表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/156

グルーミングデイ

 鍛冶屋から納期延長の話を受けて、その日は空いた時間を訓練に当てた。夕方になって晩ご飯の準備前に、いつものようにピーリィを撫でて一休みしていた。




「だいぶ羽も生え揃ってきたね」


 街に入る前の戦闘でピーリィは俺を庇ってナイフを受けた。怪我は魔法ですぐに治ったものの、抜けてしまった羽はすぐには生えない。少しの隙間だけど気になって、よくこうして撫でていた。


「うン!とぶのまえからだいじょーぶだよ!」


 膝の上に乗っているピーリィが勢いよく顔を上げて答えてくれる。 


「ハネをしてもうと、きもちいーの」


 手櫛で梳きながら羽に引っ掛けないように気をつけていたが、今日も大丈夫そうだな。あとは頭なんだけど……



 ピーリィの髪の毛はかなり癖があって普通の櫛だと引っ張っちゃうから痛くて嫌がるんだよなぁ。髪も手櫛でやってるが、器用さだけは高い俺以外だとまだ難しいようだ。人族の髪と違ってふわっとした上に羽毛のように少しだけ枝分かれしている。


 なので風呂上りに髪を乾かしてもらったら俺がゆっくりと梳く。どちらかと言うと毛づくろいしてあげてる気分だ。




「きょ、今日こそは!」


 これに関して意外だったのは、トニアさんだ。


 なんでも器用にこなすと思っていた印象のトニアさんだが、この手櫛が上手くできず、この時の彼女にだけはピーリィが少し警戒してしまっている。

 それが悔しいとリベンジを申し出るが何度か失敗し、更に他のメンバーは全員がほぼクリアしているのを見ては凹んでいたのだ。



「元々ニアは私の護衛として就けられたので、従事はその後に教育されたのです。ですので、こういった完全に力を抜く作業は苦手なんですよ」


 待ち構えるピーリィも触ろうとするトニアさんも恐る恐る開始する。それを皆で見守っている。がんばれー!と美李ちゃんが言うも、余計に力が入った様に見えるな。ちょっと危ないかも。



「ピィッ!?」



 ……あ。やっちゃった。



 俺の所に飛んでしがみ付くピーリィと凹むトニアさん。無意識に手櫛を始めちゃったが、それを悔しげに……えっと、ごめんなさい。



 ピーリィが落ち着いたを確認し、そのまま撫でながらトニアさんを呼ぶ。ちょっとビクッとしたけど、別に嫌っているわけじゃないので逃げるほどじゃない。


「ちょっとここに座ってください。直接力加減を教えますから、こっちに頭を向けてくださいね」


「は、はい」


 自分がされるわけじゃないと分かったピーリィが脱力するのと対称的に強張るトニアさんがピーリィの隣で寝転がる。所謂膝枕だ。



「これくらい力を抜いて、逆らわずに絡んでるのを解してください。力の目安は硬貨も持てない位ですね」


 教えながらトニアさんの髪に手櫛を入れる。ゆっくりと梳いていると、トニアさんから力が抜けていくのが分かる。よし、嫌がられてはいないな。

 そのまま続けてついでに耳も撫でておく。そういえば以前は耳は滅多に触らせてもらえなかったが、今はこうしていても大丈夫なんだなぁと感慨に耽っていると、ついには寝息が聞こえてきた。



「ルースさんの件も含めて近頃あまり眠れなかったようですから、このまま寝かせてあげてください」


 そっと近づいた姫様もトニアさんの頭を撫でる。人の足音でも起きないんだから、全然寝ていなかったんだろう。そのまま俺も撫でていたら、くいっと裾を引っ張られた。



 見ると、ピーリィが自分を撫でろと頭を擦り付けてくる。


「はいはい。今日はトニアさんにチャンスをくれてありがとう。今度はもっと上手くなるだろうから、また相手してあげて欲しいな」


「うン。ピィリもニアすきだから、イイヨー」


 撫でられながら答えてくれる。この子も優しいから、自分が多少痛くても事協力してくれるらしい。軽く抱きしめると、抱きしめ返してくれる。





 それから10分ほどして、ハッと起き上がったトニアさんが周りを見渡す。


「も、申し訳ありません!眠ってしまいました……」


「大丈夫ですよ。寝たと言っても15分も経ってないですから、もうちょっと寝ててもよかったんですけどね」


 隣に居た姫様に同意を求めると軽く頷き、


「普段ちゃんとした睡眠を取れていないのですから、せめてこういう時にはいいんですよ?もっとヒバリさんに甘えても」


 最後の一言で赤くなったトニアさんとそれを見て楽しむ姫様。あーあ、完全に目が覚めちゃったみたいだな。姫様はほんとトニアさんをからかうのが好きだよねぇ。



「とりあえず、力加減は分かってもらえましたか?次回も挑戦していいとピーリィも言ってますから、気楽にやってみてくださいね」


「はい……ピーリィも、ありがとうございます」


「んー!」


 起き上がってトニアさんにハグを求めるピーリィ。それを見て微笑みつつ抱きしめるトニアさん。お風呂から出てきた姉妹とルースさんもその光景を温かく見守っていた。





「よーし!今日は頑張った2人のリクエストであるお寿司を作ります!ただ、前回の手巻き寿司と違って握り寿司を作るから、ちょっと準備しちゃうね」


「ほう、スシとな?サシミとは違うのかの?」


 生魚を切り始めたのを見て、刺身を知っていたらしいルースさんが不思議そうにしていた。


「砂糖と酢で味付けしたゴルリ麦を刺身と合わせて食べるんですよ」


 ほうほう、としきりに感心しつつ俺の作業を見ているルースさん。そしてリクエストした2人はテーブルの真ん中の席で待機させたが、物凄い期待した目を向けている。



 長方形のテーブルの上にショーケースの様な袋を作って中に切ったネタを並べていく。勿論美李ちゃんに消毒魔法をかけてもらってある。今回は厚焼き玉子も用意して、魚介類で7種と野菜類もいくつかを含めて10種類を超えた。

 そして軍艦巻き用に街で買って来た川海苔を手漉きで伸ばして、沙里ちゃんのドライヤーで乾燥させた海苔も完成させていたのだ!



 ネタ、酢飯、軽く炙った海苔、そして西洋わさびの様な大根の摩り下ろし。さらに白いバンダナを作って頭に巻き手袋をし、エプロンを纏ってショーケースの後ろに立つ。

 長テーブルの半分をショーケースと作業場に、もう半分に皆に座ってもらって、回らない寿司屋のような配置が完了した。



「へいらっしゃい!今日はどのネタも新鮮だよ!」


 沙里ちゃんと美李ちゃんは笑っていたが、残り4人はぽかーんとしていた。やっべ、寿司屋の店員なんて分かるわけないじゃん!やっちまったぜ!


「んん!……えっと、食べたいネタを言ってもらえたらこちらで握るので、どうぞ。じゃあまずはニアさんとピーリィはどれがいい?」


「ではこの赤いのを」


「ピィリはマス!」


 シャリを取って形を整え、わさびを入れるか聞くと2人はいらないと答えた。ネタを乗せてもう一度整えて2人の前に2貫ずつ置く。


「はい、どうぞ。醤油をちょっとつけて召し上がれ」


 トニアさんは箸で、ピーリィは手で掴んで食べる。


「おいしーーー!」


「……これは手巻きと違って魚の味を一つずつ味わえるのですね!」


 食べたがっていた2人が、嬉しそうに2貫目もさっと食べ終わる。


「ちょっと待ってね。全員順番に聞いていくからね」



 ここからは一気に握り始め、皆の注文を持ち前の器用さでこなしていく。赤身・白身・マス・エビ・玉子の握りやイクラ・たたきの軍艦、だし醤油に軽く浸した漬けをガンガン握っていった。


「わたしも手伝いますね!」


 握った事が無いと言っていた沙里ちゃんがやってみたくなったらしく、ちょっと教えたら相変わらずのスキルであっという間に物にしてみせた。



「よーし、ここからちょっと変わったのもやってくか!」


 沙里ちゃんが入ったことで余裕が出来たので、ここでちょっと味を変えていく。



 マスの玉葱マヨネーズ乗せ、サラダ巻きを作ってみた。さらに沙里ちゃんの火魔法の協力で炙りも作り出す。何か楽しくなってきた!


 網の上でマツタケや他のきのこや野菜も焼いて、細く切った海苔で巻いて握る。マツタケの香りがした瞬間から姉妹がロックオンしてきたが、食べたがるのは2人だけだから大丈夫だよ!


「マツタケの握りだなんて、贅沢すぎます!」


「これも美味しい〜〜〜!」


「おおぅ……こうした食べ方もあったとは!美味じゃ!」


 あ。マツタケ好きがもう1人増えた。考えてみたら森に住んでいたというルースさんだし、この間もマツタケを食べていたか。


 

 

 ほぼ無言で食べ続けるトニアさんとピーリィ、盛り合わせを少しずつ楽しむ姫様、まったりと堪能する姉妹とルースさん。うん、概ね好評のようでよかった。

 俺も途中から自分で作ったのを食べながら握っていた。一応食べる時には箸を使ってたので衛生面も問題ない。


 しゃべってはいないが仲良く笑い合って食べるトニアさんとピーリィの姿を眺めつつ、今日の晩ご飯は終了した。

 〆は美李ちゃんのリクエストでプリンになった。きっと誕生日会の事を思い出したのだろうと、ルースさん以外は納得していた。説明したが、誕生日と言う概念が無くて結局不思議がっていたが。



 この日の夜は、ピーリィはトニアさんにくっついて早めに寝ていた。2人の仲が深まったんだなぁと微笑ましい光景を見守り、全員が眠りにつく。






 それから少し経過して、



 うぅ。普段寝る時にはピーリィが乗っかってきてたから、その重みが無いと寂しいと思ってる俺って……


「元の世界じゃ働き出してからずっと1人で居たのが普通だったのに、今じゃ触れ合えないのが寂しいって、変われば変わるもんだなぁ」



 独りごちて苦笑しつつ、今度こそ眠りについた。


閑話はここまでになります。

この後資料として1話上げた後、第6章を始めたいと思います。


拙作を楽しんで頂けたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ