闘牛士さながらひらりと横にかわし、その角を根元からへし折る。ゴキンといい音を響かせながら折れた角は袋の中へ回収された。


「よし!あともう片方も……って、あれぇ!?」



 片角を折られた鹿は逃げの体勢を決め、すでに走り始めてるし!なんだよ片方だけでも逃げるのかよ!?


 呆然としていた俺の斜め後ろから風の刃が飛び、動けなくなった鹿をピーリィが止めを刺していた。あと最初に俺の矢を受けて倒れていた鹿もついでとばかりに止めを刺している。



「ヒバリさん……角を折ったら逃げると言いましたよね?」


 呆れ声のトニアさんと、逃げられた俺の姿がツボにはまってしまったらしく笑いを堪えるのに必死な姫様が近寄ってきて、戦闘は完全に終了した。





 一応食べられるならと鹿の肉を姉妹と俺で回収している間も、姫様は先ほどの俺を思い出しては笑っている。まあ、コントみたいなことしちゃったから喜んでもらえてなによりだよ……


「沙里ちゃん、美李ちゃん、ピーリィ、お疲れ様。あと俺の仕損じの後始末もありがとう。よし、薬草採取とマンティス探しを再開するか!」


 沈んだ気持ちを切り替えようと気合を入れなおして立ち上がると、探知に人が数人近づいてくるのが分かる。動きからするとパーティのようだ。





「おーい、あんちゃんたち!こっちにグラスディアが来なかったかい?」


 敵意は無いと示すかのようにあえて近づいてから武器をしまって両手を上げつつ大声でこちらに話しかけてきた。どうやら男3人女2人のパーティのようだ。さりげなく鑑定してみたが、特に犯罪歴もない。



「はい、7匹こっちに襲い掛かってきたんで仕留めましたよー!」


 まだちょっと距離があるので俺も大声で答える。


「ああ、もう片付いたならいいか。こいつが気配を感じたって言うから、やられる前にやっちまおうと思ったんだが……それなら手間が省けたってもんだ」


 言われた男は肩を竦めて挨拶をし、おどけてみせた。


「それにしても、あんたら小さい子も他の子も皆可愛いじゃないか!そこに男1人だなんて大丈夫なのかい?」


 短髪でしなやかな女性がニヤニヤしながらリーダーらしき先頭の男の肩に手を置いてこちらを覗き込んで来た。


「おう、そうだなぁ。お前さんら、ここ最近女ばかりを狙った人攫いが出てるらしいから気をつけた方がいいぞ?別嬪さんぞろいだからあんちゃんがしっかり守ってやるんだぞ!」



 ……まさかこのパーティで一番弱いなどとは言えず、とりあえず返事だけはしておいた。トニアさん以外戦力として見てないのかもしれないな。



「それにしても人攫いですか……随分物騒なんですね」


「元々この森は遺跡で一攫千金目当てに冒険者が挑みに来るからな。人通りは以外に多いんだよ。それに西の街道は乗り合い馬車が行き来してるから、ちっとそっちも危ねぇんだ」


「そういえば、アイリンの東側でも人攫いや盗賊が出てるって話を聞いたわ」


 リーダーの男の話を聞いて思い出したのか、もう1人の女性も会話に参加してきた。どの話も女は攫われ男は討ち捨てられていたそうだ。アイリンの東側って、俺たちが襲われた盗賊も関係していたのかな?


 少しだけ話し込んでいたが、斥候らしき男が異常はないと伝えるとすぐに移動を開始した。


「あんちゃんたちも気をつけてな!」





 忠告にお礼を言いつつ、これから遺跡に向かうという話なのでそのまま別れた。俺達はまだ依頼達成してないから、引き続き薬草とマンティス探しだ。



「これは絶対暗くなる前に戻った方がいいですね。もし依頼達成出来て無くても夕方前には森を出るからね!」


 さすがにあんな話を聞いたらゆっくりしたくない!


「はい、それがいいでしょう……ああ、薬草の方は10株集まったようですね。あとはマンティスに専念いたしましょう」





 荷物を確認していたトニアさんが片方は達成していたことを告げ、俺達は軽くお昼ご飯を食べた後に、残りの討伐以来へと動き出した。



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